プロローグ 『憎悪の権現』
――『殺してやる……!』
赤く染まる床にべっとりとした感覚を味わい、彼女は座り込んでいることに気づいた。
全身が震え、身体は言うことを聞かない。
しかし、あのゴミ屑どもに対しての憎悪が彼女を支配していた……。
――死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね。
今すぐあのゴミ屑どもを殺しに行きたい……しかし彼女は行くことが出来なかった。
目の前の二人の無惨な死に方を見てしまったからだ……。二人は彼女を庇い死んだ。王が二人を危険視し、一家が襲われたからだ。
――ああ、私なのか……殺したい……
『ガキはどこだ!? 絶対に見つけ出し殺せ!』
この国の主である王がこういった……
『承知致しました! お前たち! ガキを見つけ次第王の所までお持ちするのだ!』
騎士長らしきものが叫んでいた。
馬の足音、罵声、色んな音が混ざり合い彼女の耳に吸い込まれてゆく。
『――っ!』
彼女はこのままでは二人の意志を無駄にすると思い逃げた、必死に逃げた……。
――はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……
――どのくらい走り続けていたのだろう。
いつ見つかるのかわからない状況で彼女は走り続けていた。
みすぼらしい格好をした男性や、髪がボサボサの女の子がいる。貧民街にまで走ってきたのだろう。王都からは十分離れているので見つかることは無いだろうと思った束の間……
一瞬彼女の身体が大きく跳ね上がった。その跳び方はとても無事では無いように見えた。当然だろう、それは崖から堕ちる姿だったのだ。
――もう復讐など関係ない。死にたくない!生きたい!
彼女は落ちるさなか必死に助かる方法を考えた。
しかし、恐怖のあまり生死のことしか考えることしか彼女は出来なかった。
彼女は亡き親に助けを求めるように必死に叫び出した……。
――『お母さん! お父さん! 助け……』
その声は儚く消え……そして彼女は頭を岩にぶつけ、脳が流出し、その姿はとても醜く見ていられないものだった……。そして彼女は数秒の意識でこうも醜く抗った。
『死に……たく……ない……』
泪を流しながら息絶えた。
――彼女フィース=ドラゴーンは今命を落とした……
十歳という短い時間だったのだ……