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3 チーターを殺すセーター

 あれから三日後の、夜九時。――その少し前。


 晩ごはんを食べ終えた私は、ほどよい満腹感と、そしていつもとは違う緊張感とともに、リキュさんの配信を眺めていた。


 災い転じて福となす、と言うのか、この間のチーター騒動があって以来、配信の視聴者は若干増えていた。

 そのことに対してリキュさんは、

「結果論だけど知ってもらえて嬉しい」

 と語っていて、それは私にとっても喜ばしいことだった。


 しかしネットで話題に挙がれば、荒らしを趣味にしているような性質の悪い輩がやってくるのも常であり、まさに今も、

『こいつチーターにボコボコにされてた雑魚じゃんw』

 なんていう、幼稚な書き込みがあった。


 そのコメントを、私は無駄毛をピンセットで抜くような感覚で削除していく。


「お? またなんか荒らしが来てた? モデレーターさんありがと」

 コメント欄の『メッセージは削除されました』の文字を確認してか、リキュさんが言った。


 光栄なことに、私はこの配信で他人のコメントを管理できる権限を得ていた。

 フォローをしてから毎月かかさず購読していたのと、品行方正な発言を心掛けていたおかげか、リキュさんからこの権限を与えられた時は本当に嬉しかった。


 だからこそだ。あの時チーターに暴言を吐いてしまったことについて、私は今も後悔している。

 ただ、これも結果論になるけれど、そのおかげでトラウトさんに声をかけてもらえたのだから、やはり人生は何が起こるかわからない。


 それはこれから先にも言えることで――

 だけど私は、少し先の未来なら予知できていた。


 九時ジャスト。

 リキュさんがプレイ中だったゲームが唐突に落ちて、マッチが強制終了された。


「ああー! いいところだったのに!」

 リキュさんが顔を仰け反らせて嘆く。

 コメント欄でも『あ』という言葉が並んだ。


 ネットゲームのプレイ中にエラーが起きて、突然ロビーに戻される――なんてのは誰もが一度は経験することで、だからこれは、そこまで驚く事態ではない。

 当然、萎える要因には変わりないので、起きないに越したことはないのだけど。


『あのさぁ……』

『ちゃんとメンテしろ!』

『運営見てるか?』

『7キル返して!』

 今回もゲーム側の不具合だと思い、それを責めるコメントが流れる中、


「ま、七キルくらいならまたすぐ取れるでしょ」

 リキュさんが笑いながらそう言って、試合のマッチングを再開しようとする。


 そこでまた唐突に、ジ、ジジジ、というノイズが画面に走った。それは侵食するようにどんどん濃くなり、ついには砂嵐となって、何も見えなくなった。


『なんだ?』

『ん?』

『何コレ?』

『こわ』

『バグった?w』

『なんかの演出?』


 最後のコメントが正解だった。これは演出だ。

 トラウトさんが仕掛けた、チーター虐殺の開幕を告げる演出なのだ。


「あー、あー、テストテスト」

 砂嵐の映像のまま、配信から声が聞こえた。

 それはリキュさんの声ではなく、トラウトさんのものでもなかった。


 それは私の声だった。

 普段よりも綺麗に聞こえるよう、意図的に出し方変えた、私の声。


 遅れて画面がクリアになり、お洒落なバーのように薄暗くされた部屋と、トラウトさん好みのセーターを着た私が映し出された。

 ほかに目に付くものと言えば、壁で照らされている九時ぴったりのアナログ時計だけ。ネットで部屋を晒すときの常識として、場所や個人が特定できるようなものはあらかじめ排除してあった。


 私の顔も、鼻より上が見えてしまわないようカメラの角度を調整してあり、それがまた、少しエッチでミステリアスな雰囲気を醸していた。

 その口が動き、不特定多数に向かって言う。


「ゲームをプレイ中のみなさん、並びに、どなたかの配信をご覧になっていたみなさん。突然のことで驚かせてしまいましたね。また、ゲームを中断させてしまったこと――まずはそれらを謝罪させてください。申し訳ありませんでした」


 口ではそう言ったものの、私は姿勢を正したまま頭を下げなかった。顔が見えてしまう危険があったからだ。

 しかしながら、それを無礼だと責めるコメントは一つもなかった。


 リキュさんの配信のコメント欄にあったのは、

『えっちだ……w』

『エチチ!』

 という、私の容姿に対しての素直すぎる感想と、


『なんだなんだ?』

『いったい何が始まるんです?』

 といった、珍しいものが見れるかもしれないという期待の雰囲気だった。


「一つお願いがあります」

 私が言う。

「絶対に後悔させませんので、みなさんのお時間を三十分だけ私にください。


「とは言え、もちろん強制はいたしません。今すぐゲームに戻りたいのであれば、PCの場合はスペースキーを、コンシューマー機の場合はホームボタンを十秒以上長押ししてください。そうすればいつものゲーム画面に戻れます。


「私の話に興味がある場合は、今しばらくそのままでお待ちください」


 と、一応は選択肢を用意したものの、この前代未聞の状況でゲームを続けようと思う人はそうそういないだろう。


 リキュさんも例外ではなく、配信の構造上、私の映像の上にワイプが残ったままというシュールな状況だったけれど、困惑の表情ながらも見守ることを選んだようだった。


「それでは、改めましてこんばんは。そして全世界のみなさん、初めまして。

「私は"チーターを殺すセーター"と申します。みなさんはお気軽に、縮めてチセとでもお呼びください」

 セーターを見せびらかすよう、肩の辺りをあざとく両手でつまみ上げながら、私がニヤリと口角を上げた。我ながらセクシーに撮れていると思った。


 そう。ここでわざわざ説明する必要もないかもしれないけれど、これは生の映像ではない。事前に撮影しておいた動画を流しているだけである。


 ただ、生放送のほうが視聴者のテンションも上がるだろうと目論んで、そう見えるように工夫はしてあった。海外向けに表示されている英語の字幕も、わざと数秒の遅延を入れて、それっぽく仕上がっている。


 当然これは、トラウトさんの指揮のもと撮影したものだ。私のセリフは全部、彼から与えられた台本に従っている。


「詳しい話をしていきましょう」

 私が見ている前で、私が言う。


「今、私はチーターを殺すと言いましたが、それはもちろん動物のチーターのことではありません。オンラインゲーム界に今もなお蔓延る、不埒な輩のことです。


「みなさんの中には、ゲームを遊んでいる最中、実際にチーターに殺された経験を持つ方もいるのではないでしょうか?

「また、楽しく視聴していた配信上に突如現れ、暴れまわるチーターの姿に嫌悪感を抱いた方も多いと思います。


「そんな理不尽な経験が、ただの一度切りであれば――それこそ珍しい動物の見学のように、エンタメとして許容することもできたかもしれません。

「ですが、ヤツらは人目をはばからず、様々なゲームで害虫のように存在しては、健全に遊んでいるプレイヤーの楽しみを破壊しています。


「結果、ヤツらに死んで欲しいとさえ願う人が、少なからずいることと存じます」


『そうだそうだ!』

『チーターを許すな!』

『チーターは死ね!』


 あまりにも唐突に始まった私の演説だったけれど、コメント欄はそれをあっさりと呑み込み、ネットデモのような高揚感と興奮を渦巻かせていた。


 そこにさらに拍車をかけるべく、指導者のように両手を広げた私が言う。

「みなさんのその願い、私が実現させてみせましょう!」


 すると、

『おおおおおおお!』

 まだ具体的なことは何も言ってないのに、

『おおおおおおおおお!』

 コメントがお祭り騒ぎのように沸いた。

『うおおおおおおお!』


 その様子を目にした途端、私の体はゾクゾクするものに襲われた。

 ただ流れていくだけの文字の群れが、見えない興奮となって私の体内に訪れ、内臓をいろんな角度からつついてくる。そんな、初めての感覚だった。


 一方で、画面の中の冷静な私が、人差し指をピンと立てて説明を始める。


「一つ一つ説明していきましょう。

「まず、チーターを殺すというのはどういうことか?

「それは、ゲーム内のアカウントをバンするという、生易しいものでは決してありません。また、ハードウェアバンなどという中途半端なものでもありません。


「私が実行するのは、チートの販売やチートの使用が確認されたPCに対して特殊なウイルスを流し込み、パソコンそのものを使用不可能な状態に追い込むというものです」


 そこで、『そんなことできんの?』というコメントが流れた。


 期待通りの言葉に、私は思わずほくそ笑む。


「しかしながら、ここで誰もが感じる疑問があるかと存じます。

「果たして本当にそんなことができるのか、というもっともな疑問です。


「ですが思い出してください。

「私が今、どうやってこの放送を行っているかを。


「実を言いますと、この放送は現在、十一のゲームタイトルで同時に行われているのです。SNSなどをご覧になれば、どのゲームが対象になっているかの答え合わせが可能でしょうが――つまりこれは、私にはこの程度のハッキング能力があるというデモンストレーションの一環でもあるのです」


 今度は画面の中の私がほくそ笑んでいた。


「と言っても、やはり実際にチーターが殺される瞬間を見なければ納得できない、という人もいるでしょう。

「そこで、ちょうど今、チーターらしきプレイヤーを観戦中の配信者がいましたので、その放送をお借りして、ちょっと面白いものをお見せしたいと思います」


 私の映像が消え、とある配信者のゲーム画面に切り替わった。

 それはバトルロイヤルのFPSで、リキュさんがプレイしていたのとはまた別のタイトルだけれど、チーターが蔓延しているという点ではこちらも同じだった。


「さあ、すでにこれほどの(・・・・・)大量キルを重ねているこのプレイヤー。彼は果たして、プロ級に上手い人間なのでしょうか? それとも機械仕掛けのエイムでデカい顔をしているだけの、悪しきチーターでしょうか?」


 12キルという具体的な数字は言わず――トラウトさんがまさに今見つけてきた配信者の映像に合わせて、事前に録音していた私の音声が流れる。


 世界中をくまなく探せば、チーターを観戦している配信の一つくらいは見つけられます。チーターの数を舐めちゃいけませんよ――そう語ったトラウトさんの言う通り、まるでこの放送のために用意されていたかのような配信は存在した。


「どうせそいつもCだって。さっさと通報して次行こうぜ」

「待て待て、俺はちゃんと確認してから通報するって決めてんだ!」

「言うて通報しても消えないし、次行っても別のCがいそうだけどなー」


 そのバトロワは三人一組で戦うのが基本のゲームで、配信主はパーティを組んだ仲間たちとぶつくさ言っていた。チーターがいるのが日常になっている悲しい内容であり、こんな配信がいくつもあるのが現状なのだった。


「お、撃ちそうだぞ!」

 チーターと疑わしきプレイヤーの、遥か遠く。大きな坂道の上と下で2チームが撃ち合いをしているのを見て、配信主が言った。


 高所を取っているチームのほうがやはり有利なようで、下のチームはグレネードなどの投げ物を使ってギリギリ耐えている――そんな様子がなんとか確認できるといった距離だった。


 通常であれば、こっそりと近づき、2チームの戦闘が終了する直前か、終了した直後に一気に仕掛けるのが理想とされる場面。

 しかしこのプレイヤーは、遠距離でも構わずどっかりと銃を構え、上のチームに向かって掃射を始めた。


 エイムは初心者と言ってよかった。照準は体二つ分はズレていて、命中するはずもなかった。だが有り得ないことに、発射された弾がまるで意思を持っているかのようにカーブを描き、敵に吸い込まれていった。


「うわ、ホーミングだ!」

「たけぇやつ使ってんなー」


 エイムボットとはまた別の、悪質極まるチート。

 その力は上のチームを一瞬で壊滅させると、異変に気付いてその場から離れようとした下のチームもあっという間にやっつけてしまった。

 何度見ても嫌悪感のほうが先に立つ、気持ちの悪い無双シーンだった。


「はあ、マジクソゲ」

「もうやめてマイクラやろうぜ」

 仲間のそんな声を聞きながら、配信主が"通報"をクリックした直後――。


 ピンポンパンポーンという町内放送のような音が、ゲームの中から(・・・・・・・)鳴った。

 続いて、私の声も。 


「たった今、この試合においてチートが検知されました。

「くり返します。たった今、この試合においてチートが検知されました。


「よってこれより、チートを使っているプレイヤーとそのパーティを、常にマップに表示いたします。また、それ以外のパーティを全員味方とさせていただきます。

「このゲームは、チーターを倒した時点でみなさまの勝利となります。

「時間制限はなし。倒されてしまった場合も、三十秒でリスポーンされる、特別な設定となっております。


「なお、見事チーターをキルしたプレイヤーには、私からゲーム内コイン1万円分を贈呈いたします。奮ってご参加くださいね」


 ピンポンパンポン――と、お知らせの終了と反撃の開始を告げる音が鳴って。

 観戦していた配信主のチームも、参加者としてリスポーンされた。


「うおおお! なんだこれ!?」

「わからん! わからんけどやるしかねえぞ!」

「マイクラ起動してる場合じゃねえ!」


 そこからは一転して一方的な試合となった。圧倒的な人数差もさることながら、みんながみんなチーターにやられた経験があり、対チーター戦の定石を知っていたのだ。


 命中率100%の恐ろしい銃撃も、障害物を貫通しないのなら隠れればいいし、体を晒した瞬間撃たれるのなら、隠れたままグレネードを投げればいい。

 そうして誰かがターゲットになっている間に、ほかの全員がじわじわと包囲網を作り、あとはタイミングを合わせて襲いかかるだけだった。


「ぶち殺せ!」

「今までの怨みじゃコラ!」

「殺せ殺せ殺せぇぇー!!」


 三人とも、とても配信中だとは思えない言葉を吐き出し――

 チーターは特筆する反撃もできず、あっけなく殺された。


 画面に浮かぶ『Congratulations!』の文字。その下では偶然とどめを刺すことに成功したプレイヤーが、堂々と腕を組んで立っていた。

 これもまた本来のゲームにはない、トラウトさん作の演出だった。


「うわー、今の俺じゃないのかよ!」

「つか、これマジでなんだったんだ?」

「え! ちょっ、視聴者めっちゃ増えてんだけ――」

 今回お世話になった、騒がしさマックスの配信がフェードアウトされて、


「――いかがでしょうか? 私の力に疑問を持った方も、これで少しは納得できたでしょうか?」

 画面が私の映像に戻った。


『俺も参加したかったー!!』

『マジでこれこの人がやったん?』

『次いつやんの!』

『公式はなんもツイートしてないな』

『よくわかんないけどスゲー!』

 リキュさんの配信コメントが様々な反応を見せる中、私の説明が再開される。


「ちなみに、先ほどのチーターのPCにはすでに特製ウイルスが流し込んであり、あらゆる個人情報を抜き出したのち、徹底的にクラッシュさせていきます。


「前述のとおり、このウイルスはチートの使用が確認された世界中のPCに感染させる予定で、それによって得られたデータは私が責任を持って管理し、どなたでも閲覧できるようウェブ上で公開いたします。


「内容は、メールやLINEの中身に始まり、検索履歴、暗証番号、デスクトップ画面やウェブカメラに映っていた画像など――簡単に言うと晒し上げですね。


「すでに先ほどのチーターが第一号として掲載されているので、興味のある方は下記のQRコード、URLを参照してみてください」


 ファストフード店のクーポンを勧めるような気軽さで私が言った。


 しかしここまで来ると、チーター討伐イベントで盛り上がっていたコメントも、

『ヤバ過ぎひん?』

『こえーよ』

『さすがにやりすぎじゃ?』

 といった、恐れる声が目立つようになっていた。


 私自身、怖い思いをしたので同感ではある。だけれど、それくらいの見せしめをしなければチーターを根絶やしにはできないと今では思っている。


 チーター全員が、『もうチートはこりごりだよぉ~!』となるまで打ちのめす。

 そうでなければ意味がないのだ。


「当然ですが、これらの措置はチーターとチート販売業者に対してのみ行うものであり、一般の方々には一切の関係がないことを宣言します。なので、何もしてないのにパソコンが壊れたからと言って、私を疑わないでくださいね?」


 おどけたふうに私が言って――それから神妙に両手を合わせる。


「さて、ここで一つ、ご覧になっているみなさんにお願いしたいことがあります。私は現在、一万を超えるチーターのPCを把握しており、いつでも破壊可能な状態にあります。ですが、ヤツらの数はいまだ計り知れず、これだけでは殺し尽くすに至りません。そこでみなさんには、ゲーム内で見つけたチーターの情報提供をしていただきたいのです」


 また映像が変わり、シンプルなウェブサイトが表示される。


「方法は簡単で、先ほどと同じサイトにある入力欄から、ゲームのタイトルとチーターのアカウント名を入力するだけで結構です。


「もちろん、勘違いや虚偽の報告もあると思いますので、いただいた情報に関してはしっかりと精査してから措置を行います。なので、チートを使ってないのにバンされた、ということは、決して起こさないと誓います。


「無論、イタズラでウソ情報を送るといった行為は迷惑でしかないので、あまりにもひどい場合は私もそれなりの措置を取ります。これは純粋な脅しですので、気を付けてくださいね?」


 やや凄みを持たせた声で言って、私がイヤな笑みを浮かべた。

 

 ちなみだけれど、トラウトさんはすでに、チートを使用した痕跡がある全世界のPCを把握済みらしい。そんな恐ろしいことですら、彼は平然と言っていた。

 なので視聴者からの情報は、必ずしも必要ではないのだ。


 つまるところこれは、これまで散々チーターにやられてきた人たちへの、怒りの捌け口としての役割と、大勢の人間が見張っているのだという、チーターへの警告が主だった。


「さらに、重要なことをお伝えします」

 私の話はもう少しだけ続く。


「この放送は現在、FPSとTPSのゲーム、十一のタイトルで行っていますが、ジャンルを問わず、私は全てのオンラインゲームのチーターと不正なボットを排除していきます。


「また、ルール上は敵同士であるにもかかわらず、特定のプレイヤーと意図的に協力する、チーミング行為。並びに、チーターとパーティを組み、ランクポイントを稼ぐブースト行為も十分に悪質ですので、発見次第、チーターと同様の措置を取らせていただきます。


「さらにはPCゲームのみならず、家庭用ゲーム機に不正にマウスを接続させる、いわゆるマウサー。コントローラーに不正なコンバーターを接続させる行為も同罪とみなし、ゲーム機のアカウントやデータを破損させます」


 この宣言にはコメント欄も、

『おおおおおお!』

『マジでか!』

『マウサー乙!』

 と大盛り上がりを見せた。


 PCゲームのチーター問題と同じように、チーミングやコンシューマーゲーム機でのマウサーは、よく問題視されていたから。


「ただ、勘違いしてもらっては困りますが、私の目的はPCやゲーム機を破壊することではありません。ズルをする人を根絶やしにして、清浄なゲームプレイを実現させたいだけなのです。


「ですので、これから二十四時間だけ、執行猶予を与えます。

「もしあなたのフレンドにチーターがいるのでしたら――その相手に友情を持っているのでしたら、今すぐチートの使用をやめるよう忠告することを推奨します。


「もしくは、この放送は終了次第、YouTubeに世界十八か国語の翻訳付きでアップされる予定ですので、そちらを拡散するのが早いかもしれません。


「チャンネル名はもちろん、『チーターを殺すセーター』となっております。


「そして、最後に大事なお知らせがあります。

「今から一週間後の夜九時より、一風変わった方法でチーターを処刑していく前代未聞の生放送を行いたいと思います。


「ですが、この放送は確定ではなく、中止になる恐れもあります。なぜならその頃にはもう、世界中からチーターが消えているかもしれませんので」


 配信の中の赤い唇が、どっちに転んでも勝利だと言わんばかりに妖艶に歪んだ。


「それではゲーマーのみなさま、貴重なプレイ時間を私にくださり、誠にありがとうございました。この放送が面白かったという方は、ぜひチャンネル登録にご協力お願いします。ではでは」


 両手を可愛らしく振る私の姿が流れ――

 放送が始まった時と同じように、画面がノイズに呑まれていった。


 数秒後、プツンと映像が途切れる。

 そして本来のゲーム画面が戻ってきた。


『セクシーだったなあ』

『本当にチーター消えんのかな?』

『すでにチャンネル登録者が5万超えてて草』

『生放送めっちゃ楽しみ』

『夜勤入ってるけど絶対休むぞ!』

 配信のコメントは、私の放送が終わったあともソワソワしっぱなしだった。


 そんな中、リキュさんだけは別世界にいるように下を向き、難しい顔でスマホとにらめっこしていた。



   *   *   *


チーターは全員、チーターに似た顔になれ!

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