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初めての魔法

今日も日々更新達成です。

ファンタジーなはずですが、ここにきてよーーーやく魔法が出てきました!

イケメン父ちゃん登場多めです。


読んでいただいている方、ありがとうございます!励みになります♪


※行間など微修正しました(2020/10/13)

※3点リーダ等の微修正を行いました(2020/10/19)

 娘に臭いと言われた家主でありヤナの父親のシュウは、いそいそとお風呂の準備をしている。


 軽く名前だけ自己紹介した後、好奇心からその工程を見せてもらった。風呂場奥にあるドアが裏庭に通じていて、裏庭に設置してある井戸からポンプを使って汲み上げた井戸水が、金属製の管を通って中に流れてきた。小石がきれいに並べて固めて作られた、日本の露天風呂にありそうな浴槽に水を溜め、溜まったところで窓枠に置いてあった赤い石をポチャン入れた。


「これ、何ですか?」


 花夏が興味津々で尋ねると、シュウが教えてくれた。


「これは、発火石(はっかせき)だよ。水をお湯にしてくれる。水に触れないと反応しないから安全だよ。繰り返し何回か使えるんだけど、こればかりは運だね。数回使って使えなくなるのもあるし、ずっと使ってても全然いけるのもあるし。山の洞窟でよく採れるんだよ。火龍の化石だの、溶岩の結晶なんて言われてるけど本当はどうなんだろうね。魔力が込められてるのは分かるけど、僕にもわからないなあ」


 所々わからない単語は、これまで何を教えて何を教えてないかを把握しているヤナ先生がひとつひとつ横で説明してくれたので、大体意味は理解できたと思う。相変わらずすごい、ヤナ先生。そしてなんだかファンタジー。何そのすごい石。【魔力】がよく意味分からないので、あとで詳しく聞こう。


 余程花夏が物欲しそうな顔で見ていたのかもしれない。笑いながらシュウが花夏を振り返る。


「お風呂に入りたい? いいよ、僕の前に入っても」

「え? あ、い、いいんですか!? あ、でもシュウさんの後で! 大丈夫! です!」


 どんな会話だ。


 いやでも、本当に入りたい。入るは入らせてもらいたい。下手に遠慮なんかして後悔なんてしたくない。


はは、と笑うシュウ。あ、笑うとヤナに似てる。


「じゃあ、僕が入ったらまた新しく水を入れてあげるから、待ってて」


 そう言って、シュウは風呂場へ向かった。


(はい、大人しく待ってます! お風呂の為なら、いくらでも待ちます!)


 お風呂が沸くと、シュウが「ヤナ待っててねー!」とご機嫌で入って行ったので、その隙に【魔法】の意味をふたりに聞いてみる。


「ヤナは説明できないな」


 よく分からないらしい。座っていたソファーにごろんと横になった。それを見て、ハルナが代わりに説明し始めた。


うちでは、使ってなかったからね」


 そう前置きすると、単語の意味もひとつひとつ丁寧に説明しながらゆっくり教えてくれた。


 魔法は、自然界にある物や生き物に宿る力であり、物に宿る魔力は発火石のように力を使い切るまでその魔力を放出する。


 生き物に宿る魔力は、人間で言えば王族や貴族に多く宿り、普通の庶民は大きな力を持たない。稀に、庶民から大きな魔力を持つ者が生まれ、国に見出されて貴族に階級があがることもあるという。


 魔力から編み出される自然、また人ならざる技のことを、魔法と呼ぶ。


 魔力の源が何なのか、それすら分かっていないが、地底からの自然のエネルギーだとか、黄月ラース青月カラドの双子月から来るものだという説もある。


 物や人に魔力が宿っているかどうかは、魔力を持つ者であればある程度判別できる、らしい。


 そして、もうひとつ魔力を帯びる存在がある。魔物だ。


「……【魔物】」


 人でも物でも動物でもない、魔力を持つ、魔力によって存在する生き物、だという。人を襲わないのもいるが、襲うものが大半とのこと。人間が持つ魔力をかてとするのではないか、とも考えられているというが、本当のところは分かっていない。


 国(ごと)に張る魔法の結界(魔法で守る壁、みたいなものとの説明だった。陰陽師的なあれかな? と解釈してみる)の中に通常魔物はいないため、まだあえて説明してなかったという。たまに人が立ち寄らない場所にひっそりと隠れ住んでいる魔物はいることはいるらしいが、それは以前に結界が弱まった際に湧いた魔物がたまたま生き残っていたのではないか、と考えられているとのことだ。


(まあ生活用語を覚えるだけで精一杯だったしねー)


 それにしても、想像していた以上にファンタジーの世界みたいだ。月がふたつある異世界というだけで、魔法とか魔物とかとは無縁のものだと思っていたが、よく考えてみたら、黒いモジャモジャに引っ張られてきた時点で現実リアルに比べて充分ファンタジー要素満載だったのだが、ここに至るまでそういったものが一切出てこなかったのでちっとも気付かなかった。


(でもあれはどっちかっていうとホラー要素だし……)


 改めて、ここは花夏のいた世界とは違うことわりで成り立つ世界なんだ、と思う。


(今まで普通の山小屋ライフ送ってたから知らなかったよ……)


 異世界なだけで、仕様は一緒だと思っていたのだ。なんとも間抜けな話だ。


 話を戻す。

 

 発火石のような魔力を帯びた物のことを、総称で【魔具】と呼ぶそうだ。【魔法】の【道具】。この辺りは日本語と大して変わらないな、と花夏は思う。先程シュウが言っていたように自然に落ちている物もあれば、人の手で作られる物もあるとか。


「町の市場に行けばあれこれ売ってるよ。あとで覗いてきてごらん。お金もあとで渡すからね」


 山の家にはなかったから貴族御用達の高級品なのかな、と思ったけど、もう少し生活に密着しているお気軽商品みたいだ。興味があるので、「ありがとう」と素直に伝える。


 この国のざっくりとした説明を聞いた際にこちらのお金は見せてもらったが、山の自給自足生活では使う場面がなかったので、それぞれのコインの価値が未だによく分からない。どうも全て貨幣のみらしく、単位はルカということだが……


(あとでもう一度ちゃんと教えてもらわないと、ぶっつけ本番はちょっと自信ないなー)


「ああ、でもねカナツ、あんまり沢山買うんじゃないよ、長くは保たないからね」


 ハルナが注意する。長くは保たない?


「さっき、シュウさんが、繰り返し使えるって言ってたよ」


 ああ、という顔をしてハルナが教えてくれた。


「悪い悪い、今まで関係なかったからすっかり説明忘れてたよ。カナツはすっかり家族の一員だから、なんだかもう何でも話していた気になってたよ」


 頭を掻いてあははと笑う。


 家族……なんだろう、なんだかこそばゆい。でも、胸の奥がほんのり暖かくなった気もする。なんだか、今までこちらの世界で花夏が積み上げてきたものが間違ってなかったと言われたようで、嬉しい。


「ラーマナ山脈はちょっと高さがありすぎてね、王の結界が届かない場所があるんだよ」


 まさか、結界に高さ設定があるとは。


「あそこの場所は結界の下だけど、山と結界の隙間から入ってくる【外気】が溜まりやすい場所でね、魔具に込められた魔力が置いておくだけでどんどん減っていくんだよ」


 なるほど、と花夏は頷くが、ここにきて新しい情報が次々と出てきて頭はすでにパンク状態だ。


 ファンタジー耐性はなくはないけど、そこまでどハマりもしなかったのが後悔される。


「だから、買ってきてすぐは使えるけど、買い置きをしていると使いたい時には魔力(ねんりょう)切れってことになる」


 ほほう、納得。


「あ、でも、そうしたら魔物は? いないの?」


 結界が薄いと魔物が湧くって言ってたような。ということは……


 ハルナはやや不安げに立つ花夏の横に来て肩ををポンと叩き、安心させるかのように笑顔になった。


「元々あそこは他の場所よりも魔物が出やすい場所だから、国土調査隊が魔物の発生状況の観測場所として設置した場所なんだ」


 魔物が出やすいって、ハルナさん……


「それはそうなんだけど、私が住んでから、小物が1匹現れただけで、もう10年以上魔物なんぞ見てないよ」


 だから、魔力が外に吸い取られるので自力で暮らさなければならないが、それ以外には問題はない、という。


(そもそも何でそんなとこに住んですんですかハルナさん……)


 まだまだ知らないといけないことが沢山あるのは分かった。この世界では、花夏はまだようやくスタート地点に立ったに過ぎなかったのだ。


 ふたりが居間の真ん中で立ち話をしていたところに、お風呂から上がったシュウが寄ってきた。


「あー気持ちよかった〜」


 濡れた頭からはまだホワホワ湯気が出ていて、肩にかけた柔らかそうなタオルで頭を拭いている。髭を剃ったのだろう、先程までのむさ苦しい印象はなくなり、脂肪のたるみなど一切ないスッキリとした顎のラインが見える。


 前合わせの黒いシャツを軽く羽織った隙間から、硬そうな胸板がチラリと覗く。まだ帯は巻いておらず、少したくし上げたズボンから出る足はがっしりとしていて無駄がない。あちこちひたすら歩く仕事だそうなので、足腰は相当鍛えられているのだろう。大きな足に履いている少し窮屈そうなスリッパだけが、花の刺繍が入っていてミスマッチだ。


 花夏には少し年上過ぎるし好み的にいって正直対象外ではあるが、これはきっと、その辺の女性が放っておかないんじゃないだろうかなんて思う。


 この世界の恋愛事情がさっぱり分からないので女性からのアプローチが一般的にありなのかも知らないが、なんというか大人の色気……ヤナのお父さん、カッコイイ……!


 先ほど、むさ苦しいと思ったことは取り消す。


「あれ? ヤナ、寝てるの?」


 シュウが暖炉の前のソファーを背後から覗くと、ヤナがソファーに横になってスウスウと寝息を立てている。


 通りで静かだと思った。


 居間のコートかけにかけてあるショールのようなものをふぁさっとヤナにかけて、シュウが振り返る。


「カナツちゃん、今まだお湯抜いてるところだから、ちょっと待ってね」


 さりげなくウインクする。思ったよりも軽い性格なのかもしれない。


「お母さん、ご無沙汰してます。なかなかご挨拶に伺えず、申し訳ない」


 ハルナに向いて、今度は真面目な表情になった。


 テーブルの上にあった使用済みのマグカップを持ってキッチンに向かいつつ振り返る。


「おふたりとも、お茶は如何かな? 先日部下からもらったいい花のお茶があるんだ。用意するからそこに座って待ってて」


 貴族自らが淹れてくれるお茶なんていただいていいんだろうか?


 返事を待たずにキッチンに行ってしまったシュウだが、そういったシュウの態度には慣れているのだろう、ハルナは花夏に小さく頷いてから椅子に座った。


 花夏も、ハルナに倣ってあたふたと座る。


 キッチンから、カチャカチャと食器がぶつかる音がする。先ほどちらっと見えた気がする皿の山からは、取り出していない……と思いたい。


「おまたせ」


 しばらくすると、右手に洗練されたデザインのティーポットを、左手に積み重なったカップを3客持ってシュウが戻ってきた。カップの取っ手がバランスを悪くしていて、ユラユラしていて危なっかしい。


 花夏はハラハラしてしまっているが、ハルナは落ち着いたものだ。

 

 シュウはテーブルまで来ると注ぎ口から湯気が立ち昇っているティーポットを置いた。


「おっと」


左手のバランスが崩れてしまい、カップが崩れ……


 落ちない。


(え!?)


 左手には残されたカップが1客。カップの山から落ちて行った残りの2客は、ふわふわと宙を漂いそのままそれぞれハルナと花夏の前にひとりでに置かれた。


 目を見張って口をパクパクしている花夏を見て、シュウが笑う。


「あ、これ僕の得意な魔法なんだよね。浮遊術っていうのかな?これ以外はあんまり得意なのないんだけど、これ結構便利だよ」


 すごい!すごいよシュウさん!心の中では大喝采の花夏だ。初めて魔法というものを見た。疑っていたわけではないが、実際に目にしてようやく実感できる。


(リアルにファンタジーだ……!)


シュウは洗練された動きでお茶を注いでゆく。流石は貴族、といったところか。第一印象とは明らかに違う。侮りがたし、ヤナの父ちゃん。


「どうぞ」


 片方の眉をくいっと上げて薄く微笑む。かっこいいな~! ああ、さっきからそればっかりだよ!


 4人が座れるテーブルは横長のため、ハルナと花夏は並んで座っている。シュウ自身は、ハルナの向かいに座って片肘をついて、花夏の方を向いて言った。


「で、お嬢ちゃん、君は何者だい?」




次回はヤナちゃんの謎に迫ります。一話で書ききれるかな・・・少々不安です。

明日(2020/8/28)、更新を予定しています!

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