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再会と別れ

いよいよ花夏と再会です。


お楽しみくださいませ♪

 床になぎ倒されたシュウは、頭を激しくぶつけた。目の前が一瞬白くなった。


「うぐっ!」

「あはは、ごめんごめん、勢い良過ぎちゃったね」


 アレンがシュウの横に立ち、上から見下ろしている。


「アレン! 何してるんだ! やめろ!」


 セシルもアレンの力で拘束されているのか、立ったまま動きが取れないでいる。そんなセシルを振り返り、アレンは微笑んだ。


「何って、決まってるだろう? ラースとカラドをこれから呼び出すんだよ」


 シュウに向き直る。


 結局、何故カラドまで必要とするのか、まだ分かっていなかった。シュウはアレンの表情から何か分からないが探るが、何も見つからない。この王はそんな単純な人間ではなかった。


「カラドの力はもうラースに満たされたんじゃないか? ラーマナでお前の娘を辿って見た時はまだだったようだが、カラドは我慢出来ないように作られているらしいからな。もうあれから数日経っている。ふふ、カルセウス殿、貴方もとんだ道化だ、可哀そうに」

「ふ……ふざけるな! 好きな人を守ろうとして、一体何が悪い!」


 アレンは憐れみの目をシュウに向けた。


「手に入れられないのに? 本当に道化だな。それで自分をどうやって納得させるんだ?」


 アレンがシュウの横にしゃがみ込み、シュウの顔を真上から覗き込んできた。黒髪がさらさらと流れてくる。


「ただ守ればいいなんて、偽善だ。誤魔化しだ。そんな事、始めから分かっているだろうに」


 アレンの表情からは憐れみが窺えた。シュウは、この希代の王にシュウの恋心を憐れまれているのだ。これと同じような想いをずっと抱えていたアレンだからこそだったのかもしれない。


 だが。


「貴方の方こそ道化だ。大切な人を守らずして殺してしまう貴方の方こそ、憐れだ」


 アレンの表情が凍り付いた。次いで、冷笑した。


戯言ざれごとはもういい」


 そう告げると、シュウの額にそっと手を当てた。冷え切った手だった。


「何をしている! アレン!」


 後ろからセシルが叫ぶが、アレンは取り合わない。上を向いた。天井が見えるだけだ。


「お前の娘。あれは凄かったな。僕の力に反応してあの場にいる全員を巻き込んで、全てを魅せた。今まで僕ひとりしか見られない美しい景色だと思ってたから、皆に見せてあげられて嬉しかったよ」


 上を向いたまま、アレンが言った。


「折角だから、再現してやる。もうやり方はわかった」


 アレンの言葉の直後、辺りがスッと暗闇に変わった。


 見覚えのある小さな星々が、暗闇に浮き出始める。そしてまた、少しずつ少しずつスピードを上げて、星が線となって上から下へと滝のように流れて行く。


 シュウは光の中心を見た。シュウの記憶にこびりつく花夏の気配が、今この状況を招いている。花夏に会いたいと願ったり、逃がそうと思ったり、矛盾だらけの自分の行動。


 天秤に乗せられているのは、花夏を手に入れたいと思ういくら消そうと思っても消えない執着と、ただ花夏に嫌われたくないという願い。どちらも結局はシュウの中にだけあるものだ。



 やはりそこに花夏の意思はない。



 あれだけアレンには花夏の意思はどこにあるかと問うたのに、やっている事は取り繕っているだけで一緒だった。


 ならばせめて、シュウなりに花夏がいいと思える方を選べるよう導いてあげられたら。混乱しかける思考の中で、シュウは考えた。


 それでも今から会えると分かると高揚するこの心を、花夏は許してくれるだろうか。


 会ったらきっと抱き締めたくなる。抱き締めたら今度は離したくなくなるのは分かっている。それは花夏は望んでいないだろう。花夏の選択肢の中にシュウはない。


 それでも、会いたかった。


 アレンが実に楽しそうにシュウに話しかけた。


「お前は何故僕がカラドまで探しているか知りたがってたな? 教えてやる。――消す為だよ!」


 シュウは目を見開いた。


「消す……何故です!」


 上を見上げるアスランの顎の線はまるで彫刻のようで美しかった。彫刻のように、血の通わない冷たさ。


 その形のいい口の端が上がった。抑えられない、そんな笑いだった。


「用無しになったカラドは、それでもラースに執着するんだよ。もう何の力もないのに。そんなのが僕達の周りをウロチョロしてたら邪魔じゃないか。ラースが僕だけに従うようにするには、カラドの存在は不要だ」

「何という……」


 利用した後は捨てる。そういう事だったのだ。人を人とも思わぬその考えに、シュウは心からの憐れみを感じた。長くこの世に身を置いた事で、性根まで歪んでしまったのだろうか。


 すぐ横に立つセシルは以前のカラドなのに。それを本人の目の前で告げてしまう程、この男は飢えているのだ。セシルという存在に。



 暗闇の中心に、淡い金の光が輝き始めた。隣には、寄り添うような青い光。もう近そうだった。結局はアレンの望む通りにしか物事は進まないのか。


 シュウは目を凝らして光をよく観察してみる。そう、青い光は寄り添っているだけだった。


 前回見た時と変わらない。シュウはアレンを横目で見ると、顔が不快げに歪んでいた。


「まだ、という事ですかね?」


 シュウがざまあみろと思いつつ笑った。


「カラドはラースを愛してる。ラースの意の沿わぬ事を、傷付けるような事をしない。……貴方とは違って」

「黙れ」


 身体はアレンの力によって動かない、筈だった。だが、手が動かせるようになっていた。しめた。


 アレンは、動揺しているのだ。


 シュウは花夏の光を見つめた。寄り添うアスランの光を見つめた。


 花夏の淡い金色の光が段々大きくなってくる。青い光が追うように縋る。


――来る。


 シュウは、心の中で呼びかけた。花夏は、過去にシュウの心の声を聞いた。たった一度だが、シュウの心からのひと言を聞いて振り返っていた。


 ならば今もきっと聞こえる筈だ。


『カナツ! アスランを離せ! こいつはアスランを殺す気だ!』


 届け、届け。シュウは願う。花夏の心を守る為に、そしてこの願いの中にはシュウの独占欲も隠されている。アスランと離れてしまえばいい。この期に及んでまだそんな事を願う、浅はかな自分の心。


『離せ!』


 目前に淡い金色の光が迫る。青い光が金色の光に押された、ように見えた。


 きっと、聞こえたのだ。シュウの、アスランを花夏から離したいという想いは本物だったから。アスランが殺されるからなどという建前じゃなく、どこかへ行ってしまえと願うこの心は本物だったから。


 シュウの真上に、突如花夏が降ってきた。


 泣いている顔が見えた一瞬ののち、シュウは腹に力を入れた。シュウと花夏がぶつかるが、腕を回して受け止めた。細い肩、温かい身体、流れ落ちる黒髪。



――ああ、今この腕の中にいる。



 鳥肌が立った。奇跡のようだった。


 だが、まだだ。


 シュウの横にしゃがんでいるアレンが驚愕の表情でふたりを見ていた。余裕は一切見られなかった。


「カラドはどこだ!? 一緒にいた筈だろう!」


 シュウの上で、花夏がアレンを振り返った。ああ、更に綺麗になっちゃって。


 シュウが花夏の耳元で囁いた。


「カナツ、こいつが元凶だ。こいつの力を吸い取れ、そうすればとりあえずアスランは追われない」


 花夏がシュウを驚いたように見る。涙が溢れる花夏の目に力が籠った。シュウの胸の奥がズキン、とする。やはり花夏が大事なのはアスランなのだ。


 だけど、今だけはシュウの腕の中にいる。


「僕がこいつを押さえる。いくよ」

「……はい!」


 久々に聞く花夏の声にヘナヘナになりそうだったが、シュウは意識をアレンに集中させて、再度全身全霊で魔法ちからを放った。


 油断していたアレンがシュウの力に捕らえられる。赤い瞳がシュウを睨みつける。血がしたたってきそうな目つきだった。


「今だ!」

「はい!」


 花夏がアレンに集中した。アスランを守りたい、その願い故に、制御出来ていなかった魔力を吸収する力を制御して、アレンの溢れ出る力を吸い取る。更に、中に宿る力まで。


 ラースである花夏であれば出来る筈だった。何故なら、アレンの力は元々はふたつの月の力から来ているのだから。


「何をする!」


 アレンが叫ぶ。セシルが走って、王の間の扉を押さえた。衛兵が入って来ないようにとの考えだろう。


 やはりセシルはこちらの味方だ。シュウはほっとした。


 シュウの上で花夏が身を起こす。目線はアレンに絡み付いたままだ。


 アレンがその場でへたりと床に座り込んだ。花夏が立ち上がり、アレンの前に立った。その表情は、怒りで輝いていた。小さな身体から立ち登る怒気は、女神のように光り輝いていた。


 神々しいまでに美しかった。これが、黄月ラースの化身そのものなのだ。


 シュウも立ち上がり、花夏の後ろに庇うように立った。


 力が入らないのか、アレンが床に更に低く倒れ込んだ。


「アスランを殺させやなんかしない」


 花夏の言葉に、アレンは悔しそうに花夏を睨み返していた。


「カナツちゃん、そのまま捉えておいて」


 花夏に言うと、シュウは扉の前でこちらを見て佇んでいるセシルを呼んだ。


「セシル様、アレン陛下はご病気のようだ。お運びいただけるだろうか?」


 シュウの意図を察したらしいセシルが、大袈裟に驚いてみせた。


「おや、それは大変だ。ではすぐに部屋に連れて行かねば。そちらのお嬢さんも是非ご一緒に」


 セシルがアレンに歩み寄り、ひょいと抱き抱えた。

 

 シュウがセシルに言う。


「セシル様はしばし王の代理として執務を行なわれた方が良いでしょう」

「え、俺が」


 セシルが呟いたが、シュウはにっこりとした。


「では衛兵を呼びましょうか。なに、私も他国ではございますが宰相の身。お力添えになれる事もございましょう」

「……分かった」


 次いで、シュウはじっとアレンを見続けている花夏に声をかけた。


「カナツちゃん、ゆっくり説明するから、とりあえず行こうか」

「はい、分かりました」


 愛する人が目の前にいる。それだけで、勇気が湧いてきた。


「衛兵! こちらへ!」


 セシルがアレンを抱えたまま、扉の外に声をかけた。


 まだ、負けてない。まだ道はあるかもしれない。


 その道を模索するべく、シュウ達はアレンの自室へと向かった。それぞれの思惑を胸の内に秘めたまま。


次回は明日か明後日更新予定です。

(2020/11/5か6)

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