シエラルド 2
今回は、ようやく花夏がどこにいるのか細かく説明できました!
これを説明しておかないと話が先に進まないので、若干説明多めですがご容赦ください!
※()修正してます(2020/8/25)
※☆とりました《2020/9/2)
※スペース微修正しました(2020/10/13)
※3点リーダ等の微修正を行いました(2020/10/19)
大陸の北部に位置する国 ラーマナ王国は、諸外国に比べ比較的内政が円滑に執り行われている。
理由の一つとして挙げられているのが、その地理的配置だ。北に広大な山脈を持ち、沿岸からの他国の侵入を不可能としている。横長の山脈に沿って横長の国土を持つため、東西の隣国についてはあまり多大な注意を払う必要もない。また、同じ北部の厳しい環境の国同士ということで、東のガガン王国、西のマゼル王国とは比較的友好関係にある。
南東と南西に一部国土が隣接するやや好戦的な国があるが、真南に隣接する大陸一の強国、ダルタニアのその存在のため、奴らは今のところ手出し出来ない。ダルタニアもまた、ラーマナと友好関係にある国だ。
ただし、それは『隷属』とも言える関係ではあるが。
諸外国に対して過度に警戒をせずに済む地理的要因、また、大陸一の強国への忠誠を誓わされている状況ではあるが、いつどの国に寝首をかかれ国土を奪われてしまう可能性もなくはなく、結果内部で権力争いしてる暇などなく官民一体となって国土を守っている……と言えばいいだろうか。
現国王の名はグルニア・アレス・ラーマナ。30代半ばの、寡黙な王だ。王の妃は、ダルタニア国王の姉、フィオーレ・ナリ・ラーマナである。
北部の憂いを払うために差し出された哀れな人身御供の役割を担ってこの国に嫁いでこられたが、無口な気質ではあるが堅実な王の妃に対する態度に絆されたのか、嫁いできたばかりの頃の気落ちはもう見受けられず、一男一女に恵まれ、現在は穏やかに過ごされている。
どの国でも、王としての共通の役目がある。
戴冠後にすぐさま執り行うその儀は、国によって呼び方は違えど、行うことは一緒だ。
王の魔力を使い、自身の国土に魔除けの結界を張るのだ。
ラーマナでは、単純に『退魔の儀』と呼んでいる。
戴冠後即座にこの結界を張らないと、数日で魔物が湧く。始めは小物ばかりだが、それを放置しておくと、やがては人間の手には負えない力を持つ魔物が出てくる。
歴史上、覇権争いは何度も繰り返されたが、結局はこの理由により統治は魔力を持つ各地の王に託されることになった。
歴史上、大陸をひとつの国家にしようと目論んだ者は多数あれど、武力で統一を達成した後、全ての覇者が己の魔力不足により結界の威力が足りずに野望は足元から瓦解したという。
ひとりの王が敷く結界では、この大陸は広すぎるのだろう。
実はこの世界の要ともいえる儀であるが、基本的に強い魔力を持たない一般庶民には結界は見えも感じられもしない為、あくまで儀式のひとつと捉えられている。
ただし、魔力を持つ貴族たちの目にはその効果は明らかだ。現国王グルニアが儀を行なってすぐ、この国の上空にサアッと透明の光り輝く、例えるならば子供たちが作るシャボン玉のような光沢を放った結界が広がった。
治世のため、一定量以上の魔力を持つ者を貴族として登用し続けた結果、多少の入れ替えはあれど権力は貴族が持つものであるというのがこの国、いやこの世界の常識となった。
そして、一部例外はあれど、彼、彼女らの目には同様の光景が映った筈だ。
だから、気がついている者もいるに違いない。このところ急激に、結界の一部分に欠けが生じていることに。
ラーマナ王国国土調査隊隊長という名の通称『何でも屋』シュウ・カルセウスは頭を抱えて王宮にある自身の執務室にある立派な机の上に突っ伏した。深く、長い長い溜息をつく。
(原因が全くわからない……)
王宮図書館にある様々な文献を読み漁ったが、王の生命が危ぶまれる状況でもこれ程結界が揺らいだことはなかった。現国王グルニアの魔力残量も専任魔術師が測ったところ問題なく、原因が分からない状態が数ヶ月続いている。
このままでは、いずれ綻びから魔物が侵入してくる。ラーマナの名誉にかけて、それは阻止さなばならないが、とにかく理由が分からないことにはこれ以上どうしようもない。
「セリーナ……君だったらどうしただろう……?」
突然の事故でこの世からいなくなってしまった最愛の妻に問いかけるが、回答などある訳もなく。
シュウはため息をつくと、執務室からトボトボと出て行った。
昨日も家に帰らなかった。このまま王宮にいると、部下のサルタスに見つかるとうるさい。一度帰宅し仮眠してから再度登城しよう。
小一時間程草原を下って行った後は、比較的開けた感のある森をひたすら行く。鬱蒼とした暗い森を想像していた花夏は、木漏れ日が差す明るい森を不思議そうに見た。
そんな花夏を見て、ヤナが言う。
「この森はね、お父さんが守ってるんだよ! だからきれいなんだ!」
花夏の心に浮かんだ疑問をこうも正確に言い当てるなんて、なんて素晴らしい先生なんだ君は……!
花夏は相変わらずのヤナの勘の鋭さに感心する。このヤナの特技が、花夏がこの国の言葉を覚える信じられないスピードに一役買っているのは間違いないだろう。
「町にいる、お父さん?」
以前、ヤナの母親が亡くなってから、父親とは離れて暮らしていると言っていた(多分そんな感じのニュアンスだった)。「お父さん、もの凄くお仕事大変なの!」と走る身振りを見せてくれた。シングルファザーで仕事も多忙となれば、確かに当時今より更に幼かったヤナを育てるのは厳しかったのだろう、と思う。分からないけど。
しかしヤナの表情は優しい。自分が父親に見捨てられたとは考えていないようで、花夏はちょっと安心した。
「この森は、町を雪崩れから守ってるんだって。雪で木が倒れちゃうと大変だから、大きくなっちゃった木を切ってるんだって」
なる程、よく見ると今花夏たちが歩いている小道の脇には切り株が見える。間引きというやつかな? 色んなこと、もう少し興味を持って学んでおけばよかった……後悔先立たず、うう。
続けてヤナはクスクス楽しそうに笑う。
「でね、お父さんたらね、ヤナたちがいつでも町に行けるように、部下の人たちを使って道が消えないようにしてくれてるの!」
そうか、人が歩かなくなれば、いずれ道も消える。定期的に誰かが通らないと、森の中の道なんてすぐに消えてしまうんだ。
「この道、ヤナのお父さんが?」
「うん! 森の調査のためとか言ってやらせてるから部下の人たちには内緒だよって!」
(それは……なんと見事な職権乱用……)
だがしかし、道なき道を行くより、ある程度踏みならされた道がある方が遥かに助かる。森の状態維持のため伐採が必要なのであれば、道を作るのもまた必要不可欠なことのだろう。
それをどの方向に作るか、という議論は別として。
花夏がこの世界に来てヤナたちと一緒に過ごすようになってから、花夏は未だ二人以外の人間を見たことがない。見知らぬ異国の町に行くのは若干抵抗がなくはないが、それよりも好奇心の方が勝った。
(どんな街並みなのか、どんな人たちがいるのか、気になる…!)
中世ヨーロッパ(海外は行ったことないけど)の街並みを想像したら近いかもしれない。少なくとも、山の麓、といっても町から見れば中腹にあたるだろうが、上から見下ろした王城はかなり西洋風だった。素敵な街並みが待っているかと思うと、心なしか足取りが軽くなる。
「カナツってば、そんなに楽しみなんだね。でもあんまり急ぐとあとでばてるよー」
またもや花夏の心を読んだかのように笑うヤナ。
しかしまあ何とも大人びた子供だ。この年齢だと、日本だと小学校1年生くらいだろうか。花夏の記憶にある限り、自分が小1の時はこんなしっかりとした発言は誓って絶対していない。あらゆることを自力でこなさないといけない環境から来るものなのか、それともヤナ本人の資質なのか。あるいはその両方かもしれない。
花夏の理解が正しいかどうかいまいちあやふやではあるが、こちらの世界も1年が12か月、らしい。花夏の世界がどうだったのかは、勉強不足で正直さっぱりわからないが、こちらの世界では、新月から満月になり、次の新月までが1か月。それを12回繰り返すと1年となる。それを知ってから今までノートに取った簡単な記録を照らし合わせてみたところ、今のところ1か月が28日周期。花夏のいた世界より、1年が少し短いようだ。
花夏の誕生月は4月だが、このままこの世界に長いこといる場合、花夏の世界の日付けとこの世界の日付けがどんどんずれていくことになる。以前ヤナに誕生日を聞かれ(こちらの世界は数え年ではなかった)、4の月の10日目と答えたので、もしまだこのままこの世界にしばらくいることになる場合、日本にいた時よりも少し早く年を取ることになる。このことに拘るかそれともよしとするか、花夏はしばらく考えた後、「ま、いっか!」と、こちらのルールに従うことにした。
(郷に入っては郷に従えって言うしねー)
決して頭は悪くない(はず)なのだが、こういう性格のため、花夏の母はよく頭を抱えていた。
ヤナが、ハルナに話しかける。
「お父さん、今回は会えるかな?」
(ん? どういうことだろう?)
花夏の心に浮かんだ疑問を読み取ったのだろう、ヤナがニコニコと説明してくれた。
「カナツがうちに来るちょっと前にも、一度おばあちゃんと町に降りたんだ。その時は2日間町にいたんだけど、結局お父さんはお城から帰ってこなかったんだよね」
「お城? お父さん、お城にいるの?」
それは初耳だ。
ここで、今までのんびりとふたりの会話を聞いていたハルナが説明をしてくれた。
「ヤナの父親は、『国土調査隊』の隊長でね、しょっちゅう国のあっちこっちに行ってていつも大体いないんだよ。毎月10日ばかりは登城していて、月末は大体登城の時期だって言ってたからてっきり家に帰ってるもんだとばかり思っていたんだけどねぇ」
「いっつもお城で寝泊まりしちゃってるみたいだよ!」
「まあ、家に帰ってもひとりだしねぇ……。城にいれば、なんだかんだ言って部下が面倒をみてくれるしね」
花夏が理解できるよう、ゆっくりと喋ってくれている。途中聞きなれない単語もあったが(あとで聞いてみよう)、前後の言葉からなんとなく想像できる。しかしなんとまあ、この世界でもそんなブラックな労働条件があったのか。普段のハルナたちの生活を見ていると、夜ご飯を食べたらすぐ寝てしまう生活だったので、てっきりみんなそんな感じだと思っていたが。
「まあ忙しい男だよ」
呆れたようにハルナが肩をすくめる。
「でも、今回はいなかったらお城に問い合わせてみるつもりだよ。カナツに会わせたいしね」
ニカッとハルナが笑った。もしかして……自分のことが何かわからないか、聞こうとしてくれてる?そのためにわざわざ町へ……?
ハルナはそんな花夏の様子に気づいたのか、軽く笑った。
「前回ヤナも会えなかったし、いくら忙しい父親だからってちゃんと子供の成長している姿は見るべきだろう? それにとにかく冬支度をしないとそろそろまずいからね。あんまり気にするな」
「お父さんに最後に会ったの、前の春だもんねー」
ぷうっと頬を膨らませているヤナがなんとも可愛い。
「ヤナ、早くお父さんに会いたい?」
花夏が優しく話しかけると、途端に笑顔になって「うん!」と元気よく答えた。
「さ、おしゃべりはほどほどにして、進もう。昼前には着きたいからね」
ハルナが言う。ヤナのお父さん。忙しそうだけど、なんだか重要そうな仕事に就いてるようだ。一体どんな人なんだろう? 楽しみだ。
花夏も再度気合いを入れ直して、細く続く道の先を見た。
次回、ヤナちゃんとお父さんの久々の再開です!
町の名前がサブタイトルなのに、まだ町に着いてませんね…おかしいですね…起承転結のまだ起くらい進みが遅い気がします…
でも、今回ようやく少しファンタジー感出せてきたかなと思います。あ、この世界に魔物いるんだってね…