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半身

いよいよ物語は佳境へ。


お楽しみくださいませ!

 自分が黄月ラースで、恐らくアスランが青月カラド


 サルタスからの手紙にはそう書かれていた。シュウやサルタスはアスランに会った事がない為確証は出来なかったのだろうが、花夏は今までの事を振り返り、その憶測は間違っていないだろうと思った。サルタスからの情報は、これまで探していたパズルのピースが見付かり、ひとつの絵となる、そんな感覚だった。


 アスランはもうずっと、その溢れる魔力を抑えられないが為に長期間一定の場所に留まる事が出来ず、世界を放浪していた。花夏がこの世界に来てから、何かを北の方に感じ北上していたと言っていたではないか。ふたつの月の伝説の通り、【大いなる魔力】であるアスランは恐らく、その魔力を【至高の器】である花夏に満たす為に花夏を追い求めていたのだ。前にシュウが言っていたように、花夏自身は魔力を作る事が本当に出来ないのであれば、花夏の役目はアスランの魔力をこの身体に満たした後、世界を正常化に導く道具、なのだろう。


 青月カラドは常に黄月ラースを追いかける。でも、常に重ならない。何故なら、これまではずっとその時期ではなかったからだ。数百年に一度、ふたつの月の化身がこの世界に現れるというその時でないと、重なる事はない、そういう意味なのだと思う。


 何故アスランはこの世界に生まれ落ち、花夏は次元の違う花夏の世界に生まれ落ちたのか。そこについては全くの謎だが、本来ならば花夏もこの世界に生まれ落ちるべき存在だったのだとすれば。



 アスランは、花夏の不在それ故に長年苦しめられてきたのだ。



 海に行こう、と泣き止んだ花夏に優しく声をかけ、いつも通り優しく、でもしっかりと指を絡めて手を握って隣を歩くアスランを見上げる。いつも通りのアスランにしか見えないが、アスランは少したりとも疑わなかったのだろうか。アスランの花夏を求める気持ちが、青月カラドとしてなのか、それともアスラン自身の気持ちからくるものなのか。


 先程の話は忘れていい、アスランはそう花夏に言った。伝説の通りならば、追いかけるのはあくまで男の方の青月カラドであり、花夏は追われる側の黄月ラースの為そこまで焦る気持ちは起こっていない。だが、遥か遠くの地から花夏の気配を追い求めて来たアスランは、きっとずっと花夏を求めていた。花夏が嫌がるから、心の準備が出来ていなかったからこの優しい人は無理に手を出してこなかっただけなのだ。正直花夏にアスランが抱える追い求める気持ちの度合いやその焦燥感は分からなかったが、彼のこの花夏への愛の傾け方を見ると、実は相当なものなのではないかという気がしてきた。


 もし、花夏が初めから抵抗なくアスランを受け入れていたら、今頃どうなっていたのだろうか。アスランの魔力を吸い取った後、もしアスランが青月カラドの役割、花夏からしてみれば呪いから解放されたら、アスランはまだ花夏の隣にいたのだろうか? それとも。


 器への魔力の注入が一度きりのものなのか、持続的なものなのかは伝説からは分からない。だが、花夏は何となくだが、これは一度きりのような気がしていた。もしかしたらこれは、黄月ラースとしての感覚なのかもしれなかった。


 潮風の匂いがしてきた。風は生暖かい。


 ふたりは無言で歩く。花夏は考える。本当にアスランの事を一番に思うのであれば、花夏がすべき事はただひとつ。早くアスランを受け入れ、この身体をアスランの魔力で満たし、そして彼を自由にする事だ。その時にはもう、花夏の傍にいなくても生きていける身体になっている筈だ。


 ただ、アスランは花夏の涙を見てしまった。自分たちがまるで世界の道具のように思え、アスランの愛情すら疑い、そこにはまるで自分の意思ではなく神の意思が存在するかのような無力感。それ故の涙だったが、こうなるときっともうアスランは花夏に絶対手を出してこない。


 アスランの手が温かい。花夏は、本当はこの手をいつまでも離したくはなかった。だが、花夏の我儘でいつまでもアスランを勝手に決められた過酷な運命に従わせてはいけない。花夏がそれをしてはいけない。それは卑怯だ。アスランが逃げられない事を分かった上で、その優しさの上に胡坐をかくような事は、誠実とは言えない。それは愛とは言えない。ただの打算だ。


 ただ、一体何の為にダルタニアが花夏をわざわざ異世界を探し回って連れて来たのか、そこが相変わらず分かっていない。それが分からない限り、ふたつの月の伝説を完成してしまうのは危険であった。


 花夏は冷静に考え続ける。ひたすら、ただ事実を考え回してそこから自分の感情を抜き取って考える。


 近々ダルタニアからラーマナに王自らが赴くという。であれば、その時に何故ダルタニアが花夏を探しているのか、少しは理由が分かるかもしれない。それが、例えば真っ当な理由で花夏に害のないものなのであれば、その時点でアスランを解放しても遅くはない筈だ。これは、手順を間違えると取り返しのつかない事になる可能性もある。しっかりとよく考えなければならない事だった。


 だから、花夏の感情は不要だ。花夏の感情は、アスランの足枷になってしまう。


 花夏はアスランが好きだ。可愛くて大事で仕方ない。



 だからこそ、誠実でありたい。



 だからせめて、その時が来るまでは、こうして隣にいたい。


 花夏はアスランの腕に頬をくっつけた。アスランの体温を感じ、目を閉じる。


「カナツ?」


 花夏からくっついてきた事などなかったので、アスランは少し驚いたように、でも嬉しそうに微笑む。


「アスラン、好きだよ」


 アスランが、ばっと花夏の顔を覗き込んだ。とても真剣な顔をしている。その顔が可愛くて可笑しくて、花夏は笑ってしまった。


「ふふ、何その顔。そんなびっくりする事ないでしょ」

「え、だってカナツがそんな唐突にいきなり俺の事好きって言うなんてどうしたの」

「どうしたのって酷いなあ」


 海が見えてきた。大小様々な大きさの船が見える。漁船だろうか。


 花夏の横で、アスランがソワソワしている。子供みたいだな、そんな事を思った。格好いいのに可愛くて、花夏を守ってくれる花夏の半身。この人に会う為に生まれてきた。それが例え仕組まれた運命だったとしても、この今の気持ちは花夏本人のものだった。


 港に出た。石が詰まれ、すぐに船に乗れるようなしっかりとした船着き場があった。体格のいい男たちが行き交いしている。


「ずっと好きだったよ。初めてアスランと会って、時が止まったように感じたあの時から、もうずっと好きだったな」

「カナツ……?」

「私、さっきはショックだったけど。でも、私の半身が貴方でよかった」


 アスランを見上げた。愛しい緑色の瞳。花夏を見返す時に少し細める仕草。大好きだ。誰にも渡したくない。



 せめて、今だけは。



「私を探してくれて、隣にいてくれてありがとう、アスラン。大好きだよ」


 花夏はそう言うと、アスランの向かいに立った。いつもと違う花夏の言葉に戸惑いの表情のアスランの頬を、両手で優しく挟み込む。アスランが察したのだろう、途端目を嬉しそうに緩ませて少し前かがみになってくれた。


 その薄い美味しそうなアスランの唇に、花夏はゆっくりと自分の唇を重ねたのだった。







 ラーマナ王国王都シエラルドの王の間。


「ええ? うちの娘をですか?」


 シュウの声がつい大きくなった。玉座に座るグルニアは、どうしたんだという顔をしている。


「何かまずい事でもあるのか?」

「え、いや、そのですね、うちの娘はつい先日まで義母と一緒に山の観測所でかなり自由な生活を送っていたので、とても他国の王にお見せできるようなものでは」

「だがな、他に適任がいないのだ。私の子供たちはまだ3歳と1歳と幼すぎるし、流石に無理だろう」

「まあ、そうですがね……」


 来週、いよいよダルタニア国王がラーマナに表敬訪問する事になっている。まあ実際は結界に落ちてきた物の探索が目的なのだろうが、表向きはそうである。恐らくお互いそんな事は分かっている上での儀礼的なものだ。


 その表敬訪問の際、歓迎の意を表し害のない子供が来賓に花束を渡す、という儀式がある。


 本来であれば王族が代表して行なうものなのだが、グルニアの子供である王子と王女はまだ小さく、大任を任せるには少々不安が残る。グルニア自身には兄弟はおらず、小さいけれどかといって分別があるような子供が近くに見当たらない。他国の国王へ花束を渡すとなると、その辺の官の子供では失礼に当たる為、そういう意味で年齢的にも立場的にも適任であろう、と白羽の矢が当たったのがヤナであった。


 だが、ヤナの立ち振る舞いはまだ付け焼刃のものだ。正直、この大陸一の権力を持つと言っても過言ではないダルタニア国王の前に出せるかと言ったら、厳しいものがある。どこでボロを出すか分からない。正直かなり不安だった。


 恐る恐るグルニアに尋ねる。


「……拒否権は」

「ある訳ないだろう、他に適任がいない」


 あっさりとグルニアが否定した。シュウは肩をがっくりと落とす。そんな様子を見て、グルニアが僧侶のような厳しい顔つきを緩ませた。最近、どうもこの国王はシュウをからかってその反応を楽しんでいるフシがあった。


「陛下……あのですね、本当に何と言うか野生児だったので」

「まあ、なるべく手順と時間を省略するのだな。そういうのはお前の十八番おはこだろうが」

「まあ、そうですけどね」


 拒否権がないとすると、本当に何とかするしかない。時間はもう殆ど残されていない。週末までに策を練り、所作を週末に叩き込む。


 着る服、所作、手順の省略。サルタス、シーラ、ソーマ辺りが適任だろう。


 頭の中で勝手に割り振るが、もういっその事サルタスを宰相の執務室に呼び出した方が早いかもしれない。どんなにシーラと仲が悪かろうが、ヤナに言う事を聞かすにはサルタスが一番適任である。それだけは間違いなかった。


「他に案件はあるか? リュシカの国境の件はどうなった?」

「あの件は順調ですよ。今私の部下の事務官が対応してます」


 やはりソーマは仕事が出来た。それはもう非常に手際よく、あっという間に商人たちとの約束を取り付けてしまった。もっと上の位に取り上げて、ソーマに秘書を付けてあげたい位だった。


「もう交渉は終わって、後は結果報告待ちですね」

「お前は本当に人を使うのが上手いな」

「こういうのは適材適所ですから」


 にっこりと人のよさそうな笑顔を見せた。グルニアの口の端が小さく上がった。


「その嘘くさい笑顔に何人騙されたんだろうな」

「嘘くさいとはまた随分な事を仰りますね。私は至って真面目に仕事に取り組んでますよ」

「ふふ、そうだな」


 グルニアが実に楽しそうに笑った。


「退魔の儀の日程も決まりましたし、とにかく来週のダルタニア国王表敬訪問を乗り切りましょう」

「頼んだぞ」

「畏まりました。ただ、娘については不安だらけですが……」


 シュウが本当に不安そうな顔をしてしまったのだろう、グルニアが実に楽しそうに声を出して笑った。


「お前でもそんな顔をするんだな」

「陛下、私も普通の父親ですから」


 日頃は仕事に追われる国を支える男がふたり、お互いの性格の悪さをよく理解した上で実に楽しそうに笑い合った。


 

次回は出来たら明日更新予定です。

頑張ります!

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