それぞれの思惑
各国の思惑やら何やらな回です。
偉いと大変そうですね〜
お楽しみくださいませ!
ラーマナ国王グルニアは、苦虫を噛み潰したような顔でシュウを見やった。
まあ、そういう顔になってしまうのは仕方ないだろう。許されるのならシュウだってそうしたい。
「金属の見慣れない箱が落ちて来まして」
「結界にヒビが入っているからな。相当大きな物だったようだが、まさか本当に同じ場所に落ちてくるとは」
グルニアにとっては、これぞ完全なとばっちりである。他国に勝手に結界を破られ、張り直したらまた破かれ。いい加減にしてほしいというのが本音であろう。
玉座の上で肘掛けに肘をついて、深い深い溜息をついた。
「また張り直しか」
「それは必須でしょう。準備は進めます。が、まずいものが箱の中にありました」
グルニアの眉がピクリと動く。
「黒い、魔力を相当帯びた髪の毛の束が入っておりました」
「黒い……そうか」
グルニアはそれだけで察したらしい。ダルタニア、黒髪、魔力とくれば彼にとってはそれは唯ひとりを指す。
「私は、あの義弟が苦手なんだ」
人の好き嫌いなど滅多な事では口にしないグルニアが、珍しく感情を吐露した。
シュウはダルタニアの国王には会った事がないので、正直なところ彼が実際はどういった人物なのかは分からないが、少なくとも耳に入ってくる評判はいい。見目麗しく、若いが非常に聡明で人心を掴み、先見の目を持つと聞く。どんな聖人君子かとは思うが、見た目がよく暴君でなければ民の反応は大体そんなものなのだろうと思う。シュウとて似たようなものだ。その規模は違えど。
「フィオーレと仲が悪くてな、色々とやりにくい」
「王妃様とですか? おふたりだけのご姉弟だったかと思いますが」
グルニアがボソボソと話す。あまり大きな声では言えない話なのだろう。国王というのも面倒な仕事だ。絶対やりたくない。シュウは内心そう思った。
「フィオーレはあの通り天真爛漫というかあまり細かい事を気にしない性格だろう? どうもそれもアレンの気に触るらしく、とにかくいつも怒られていた、とフィオーレは笑ってるんだがな」
「まあ実際にやり取りをされるのは陛下ですからね。それはそれは」
フィオーレとの付き合いは宰相となってから始まったのでまだ浅いが、グルニアの言っている事はすんなりと理解出来た。
フィオーレは、非常に明るい性格をしている。ラーマナに嫁いできた際は知り合いもおらず半ばダルタニアから追い出されるように来た為、ラーマナの王宮でも浮いていた存在であった。それを乗り越えられたのは、勿論グルニアの努力もあろうが、そこにフィオーレの明るさがあったからだと聞く。
「先日、ダルタニアからフィオーレの従兄弟で王宮魔術師の男が来ただろう?」
「カーン様ですね」
あの困った弟子の黒髪の師匠だ。王族といってもまあそこは結構ピンキリだが、あの男は落ち着いた雰囲気があり、非常に的確で冷静だった。あの男が国王だったとしてもおかしくはない、そう思ったものだ。
「あの男が、フィオーレの元許嫁だ」
「……それは、色々と面倒くさそうですね」
グルニアが頷く。表情は暗い。
「アレンはあの男にとても懐いているようでな。フィオーレ曰く、嫉妬され追い出されたのではないかと」
「嫉妬……」
評判と実際を知る姉との印象には大分隔たりがあるようだ。
「あの男が結界を突き破って異界から物を落としたのだろう。それが許されるのは、アレンの後ろ盾があればこそだ。一介の魔術師の立場で他国の結界を破ろうなどと、本来であれば正気の沙汰ではないからな」
今日のグルニアは多弁だ。余程腹に据えかねているのだろう。
「アレンの協力があれは戦争にはならない。それを見越して、多分そろそろ本人が出てくるだろう、というのが私とフィオーレの見立てだ」
「ダルタニア国王自らがですか?」
「アレンはあの男を殺されたくはないようだからな」
「成程」
これが他国であれば、本当に戦争になっていた可能性もある。仲が悪かろうが姉弟であればこそ、取り繕えるものもある。この幸運を、あの黒髪の魔術師は果たして理解しているのか。それにしても、何故そこまで花夏に拘るのか。あのまだうら若き黒髪の女性に、何があるというのか。
「まあ、せいぜい盛大にお迎えして気持ちよく帰っていただきましょうか」
「そうだな。とにかく近々何かしら接触はある筈だ。その際は宜しく頼む」
グルニアがまた溜息をついた。次から次へと考えねばならぬ事ばかり降ってくる。その内溜息で埋もれてしまいそうだった。
「畏まりました。あの髪の毛はどうしましょう?とりあえずはそのままにさせてますが」
「それでいい。動かすと気付かれる。それ位とんでもない奴だからな。ただ、お前の義母上は大丈夫か?」
「はい、問題ございません。ご心配いただきありがとうございます」
ハルナはすでにロンの実家に向かって移動している。人の世話になるなどハルナは嫌がるだろうが、ロンの母親は元騎士団団員でかつてのハルナの部下でもある。女性団員から憧れの目で見られていたハルナの事だ、恐らく相当歓迎されるだろう。事が落ち着くまでは、何としても隠れていてもらわねばならなかった。
「他に報告はあるか」
グルニアが居住まいを正した。愚痴は終わりという事だ。
「リュシカの件ですが。以前の部下に探らせたところ、やはりそろそろのようですね」
「どっちもこっちも大変だな。仕方ない、国境の備蓄倉庫を確認してくれ」
シュウが苦笑いする。全くこの王は。
「自国が荒れそうな時に他国に手を差し伸べるのですか?」
グルニアが何を言ってるんだ、という顔をしてシュウを見た。
「あそこの王太子はどうも敵が多そうだからな。長引くんじゃないか? 難民が来ると治安も悪化する。それに、国境の領主たちにはそろそろ蓄えたものを少し返してもらわんとな」
「私のいう事を聞いてくれるといいんですけどね、あの人たち」
シュウも溜息をついた。領主を取りまとめる地方院は、どうもシュウを目の敵にしている感がある、少しやりにくい相手だった。
リュシカの現国王は高齢だ。花夏からの手紙にあった魔物の出現については、寿命による結界の衰えの可能性が高かったため、サルタスの伝手を頼って国王の健康状態を確認したところ、かなり危ない状態との事だった。
問題はその後だ。現国王が長年統治していた為、王太子も大分年を取っている。長年燻っていた権力への渇望からくる横暴性が目立ち、正直あまり評判はよくない。その為、彼の王位を継いだ後の残りの年数を鑑みても、粗暴な王太子よりも別の聡明で若い王族を立太子にとの動きが活発になっているという。グルニアが長引く、と言ったのは次期王の即位まで時間がかかりそうだという事だ。王位空白の期間が長ければ長い程、結界のない時間が増える。それはつまり魔物が増えるという事に繋がる。その内自国を捨てる者も出てくるだろう。殆どはダルタニアに行くだろうが、ダルタニアと親交のあるラーマナにも難民がくる可能性は大いにあり得る。
それを、国境付近の領地で抑え込め、という事だ。
各々の領地では民から税を徴収している。それを自分たちの分を差し引いて王府に納めるのだが、まあきちんと納めるのは少数である。平和な時期はそれを多少は見逃す事でお互い持ちつ持たれつの関係を保つのもいいが、有事の際は搾り上げねば国政が成り立たない。幸い、ここ数年ダルタニアとの親交のおかげで軍事費は最小限に抑えられ、産業に力を入れる事が出来ていた。
ただ、溜めすぎた富は別の新たな思想を生む可能性もある。
今回のリュシカの王位交代の際に、リュシカに恩を売りつつついでに国境辺りで私腹を肥やす自国の領地を少し締めておけ、というのがグルニアの指示だった。
「一筆書いてやる」
「はは、少しきつめのをお願いします」
いう事は聞かなくとも聞かせねばならなかった。
シュウとグルニアは次の話題にへと移った。
祭事、領地への手配、ダルタニアへの対応。それ以外にも細々とした事は山のようにある。喉から手が出る程、優秀な人材がもっともっと欲しかった。人を信用する、その難しさを日々感じているシュウであった。
貴族たちが住む地域のとある一角。ひとり暮らしの若い貴族たちが多く住む場所がある。その内のひとつ、装飾も一切ない質素な玄関をノックする。中からは何も反応がない。毎度の事だ、セシルは慣れた手つきでイリヤの家へと入っていった。
「イリヤ、入るぞ」
一応声をかける。だが返事はなかった。恐らくまた寝ているのだろう。
イリヤが倒れてからもう3日が経った。他人と関わり合いを持とうとしないイリヤである。面倒を見れるのは師であるセシルしかいなかった。その為、朝晩と毎日イリヤの家を訪ねては本人的にはかなり甲斐甲斐しく面倒を見ている。
イリヤは辛うじて起き上がる事は出来た。だが、すぐにふらついて倒れてしまう。前に異世界に行って跳ね返された時よりも遥かに衰弱が激しく、かなり心配だった。セシルに出来る事は、とにかく食べさせて排泄させてなるべく清潔な状態を保たせ寝かせる事だけだった。それも、普段自分の面倒すら適当で使用人に基本何でもやってもらっている立場のセシルからすればかなりの重労働であったが。
明かりがついていない居間はひんやりとしている。奥のイリヤが寝ているであろう寝室のドアをノックした。
「イリヤ?」
返事がない。セシルはそっとドアを開けた。部屋の中には、右の壁際にベッドが置かれている。ベッドの頭の部分には物が置けるスペースがあり、今は火の灯っていない燭台と、水差しとコップが置かれている。ベッドの横には、カーテンが開いた大きなガラス窓。
イリヤはセシルを見る事なく、大きな瞳で窓の外をじっと眺めていた。
「何を見てるんだ?」
セシルが声をかける。セシルがベッドの横に椅子を持ってきて座り、イリヤの顔を覗き込んだ。イリヤの顔色は血色が悪く、青白く透き通って見える。目の下にはクマが出来ていた。睡眠が足りてなさそうだ。もしかしたらちゃんと寝れてないのかもしれなかった。
イリヤはセシルの方を見ようとしなかった。
「……木の葉が揺れる様を」
ポツリと返答した。様子がおかしい。
「イリヤ? どうした?」
セシルが心底心配そうな顔をしたのだろう、チラ、とようやくセシルの事を見たイリヤが、薄っすらと笑った。寂しそうな笑顔だった。
「貴方だけは、ずっと変わらない」
「……イリヤ?」
セシルは戸惑った。イリヤがまるで別人のように見えた。具合がかなり悪そうなので、もしかしたら少し混乱しているのかもしれない。
「とりあえず、何か食べよう。な」
セシルはそう言うと、外で買ってきた固いパンの中に入ったスープを見せた。セシルのお気に入りである。
「またそれですか」
イリヤが苦笑いした。
「美味しいじゃないか」
心外そうにセシルが言った。セシルは、王族で舌が超えてる癖に、こういった庶民的な味を好む傾向がある。放浪していた時期があるからかもしれない。しかも厭きるまでは同じ物ばかりを繰り返し食べる。好きな物は感じたその時に手に入れないともう二度と食べられないかもしれない、そう思ってしまう。かなり貧乏性と言えよう。
セシルがイリヤを起こす。支えながら、口にスープを入れたりと甲斐甲斐しく世話をする。イリヤが半分くらいでもう食べなくなってしまったので、トイレに連れて行ったり、戻ってからは寝間着を着替えさせた。枕元の水差しの水を入れ替え、コップも新しい物にする。
イリヤをベッドに寝かせ、布団を首元までかけ直す。動いただけで相当きつかったようで、イリヤはもう目が開けられないようだ。
そんなイリヤの蜂蜜色の髪をした頭を撫でる。
「また夜に来るから、しっかり寝とけよ」
ちっともよくならないイリヤの様子を見て、正直離れたくなかった。だが、アレンと打ち合わせる事がまだまだあった。スー、とイリヤの寝息がした。あっという間に寝てしまった。子供みたいだ。セシルが小さく笑って、なるべく静かに椅子から立ち上がった。
寝ているイリヤが、小さく呟いた。
「セシル……」
セシルが一瞬固まった。唐突に、理解した。
静かに寝室から出て、ドアを閉めた。耐えきれず、閉じたドアにもたれ掛かる。ズルズルと背が滑っていき、床に尻がついた。
涙がどんどん溢れてきた。嗚咽が漏れる。止まらなかった。
――このままでは、イリヤは死んでしまう。
泣きながら、必死で考えた。セシルは近々この国を離れねばならない。だが、こんな状態のイリヤを置いてなどいけない。どうしたらいい? どうすれば、イリヤは生きてくれるだろうか。
ひとりの男の顔が、ふと脳裏に浮かんだ。
あれならば。
セシルは考え、考えて、やがて結論を出すと涙を拭いて立ち上がった。
もうこれ以上、大事な人を失いたくはなかった。
「あのー、君を呼んでくれと……」
おずおずと、ガガン王国からの留学生のバンナムがユエンに声をかけてきた。以前教室での悪ふざけが過ぎたせいで、バンナムですら容易に近寄れない程ユエンは同じ教室の生徒たちの間で浮いてしまっていた。日中はほぼ誰とも会話することもなくなったので、ぼんやりと窓の外を見上げるのが日課となっている。
だが、ユエンは全く気にしていない。むしろ下らない話題に巻き込まれなくていい、とほっとしている有様だった。ここまで協調性のない人物をなんでラーマナはわざわざ選んで送ってきたんだ、と裏で噂になっているのも知っているが、まあユエンを選んだシュウの立場が悪くなるだけだ、別に構わなかった。それに、あの人はどちらかというとそういう方を好むだろう。一見人の好さそうな印象のあの宰相は、中身が捻じ曲がっている。ユエンの遥か上をいく捻じれ具合だ。それに、目立てとも言われている。これはユエンなりの目立ち方でもあった。従って、ユエンが浮こうが何の問題もない筈だった。
「え? 誰が?」
机の上でダラダラしながら返答する。すぐに立つ気などどこにもない。だがバンナムはハラハラして教室の外とユエンを見比べている。急にひそひそ声になった。
「君、何やったの? なんであんなとんでもなく偉い人が君のところに来るんだよ!」
「偉い人?」
この国の偉い人とはお近づきになった記憶はない。バンナムの勘違いではなかろうか。可能性があるとしたらひとりいるにはいるが、わざわざユエンに会いにくる理由などないだろう。そう思っていたが。
「セシル・カーン殿下だよ! アレン陛下の従兄弟の! 王位継承者第一位!」
「あの人立太子じゃないだろ?」
「そういう事じゃなくて、ていうかほら頼むから待たせないでくれよ、この通りだから!」
何故かバンナムに拝まれてしまったので、渋々立ち上がる。
「ほら早くってば!」
バンナムが背中をぐいぐい押してくる。面倒くさい。
「分かったよ、行くから押すなって」
各国の留学生たちが、ユエンを遠巻きに見守っている。一体何をやったんだ、という嘲笑いが半分、どうやってダルタニアの王族に近づいたんだとのやっかみが半分といったところだろうか。素直な事だ。
ユエンが教室のドアを潜って、教室の外で手持ち無沙汰そうに立っている黒いマントの大柄な男の姿を認めた。男がゆっくりと振り返る。青い瞳が印象的な、端正な顔立ちをした男だった。王宮内ではセシル殿下と呼ばれている王宮魔術師だ。
男がにっこりと笑いかけた。
「やあ、初めまして。君がユエン?」
「……そうですが」
明らかに怪しい。笑顔も怪しすぎる。ユエンはセシルから距離を置いたまま返答する。
「ユエンってば! 挨拶! 挨拶!」
教室の中から、焦ったバンナムの小声が聞こえてきた。教室を振り返ると、留学生たちと講師までもが覗いて見ていた。ユエンはそれを確認すると、にっこりと笑った。
「失礼しますよ」
そう言うと、教室のドアを思いきり閉めた。誰かにぶつかったらしく、「うわっ」という声が聞こえた。バンナムではないようなので、まあ問題ないだろう。改めて振り返った。
「私に何の御用でしょうか」
冷たく尋ねる。厄介事がわざわざやってきたのだ、あまりお近づきにはなりたくなかった。そんなユエンの態度に気を悪くするでもなく、セシルは変わらずにこにこしている。わざとらしい事この上ない。貼り付けた笑顔な事など、ユエンにはお見通しだった。
「そう冷たくしないで、ちょっと話を聞いてもらえないか」
「今授業中なんですが」
「君には必要のない内容だろう? イリヤが言っていたぞ」
「そのイリヤはどちらに?」
また連絡する、と言われてからそれなりに日数が経っている。留学生の身ではこちらから執務室まではなかなか行く事も叶わず、今に至っている。イリヤと次に飲むくらいしか今のユエンには楽しみがなかったので、早く誘いが来るのを待っていたのが本当のところだ。
「それについて、君と話したい」
セシルの表情が真面目なものに戻った。そんなセシルを見て、ユエンは呆れた。
「殿下。貴方は自分の立場というものを分かっておられない」
「立場? どういう事だ?」
本当に分からないのか、セシルが首を傾げている。まあこの師匠であったからこそのあのイリヤなのかもしれない。頭の片隅でそう思った。だが、ここははっきりと分からせなければ、ユエンの立場も危うくなる。譲れなかった。
「私はラーマナからの留学生ですよ」
「うん、それはイリヤから聞いたよ」
「殿下は陛下の従兄弟という立場にあらせられます。そういった国の中枢に近い人間が、他国の一留学生を捕まえて話していては、噂になりますよ」
セシルが眉毛を片方吊り上げた。
「まあ、ラーマナとは少なからずあるしな」
ぼそっと呟かれた。ユエンは顔に出さない。この男は、ユエンが結界の事について知っていると踏んでいるのではないだろうか。なので、あえてそこには触れない事にした。
「ですから、お話があると仰られても、殿下の執務室に私が入った途端、ラーマナと何かあるのではないかと勘繰られますよ。貴方はそういった立場にあらせられるのです」
イリヤの事は知りたかったが、今この状況では無理だ。
すると、セシルがユエンをじっと見つめ始めた。目に力が入る。しばらくふたりは無言で対峙していたが、セシルがおや?という顔をして瞬きをした。
「君、面白い魔法持ってるね」
「……おかげ様で」
セシルは先程、何か魔法を使ってユエンをどうにかしようとしていたらしい。セシルが、ぱっと明るい笑顔になった。
「なら尚更いい!」
「殿下? 何のことでしょうか」
意味が分からない。が、セシルは勝手に何かを納得して喜んでいる。なんだかシュウを見ているようだった。あの男も相当勝手な男だが、この男も大分近いものがある。
「要は、対等で話そうとするとまずいって事だもんな! よしよし」
「え?」
セシルはそう言うと、ユエンをひょい、と肩に持ち上げてしまった。
「ちょ、殿下! 何をされるんですか!」
ユエンは別に軽くはない。背も低くない。それをこの男は軽々と片手で持ち上げてしまった。それも驚きだが、それよりも抱えられてダルタニアの王宮内を歩かれるなどたまったものではなかった。
「拉致」
楽しそうにひと言言われた。ユエンは勿論抵抗する。
「殿下! 降ろしてください!」
「悪いようにはしないよ。君の国に有利な条件も出そう。あ、だから少しそのまま暴れるふりしておいてくれよ」
この男はどこまで察しているのか。気になったが、有利な条件というのも気になる。
――それに、なにより退屈しなそうだ。
「その言葉、忘れないで下さいね」
「俺に二言はないよ」
ユエンの口が一瞬笑う。「では」と小声で呟いた後、再びセシルの肩の上で騒ぎだしたのだった。
強メンタルな男ユエンくん、久々に登場でしたがいかがでしたでしょうか?
次回は明日(2020/10/14)投稿予定、がんばりまーす
3点リーダ等微修正しました(2020/11/2)