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宿舎 ☆

ちびっこヤナちゃんが宿舎学校に入ります。

親子のふれ合い、お楽しみくださいませ!


日々更新チャレンジ達成中ですが(2020/10/9)、今週土日はお休みの予定です!

3点リーダ等微修正しました(2020/11/2)



挿絵(By みてみん)

 シュウが学園長との挨拶を済まし、一行は建物の外に出た。いよいよヤナとしばしのお別れだ。


 少しのんびりと、学園の敷地内にある宿舎前まで歩いた。敷地内は芝生が丁寧に手入れされ、道はレンガで舗装されている。ここでは男女別々の立派な宿舎が用意されており、女生徒の宿舎には親といえど男性は玄関先までしか入れない事になっている。


「ヤナ、……と」


 女子の宿舎前に辿り着き後ろを振り返ると、ヤナがサルタスとの別れを惜しんでいるらしく、しゃがんだサルタスの首にヤナが抱きついている。シーラがヤナの背後でこめかみをピクピクとさせているが、シーラは中まで入れる。ヤナの自室の準備を手伝うのはシーラに託してある。そこに優越感を感じているのか、尊大な態度は崩していなかった。


 こいつらは、本当に仲が悪かった。結局、歩み寄りなど一切なかった。ある意味突き抜けたふたりである。大の大人ふたりが子供の愛を取り合っているなど、他人に言ったら眉唾な話であろうが、本当に激しい激しい争いを繰り返していた。あれを見なくてもよくなると思うと、少し安心した。


「ヤナ、週末は私が迎えに来ますから」

「……うん」


 サルタスの顔を両手で押さえながら少し泣きそうなヤナを見て、サルタスが薄っすらと笑ってポケットからハンカチを取り出し、ヤナに差し出した。


「こちらを。人前では泣きませんよ」

「そうね、そうだったわ」


 ヤナがハンカチをそっと受け取り、次いで無理やり笑顔を作った。いじらしくて堪らない。すっかり一人前の小さな淑女になっている。これは、サルタスとシーラの努力の賜物以外の何物でもない。シュウとハルナであれば、こうはいかなかっただろう。間に合ってよかった。


「お父さんをお願いね、サルタス」


 ここでもシュウの心配をし始めた。余程シュウは信用がないらしい。何故そこまで心配をするのか、シュウには理解出来なかった。一応、今までもずっと一人暮らしをしていた。今は立場も立派になってしまったので、身だしなみにも大分気を遣うようになった。花夏が心配するので、生活態度も大幅に改めた。この上、一体何が不足しているというのだろうか。


「あの、ヤナ? お父さん大丈夫だから。ほら、最近はちゃんと寝てるし、ヤナが来てからはちゃんとご飯だって食べてるでしょ?」


 チラ、とシュウを見る娘の目は冷たい。ヤナの横に膝をついてこちらを見るサルタスの目も、何だか冷たいように思えるのはシュウの気のせいであろうか。ヤナが、呆れたように言った。


「変な女に捕まらないでねってことよ。カナツはいない、私もいなくなっちゃったら絶対変なの寄ってくるから。お父さん、心弱ってるからってフラフラしないでね」

「フラフラ……いや、しないし」

「ヤナ、私がしっかりと見張っておきますからご安心ください」

「サルタスが言うなら安心だわ」


 この、シュウとサルタスとの信用度の差は一体何なのだろうか。そもそも、今まで変な女にフラフラした事はない。それはヤナもサルタスもよく知っている筈だ。なのに何故ここまで信用がないのか。


「ヤナ? お父さんの事、なんでそんなに信用してくれないのかな?」


 何かシュウが気付いていない理由があるのかもしれないので、恐る恐る尋ねてみた。途端、ヤナが怒った顔になる。この顔もしばらく見れないと思うと、ただただ寂しい。


「あのね、お父さんが知らないだけで、これまで恋文を何通私が握りつぶしたと思ってるの?」

「恋文? そんなの来てたの?」


 予想外の返事が返ってきた。恋文が届いていたなど、全くの初耳だ。というか、ヤナが握りつぶしていたというならば、当然シュウの目には入っていない。なのでそれで怒られても少々納得がいかないが、見るとヤナは相当怒っている。恋文自体がそんなに腹が立つものなのだろうかどうかは疑問だったが、父親がもてるのは娘の立場からすると単純に嫌なのかもしれない。であれば、ここは余計な事は言うべきではないだろう。


「やっぱり宰相っていう肩書きはすごいのね。カナツがいなくなってから、更に増えたわよ」


 皆よく見てるのね、とぶつくさ言っている。今まで一体、どれぐらいの文が送られてきてたのだろうか。少し気になるが、聞いたらヤナがもっと怒り出しそうなのでこれも聞くのは控えた。しかし、という事は花夏がいる間も恋文は届けられていたという事だ。国土調査隊時代にはそんなものは届いてなかったから、宰相になってから始まったのだろうか。サルタスをチラリと見る。目が笑っている。シュウは悟った。これまでは、この男がこっそりと余計なものを処分していたに違いない。シュウが『虫除け』しようとしていたのを知っていたこの男ならば。


 というか、花夏も知っていた? それは少し、恥ずかしい。


「お父さん、あんまり王宮で色気出しまくるの止めておいた方がいいわよ」


 物凄い言い草である。父親に向かって言う台詞ではないと思うが、そんなヤナの横でサルタスが深く頷いている。そんなサルタスを見るシーラの目は吹雪のように冷たい。いつまでくっついているんだ、という事だろう。


「確かに、カナツと別れてからのシュウ様といえば、哀愁が漂う中にある色気が増したと女官たちの間では専らの噂となっていますね」


 サルタスが追い打ちをかけた。勘弁してほしい。別にシュウは色気なんぞ出しているつもりは毛頭ない。それにそんな自由自在に出せる種類のものでもないだろうと思う。だったら花夏にだってもっと色気を出して迫りたかったな、と心の片隅で思った。


 シュウは、自分が十分花夏に対しても色香を振りまいていたという事実には気付いていない。


「いや、あのね、ていうかなんでそんな女官たちの噂をサルタスが知ってるんだ」

「王宮内の噂の把握は大事ですよ」

「そうじゃなくて」

「あ、お父さん、家の前にも贈り物があったりしたわよ」


 ヤナが話を逸らすように話題を変えた。もしや、サルタスを庇ったのか。父親はこんなに責め立てるくせに。どうも最近愛情がサルタスに偏り過ぎな気がして仕方がない。


「贈り物? 何? いつ頃の話?」


 にしても、そんな事は全然知らなかった。それもヤナやサルタスが相談の上廃棄していたに違いない。


 ヤナが、心底気持ち悪そうに言った。サルタスの感情は読めない。こいつはたまにこういう表情をする。


「糸で綺麗に編みこまれた腕輪だった。金属の輪の上に編み込んである物。でもよくよく見たら髪の毛が編み込まれてて、それが分かった時はぞっとしたわよ」


 髪の毛を編み込むとは、随分と古典的な方法を取ったものだ。一体どこの誰がそんな暇な事をやるのか。あまり頭のいいやり方とは言えない。髪を編み込んだからといって、何が楽しいのか。


「ヤナ、そういうのって差出人の名前は書いてあるもんなのかい?」


 単純な好奇心から尋ねた。そんな事をして、バレた時に気持ち悪がられる事を想像出来ないなんて、どんな人物がそんな馬鹿な真似をするのか興味が湧いてしまったのだ。王宮にいる女官なのか、それともどこかの貴族の子女か。


 シュウの素朴な疑問を聞いて、ヤナがまなじりをつり上げた。


「ほら! そういうところよ、お父さんの駄目なところ! そんな危ない奴に興味を示してどうするのよ! ああ、もう!」


 とうとうヤナがぶち切れた。父親を指差し、睨みつけている。そんな激しく怒る事でもないだろうに、余程頭にきたのだろう、頭を横にブンブン振り始めた。苛々が収まらないらしい。


 シュウが、声をかけた。


「ヤナ、髪が乱れるよ」


 ヤナが叫んだ。我が娘ながら、なかなか激しい。誰に似たんだろうか。


「ああ!もう嫌! そうやって冷静に突っ込み入れてくるところもむかつく!」

「ヤナ、落ち着いて下さい」


 サルタスが優しく宥めるが、ヤナはまだまだ怒り足りないようだ。宿舎に向かって歩く人々が、何事かと遠巻きに見守っている。宿舎に入る初日に悪目立ちするのはヤナとっては良いことではないだろう。癇癪持ちとでも思われると面倒だ。原因が自分にある事は分かっているが、この性格はなかなか直るものでもない。


「ほらヤナ、皆見てるし」


 シュウも宥めた。シーラは後ろを向いて肩を震わせている。怒ってるヤナが可愛いとでも思っているのだろうか。彼女も相当の変人だ。


 ふー、ふー、と肩で息をしている。サルタスがよしよし、と頭を撫でて慰めた。


「ヤナ、シュウ様はいつもこうですから」

「慰めになってないわよサルタス」


 サルタスが満点の屈託のない笑顔を見せた。そして、聞き捨てならない言葉を吐いた。


「そうとでも思わないとやってられませんから」


 シュウに振り回されている期間はヤナより長いサルタスの言葉に、ヤナはようやく少し冷静さを取り戻したようだった。深呼吸をした。


「ありがとうサルタス。……お父さん」


 ヤナが、まるで大人のような瞳をしてシュウを見た。その姿は、まるでセリーナを見ているようだった。何かを決めたような、迷いのない姿。凛として、美しかった。同時に、花夏の姿とも被った。どうして、シュウの周りにいる女性は皆こんなに格好いいのだろうか。


「はい」


 つい、敬語になってしまった。宰相が娘に頭が上がらない等と、変な噂にならないといいのだが。


「差出人は気になっても見ない事」

「うん、分かった」


 ヤナの表情が少し和らいだ。シュウが変なものに興味を示さなければ、きっとヤナは安心するのだ。大事なヤナを不安にさせてまで、好奇心を優先するつもりは毛頭なかった。


「怪しい物を見つけたら、触らずサルタスが来るのを待つ事」

「そうする」


 小さな、シュウのこの世で一番の宝物が、泣きそうな顔になっている。シュウの鼻がツン、としたが、ここは流石に泣けない。人目もある。立場もあった。


「……無理しない事」

「うん、ヤナもね」


 シュウはヤナに歩み寄り、しゃがんで抱き締めた。まだ、腕の中にすっぽり入ってしまうくらい、こんなに小さいのに。シュウの心配ばかりしている、可愛い可愛い娘。シュウの、全て。


「私はお父さんを守る隊隊長なんだから、忘れないでね」


 まただ。シュウにとって、最高の殺し文句。シュウが破顔し、ヤナの頬に優しくキスをした。


「頼もしいよ、隊長」


 ヤナも笑った。泣きそうだった顔は、清々しい笑顔に変わった。やはりヤナは笑顔が一番似合う。


「お父さん、自分を一番大事にして」

「それはお父さんの台詞だよ。取らないで」


 離れ難かった。でも、いつまでもこうしていられない。すると、シーラが言った。


「さあヤナ、そろそろ参りましょうか」

「……そうね」


 ヤナがシュウから離れた。温かさがシュウの腕の中に残る。離したくなかったが、そういう訳にもいくまい。ヤナがシーラに伴われ宿舎の入り口に歩んでいった。


 宿舎の扉の前で、ヤナが振り返った。


「いってきます!」


 最高の笑顔を見せて、ヤナは宿舎の中に消えていった。シュウの心にポッカリと穴が空いたような気がした。ふと、横に静かに立つサルタスを見る。大事なものが消えてしまったような、寂しそうな顔をしていた。


 なんだ、一緒じゃないか。そう、思った。


「でもヤナはやらないぞ」

「何の話ですか」

「ヤナの嫁入り先」

「ですから、そういう事ではないんですが。何度言ったら分かっていただけますか」


 呆れたようにサルタスが言う。だが、シュウはどうだろうな、と内心思った。ヤナはどんどん大人になる。その時、この冷静な男がどこまで冷静さを保てるか。サルタスは頑固だから我慢してしまうかもしれないが、ヤナ本人には我慢するつもりなど全くない。


 そんなシュウにとって大事なふたりを後ろから優しく見守っていくのも、また乙な事なのかもしれない。そう思った。


「戻ろうか」

「そうですね」


 宿舎に背を向け、歩き出した。風はすっかり暖かく、芝生を軽く撫でていく。気持ちよかった。


「今日、陛下にお伝えする」


 張り直した結界が再び破かれようとしている事を、伝えねばならない。花夏がラーマナに落ちてきた事を隠していた事がばれる。結界を張り直した事もばれる。花夏の存在については知らぬ存ぜぬで押し通すしかないだろうが、いずれにせよ対策は練っておかねばならないだろう。


「……私を如何様いかようにもお使い下さい」


 生真面目なサルタスの言葉に、シュウは口の端で微笑んだ。


「当たり前だ。お前以上頼りになる奴はいない」


 宰相になってまだようやく半年。使える駒が少なすぎたが、これ以上集める時間がなかった。であれば、シュウの味方の力を極限まで使うしか方法はない。


 幸い、ヤナは宿舎学校という安全な場所へ逃れる事が出来た。こちらとしては、動きが取りやすくなる。


「カナツにも一報を入れておきましょうか」

「そうだね」


 逃げろとしか言えない自分の立場が歯痒かったが、後は一緒にいるアスランという男を信じるしかなかった。



――会った事もない男を信用するのか。



 周りにいる自分の味方もろくに見極められないのに、何という矛盾かと我ながら笑えてきた。ただ、あの男の執着を考えると、きっと信用できる。そう思えた。


「ああ、やっぱり僕が書こうかな」


 しばらくは忙しくなりそうだ。手紙はもしかしたら当分書けないかもしれない。結局、調べていた黄月ラース青月カラドの件も何も出てこなかった。まるで、誰かに故意に巧妙に隠されているかのように。


「さあ、仕事だ」


 伸びをして、肩をゴキゴキ、と鳴らした。敷地の外へと続く塀と門がすぐそこに迫っていた。目には自身の職場の王城がそびえ立つ。


 やるしかなかった。







 テーブルの上に置いた転送石が、白く光り出した。アスランがそれを見て、お風呂からあがったばかりの花夏に声をかけた。


「カナツ、手紙が来た」

「本当? ありがとう」


 髪の毛をポンポンとタオルで叩いている花夏が嬉しそうに笑った。手紙が届く時の花夏は、いつも嬉しそうだ。少し妬ける。シュウというラーマナ王国の宰相がどんな男なのかは分からないが、花夏の話しぶりからしてもなかなかの切れ者らしい。前に花夏が手紙を書くのを手伝った時に所々牽制を入れておいたが、果たしてそれは読み取る事が出来たのかどうか。

 

「カナツ・カワムラ」


 花夏が石に向かって言うと、手紙がぱっと転送されてきた。


「あれ? 2通ある」


 いつもはひとつの封筒に皆からの手紙が入っているが、今回は封筒がふたつあった。表を見ると、ひとつは『カナツへ』と書いてある。シュウの字だ。もうひとつを見てみると、同じくシュウの字で『アスランへ』と書いてあった。花夏は何故シュウがアスランに手紙を送ってきたのか分からなかったが、素直に渡す事にした。


「アスラン、シュウさんから貴方宛に手紙が来てる」

「俺?」


 アスランが、なんだろう、首をかしげる。内心やり過ぎたかとひやっとしたが、顔には出さないように気を付けた。前回の手紙に散りばめたアスランの牽制と独占欲に、花夏は恐らく気付いていない。気付かなければこそ、また次の手紙にも同じ事が出来る。出来る事なら花夏にはばれないように続けたかった。花夏から好きと言われはしたが、ライバルは少なければ少ない程いいに決まっている。


 アスランは、封筒を開けた。中には手紙が1枚入っていた。読んでみる。



『アスラン


 初めまして。

 僕の話はカナツちゃんから聞いているよね?

 君がカナツちゃんを大事に思ってるのが

 よく分かったよ。

 あまりにも露骨でちょっと驚いたけどね。

 君はまだ若いのかな?

 おじさんにはちょっと羨ましかったよ。


 そんな君にお願いがある。


 そろそろ、こちらの嘘がばれる。

 だから、今以上に目立たないように

 気を付けてほしい。

 

 カナツちゃんを守ってくれ。

 今カナツちゃんの傍にいるのは君だけだ。


 宜しく頼むよ シュウ』



 アスランは、前回意地悪をしてしまったのを少し後悔した。どんな気持ちでアスランにこの手紙を書いたのかを想像してしまったら、同じ男として堪らなくなってしまったのだ。花夏の事をこんなにも大事に想っているのに、会った事もない男に託さなければならない。それがアスランだったら、嫉妬で怒り狂っていたかもしれない。アスランが相手にしていたのは、分別を持った大人なのだ。


――まあ、それでも譲る気はないが。


「アスラン、シュウさん何だって?」


 花夏が明るく聞いてきた。この手紙は花夏には見せられない。前回の手紙の仕掛けがばれてしまう。


「カナツを宜しくだって」

「シュウさんが? なんだか保護者みたいね」


 そう言って曇りのない笑顔になった。


「カナツの方の手紙は何だって?」

「うん。そろそろダルタニアの人たちにばれるかもって」

「そうか。……そっちの手紙読んでいい?」

「うん」


 花夏が手紙を手渡した。自分宛の手紙は見せないくせに花夏宛のは見てしまうのだから我ながら独占欲の塊だと思ってしまうが、何か読み違いなどがあってもいけない。追手が迫るのであれば尚更だった。



『カナツちゃんへ


 いい護衛を見つけたようで安心したよ。

 ヤナは今日から宿舎生活に入りました。

 今まで僕宛の恋文を捨てていた事が判明したよ。

 カナツちゃん、まさか知ってたの?

 

 あの国に送っていた人から報告がきて、

 また結界が破かれそうな事がわかりました。

 少しバタつくと思うから、しょっちゅうは

 手紙が書けないかもしれないけど心配しないで。

 

 カナツちゃんは、アスランを頼って先に

 進んでください。なるべく遠くに。


 体に気を付けてね シュウ』



 優しさに満ち溢れた手紙だった。花夏を不安にさせぬよう、楽しい事を散りばめて。相手の事を考えて、自分の事を心配させぬように。もっともっと、本当は伝えたい事があるだろうに。


「ありがと、カナツ」


 手紙を花夏に返した。


「いい人だね」


 アスランは自然笑顔になった。花夏を譲る事は出来ないが、信用出来る人だ。花夏はとてもいい人に保護されたのだ。非常に幸運だったと言えよう。


「そうだよ。いつも背中を押してくれる優しい人なんだ」


 花夏がふわりと微笑んだ。他の男の事でこの笑顔を見てしまうと正直嫉妬してしまうが、その男は花夏の背中を押して、アスランに託した。そんなアスランに出来る事は、花夏の背中を守る事だ。それは、アスランにしか出来ない。


「カナツ、髪の毛乾かしてあげる。おいで」


 ベッドに腰掛けて花夏を呼んだ。花夏が嬉しそうにベッドの端に座る。アスランは、しっとりとした花夏の髪を手に取った。小さな背中を眺める。


――絶対、守り抜いてみせる。


 そう、誓った。


いよいよ次回は異世界の境目に行きます。

2020/10/12更新予定、お楽しみに。

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