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春祭り

今回は甘々なふたりの後、久々のシュウさんとサルタスさんが登場です。

お楽しみくださいませ!


3点リーダ等微修正しました(2020/10/29)

 春祭り初日に行なう神官による舞は、王城手前の広場で開催される。通常は関係者以外入る事を許されていない城の門を潜れる、貴重な日でもある。


「やっぱりすごい人だね」


 舞を踊る舞台は城の入り口手前に設置されているらしいが、花夏たちは城の入り口にもまだ到達していない。あまりにも人が多く、もうこれ以上は進めそうになかったが、後ろからも人がどんどん来るのでこのまま先に進むかどうか迷っていた。


「うわ」


 後ろから来た人が肩にぶつかった。アスランが花夏を引き寄せる。


「このまま中入ると、カナツ潰れるぞ」


 アスランは真顔だ。


「あはは、潰れたら困るね」

「とりあえず一旦人の流れから外れよう」


 王城の周りを囲む堀に架かる橋も、すでに人でぎゅうぎゅうだ。


「離れたところから見ようか」


 城門から中は見る事が出来る。豆粒程度しか見えないだろうが、まあ見れなくはないだろう。


「そうしようか」


 無理して怪我などしても仕方ない。ふたりは下がれるギリギリまで後退し、城とは反対側にある民家だろうか、石壁の前まで来た。落ち着いたところで、アスランが切り出した。


「あのさ、カナツ」

「うん?」

「今朝は、ごめん。ちょっと取り乱した」


 やはり、アスランは優しい人なのだ。全然悪くなどないのに、相手を傷つけたのではないかと気にしてしまう。


「大丈夫だよ」

「怖くなって」

「うん、わかってる」


 安心させるようににっこりと笑いかけた。


「大丈夫、ちゃんとアスランといるよ」


 向かい合って、両手を取る。花夏もきちんとアスランと向かい合わなければ、失礼だ。


「だから、謝らなくても大丈夫。アスランは何も悪い事してないよ。勝手にひとりで決めようとした私が悪い」

「カナツ……」

「次からは、ちゃんとアスランに相談する。約束する」


 きちんと伝えたくて、じっとアスランを見つめた。すると、アスランが、眩しいものを見るような顔をして、何か言いたそうに口をモゴモゴさせている。


「どうしたの?」

「いや……その、ヤバくて」

「え?ヤバい?大丈夫?」


 具合でも悪くなったんだろうか。花夏がアスランの顔色を見ようと一歩近付く。アスランが一歩後ろに下がった。


「……アスラン?」


 あれだけくっつきたがるアスランが花夏を避けた事に、思った以上にショックを受けた。何か、変な事をしてしまったんだろうか。


「なんか、ごめん」


 手を離した。距離が近すぎた? 何か嫌な事を言っただろうか?


「違う、違う、そうじゃなくて」


 アスランが慌てたように花夏の両肩を掴んだ。どういう事か、本当に分からなくなった。


 それが顔に出たのだろう、アスランが困った顔をした。


――ああ、また困らせてしまった、どうしよう。


「ああもう、そうじゃないんだ、ヤバいってのはカナツが可愛い過ぎて、あ、今日のまだ言ってなかったな。じゃなくて、ちょっと一瞬理性吹っ飛びそうになって」


 アスランが慌てて言い訳を始めた。急に子供みたいになる。


「その、ムラっとしてしまって」


(なんだって?)


 まさかそうくるとは。アスランが焦っている。焦る様は可愛いのだが、言ってる内容はあれだ。初めて会った日の会話を思い出してしまった。


「近づいたら止まらなくなりそうになって」

「そ、それはごめん」


 悪いのかどうかは微妙だが、とりあえず謝っておく。


「いやまあその最近ずっと移動してたからちょっとその溜まってるのもあってちょっと我慢が」


 またそういう事を言い出す。でも、若い男性だ。しかも花夏とここのところは夜も一緒。分からないが、分からなくもない。


「あの、もしかして、そういうお店に行きたいのかな?」

「行かねえよ!」

 

 速攻で否定されてしまった。どうしたいのだろうか、全く理解が出来ない為なんと言ったらいいかも分からない。アスランの顔を見ると、照れてるような怒っているような、初めて見る表情をしている。


「いや、あの、怒ってないからな」

「は、はい」


 何といえばいいのだろう。人だかりがどんどん城の方に出来ているのが横目で見えた。そろそろ始まるのだろうか。


「いやその、あのなカナツ」

「はい」


 アスランの目が泳いでいる。花夏は、こんな状況だというのにまるで自分が自分の後ろから観察しているような気分になった。


「俺は、お前をただそういう対象としてみたい訳じゃない」

「……はい」

「そりゃまあ出来たら最高だけど、カナツが嫌がったりするのは絶対嫌だし」

「……はい」

「でも、だからってカナツが隣にいるのにそういうところにもう行く気にならないし、だから」


 花夏はアスランの次の言葉を待った。


「俺が風呂場からしばらく出て来なかったら、察してくれ」


 花夏は固まった。勿論、否定など出来る筈もない。


「……分かりました」

「ありがと」


 花夏は、このアスランの舌ったらずな「ありがと」が実は気に入っている。こんな状況なのに、可愛いと思ってしまう自分がいる。頭がおかしいのかもしれない。


「なあ」


 アスランが、照れてるような、焦れてるような、なんとも微妙な顔をしている。この表情は一体何なんだろうか。


「キスはしていいか?」


 可愛い顔をして何を言ってるんだろう、この男は。滅茶苦茶恥ずかしくなる事を、そんな顔で言わないでほしい。


「……おでこまでなら」


 おでこなら、もう2回くらい何気にされてしまった。もしかしたら挨拶程度なのかもしれないし、と自分に言い聞かせる。

 正直、嫌ではない。これはどういう感情なのだろう。キュンとするのは、何故なのか。


 分からない。


「じゃあこれから毎日しよう」


 また可愛らしい事を言っている。くす、と笑ってしまった。


「毎日する事がどんどん増えてるよ」

「いいんだよ、そしたらその間カナツは俺のことだけ見てるだろ?」


 何という殺し文句だろうか。自分の顔がどんどん赤くなっていっているのが分かった。何か言いたいが、何も出てこない。


「そうだ、今日渡そうと思ってたんだこれ」


 急に話題を逸らしてくれた。有難い。


 アスランがガサゴソとズボンのポケットから赤いリボンを取り出した。アスランの髪の色みたいだ。よく見ると、アスランが締めている帯と同じように見える。


「彼女にどうぞってお揃いのを貰ったんだけど、昨日は渡す機会がなくて」


 昨日は、シュウからもらったかんざしで揉めてしまった。だから渡せなくて、ずっと持ってたのだろうか。ずっと、渡す機会を伺ってたのだろうか。


「あのかんざしとは比べ物にならないけどさ、受け取ってもらえるかな?」


 少し照れたようにアスランが笑った。緑色の瞳が期待を込めて、花夏を見ている。


 理性が吹っ飛ぶ。その意味が、少し分かったかもしれない。


 いつまで一緒にいられるとか好きなんだろうかとかもうそんなのを無視して、抱きついてしまいたくなってしまった。アスランも、こんな感情を自分に対していだいていてくれるのだろうか。だとしたら、これはキツい。


「……嬉しい、アスラン」


 ようやくそれだけ絞り出した。胸が苦しくて、混乱している。声が震えている花夏に、アスランが心配そうに顔を覗いてきた。


「どうした? 大丈夫か?」

「大丈夫、じゃないかも」

「え? どこか痛い?」


 何と言ったらいいのか分からない。でもアスランが心配している。顔が熱い。群衆が喝采を上げたが、城の方が見れない。


「あの、アスランが可愛すぎて、心臓がギュッとなってて苦しい」


 アスランがキョトンとしている。


「俺が可愛いの?」

「……うん」


 ざわめきの中から、綺麗な笛の音色が聴こえだした。


「心臓がギュッとなるの?」

「うん」


 人々の話し声が収まっていき、笛の音色に鈴の音色も重なりだした。始まったようだが、アスランから目が離せない。


「……これってどういう事なの」


 分からない。分からないけど、もう足が止まらなかった。一歩、進む。アスランの胸の中に。


 アスランが、はっと息を飲んだ。そして、胸の中に来た花夏の顔をそっと持ち、自分に向けた。驚いたような、信じられないものを見るような顔をしている。花夏は目を潤ませて顔が真っ赤になっていた。


「勝手に、足が動いちゃった。どうしよう」


 自分でも分からない。ただ、アスランに触れたくなってしまって止まらなかった。


 神に捧ぐ音楽が鳴り響く。ゆったりとした、綺麗な音色だ。日本のものでも、エスニックなものでもない、不思議なリズム。


「俺……自惚うぬぼれてもいいのかな」

 

 花夏の顔に触れるアスランの手が震えている。いつもずっと触ってるのに、どうしてだろう。触れてる場所も愛しく感じて、アスランの手の上から自分の手を重ねてもっとくっつけた。


「これってどういう事だろう?アスラン、分かる……?」

「……多分ね」


 アスランが呆れたように、少し顔を赤らめて笑った。困ったような花夏の表情に、破顔する。


「これが、好きって事だよ。そこは分かってよ」


 そう言うと、アスランは幸せそうに花夏の唇にそっと口付けをした。花夏を上から見下ろす。


「今の、嫌だった?」


 今の。キスされた事だろう。ああもうこれは本当拷問だ。恥ずかしくて今すぐ逃げたい。でも。


「……嫌じゃなかった、よ」


 嫌なんかじゃなかった、むしろもっと触れていたかった。でもそんな事、絶対口に出来ない。心臓が爆発してしまう。


「でもひっくり返りそう」

「それは困るな」


 アスランが屈託のない笑顔を見せた。


 花夏は、以前サルタスに言われた事を思い出していた。シュウに抱きしめられて混乱してしまった山の家でのあの日、サルタスが言っていたではないか。触られたくないなら相手を虫だと思えと。そして、これまでのアスランとの触れ合いを思い返してみた。アスランの事を虫だとなんか思う事は一瞬たりとなかった。嫌とも思わなかった。触れてると、安心して。


 そうして、もうひとつサルタスの言葉を思い出した。花夏からもっと触れたいと思う相手がいたら、それが好きという事だと、教えてくれていたではないか。あの時は、まだ意味が分からなかったけど。


 触れたい。アスランに、もっと触れていたい。それは確かな気持ちだった。であれば。


「これが、好き……」


 すとん、と何か足りてなかったピースが埋まった気がした。好きは、理屈じゃない。ただ、相手の存在そのものが愛しい事なんだと、花夏はようやく理解した。


「違った?」


 アスランが少し不安げな表情になる。伝えなければならない。アスランに、こんな顔させたくないから。


「違ってない」


 アスランの目を見つめる。緑の中に、奥にもっと濃い緑のある綺麗な瞳。それも自分ひとりのものに出来たら。


「アスランが、好き」


 アスランの緑の瞳が、少し潤んできた。また心臓が締め付けられたようにギュッとなった。

 

 アスランが、花夏の頬を優しく撫でる。


「夢……」


 今度は花夏が笑う。


「寝ぼけてないでよ。夢じゃないよ」


 そう言うと、いきなりぎゅっと抱き締められた。一瞬驚いたが、花夏もアスランの背中に手を回した。アスランの腕に力がこもる。


「……もう絶対離さない」

「うん」


 苦しいけど、幸せだ。


「お前の世界にも帰さないからな」

「……うん」


 音楽が、聴こえない。鳴ってるけど、アスランの声以外、耳に入ってこない。


「嫌だって言っても遅いからな」

「私がアスランを離さないよ」


 もう、離せない。アスランが驚いた声を出す。ずっと聴いていたい。


「……本当に?」

「どこにも行かないでね」

「……うん」


 辺りには、舞の音楽が鳴り響く。でも、ふたりにはもう聴こえない。お互いの声しか、もう聴こえなかった。







「お父さん、カナツから手紙が来たよ」


 着々と入学準備が進んでいるヤナが、部屋から出てきて教えてくれた。今日は週末で仕事も休みだ。シエラルドもすっかり雪がなくなり、新緑の季節真っただ中である。シュウは白いシルクのシャツをさらっと羽織っている。体の線に沿って布が動き、また王宮の侍女たちが騒ぎそうな事この上ない。


「お、久しぶりだね」


 前回シュウが花夏に手紙を書いてから、一週間程経ったであろうか。少し間が空いてしまっているが、手紙を出すのもただではない。こちらはそれぞれひとりずつ書いているが、花夏からは3人分書くとなると労力も大きい。小まめに手紙を出す事を求めるのは、酷というものだろう。


「今回は、皆宛になってたよ」

「へえ? 見せてごらん」


 ヤナが差し出した手紙を受け取り、暖炉前のソファーに座って読み始めた。


『シュウさん、サルタスさん、ヤナ


 前回の手紙から少し時間が経ってしまいました。

 ごめんなさい。

 あれから、色々な事があったんです。

 まず、初めて魔物を倒しました! 怖かったけど、

 おかげで当面お金には困りません。

 リュシカの王都カコの近くで出会いましたが、

 こんな人がいる近くの森にいるもんなんですね。


 それと、連れができました。アスランといいます。

 とても強くて、旅慣れしているので心強いです。

 時々取る行動が犬みたいで、かわいい人です。

 ただ、作るごはんがとても不味いという欠点

 があります。

 なので、サルタスさんにお願いなのですが、

 時間があったらおいしい野営料理のレシピを

 教えてほしいです。無理ない程度にお願い

 します。

 サルタスさんは、シーラさんとは喧嘩して

 ませんか?

 お互い主張する事も大事ですが、ヤナの意見が

 一番大事なので、困ったらヤナを頼って

 あげてくださいね。


 シュウさん、ちゃんとご飯食べてますか?

 寝れてますか?

 ヤナが学校に入ってしまったら、

 また泣いてしまうのではないかと心配

 しています。

 ちゃんと心の準備、しておいてくださいね。

 

 あ、そうそう、シュウさん! かんざしの意味を

 知って、とても驚きました!

 虫除けなんていうから信じてたのに、

 全然違うじゃないですか!

 シュウさんにまたからかわれたと知って、

 すごく恥ずかしかったですよ!

 もう他にはそういうのないですよね?


 ヤナ、ヤナがサルタスさんに夢中になる気持ちが

 よく分かったよ! 毎日褒められたら嬉しいよね。

 学校の準備は進みましたか?宿舎学校なんて全然

 想像がつかないので、どんなところなのか

 分かったら是非色々と教えてね。


 今は、王都カコから南西に向かっています。

 アスランが少し前までいたという海沿いの町

 に行く予定です。

 合間合間で野営しているのでなかなかお返事が

 書けませんが、懲りずに手紙ください。

 (この手紙、実はアスランに教えてもらいながら

 書いてます。今までより上手に書けてませんか?)


 それではみなさんお元気で カナツ』



「私も見てよろしいですか?」


 ここのところ、ほぼ毎日シュウの家に入り浸りのサルタスが、シュウにお茶が入ったカップを渡しながら言った。いつものオールバックスタイルであるが、服は少しラフだ。先日、ヤナと一緒に買い物に行った際、ヤナにねだられて購入した少し若者向けの恰好で、全体的にゆったりとした作りになっている。ヤナがとにかく褒めるので、なんとなく着ないといけないかな、と思って休みの日は着たりしている。


「……どうぞ」


 シュウの機嫌が悪くなっている。きっと何か面白い事が書いてあるに違いない、と思い、ソファーの背に寄りかかりながら手紙を読ませてもらった。さっと読み、次にもう一度頭からゆっくりと読み、内容を吟味する。成程、と納得した。


「今のお気持ちは」

「お前本当鬼だよね」

「お褒めいただきありがとうございます」

「いや、褒めてないし」


 サルタスが、仕方ないな、といった風に尋ねる。意固地になっている元上司には、きちんと口から意見を言わせねば何をやらかすか分かったものではない。


「とりあえず、ばれましたね」

「まさかこんなに早くばれるとは思わなかったよ」


 つまらなさそうな顔をしている。お金をかけて仕掛けたいたずらがこんなあっさりとばれたのだ、まあ面白くはないだろう。いたずらする方に問題があるとは思うが、そこは言わないでおく。


「まあ、お金がどうしても足りない時の軍資金としてもらえばいいのではないですか」

「え、僕がそれ書くの? 値段ばれるじゃないか」

「まあ、相当いいお値段しましたからね。でもシュウ様の虫除け効果は続いているではありませんか」

「まあねぇ」


 かんざしの彼女がシエラルドからいなくなった、という風の噂、もとい嵐の勢いの噂が一時期王宮内を暴れ回ったが、かんざしは付けたままらしいという噂をこっそりと追加したおかげで、まだシュウの身の安全は守られている。


「サルタス書いておいてよ」

「……仕方ないですね、分かりました。ついでに換金方法も書いておきます」

「頼む」


 シュウが、ズズ、とお茶をすする。あまり音を立てることは褒められた事ではないが、今の彼の心情を察すると責めるのも少し哀れではあるのでやめておく。


「で、お連れの方が出来たそうで」

「……みたいだね」

「あまりこの辺りでは聞きなれない名前ですが、どこのご出身でしょうかね」

「南っぽいけどね」

「シュウ様はどちらだと思われますか?」

「……何が」


 絶対分かっていてはぐらかしている。認めたくないのだろう。


「アスランとは、男性の名前ですよね?」

「……女性かもしれないし」


 サルタスが、ふ、と鼻で笑った。


「……本当性格悪いよね、お前」

「シュウ様が悪あがきをされているのを見ているのが楽しかったもので」

「……仮にも宰相だぞ、僕は」

「存じ上げておりますよ、勿論」


 シュウの機嫌の悪さは、どちらかというとその手紙の端々に散りばめられたものに対してであろう。


「このアスランってやつ、相当性格悪そうだぞ」

「まあ……明らかに喧嘩売ってますからねぇ」

「お前も感じた?」

「それはもう。独占欲の塊といった感じがありありと」

「ああああもう! カナツちゃんなんでこんなすぐに変なの捕まえちゃうかなあ」


 髪の毛をかきむしっている。哀れであるが、どうしてあげることも出来ない。サルタスは、冷静に分析結果を述べていく。


「まず、女性か男性からはっきりさせていないのはカナツの意思でしょうが、あとは恐らく後ろから口出ししたのかと。犬みたいというところで、相当カナツに対しては甘えている事が予想されますね」

「サルタス、そんな冷静に分析しないでくれ」


 シュウが泣きそうな声を出しているが、面白いのでここは是非続けたい。


「強くて旅慣れしている、ということは、一緒に移動するには護衛として最適な条件ですね。つまり、余計な手出ししなくてもいいぞ、と匂わせているかと。手紙を監修しておいてこれですからね、わざとでしょう」

「おいサルタスってば」

「かわいい、と書いても訂正させていない、ということは、まあ容姿には多少自信があるのでしょうか。料理が不味い、というところは、カナツに作ってもらってるんだぞ、という主張にとれますね」

「おーいサルタス」


 聞こえないふりをしておく。ここは徹底的に分析をした方が面白い。


「かんざしの件も、ばらしたのはこのアスランという男でしょうね」

「男決定か?」

「手紙に書く事によって、もう手を出してくるなと明らかに牽制してますね。それと、ここです。毎日褒められたら嬉しい、とヤナの事のように書いてますが、これはカナツが言われている事でしょうね」

「というか、お前そんなに毎日褒めてるのか?」


 シュウが呆れたように聞いてきたが、これもまた無視する。


「まあ、強くて見目もいい人が毎日褒めてくれたら嬉しいでしょうね。シュウ様はそういう事はされませんもんね」

「……毎日はね、流石にちょっと」

「つまり、このアスランという男は確実にカナツを奪い取るために行動を起こし、さらにそれをシュウ様に分からせた上で牽制しようとしている事が分かります」


 カナツも随分と惚れ込まれましたね、と冷静に意見を述べているサルタスだが、シュウは非常に面白くなさそうな表情だ。


「カナツちゃん、僕が宰相ってことも話してるね、これ」

「まあそうでしょうね」

「リュシカの魔物の事書いているあたり、『隣国の宰相だろなんとかしろ』って事……だよね」

「そうでしょう」


 つまり、非常に頭が切れる男が花夏の傍にいるという事だ。心強くはある。あるが、面白くはない。


「人手が足りないんだよね」

「私が行きましょうか?」

「いや……ヤナが怖いからいい」


 ヤナがいる部屋の方をちらっと見て、シュウが言った。すっかりヤナに振り回されている父親の図である。


「ダルタニアもあれっきりだし、ちょっと不気味だな」

「リュシカについては、縁者がいる者を当たってみましょうか」

「うん、そうしてくれ」


 どうも周りの国々がきな臭い。考える事が山のようにあって正直頭が痛い。が。


「まあ、カナツちゃん元気ならいいか」

「そうですね。とりあえずレシピ集は作りませんと」

「冊子で渡す気?」

「そうですが何か?」

「いや……まあいいや」


 シュウ以外の男と一緒にいる事を考えると勿論面白くはないが、シュウは一緒にはいけない。花夏は最適な方法を選んだのだと信じたかった。


「もう堂々とラブレター書けないか」

「……そんなもの書いてたんですね」

「あ、今のウソです」


 サルタスが薄っすらと笑い、言った。


「美味しいワインありますよ。あとでお出ししますから」

「……はい」


 今夜は酒が進みそうなシュウであった。

 

春祭り、音楽すら聴こえてないですね!


次回は大国ダルタニアの様子です。ダルタニアに送られてたのは…?

お楽しみに。


明日(2020/10/6)更新予定です

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