アスランの過去
今回はアスラン目線回となってます。花夏の印象とはまたちょっと違うアスランをお楽しみください!
日々更新チャレンジ達成中です(2020/10/3)
3点リーダ等微修正しました(2020/10/29)
「まず、状況を整理しよう」
アスランが人生で初めて好きだと伝えた相手は、アスランの告白に返事をする事もなくいきなりそんな事を言い始めた。やはり面白い子だ。
その辺の女の子は、皆アスランがちょっと優しくするとすぐになびいてきた。告白なんてしたら一瞬で飛びついてきただろう。なのに、花夏はアスランの事を顔だけで見ない。ちゃんと、どんな人間なのか見定めようとしてくれている。アスランにはそれが新鮮だった。
「いいよ」
花夏のサラサラな髪の毛にまた頬をくっつけてスリスリしながら返事をする。気持ちよくて癖になりそうだった。花夏は照れはするが逃げはしない。だからいいのだろう、と思っている。嫌なら、それこそグーで殴られるのだろうから。
「私、異世界から来たよね」
「そうなんでしょ?」
「そしたらなんでアスランが私を探してたの?」
なんでだろう。頭の匂いも嗅ぎながら考える。石鹸のいい香りがする。花夏だったら多少臭かろうが全然構わないのだが、きれい好きみたいだから、これが花夏の基本の匂いになるんだろう。ずっと嗅いでいたい。
「分からない。半年くらい前から急に気になったかな」
事実だ。それまでは、ただ大陸をうろついて逃げていただけだったから。何もかもから。
「会ったばかりで、なんで好きとか言えるの?」
「カナツは時間が気になるのか?」
「だって、まだ会ったばかりで好きとか」
好きだと思うのに時間は必要だろうか。アスランはそうは思わない。それに。
「カナツだって分かってなかっただけで、半年前から好きだったよ」
今なら分かる。会いたくて会いたくて、それでずっと探し求めてたのだ。これは、好きという感情だった。気付かなかっただけで。花夏が焦っているのか、頭がほんわり熱を帯びてきている。初心なんだなあと思う。それもまた可愛いが。
「……なんか、開き直った言い方」
泣き声になっている。どうしたんだろう、と思って顔を頭から離して覗き込んでみると、顔が面白いくらい真っ赤になっていた。どうも、許容範囲を超えたらしい。
「泣かせるつもりはないんだけど」
「泣いてない」
「そう?」
意地を張るところも可愛い。しゃんとしようという心意気もいい。
「カナツは俺の事どう思ってる?」
彼女にしてみれば、それこそまだ会ったばかりの見知らぬ男なのだろう。アスランが触れたいというから触れさせてはくれるが、抵抗は感じる。
「あの……その」
「嫌いじゃないといいんだけど」
「嫌いじゃ、勿論ないよ」
顔を真っ赤にして言う。手が震えている。
「嫌いだったら、触って欲しくないもん。でも、まだ全然アスランの事知らないから」
「知ったら好きになる?」
大きな潤んだ目がアスランを見る。食べたいくらい可愛い。
「好き、が、よく分からない」
声も震えている。成程、まだ好きという感情も把握していないらしい。まだ16歳だ、若干幼い気もするが、そういう事もあるのかもしれない。
あまり無理強いして嫌がられたら大変だ。今回はこれくらいまでにしておいた方がよさそうだった。
「別に焦ってないからいいよ」
「ごめん、いい加減でごめん」
泣きそうだ。謝ってほしいわけでもない。別にいい加減でもないと思うが、どうしてそういう思考になるのか。
「本当は今日言うつもりじゃなかったから、いいってば。謝るなよ」
「……ごめん」
顔を真っ赤にして目が潤んでいる。不甲斐なさを反省しているようだ。やはり面白い。
「それにカナツの言う通り、お互いまだよく知らないもんな。確かにそうだ」
安心させるように言う。花夏がアスランを見た。少しほっとした顔をしているように見える。
「だから、まずはお互いをよく知ろう」
「……うん」
「でも離れないよ」
「……うん」
「怖がらなくていいから。な」
「分かった」
「だから避けないでもらえると嬉しい」
「うん」
花夏がようやく笑顔に戻った。とにかく避けられない、それだけ確認できれば今回は十分だった。
「じゃあ、夜ご飯どうする?」
話題を変えようと思って聞いたが、花夏がものすごい呆れた顔をしてきた。
「まだ食べるの?」
流石に食べ過ぎだと言われ、夜ご飯は諦めた。
花夏の長い長い話を聞いている間に外はすっかり真っ暗になってしまったし、明日は春祭り当日だ。花夏も疲れているようだったし、早く休ませてあげたかったので、ベッドに早々に横になった。触れてもいい、という事だったので、手は握らせてもらった。空いた方の手で自分で腕枕をして、天井を見つめる。サイドテーブルに置いてある宿の発光石が白く光ってユラユラと揺れている。壁にかかった燭台のロウソクの灯りと合わさって、きれいだった。
ぽつり、ぽつりと話をする。
「俺は、親が商人の家でさ」
家を出てから、この話をちゃんと他人にした事はない。逃げてきた所の話だ。あまりしたい話ではなかったから。
「タザールって小さい国なんだけど、海産物が有名で、うちは真珠とか貝殻とか、装飾品用の材料を取り扱ってたんだ」
「装飾品用か、きれいだろうね」
花夏は横向きでアスランを見ている。やっぱり避けられてない。よかった。
「割と裕福だったかな。俺も小さい頃は今程制御効かない感じじゃなくて、段々、魔法が強くなっていってた記憶があるな。ほら、さっきお前が言ってたヤナっていう子、その子と同じ感じだな。段々、自分はこんな奴だっていうのがはっきりしてきた頃、急にいろんな魔法が溢れ出してきた」
花夏と目が合った。続ける。
「母親は早くに亡くなったんだけど、父親に後妻がいてさ。腹違いだけど可愛い弟もいて、半分血が繋がってなくても結構仲良くやってたんだけど」
ここからは、自分でも嫌な話だ。思い出したくはない話。
「なんとなく俺が触ると色んなものが狂ってくるから気を付けてたんだけど、商売の手を広げようって事でいろんな魔石を取り扱う事になって」
「アスラン」
何か不穏なものを感じたのか、花夏が話を止めた。
「何?」
「言いたくなかったら言わなくていいから」
真剣な表情だ。相手の気持ちを察する事ができる、優しい瞳だ。やはり、自分が好きになった人はそういう人だと分かって、アスランは嬉しくなって笑った。
「大丈夫だよ。ありがと」
花夏が心配そうに見ている。でも、続けた。花夏には伝えたい。知ってほしかった。
「ある日、限界を超えたんだろうな、倉庫の魔石が次々に暴走を始めて倉庫が燃えちゃって、家族で逃げたんだけど、弟が倒れてきた倉庫の柱の下敷きになって、顔に火傷を負ってしまった」
花夏が息を呑む。泣かせないようにしないといけない。
「幸い命に別状はなくて、商売も装飾品の倉庫は別だったからまあそこまで大きな被害はなかったんだけど、今まで母親だと思って慕っていた継母が急に俺を避けるようになってきちゃってさ」
花夏が手に力を込めた。花夏から握ってくれるのは初めてかもしれない。
「弟は『兄さんのせいじゃない』って自分は怪我してるのに庇ってくれたんだけど、段々継母がおかしくなってきて。彼女の魔法は弱かったけど、どうも物を分解する力だったみたいで、ある日暴走した」
花夏の目は、今はちょっと見れないかもしれない。天井を見続ける事にした。
「家の、俺の部屋がなんていうか粉々になっていってさ。あれは怖かったな。足元から部屋が崩れてきて、2階から1階に滑り落ちて、上から俺を見下ろす彼女と目が合った」
あれをなんと表現すればいいのだろうか。――まるで。
「そう、まるで虚のようだった」
「虚?」
「うん。空っぽ。闇。真っ暗。それで怖くなった。弟は泣いて止めてくれたけど、父親は店に出てていなくて、ただ怖くて怖くて、逃げた」
今でもたまに夢に見る。何も映してない、あの瞳を。少し前までは、弟を見るのと同じだけの愛情を含んでいたと信じていた、あの瞳を。
「14歳だったかな。そこから、ずっとひとりで逃げてた」
「アスラン、もういいよ」
花夏の声が涙声になっている。花夏が泣くことないのに。
「俺さ、割と金持ちの坊ちゃんだったからろくに生活する事知らなくて、始めは結構苦労したよ。ほら、こんな顔だろ?へんなおっさんに絡まれたりとかもあって、世間て怖いななんて思ったりして」
はは、と笑うと、花夏ががばっと起き上がった。繋いでいた手を解かれた。残念。
「どうした?」
目に涙を溜めて、口をぎゅっと結んでいる。
「何その可愛い顔」
「……ばか」
馬鹿と言われた。
「言いたくない事まで言わなくていいって言ったでしょ。私が知りたいなんて言ったからだ、ごめん」
「……大丈夫だって」
アスランが半身を起こした。涙が落ちそうだ。泣かせるつもりではなかった。ただ、知ってほしかっただけだ。
花夏がキッとアスランを見て、両手を広げた。
「……何それ?」
読めない子だ。すると、花夏がアスランの頭をぎゅっと抱き締めてきた。額が花夏の細い首に触れる。呼吸が聴こえる。滅茶苦茶胸が顔に当たっているが、いいのだろうか。花夏の髪の毛がアスランの視界を遮る。泣いているような花夏の息が頭にかかる。暖かい。
「ばか」
また、言われた。アスランは目を瞑った。こんな優しい馬鹿という言い方をされるなら、馬鹿でいい、そう思った。
こんな風に人肌に包まれるのはいつぶりだろう。遠すぎて、もう記憶にない。こんなに暖かくて安心するものだっただろうか。それすらも記憶になさすぎて、分からなかった。
「馬鹿かもな」
小さく呟くと、アスランを抱きしめる花夏の腕に力が入った。
どれぐらいそうしていただろうか。気持ちいい。安心する。安心し過ぎて、段々眠くなってきた。ズルズル、と力が抜けていく。
花夏が自分の頭を撫でてくれているのが分かった。幸福感に包まれながら、アスランは花夏にもたれかかったまま深い眠りへとついた。
(い、痛い……!)
気持ちよさそうにそのまま寝てしまったアスランをどかすのも可哀そうで、頑張って人生初の腕枕というものをしながら寝てみたところ、目が覚めた時には完全に腕が痺れてしまっていた。
外は少し明るい。結構しっかりと寝れたようだが、問題はこの腕だ。自分の腕でないような感覚である。
(一気に引っこ抜くしかない!)
覚悟を決めたその時。アスランの目がパチッと開いた。目が合った。頭が少し動く。
「うぁーっ」
男らしい声が出た。アスランがびっくりした顔をしている。
「……どしたの」
「腕、腕、腕があぁ……!」
「あ」
パッと起き上がってくれた。途端、止まっていた血が一気に流れ出す感覚がやってきた。ピリピリしだす。
「し、痺れた」
「まさか、ずっと腕枕してくれてたの?」
「ちょっと待って……痛い」
ゼエゼエ言いながら花夏が悶絶していると、アスランがそんな花夏のおでこに小さくキスをして、「ありがと」と言った。いやでこチューって、と思いながらもまだ痺れてて反応が出来ない。
「ほら、手をグーパーして」
痛みに耐えながらアスランの言う通り手のひらをグーパーしている内に、段々と痺れが治まってきた。
「な、治った」
「そりゃよかった」
アスランがにこっとして、ベッドから降りて立ち上がる。
「いいもんだな、腕枕。またやってよ。よく寝れた」
「いや、もうこれは無理かも……」
人間の頭はかなり重い、というのが今回の事でよくわかった。人間、何事も経験である。
「じゃあ貴重な体験だった訳だ」
そう言って伸びをしている。気持ちよさそうな伸びだった。
「まだ大分早そうだな。飯ってどうなってるんだっけ?」
「またご飯の事か」
ついツッコミを入れてしまう。何でこんな四六時中お腹を空かせてるんだろうか。
(もしかして、魔力のせい?)
アスランの魔力は常に周りに向かって放出されている。エネルギーと考えると、車の給油口から揮発していくガソリンみたいなものだろうか。いつ周りに引火するか分からない状態。そして、車の給油口の蓋が花夏だとしたら。
蓋がないと、ガソリンは減っていく。でもガソリンがないと動けない。だから、補給する。
でもそうすると、花夏に溜まった魔力は?一体どれぐらい持つのか。
「ねえアスラン、私の器ってどれぐらい溜まってるか分かる?」
「えーとな」
そう言うと、アスランはじっと花夏を見始めた。目を細める。少し緊張するが、これは知らないとならない。
「……ちっとも」
「え、全然?」
意外だった。アスランと出会ってから、とにかく触れている。アスランの魔力の放出範囲は大体3メートルくらいなのも、発光石の時に分かった。つまり、花夏はあれからずっとアスランの魔力を吸い取っている筈だ。
「下の方に少しあるかなってくらい」
「本当?」
嬉しい。純粋に嬉しかった。
「よかった」
ほっとして、緩んだ笑顔が出た。でもアスランは分からなかったようだ。不思議そうに聞いてくる。
「よかった? 何で?」
「だってまだまだ溜まらないんでしょ?」
「溜まったらどうなるんだ?」
「分からないけど」
「溜まらなかったらどうなんだ?」
「まだ一緒にいれるでしょ」
アスランが真顔になった。花夏の言っている意味が分かったのだ。
「お前、魔力が溜まったらいなくなる気か」
「……だって」
恐らく、暴走する。魔法を使えない花夏が暴走したらどうなるのかは未知だが、何かしら影響はあると考えられる。その時、自身を責めて悲しむのはアスランだ。
「……嫌だよ」
「アスラン、だって」
「嫌だ」
「聞いてアスラン!」
急いで立ち上がり、泣きそうな顔になってるアスランの両腕を掴んだ。聞いてもらわないとダメだ。不安でいっぱいになっているアスランの緑の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「アスラン、私だってアスランといたい」
「カナツ」
「でも、私が暴走しちゃったらアスラン悲しむでしょ? 私が私の世界に帰ったらアスラン悲しむでしょ? 嫌だよ、アスランが悲しい想いをするのは嫌」
口に出して初めて分かった。ずっと心に引っかかっていたのはこれだ。花夏は、いつかいなくなるかもしれない。それなのに、何も考えずアスランに寄りかかれない。そんなの、正面に向き合ってくれているアスランに出来る筈がない。それは余りにも、ずるい。
「……探す」
「……何を?」
アスランの泣きそうな目が、力を帯びる。
「お前と、ずっと一緒にいれる方法を」
アスランが、花夏の腰に手を回す。
「だから、何も言わずにいなくなるな」
心からの、言葉。花夏の胸に、痛いほど突き刺さった。この人は、私がいなくなったら壊れてしまう。この人は、孤独にもう耐えられない。そう思える程に、狂おしい想いが詰まった悲痛な声だった。
「……分かった。約束する。絶対勝手にいなくならない」
「……約束だぞ」
そう言って、花夏を優しく抱擁した。
ああ、この人が愛しい。そう、思った。
朝食は宿屋提携の飲食店で食べるのが、この世界では一般的だ。
まだ苦虫を噛み潰したような顔をしている宿屋の店主にアスランがその飲食店の場所を尋ねると、商売は商売だからか教えてくれた。根は悪い人ではないようだ。
「ギルドの真向かいの店だよ。うちの鍵見せてね」
「ありがとうございます」
花夏が笑顔で礼を言うと、ようやく店主に笑顔が戻った。
「あそこの甘い卵焼きがオススメだよ、食べてご覧」
「はい、是非」
甘い卵焼き。この世界はあまり甘い食べ物が多くないので、これはかなり珍しい。砂糖の収穫量がそこまで多くない事が理由のひとつとして考えられる。何故なら、砂糖は高い。花夏も今日買うつもりだが、大きな街で買うことを選んだのはその価格の高さによるものだ。小さい町では、価格はかなり高騰する。
「美味しそうだね、食べてみようか」
「そうだな。いいかも」
隣で手を繋ぐアスランを見上げて話しかける。先程、花夏が心配になる程の激しい動揺を見せたアスランは、今は大分落ち着いているが繋ぐ手の力は少し強めだ。
人と触れ合う事が出来なかったアスランにとって、唯一何の影響もなく触れることの出来る花夏との別離は、恐怖以外の何物でもないのだろう、と悟った。昨日のアスランの実家の話を聞いて、胸が締め付けられるような気持ちになったのは、そのアスランの恐怖を感じ取ったからだ。
アスランが花夏を好きだというのは、触れる事が出来るからなのか、そうではなくずっと探していた『気配』が花夏だったからなのか、それすらも関係ないのか。好きという感情には、理由は伴うものなのか、そんなものは関係ないのだろうか。花夏には、分からない。まだ、分からなかった。
一緒にいたらアスランを好きになるのか、それともアスランに必要とされている事が好きに繋がるのか。しっかりと考えないといけないと思った。ただ、確実にこれだけは守ろうと思う。アスランに対し、誠実でいようという事だ。
こんなにも花夏を求めてくれる人に対し、花夏の曖昧な態度は酷いものなのだと思う。だからせめて、出来るだけ早く答えを出してあげたいと思った。
人を好きになるという感情に理屈など伴わないという事に気付かない程度には、花夏はまだまだ子供だった。
宿を出ると、提携の飲食店は通りを渡って目の前だ。朝から多い人通りを苦も無くスイスイと避けて進むアスランは、花夏の手を引いて店の中に入った。
「あそこ空いてる、座ろう」
中は割とこじんまりとしていて定員は20人程入ればいい位だろうか。ただ、天井が高くて解放感があった。店の一番奥のテーブルが空いていたので、アスランが手を離す事なく他の客の間をすり抜けていく。
美形のアスランと、そんなアスランにずっと手を繋がれている花夏はやはり目立つのだろう、座っている人たちがジロジロと見てくるのが気にはなったが、アスランといる限りはこういう好奇の目にさらされるのだろう。早々に慣れた方がいいのは頭では理解しているが、気になるは気になる。アスランが全く意に介してないのは、生まれながらにこういった目線にさらされてきたからなのだろう。花夏とは年季が違うのだ。
「次からカナツにマント着せよう」
席についたアスランがそんな事をぶつぶつ言っている。意味が分からない。花夏もアスランの向かいの席に座った。
「なんで? どうしたのアスラン」
「だって見てみろよ周りのやつ。皆チラチラお前の事見てて、不愉快だ」
子供みたいに膨れている。これはこれで可愛いが、アスランは盛大な勘違いをしている。
「いやいや、見られてるのはアスランでしょ」
「野郎は俺の事あんな目で見ないよ」
じゃあ振り返ってみろ、と小声で言われたので、半信半疑でさっと店の中を振り返ってみた。店の中は大半が男性客ばかりだ。女性はチラホラしかいない。何人かと目が合った。目を逸らさない人が3人程、目をさっと逸らした人が2人。皆男性だった。女性ともひとり目が合ったが、ニコ、とされた。害意はないようだ。
確かに見られている。アスランに向き直る。
「どういう事? なんか変なものでもついてる?」
今日は赤いワンピースを着ている。髪の毛はまだ垂らしたままだ。黒髪が目立つのだろうか?
自分の服を見て首を捻っている花夏を呆れたように見たアスランが、はあ、と大げさな溜息をついた。
「お前さ、頼むからひとりで外出するなよ」
「? 分かった」
よく分からないが、何かあるんだろう。別にひとりで行きたいところもない。問題はないだろう。
「まあいいや。さ、頼もうか」
「うん」
店内にいる男性が皆アスランに嫉妬しそうな可愛い笑顔を惜しげもなくアスランに見せる花夏に、優越感に浸る笑みをつい浮かべてしまったアスラン。そんなアスランを見て、花夏は素直に笑い返したのだった。
アスランの過去、恐怖、花夏への執着、そんな回になったかと思います。
明日はお休み、次回更新は2020/10/5予定となります。ようやく春祭り本番、一緒に旅するって大変だよね、な回になります。お楽しみに!




