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ヴァセルでの出会い

おはようございます!

今回は久々のアスラン登場回です!

前回はチラリとしか出なかった彼がどんな人なのか?そして花夏の山ライフもいよいよ大詰めです。

お楽しみください!

※3点リーダ等の微修正を行いました(2020/10/19)

 大陸の中心に位置する大国、ダルタニア王国。


 大陸一の軍事力と財力を誇り、強大な魔力を持つ赤眼の王が治める強国。西の大国ヴァセル、南東の大国バルゴが対抗心を燃やすも、軍事力、財力とも未だ一歩追いつかず、というのが現状である。


 そんな大国のひとつであるヴァセル王国の港町、ランバールに一人の男が足を踏み入れた。


 ランバールはこの国では3番目に大きな港町で、回船を使って西海岸沿いの各国と交易を行なっている。ランバールの海は寒流が流れ一年を通して涼しく、寒気・雨季があるのみで気温差があまりなく年間を通して過ごしやすい地域である。


「……さむ」


 頭に深々と被るフードの奥には赤銅色の髪。活気があるが冷たい風が吹きつける漁港で、さてどうしようかと考えあぐねていた。マントに当たる風は剣のように尖っている。


 ここから南東のザザンのギルドに任務完了を報告し、報酬を受け取ってから早4カ月。なんとなく北に行こうという気になっていたが、いざ北上していると聞くのは北部の国々の積雪量の多さばかり。聞けば、一番北にあるラーマナ王国に至っては雪解けは4月から5月にかけてとのことだ。ラーマナ山脈の雪景色はそれは見事なものだとの噂も聞いたが、南国生まれのアスランにとって、雪は未知のものだ。それに、寒さはどちらかというと苦手である。果たして無理を押して進むほどの事だろうか?


 考えた結果、アスランは雪解けまで少し横道にそれてヴァセルに入国、そしてこの港町ランバールに立ち寄ったのだった。


 が、思った以上に寒い。寒さを避けたつもりが、自ら寒さに飛び込んでいった感じだ。


 次の職を海で探そうか、などと無計画な事を考えていたが、正直耐えられそうな寒さではない。


(仕方ないな、またギルドに行くか……)


 ギルド自体は嫌いではないが、いかんせんギルドが紹介する仕事は魔物の討伐や魔石の採掘など、人里離れたところでの作業が圧倒的に多い。人里離れた場所も別に嫌いではないが、問題は自分の料理の腕だ。何をどう調理してもくそ不味い。とにかく不味い。ギルドオススメの万能調味料なるものも購入して振りかけてみたり汁に混ぜてみたりとあれこれ試してみたが、やはり不味い。ただ魚を採って焼いたらうまくなりそうなものだが、それも不味い。もうわけが分からない。

 

 ランバールに辿り着くまでは、しばらく野営をしていた。そろそろ、ひと様の作ったまともな食事を食べたいのが本音であった。



 ふと、何となく気になる方向を見る。……やはり北だ。ザザンで初めて感じたこの感覚は、あれ以降時折ふとアスランの元へやってくる。暖かいような、包み込むような光のような。


「……わけわかんねえ」


 頭をがりがりと掻く。野営続きでしばらく湯あみも出来ていなかった。ギルドを探したら、そのまま契約宿屋を紹介してもらおう。そしてとにかく今日はうまい飯だ。


 近くを歩く漁師らしき人物にギルドの場所を尋ね、アスランは港を後にした。


「……さっみー……」




 漁港で教えられた通りに真っ直ぐ内陸側に歩いて行くと、レンガ造りの街並みが見えてきた。この辺りは赤土が取れるのだろうか、全体的に赤みを帯びたレンガが多い。建物は平屋が多く、倉庫の様な建物も大きいが平屋になっている。嵐などが多い地域なのかもしれない。


 大陸共通のギルドの看板を探す。由来は分からないが、太陽と剣が合わさったマークだ。この通りを真っ直ぐ行き、右側にあるとの事だったが。


 人混みの中を進んで行く。全体的に磯臭い。海からの風の匂いか、それとも街行く人たちに付いた匂いなのか。アスランの生まれ育った地も海沿いの街だった為特段苦手というわけではないが、何となくこちらの方が空気が重い気がする。気温の違いのせいだろうか。


(ギルドギルド……あ、あった……うわ!)


 上ばかり見ていたからだろう、思い切り人にぶつかってしまった。そして、相手が吹っ飛んでいった。


「あ、悪い」


 アスランはギルドの任務をこなしながら旅しているため、基本足腰は強い。見た目はやや細めだが、実は筋肉もしっかりついている。でなければ、ひとりで魔物がいるかもしれない場所にひょいひょい乗り込んでなどいけない。


「いったいなあ……もう」


 地面に手をついてぶつくさ言っている。蜂蜜色のカールした髪に、地面の砂が付いていた。


 アスランがただ眺めていると、大きな目をした可愛い顔の男、いや男の子か?がこちらを睨みつけてくる。が、ちっとも迫力がない。


 よく見ると、着ている物はかなり上等な物だ。


 なんだ、どこかの坊ちゃんか。アスランは推測する。甘やかされて、体がなまってるのならこれくらい簡単に吹っ飛ばされてもまあ仕方ない。


「もうちょっと鍛えた方がいいんじゃないか」


 立ったまま、上から見下ろす。助け起こそうなどという親切心はない。アスランに触れて、後で文句を言われるのもごめんだ。


「手を貸すとかないのかなあ?最近の若いのは全く」


 偉そうに文句を言いながら自力で立ち上がり、砂埃を手ではたき始めた。アスランより頭ひとつ分くらい小さい。やはり子供だろう。


「悪いな、こちらも都合ってもんがある」

「なんだよそれ。全く……」

「体をもう少し鍛えるんだな、坊や」

「ぼ……!!」


 言い捨ててアスランは立ち去る。怪我もないようなら問題はないだろう。


 後ろから、負け犬の遠吠えが聞こえた。


「僕は大人だぞ! 坊やじゃなーい!」




「全く……海の男ってみんなあんなに荒いもんかねえ」


 ぶつくさぶつくさ。お姉様方に可愛いと言われる童顔を膨れっ面にしている。彼は、お互いに勘違いをしている事には全く気付いていない。


 腹の立つ後ろ姿に魔法で攻撃してやろうかとも思ったが、他国の街で問題を起こすと後々厄介なことになりかねない。悔しいが諦めた。



 これが人目のない場所であれば、塵も残さず消し去ってやったものを。



 坊主と呼ばれてしまった男、ダルタニア王国王宮魔術師イリヤ・シュタフは、まだ腹を立てたまま空を見上げた。お互い上ばかり見ていて前を見ていなかった事による衝突であったが、イリヤには自分が悪いという気持ちは一切ない。イリヤにぶつかってきた相手に非があると思っている。


 基本、彼は自分が周りのその他大勢の人間よりも圧倒的に強いと思っているため、他者に遠慮などする必要はないと常日頃思っている。彼がこの世で自分よりも上の存在とみるものは唯のふたりだけ。ひとりは彼の師匠であるセシル。文句なしに強い。もうひとりは彼の雇い主であるダルタニア王国国王アレン・ラゾフ・ダルタニア。畏怖の念をイリヤに抱かせる国王の魔力は、はなから勝てる部類のものではない。


 そんなんじゃ一生結婚できないぞと師のセシルは言うが、自分を偽って人に優しくし結婚すべきだとは考えていない。誰か好きな人が出来たらこの考えも変わるのかもしれない、とも考える事もあるにはあるが、22歳になった今でも好きな人と呼べる者はおらず、大好きな物といえば研究、それだけだ。


 じっと目を凝らす。


「……ここも問題なしかー。無駄足だったな」


 ぽつりと呟く。


 イリヤは、結界が緩い場所の調査を行なっている。結界の様子は実際にその国に入って確認しないとならない為、師匠のセシルと手分けして各国を回っている。勿論お忍びである。


 師匠と『あれ』を引っ張ってきた時、微かに感じた衝撃。分析の結果、あれはどこかの国の結界が破れたものではなかったのか、との結論に至った。以降、結界が薄い国がどこか、一国一国見て回っている、というわけだ。


 恐らく『あれ』は、破れた結界の近くにいる。だが、急がないと移動されてしまう可能性もある。


 結界の不具合を確認するだけだ、見える者であれば使えばいい。人海戦術ならすぐに調査は終わる。イリヤはそう簡単に考えていたが、物事は実はそう単純ではなかったらしく、国王のアレンから直接セシルとイリヤのふたりだけで探すようにとの命令が下ってしまった。


 イリヤは当初その指示に不満があったが、師匠曰く「この事を知っている人間が少なければ少ないほど情報の安全性は守られる」との事だった。他国に情報が漏れるのを恐れるなんて、あんなに強い国王が何を恐れているんだと言ったところ、師匠にポカリと頭を叩かれ「お前は戦争をする気か」と叱られた。


 色々、面倒くさい。


 イリヤの正直な感想であるが、自分が自分より上だと認めるふたり共がそう言うのであれば逆らう訳にはいかない。仕方ないので、ダルタニアからまずは真っ直ぐ南下し、イリヤは右周り、セシルは左回りで確認を行なうことにした。


 大分調査も進み、ダルタニアのほぼ真西に位置するヴァセルまでようやく終わった。あとは北西の国々を回らないとならないので、イリヤの担当はようやく半分が終わった、というところだ。そして、今のところ全て空振りに終わっている。


 ここまでで3か月強。国の半分を見終わるにはおおよそ半年はかかる。移動に寄り合い馬車を使ったり海岸沿いは船を使ったりとかなり移動速度は早いが、やはり大陸は広かった。


(師匠がさっさと見つけてくれないかなあ)


 元来狭い所での作業が好きなイリヤは、そんな他力本願な事を考えてため息をついたのだった。




 

 雪が降るとは聞いていたが、まさかここまでとは思いもよらなかった。


 花夏の素直な感想である。


 季節は冬真っ只中、2月も終わりに差し掛かろうかというところ。毎日毎日、飽きもせず雪が降る。アルに除雪用のソリを引かせて(これもサルタスが作っていた)道は除雪できるのだが、屋根の上の雪は降さなければ屋根が潰れてしまう事もあるそうで、毎日屋根に登っては雪を降ろし、煙突の周りや家の周りの雪もかいて家が埋まらないようにしている。


 ハルナ曰く、それでも今年はアルのおかげでとても楽なんだそうだ。昨年まで、ハルナがひとりでどう雪を処理していたのか、恐ろしくて聞けなかった。


 サルタスは、時折山の家から森の入り口までアルと一緒に除雪して道を作っている。「隊長がいつでも来れるように」との理由だそうだ。流石出来る男サルタス。でも道が蛇行してるのでアルが大変じゃないかと思って聞いたら、「滑りますから」との事だった。確かに下まで真っ直ぐの一本道だとスキー場になってしまうかもな、と花夏は納得した。


 雪のおかげで少し楽になったこともある。小川への水汲みがなくなった事だ。水は、雪溶け水を使用している。雪を桶に入れて置いて家の中に置いておけば、翌朝には水になっている。これもガラス窓の効果だそうで、昨年までは家の中に置いておいてもあまり溶けなかったそうだ。ガラス効果、すごい。


 この水を火にかけて沸騰させて飲み水にしている。水が足りなくなると、ハルナなんかは鍋に雪を入れてしまうのでザ!男の料理!という感じがしてしまうが、それに気付いたサルタスが足りなくなりそうになるとサルタスの魔法で予め溶かしておいてくれるようになった。魔法は使いにくいみたいだが、出力が抑えられるだけで使えない訳ではないようだ。


 ヤナは、昨日で7歳になった。


 サルタスとの特訓は順調で、始めこそ「いやあああ! 聞きたくないいい!」とか叫んでいたが、最近は意識して声を遮断する事に成功するようになってきた。その時の顔がまるで修行僧のような厳しい顔つきになるのがおかしいのだが、本人は至って真面目にやっている為、笑っては可哀想だと思って頑張って笑わないよう我慢している。だが、時折サルタスが我慢できずに後ろを向いて口を押さえて震えているのを見かける。あんたが笑うんかい、と心の中で突っ込んでいるが、気持ちは分かるので本人には言わないようにしている。


 ヤナは、毎日ひたすら聞かされる『淑女の嗜みとは』の本のおかげだろう、気がつけば自分の事を「私」と呼ぶようになった。立ち振る舞いも繰り返し淑女の立ち振る舞いを語られる内にやろうという気になったのか、以前までの野性味はなりを潜め、なんだか小さな淑女がいるようで可愛らしい。花夏はその本について一切聞いたことがないので実際には何が書かれているか謎ではあるが。


 花夏とヤナの読み書きの練習は大分こちらも進み、ふたりとも読むのは問題なくなった。相変わらず寝る前にベッドでサルタスが持ち込んだ恋愛小説を読んでいるが、これももう3冊目に入った。「この女の人、なんでこんなに優柔不断なの! 絶対こっちの騎士の方がいいのに!」「あーでもこっちの役者が気になるのも分かるなあ」などと議論してはハルナに「早く寝なさい」と言われる。ヤナは書く方も大分マスターして、書き間違いはあっても元々頭の中の文章が非常にしっかり出来ているのでちゃんとした文章に仕上がっているのは流石としか言いようがない。花夏は書く方は……まだまだだ。


 花夏の剣の特訓は4本目まできた。1番太くて重い木刀だ。素振りの他に、横打ち、ハルナとの打ち合いも特訓メニューに入ってきて、かなりハードだ。毎日の温泉の楽しみがなければ、もしかしたら途中で挫けてしまっていたかもしれない。


 花夏の実感としては、全体的に体のキレが良くなったような気がする。スピードって結局は筋肉の付け方と使い方なんだろうと思うようになった。


 ハルナは明らかに手を抜いている。ハルナが本気を出したら、花夏は一瞬でやられてしまうだろう。そんな気がする。


 ハルナが言うには、花夏には殺気がないのだそうだ。相手を倒してやろうという気持ち。目の前から排除してやろうという気持ち。そう言われてしまえば、確かにない。ハルナに対してそんな気持ちを持ちようがない。


 そうハルナに言ったところ、今日の運びとなった。


 狩猟である。








「いいか花夏。狙うのは首だよ」


 ハルナが小声で囁く。


 雪の森の中。花夏の手にはセリーナの長剣が握られている。それとは別に、短剣が腰にぶら下がっている。


 狙いは雪兎。あんな可愛いのを切れと言われ、花夏はかなり動揺している。


 確かに、最近も食べた。サルタスが狩ってきていた。美味しかった。


 分かっては、いる。あの兎肉とこの雪兎が狩った後と前の違いだけであることを。それが他の人の手によって捕まり、殺され、さばかれ。その手順を見ないことによって肉となったものを当たり前のように食べ。


 可愛い、可哀想、美味しそう、は皆矛盾しているようで繋がっている。


 でも、体が竦んでしまう。


 ハルナが言う。


「お前は食べないと死ぬ。殺すのが可哀想ならお前が死んであげるのかい?」


 今まで口にした肉は、花夏が嫌だと感じる部分を他の人間が肩代わりしたことで食べることが出来たものだ。見ないでそのままを過ごす。多分、日本にいたらずっとそうだっただろう。


――でも、ここは私がいた世界じゃない。


 食べなきゃ死ぬ。肉を食べなくても死なないかもしれないけど、そうやってずっと目を逸らしていくのか? 考えろ、何故今ハルナはあえて花夏に生き物を殺す事を教えようとしている?


(……私が死なない為だ)


 ひとりになった時に、飢えて死ぬことがないように。自分ひとりの手で生きていけるように。全ては花夏ただひとりの為に。


 何のための『いただきます』なのか? 命をいただくからなんて偉そうな事をヤナに言っておいて、花夏は分かってない。分かってなかった。その本質の意味を。



 可哀そうだ。可愛いのも確かだ。だけど、私は生きる。他の命を食らって生きてきた。今までも、そしてこれからも。


 剣の柄を軽く握る。息を整える。


「命を、いただきます」


 口の中で呪文のように唱えた。一気に飛び出して地面を蹴って跳躍する。


 闘いの女神の剣が、雪兎の首を一刀した。


「必ず、おいしくいただくから……!」


 いけない、涙が出てしまう。でも、止まらない。


「よくやった」


 ハルナが花夏の肩をポン、と叩いた。








 その後のハルナ講座は、正直その比ではなかった。


 血抜きの話、内臓を取り除くことの重要性、皮の処理について。全て、ハルナが口頭で指示をした。花夏は腰にぶら下げた短剣で下処理を行なった。もう涙は止まっていた。命をいただくとは、きちんと処理をして最適な状態を保った上でいただくということだ、とハルナが言った。花夏に異論はない。


「さあ、帰って調理しようか」

「……うん」


 ヤナに食べさせてあげたい。そして、話してあげたい。花夏が感じた事を。そこから、少しでも何かを感じ取ってくれたら。


 手は血だらけ。きっと、先日のサルタスもそうなったに違いない。それを、皆に見せないよう気を遣ってくれていたのだ。


 なんていろんな思いの上に成り立つ命なんだろう。


 花夏は改めて、自分を護ってくれている優しい人たちの心遣いに気付くのだった。








「カナツ、美味しい!」

「やった!」


 花夏が初めて仕留めて捌いた雪兎は、塩焼きにしてみた。ちょっと鶏肉に似ているかもしれない。本当、とても美味しかった。


「カナツ、すごいじゃないですか」


 サルタスも褒めてくれた。


「頑張りました」

 素直に褒められておくことにする。自分史上こんなに戸惑い覚悟がいったことはなかったかもしれないから。


「狩りはこれからも行くからね」


 ハルナが言う。


「分かった」


 花夏が頷く。


「血抜きと内臓の処理を済ませた肉は街で売れますからね。お金を稼ぎたい時は選択肢のひとつかと」

「どこで売れるんですか?」


 肉屋……だろうか?


「肉屋でも売れますし、市場に持ち込んでもすぐに買い取り手は見つかりますね。ただ交渉が苦手だったり探しに行く時間があまりない場合はギルドが引き取ってくれます。仲介料を取るので少し安くはなりますが、買取相場価格が書いてあるのでぼったくられる事はないので安心ですね」

「ギルド?」


 なんだろう? 聞いたことのない単語だ。


「組合の事ですね。例えば仕事の斡旋をしたり、宿屋と提携して旅人を紹介したりと仲介を行ないます。肉や毛皮の買取もその一環で行なっています」


 生協みたいなものだろうか。


「どこにでもあるんですか?」

「どこの街にも大抵ひとつはありますね。太陽に剣のマークの看板があったらそれがギルドです。大陸共通なので、不慣れな土地に行くとまずはギルド、という旅人も多いですね」


 そう言いながら、サルタスが綺麗な手つきで肉を切って口に運んでいる。ヤナがその姿を真似して同じように切ろうと苦戦していると、サルタスがそっとヤナの手助けをしていた。ヤナの嬉しそうな顔ったら。


「太陽と剣のマークってどんな意味があるんですか?」

「太陽は、陽の光の元に正しい取引を行なうという意味です。剣は、権力に屈しないという意味があるので、簡単に言うとその国ではなくギルド独自の規律に則って恥じる事のない正しい取引を行ないます、という事ですね」


 あまり簡単ではなかったが、まあ意味は理解した。


「独立した組織ってことですね」

「その通りです」


 成程、いい事を聞いた。困ったらとにかくギルドに行けば道が開けるってことだ。


 それまで静かに話を聞いていたハルナが、ふと思い出したようにサルタスに言った。


「そうそうサルタス、お前に教えてもらいたい事がある」

「なんでしょう?」


 そう言いながら、濡れたおしぼりでヤナの手を拭いてあげている。


「カナツに野営の方法を教えてもらいたい」


 野営。つまり野宿の事か。確かに、今いきなりポンと森に放り出されても何も出来ない。火は夜はどうするのかとか、後始末とか。剣が使えてケモノは狩れてもそれだけでは足りないという事だ。


 まだまだ、覚える事は沢山あるようだ。


「分かりました。では雪が多い間は口頭での説明、雪溶けが始まりましたら実践に移りましょうか。アルの乗り方もそろそろ覚えませんとね」

「剣の特訓は?」


 花夏が聞く。正直こちらもまだまだ全然足りない気がする。ハルナほど強くなる必要はないかもしれないけど。


「残りの時間を割り振ろう。今日、セリーナの剣を初めて使ってどうだった?」


 言われて初めてその事に思い至った。動物を殺す事への恐怖心、抵抗感の方が強すぎて。


 でも、そういえば。


「すごく……軽かった。自分の手、みたいに」


 ハルナが頷く。


「そういう事だよカナツ。頑張ったね。これでシュウが言ってた段階までの特訓は終了だ。あとはひたすら継続と実践だね」


 長かったようなそうでもないような。でも純粋に嬉しい。


「ありがとうハルナ」


 明日からまた新しい特訓の始まりだ。でも、剣を始めた時のような抵抗感はもうどこにもない。今まで知らなかった事への第一歩は、誰だって怖い。でも怖くても進むと開ける道がある。その事に気付けたからだと思う。


「カナツ、今夜はいよいよクライマックスよ!」


 ヤナがワクワクしている。読んでいる本の主人公がいよいよどちらかの男性を選ぶのだ。


「じゃあ、早く片付けて支度しようか」

「うん!」

 

 色んなことを感じた1日だったけど、こんな終わり方なら最高だな。


 ご機嫌で飛び跳ねているヤナの後ろ姿を見て、花夏はそう思ったのだった。

いかがでしたでしょうか?

まさかアスランがめしまず男とは!ですね。

そしてイリヤとの出会い。次回再会までしばし、たなります。

次回はシュウさん回です。

ヤナちゃんとの再会ももうすぐです!

お楽しみに!


次回は明日更新の予定です(2020/9/12)

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