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謁見 ☆

今回もシュウさん回です!

部下との掛け合いからまさかの展開まで!一気に読んでいただけたらと思います!


日々更新チャレンジ達成中!(2020/9/9)

※3点リーダ等の微修正を行いました(2020/10/19)



挿絵(By みてみん)

「隊長、サザから報告が」


 翌朝執務室に着くと、先に登城していたユエンが報告してくる。


「日程は決まったか?」

「は、それが今日とのことで」


 また随分と急だ。


「どうも宰相の爺さん、新年のお祝いの席でやらかしたらしくて、今周りから総スカン食らってるらしいですよ。サザがちょっと声をかけたらそりゃもう喜んで」

「一体何をやったんだ、爺さんは」


 呆れてシュウが尋ねると、ユエンがニヤッとして近付いて小声になった。


「王妃のお気に入りの侍女に酔っ払って抱きついたらしくて、陛下も今回ばかりは相当…」

「あーそりゃやっちゃったね、爺さん」


 救いようもない。


「でも、僕らにとっては最高のタイミングだ」


 ユエンが頷く。


「ですね。毎日、時間になると逃げる様に王の間から出て行くらしいですよ」

「あの爺さんももう先は短いかもなあ」

「まあいい歳だし、引退するにはいい時期なんじゃないすか?」


 接待を設定するまでもなかったかもしれないが、まあ念には念をだ。


「では今日はよろしく頼む。ついでに何かいいネタもあったら聞き出しておいてくれ」

「は。かしこまりました」







 

 溜まっていた報告書を書いていたら、あっという間に夕刻になった。執務室の窓から綺麗な夕陽が見える。


 サザがピシッと敬礼した。


「では、行ってまいります」

「じゃあ俺は店で待ってるから、爺さんをよろしく」


 ユエンも席を立つ。


「では私は王の間の気配を探っておきますので、陛下おひとりになられたらすぐに合図致します。隊長は王の間の近くで控えていて下さい」

「分かった。では皆、よろしく頼む」


 各自それぞれの配置についた。



 ロンの魔法ちからはかなり変わっている。


 普通なら近くの気配しか探れないものだが、ロンは遠くからでも気配を探れる能力を持っている。生き物全般、魔物もなんでもござれだ。一度覚えた気配は認識出来るので、誰がどこにいるということもある程度分かる。


 ロン曰く、自分を中心に立体的に地図が広がるとのことだが、その感覚はシュウにはさっぱりだ。ちなみに集中した対象に対して多少の干渉が可能で、その人物に声をかけるくらいなら余裕だ。


 いずれにしても、任務を行なう際ものすごく頼りになる能力である。張り番としてこれ以上の適任はいない。


 王の間へ続く扉の手前にある広間には、幾つもの立派な装飾が刻まれた柱が建っている。シュウはその柱のひとつに寄りかかり、誰かを待つかの様にのんびりと立っていた。


 王の間の前では衛兵が2名警護をしているが、シュウは両名とも見知っていた。


 ギイっと音を立てて宰相が王の間から出てきた。周りに気を配ることもなく、いそいそと広間を後にした。自慢話をする機会を逃したくないのだろう。


『隊長、中には現在陛下おひとりです』


 耳元でロンの声がする。実際の声よりは少し遠く聞こえる。シュウはその声を合図に、王の間の扉の前まで歩を進めた。


 シュウの姿を認めた衛兵たちに軽く会釈し、扉を叩いた。


「陛下、国土調査隊隊長シュウ・カルセウスです。ご相談したい案件が御座います」


 中で気配がする。


「――入れ」

「は。失礼致します」



 さあ、ここからが勝負だ。言動には細心の注意を払わねばなるまい。



 王の間に入ると、まず目に入るのは深い赤の絨毯。それが玉座にまで真っ直ぐに敷かれている。絨毯に沿って5段ある階段を登ると、上は玉座だ。正面から向かって左が国王の玉座、右がひと回り小さい王妃の玉座となっている。玉座の背後の壁には大きなステンドグラスが張られ、夕陽を映して光り輝いている。夜にはカーテンが閉められるが、今はまだ開いたままだ。


 そして、グルニア・アレス・ラーマナ国王その人が玉座に座してした。


 シュウは、階段の下で膝をつき頭を深々と下げる。


「陛下、お時間いただき感謝致します」

「よい。あの宰相の顔も見飽きていたところだ」


 静かなグルニア王の声が頭上から降る。聞いていて心地のいい低い声だ。


「頭を上げよ。目が合わぬ者との話は嫌いだ」

「は、では失礼致します」


 シュウはグルニアの指示通り頭を上げ、見つめる。歳は36歳、濃い金色の柔らかそうな髪は肩で切りそろえられている。端正ともいえる顔はあまり表情が窺えず、見る者にまるで僧侶のような静けさを連想させる、寡黙な王だ。政治は堅実で派手さはないが、民の評判は良い。


「で、どうした? 結界の件か?」


 そして周りくどい事が嫌いだ。シュウとしては話が早くていいが、注意が必要だ。


「はい、その通りでございます」

「では報告せよ」

「は……」

 どこまで伝えようか。実は未だにシュウは迷っていた。


 グルニアが小さく笑う。


「どうした、宰相が居なくなったのを見計らって来たのだろう。奴には聞かせたくない話なのではないか」


 お見通しな訳だ。シュウは覚悟を決め、花夏の存在、他国の介入の可能性について全て報告した。この王にはやはり誤魔化しは効かない。


 ただし、ヤナの魔法の事だけは省いた。あまりにも、それは危険過ぎて。


「……成程、異世界から来た少女か」

「極々普通の人間です」


「そうか? お前が婚約用のかんざしを贈った相手がいると聞いているぞ。その者の事ではないのか?」


 誰が陛下にまで噂をばら撒いた。


「いえ……まあ、そうですが、そういった目的ではなく」


 ごにょごにょ。自分で撒いた種ながら、ここまで話が大きくなるとどう対処したらいいか分からない。


「陛下。私の事はいいのです!」

「成程、その少女を構って欲しくないのだな、分かった」


 そう言ってニヤリとする。ああ、もう。シュウは頭を抱えたくなった。


「何者かがその少女を異世界から連れてきた。その際の反動で、我が国の結界にヒビが入ったのではないか、との推測だな」


 話を戻してくれた。有難い。


「はい。恐らく、ラーマナ山脈付近の結界の薄さが影響してこの地に引き寄せられたのではと」


 グルニアが手で顎を触る。


「成程な。……それで、お前は私に何をして欲しいのだ?」


 これまた直球だ。


「はい。昨日、部下の者が結界の張り直しについての過去の文献を発見しました。同じ王による結界の張り直しは問題がないとの記述がございました」

「では、他国の介入がある前にばれぬようさっさと結界を張ってしまえばよいのだな」

「はい……あの、陛下、そんな簡単で宜しいのですか?」


 普通、もう少し疑うとか何とかあるのではないだろうか。


 グルニアが口の端で笑う。


「お前の日頃の働きはよく知っている。食えない者としてな。そんなお前が、異世界の存在など鼻から否定しそうな頭の硬い宰相が居ぬ間を狙って、わざわざ結界の張り直しを進言してきた。信じる理由としてはそれで十分だろう」

「陛下……」

「どこの国だかわからないが、痛くもない腹を探られるのは誰でも嫌なものであろう? お前の事だ、結界をさっさと張り直してその少女を早くどこか安全な場所に逃したいのだろう?」


 その為のかんざしだと思ったが、とグルニア。


 全てお見通しというわけだ。余計な策を練らなくて正解だった。


「恐らく、その他国とはお前も想像している通り大国だろう。今のラーマナの力では、恐らく対抗できぬようなな。その異世界の少女をこちらの手に納めたとして、振り回されて国土に悪影響が出るのがオチだろう」

「……仰る通りでございます」


 本当にこの王は食えない。


「ですので、大っぴらに結界を張り直すのは避けていただかねばなりません。ただ、その準備に必要な宰相殿のお力を如何にしてお借りしようかという点で案がありませぬ」


 結界の張り直しは祭事のため、神官の立ち会いが必須となる。祭事の手配は宰相の仕事だ。宰相に動いてもらわねば物事が進まない。が、そのいい言い訳がどうしても見つからない。祭事イコール国家での盛大な1大イベントとしてしまう宰相だけに。


 すると、グルニアがあっさりと言った。


「なに、それなら簡単だ」

「陛下?」

「先日の宰相の失態についてはお前も勿論聞いているだろう?」

「はあ、まあ……」


 何の話だ? 読めない。


「私は妃に頭が上がらなくてな。それに時期も頃合いだ。そろそろ宰相にはご退陣いただこうかと考えていたところでね」

「は、はあ……」

 宰相が首? そうなるとその後釜の人選によって変わる。

「まだわからぬか?」

「え? はあ」


 先程から間抜けな返事しか出来ていない。

 

 玉座の上からグルニアが溜息をついた。


「その程度の推察力ではこの先が思いやられるな。今からお前が新しい宰相だ。そうすれば祭事も大事にならずに済むだろう?」

「……え?」


 グルニアが立ち上がって声を張り上げる。


「誰か、此処へ!」

「陛下、如何されましたでしょうか!」


 表で控えていた衛兵が飛び込んでくる。


「たった今、国土調査隊隊長シュウ・カルセウスを宰相に任命した! 現時点を以て前宰相には退陣してもらう! 国土調査隊の次期隊長についての人選は追って決定する! 直ちにこの件を通達し然るべき手続きを取るように伝えよ!」

「は!!」


 衛兵たちが、慌てて王宮の事務官たちの元へと駆けて行った。


「え……えええええ!?」


 ポカーンと口を空けて固まっていたシュウが、ようやく頭の中の回路が繋がって声を出した。


 王が階段を降りてシュウの前に立つ。


「立て、カルセウス」

「……は」


 王命だ。シュウは立ち上がり、目線がほぼ同じ高さの王の茶色い目を見返した。


「これからは、お前の立ち位置は私の後ろだ。その意味は分かるな」


 背後を任せるということだ。グルニアと同じ目線で国政を見渡すということだ。


「陛下……」


 これはもう、決定事項だ。覆ることは、ない。


 グルニアが、滅多に拝むことが出来ない満面の笑みでシュウに言った。


「腹を括れ。お前はもう逃げられん」

「――御意」


 こうして、シュウは予想もしていなかった大抜擢によって一気に宰相の地位まで昇り詰める事となったのだった。







 翌朝の国土調査隊執務室。

 ユエンとサザが、シュウを責めていた。


「隊長! どういう事ですか!」


 とはユエン。怒っている。それは仕方ないかもしれない。シュウだって同じ事をされたらとりあえず怒る。


「僕たち、楽しくもない宰相さんの過去の栄光話を延々、延々と聞かされてたんですよ!」


 とは、半泣きのサザ。


「いやほんと、申し訳ないと思ってるよ」


 でもわざとじゃないし。


「なにしれっと宰相になってんすか! 大変だったんですよあの後!」

「あ、やっぱり?」

「城から来た事務官がそれまでご機嫌だった宰相さんに首を言い渡した瞬間、泣くわ暴れるわで」


 あの爺さん、泣いたのか。 


「隊長が新しい宰相になるってんで、一緒にいた俺らまで疑われて!まあ俺たちも驚いてたんでそこの誤解は解けたみたいですけど」


 誤解が解けたならよかった。 


「いや、僕は打ち合わせ通り陛下に進言しに行っただけだ、誓って他意はない」

「そんなん分かってますよ! フラフラするのが好きな隊長が宰相に成りたがる訳ないのは分かってんすよ!」


 フラフラとは失礼な。


「いやーもうなんか断れなくって」

「当たり前です!」

「宰相断ったら後がないですよ!」


 要するにただ愚痴りたいだけのようだ。


「で、隊長、いつから異動になるんですか?」


 ひとり落ち着いているロンが尋ねる。昨日の騒ぎに巻き込まれなかった為、比較的冷静だ。


「爺さんの私物が山のように溜まってるらしいから、それを運び出すのが明日明後日とか言ってたな。だから部屋が空になってからだね。こちらの整理も終わってから次に顔出せばいいって陛下に言われたよ」

「つっても早く結界張りたいですもんね、悠長な事は言ってられないですね」


 少しは怒りが収まったのか、ユエンが冷静な意見を述べる。


「それで、国土調査隊の次の隊長の任命を一任されて」

「サルタスでしょう」

「サルタスさんっすね」

「サルタスさん怖いけど隊長よりしっかりしてますもんね」

「……お前らな」


 迷いひとつない。サルタス、決定。


「で、隊長補佐なんだけど」

「サルタスの補佐なんていります?」

「俺怖いから嫌だよ」

「僕はまだ若輩者ですから」


 全員見事に否定。おい。


「誰かサルタスを助けてあげましょうね……」

「じゃあ順当にいってロン」

「そうですね、ユエンさんじゃサルタスさんの血管切れそうですし」

「お前も言うねえ」

「えー私ですか……怖いなあ」

「じゃあ補佐はロン、と。次、人員確保について」


 隊員が純減するとなると、任務に差し支えが出てくるのでここは早急に補填せねばならない。


「あ、いいのいるかも」

「え? どこのやつ?」

「僕の同期なんですけど、旅が好きなやつで旅行に行けないからってこの間騎士団辞めようかなんて言ってるのがいます」

「騎士団なんて滅茶苦茶エリートなのにアホだねえそいつ」

「腕は立ちますよ。頭も悪くないんですけど、とにかくジッとしてられないみたいで」

「旅好きならうちにピッタリだな。よし、今すぐ勧誘に行こう」

「僕だけじゃ無理ですよ~騎士団怖いし」

「隊長あそこの団長と仲いいですよね、さ、行きましょう。ほらサザ、お前も来いよ、顔わかんねーし」

「ですよね。あ、じゃあロンさん書類の残りお願いしますね」

「おい、サザ……ユエンも……おーい」


 一同は勝手に話を進めると、ロンを執務室に置いて騎士団のいる執務室に向かった。








 国土調査隊の執務室は城の右塔にあるが、王宮騎士団の執務室は左塔の更に奥にある別棟の中にあり、かなり遠い。別棟の更に奥に訓練場がある。


「隊長、すっげー見られてますよ」

「今をときめく人ですもんねぇ」

「お前ら、何楽しんでるんだ」


 城の内部にある長い渡り廊下を行くと、すれ違う者が皆シュウを見てひそひそと噂する。


「若造に何ができるって遠巻きに見られてるんだよ、いいものじゃないよ」

「僕から見たら十分おじさんですけどねー」

「はは、確かに」


 こいつら、シュウが宰相になったこと忘れてないか?


 カツカツ歩きながら、小声で2人に伝える。


「……いいか。これから先、お前らに色んな奴らが寄ってくるようになる。簡単に気を許すなよ」

「まあ大出世ですもんねぇ」

「自分たちの宰相の性格がこんなんだって知ったらひっくり返りそうですけどね」

「本当お前ら口が減らないな……いいか? 僕らがいつまでも繋がっているとなると、便宜を図ってほしいという人間がお前らに群がる。調査には不要な人間だ」

「縁が切れてるふりしろってことですよね?分かってますって」

「僕、人を信じられなくなるの怖いんで、とりあえず誰にも近づかないでおきます」

「……まあお前らなら大丈夫かね」

「散々鍛えられましたからね」

「サルタスさん怖いですし」

「……」


ようやく左塔の入り口に着いた。曲がって更に奥へ進む。


「というか、隊長の方こそ気を付けてくださいよ」

「独身ですからねぇ」

「……それは面倒だな」

「かんざしの彼女と結婚しちゃえばいいのに」

「え?あれって振られたって僕聞きましたよ」

「あの、彼女じゃないし」


 まあ振られたようなものだけど。


「え? 違うんすか?」

「ヤナのお姉さん的な位置づけだから、そういうんじゃないから」

「なんだ、つまらない」

「僕はいいから。そういうお前らこそ気を付けろよ」

「俺もう婚約してますし」

「僕もこの間お見合いさせられて」

「隊長も早く再婚した方がいいですよ」

「ロンさんも結婚してますしね」

「サルタスさんは一生結婚しなそうだし、やばいの隊長だけっすよ」

「やばいって……」

美人局つつもたせ的なのにひっかからないようにして下さいよ」

「あー隊長案外簡単にひっかかりそうっすよね」

「美人局って分かってて自分なら大丈夫とか言いそうですよね」

「あーやりそう」


 あははは! とすぐ横にいる元上司をからかって楽しそうに笑う元部下たちに、シュウは深い深い溜息をついた。


「ほら、無駄話はおしまいだ」


 突き当たりに騎士団の執務室の重厚な扉が見えてきた。


「お前行け」


 ユエンに指示する。


「ひと遣い荒いですよ隊長。あ、元隊長か」

「どちらでもいい」

「はいはい――失礼します!国土調査隊のユエン・オルダンです」


 ドンドン! と騎士団の執務室の扉を叩き、そのまま返答も待たずに開けた。


「入りますよ!」


 遠慮もくそもない。


「あれー? 訓練場かな?」


 ユエンの後に続いて中に入ると、誰もいない。


「じゃあ訓練場に行ってみますか」


 いったん執務室を出て、部屋の脇の通路を更に奥に行く。格子状になったガラス窓には、雪景色。


「あー降ってますねえ」

「サルタスさんいると暖かいんですけどね」

「お前らサルタスをカイロ代わりに使うんじゃないよ」

「たまにですよ、たまに」

「サルタスさんも結構嫌がらないし」

「全く……」


 にしても、サルタスともしばらく会っていない。サルタスの事だから何事も卒なくこなしているだろうが、他の3人とはうまくやれているだろうか。


「サルタスさん、次会えるのはいつですかね」

「隊長が宰相になった事も知らないですもんね」

「春には会えると思うけどな」

「早く知らせてあげたいですけどね……と、いましたよ」


 訓練場への扉は片方開いたままで、訓練場の様子が窺える。


 雪の中、剣を振るっている団員たちが見える。


「うひゃー元気だなあ」

「おい、お前が言ってたその旅行好きっているか?」


 ユエンがサザの肩に腕を乗せて言う。


「重いですよユエンさん。……あ、いました、あそこあそこ」

「どれだよ」

「あれです、あの槍持ってる、今打ち込んでるあれ」


 ユエンが目を凝らす。サザが指差している方で槍を得物としているのは、ひとりだけだ。

 金髪の長い髪を後ろで三つ編みにしている。


「おい、ありゃ女じゃないか」

「僕男だなんてひと言も言ってないですよ」

「女で国土調査隊、出来んのか?」

「多分ユエンさんよりは強いですよ」

「強さだけじゃなくて、調査とか長いこと潜伏したり風呂入らなかったりあるだろ?」

「多分、ユエンさんより精神面も強いですよ」

「だからなんで全部俺基準なんだよ」


 キリがない。


「サザ。彼女の名前は?」

「リーンです。リーン・マルタ。僕と同期なので18歳」

「分かった」


 シュウが訓練場に一歩踏み出す。周りを見渡すと、目的の人がいた。向こうもシュウに気づき、手を軽くあげる。


「やあ、カルセウス殿。先日は失礼した」

「いえ、アリエンタール殿、こちらこそ大変失礼を致しました」


 シュウはヨル・アリエンタールがいる場所へ移動する。


「訓練中に申し訳ない」

「いや、問題ない……が、貴公がここに来るのは珍しいな。いかがされた?」


 異動の件は耳に入っている筈だが、あえて騒ぎ立てないのが彼のいいところだ。


「僕の異動で人員が足りなくなりまして」

「ほう? 騎士団の者に候補がいるのか?」

「部下の同期に旅行好きがいると聞きまして」

「旅行好き? ……ああ!」


 手をぽん、と叩いて納得の様子だ。


「彼女の事かな?リーン・マルタ」


 後ろでサザがそうそう、と頷いている。


「そのようです。訓練中に申し訳ないが、お話させていただくことは出来ますか? 出来ればアリエンタール殿にもご同席いただきたいのですが」


 厳つい顔で頷いて、ヨル・アリエンタールはリーンを呼んだ。


「リーン! お前に客人だ!」

「え、はーい!」


 リーンがすぐさまこちらに向かってくる。


「ここは寒いだろう、執務室にて話そう。――お前たち、引き続き鍛錬を行なうように!」


 は! という騎士団員の返事を背に、一同はその場を後にした。


 訳もわからず呼ばれたリーンというまだ若い女性団員は、ヨルとシュウの後ろからとりあえずついてきている。サザとヒソヒソ喋ってるのが聞こえる。


「どうしたんだサザ?なぜ国土調査隊が私を」

「まあまあ」

「なんだそれは」

「まあまあ」

「本当お前はいつも勝手だな」


 ため息をつかれている。勝手なのは国土調査隊の特色かもしれない。基本皆我が強く、やりたいようにやる。


「かもねー」

「……全く」


 聞いても今は無駄と悟ったらしい。静かになった。


「中へどうぞ」


 執務室の扉を開けて、シュウたちを招き入れる。「あそこがいい」と、奥にあるテーブルを挟んで向かい合ったソファーへ促した。


「失礼します」


 ユエンとサザは軽く会釈をしてからシュウに倣って着席する。ヨルとリーンは反対側に着席した。


 シュウはリーンを観察する。若干きつそうな顔立ちだが、なかなかの美人である。そこまでお洒落に拘ってはいなそうで、よく見ると爪の間に泥が挟まっている。肌はよく日に焼けていて、健康そうだ。


 ヨルが切り出す。


「で、サザくんだったかな?君が彼女を推薦したのかね?」

「はい、旅行好きと本人から聞いてまして」


 いきなりヨルに名指しされても動じない。何事にも基本動じないのも国土調査隊の特徴だ。


「旅行好きというよりはあれだが……リーン、国土調査隊に1名空きが出たそうだ。そこに君に来てもらいたい、と仰っているがどう思う?」


 寝耳に水だ。リーンは驚いた顔をしている。


「国土調査隊って何するところですか?」


 まあ、あまりメジャーな隊ではない。しかしサザから何も聞いてないのか?


「簡単にいうと、国のあちこちで起こる問題の解決のため各地に派遣され、自身の力で解決し帰ってきて報告をあげるのが仕事だ」


 途端、リーンが目を輝かせる。


「各地に派遣……! 私、事務要員だったら嫌だなと思ってたんですが……野営とかします?」


 野営? 旅行好きではないのだろうか?


「野営、バンバンしますよ。風呂に何日も入らないとかしょっちゅうだし」


 ユエンが口を挟む。脅しているのだろうか。でもまあ事実は事実、誤魔化しても仕方ない。


「正直女性にはあまり向いてない職場かもしれないですね」


 これが耐えられないのであれば、やはり無理だろう。シュウが半ば諦めかけていると。


「私……狩猟にハマってまして!」


 身を乗り出してきた。


「自分で仕留めた動物をさばいて調理して食べる、あの瞬間がもう……!」


 サザが推薦するくらいだ、変わり者であって然るべきだった。


「大物相手だと何日も森の奥で追いかけっこしたりするのもまた醍醐味で! お風呂なんてもう全然気にならないんですよね!」


 語り始めた。


「あの、野営だけじゃなくて調べ物するのに何日も王宮図書館に籠ったりもありますよ」


 ユエンが他の側面も説明する。確かにここひと月は図書室に籠もっていた。


「私、特技がありまして!」


 乗り出したまま続ける。


「1度目を通した本の中身は忘れないんです」

「それはすごい」


 目をキラキラさせて語る語る。


「なので、森でじっと待ってる時とかは頭の中で本の頭から読み返したり考察したりしてます!本は大好きです!」


 成程、大分変わり者だ。


「カルセウス殿、如何かね? 向いてそうか?」


 シュウが深く頷く。向いている。恐らくシュウ以上に。


「リーン、君はどうだ?」


 ヨルがリーンに尋ねる。部下に本人の意見を当たり前のように聞く事ができるのが、この人の素晴らしいところだ。


「団長、いいんですか!?」

「あ、ああ、君が行きたいなら」


 リーンが立ち上がって全身で喜びを表現する。


「やっっった―――! 団長には申し訳ないんですけど、騎士団ってみんななんか特権意識持ってるし趣味合う人いないし王宮入り浸りだし、正直私の肌には合わないというかその」


 なんとも素直だ。そしてこの遠慮のなさ。


「では、早速明日から宜しく頼む」

「朝執務室に伺いますね!」


 握手を交わし、シュウたちはその場を後にする。


「ほらー隊長、言った通りですよね?」

「サザ、お前見る目あったんだな」

「だって類は友を呼ぶじゃないですか。ピーンと来たんですよね」

「お前と一緒にするな」

「ユエンさん酷いなあ。隊長は分かりますよね?」

「えーと」


 などと賑やかに話している。扉がパタンと閉められて、空間に残されたのはヨルとリーンのみ。



「……団長」

「なんだ」

「あの方が新しい宰相ですよね? 随分お若い方だし部下にも舐められてるというか……大丈夫なんですかねえ」


 なんというか、畏怖のようなものをまるで感じさせない柔らかさというか。そんな雰囲気の人間に務まる職なのだろうか。


 怒っているような顔が普段の表情のヨルが、いつものその表情でリーンに言う。

「お前もまだまだだな」

「?」


 リーンは疑問顔だ。


「あの男は強い」

「そうですか?あんまりそうは見えなかったんですけど」


 緩い感じしかしなかったが。ヨルが続ける。


「あの男は、大事な物を1度失った。その恐怖を知り、それを乗り越え今ここに立っている。もう2度と大事な物を失う気はなかろうよ」


 その強さの意味はお前にはまだ分かるまいが。


 ヨルが小さく言う。その内容に、リーンは一瞬、鳥肌が立った。何か大事な事を言われた気が、した。


「明日からお前は国土調査隊隊員だ、必死で喰らいつけ。でないと振り落とされるぞ」

 厳つい顔をにかっとさせる。リーンは姿勢を正した。


「承知致しました!」


 この団長に強いとまで言わしめる男が育て上げた隊だ。面白いに決まってる。


 明日からの新しい日常に、奥底から湧き上がる高揚感を抑えられないリーンであった。

いかがでしたでしょうか?

そして調査隊に新メンバー入りました!やっぱり変わり者です。


次回『新布陣』は明日(2020/9/10)更新予定です。宰相になったシュウさんの新たな部下とは…


お楽しみに!

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[良い点] Twitterで応募をかけさせていただきました。蛙鮫です。とりあえず20話まで読ませていただきました。戸惑いながらも異世界がなんとかやっていこうとする花夏ちゃんがなんとも健気で良い。あとヤ…
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