始まりの始まり
続きです。
どう繋がるのかまだシステムを理解してませんが、うまく投稿できることをいのってます。
※思っていることを()に入れました。若干修正してます(2020/8/25)
※微修正しました(2020/8/31)
※一人称訂正しました(2020/9/17)
※半角、三点リーダの修正を行いました(2020/10/19)
ガタガタガタ!
風が木造の壁を叩き、窓の隙間から風が吹き込む。
「おばあちゃん、また隙間が広がってるよー。だから朝言ったのにー」
6歳の孫娘のヤナが、私に言う。
ハルナ・カルシアン、50歳。
夫のシェスリーが崖から足を滑らせて死んだ後、この山の麓にある、町から徒歩で3時間という世間から離れた土地でずっと一人で暮らしていた。
嫁いで町で暮らしていた娘のセリーナが、馬車の事故に巻き込まれて亡くなるまで。
その時、ヤナはわずか3歳。
セリーナの夫のシュウは、仕事があるのでひとりでは子供の面倒を見切れないと、ヤナをハルナに預けてきた。今では、数ヶ月に1回会いに来るかどうか。
セリーナの一生は、果たして幸せだったのだろうか。
ふと考えることもあるが、今更本人にも聞けないが、ヤナと同じ能天気な性格だったから、きっと本人は満ち足りていた……と思いたい。
「おばあちゃん、雪降り始めたら入ってきちゃうよー。あ、でもお家の中に雪だるま作れるかな?」
なんともヤナらしい発言だが、家の中に雪だるまは困る。
「建て付けが悪くなったね。明日、直すのを手伝ってくれるかい?」
よっこいしょと立ち上がり、木製の雨戸をいったん開けた。
『ドサン!!!』
基本何事にも動じないハルナだが、心臓は若干飛び跳ねる。
すでに闇は深いが、窓からほのかに照らす光で音の発生源は確認できた。
(人だ。人が空から落ちてきた。長い髪の……ズボンを履いている。男か? 意識を失っているのか、全く動かないが、まさか……死んでいる?)
「おばあちゃーん、どうしたの? 誰かと睨めっこでもしてるの?」
いつの間にか近くに寄り窓をピョコピョコ飛んで覗こうとするヤナ。
何故こんな人がいない山の麓で何もない空から人が落ちてくるのかはさっぱり分からないが、とりあえず生きてるかの確認はすべきだろう。
「ヤナは家に居なさい。私が見てくるから」
なにがどうなっているのか分からずヤナはピョコピョコを繰り返していたが、それを横目に表へ出る。後手で扉を閉める。
外は、かなり寒い。もう冬も間近に迫ってきているのだろう。ハルナは、例の人間が横たわっている枯れてきた草むらへ向かった。
目を瞑った横顔が見える。
少し変わった顔立ちでこの辺りでは見かけない風だが、綺麗な顔をした若い娘だ。長い黒髪が地面に広がり、まるで黒いローブのよう。服装は見たことのない上下分かれたものを着ている。男物だろうか。
(男物を着ないといけない理由があったのだろうか……?)
女の子が「ううん……」と顔を歪ませた。
(いけない、安否を確認せねば!)
魔物でもなさそうなので心の中でほっとひと息つき、そして急いで女の子の元へと駆け寄った。
「おい、お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
肩を揺すってみる。すると、顔をしかめながらも女の子が目をうっすらと開けた。
『……ココハ?』
ハルナは目を見張った。
なにを言っているか分からない。これはもしや、噂に聞く……外国人だろうか。
こんな辺境のど田舎ではお目にかかれない人種だ。
『う……』
体が辛いのか、目を閉じて顔を歪ませる女の子。
外は寒い。相手は女の子、しかも怪我をしている可能性がある。
(何をためらう必要がある、ハルナ!)
頭をブンブンと振った後、ハルナは女の子に声をかけた。
「あんた、大丈夫かい?とりあえずうちに入りな。怪我がないか確認しよう」
目線が定まらない女の子の腕を掴み、一気に持ち上げる。申し訳ないが女の子をズルズル引きずり、家のドアを蹴飛ばして開けた。
「ヤナ!客人だよ! ベッドを空けてくれるかい!」
たまに町へ出る以外他人を見る機会などないヤナだが、さすがハルナの孫娘。動じることなく、「お客さんだねー! わかったよー」と自分の寝室までの道をすぐに開けてくれた。
ヤナが掛け布団を剥ぎ、ハルナを待ち受ける。
「よいしょ! っと」
ドサ! と少し乱暴にはなったが女の子をヤナのベッドに寝かせた。
「ふうー。ヤナ、タオルと、水を張ったタライをお願いできるかい?」
人間一人運ぶのは、この年では辛い。息が上がってしまった。
ハルナの言葉に、ヤナは「はーい」とニコニコしながら元気に返事をすると、炊事場へと駆けて行った。
ヤナの部屋の小さな椅子に腰掛け、女の子の様子を伺う。
見たところ大きな怪我は無さそうだが、とにかく顔色が悪い。まるで酔ったかのように顔色が真っ白、唇は紫だ。所々、煤のような汚れが付着している。
顔を近づけてみると、小さな無数の手形のように見える。
この子に、一体何があったのか。
分からない。起きても、言葉も通じないかもしれない。だから、ハルナは自分の直感を信じることにした。
私が助けたいと思った。ならばこの子は助かるべきだ。実際はどんな子であろうとも。
「おばあちゃーん、持ってきたー」
ヨタヨタと、お願いしたものを持ってきたヤナがハルナに声をかける。
「お姉ちゃん……だね、どうしたんだろうね、苦しそう……」
床にタライを置き、少女のほっぺを人差し指でツンツンしている。
「こら、ヤナ、やめなさい」
笑う状況ではないだろうが、ヤナの能天気さについ笑みが洩れた。
(全く、この子は本当に……)
タオルを絞り、汚れを優しく拭っていく。汚れはすぐに落ちた。これならすぐに綺麗になるだろうと、洗い絞り綺麗に拭いてゆく。
始めは冷えていた皮膚が、少しずつ赤みを帯びていく。気持ち顔色も良くなったように見える。
穏やかな寝息が聞こえてきた。
怪我の確認もし、特に怪我も無さそうなので、布団をそっとかけてヤナを小声で呼んだ。
「ヤナ。今夜は私のベッドで一緒に寝よう。済まないね」
ささーっと自分の部屋を出たヤナは、精一杯の小声で
「おばあちゃんと一緒、嬉しいなー」
とニコニコ顔で見上げてくれた。
我が孫ながら、なんて可愛いんだろう。
普段はなかなか思うように笑顔も出てくれない鉄面皮のハルナだが、この時ばかりは満面の笑顔になり応えた。
「ようし、おばあちゃんがヤナが一番好きなお話をしてあげようか」
わーいとヤナが喜び、どのお話にしようかなー?あれでもないこれでもないとウフフフしている。
これを機に、少しヤナとの触れ合いも増やそうか、と思うハルナだった。
どこにたどり着いたのか、次回より順繰り書いていきます!