素敵な王妃様
「一体何事なのかしら?」
声の主へと目を向けると、王妃様とお母様がゆったりとこちらにやって来た。
「どうやらリアム達が囲まれているようですよ」
「そうそう。僕は無事に逃げられましたけどね」
他人事のように報告する二人。まあ、実際他人事なのだけど。
「あらあら、困ったわね」
にこやかな王妃様。全然困った感じがしない。
「ルークはなんとかしないの?」
「私が止めに入ったら、今度は私が標的になるだけですので」
すごい爽やかな笑顔で言った。
「んもう、仕方ないわね」
王妃様は面倒という顔で近くに寄って行く。
「あなた達、一体何をなさっているの?」
大きな声を出した訳でもないのに、とてもよく通る声で辺りに響いた。
あんなに騒がしかったのが嘘のように静まり返る。
皆、一様に青い顔で固まっていた。
「綺麗な花々が一つの所に集まってしまっては、美しさが埋もれてしまって勿体ないですよ。それに、ここに集まっているのは伯爵家以上の、仮にも高位といわれる貴族の集まり。子供といえど、王家で開かれているお茶会でこのような失態は後の恥になりますよ」
優しく諭すように言う王妃様。やっぱり素敵な方だ。
固まっていた令嬢たちは「申し訳ありません」と謝りながら元の席へと戻っていった。
「さ、これでまたゆっくりお茶出来るわね。それで、あなたはラッセリア家のお姫様かしら?」
いきなり私へと話がシフトする。
「はい、エレノア・ラッセリアです。王妃様に置かれましてご機嫌麗しゅう」
「ふふ、ご丁寧な挨拶をありがとう。やっと会えたわ。魔力制御、頑張ったのね」
「はい、ありがとうございます」
「王妃様、立ち話もなんですからお席に座っては?」
お母様が言うと
「では、ここに座りましょう。さ、エレノアも座って。ソフィアもよ。あなた達もそのまま座ってらっしゃい」
気が付けば、この席だけすごい豪華な面々になっていた。
王妃様に二人の王子、お母様にイケメン三人。周辺の席はざわざわと落ち着かないようだ。
「エレノアは髪と瞳の色以外、ソフィアにそっくりね。とっても美人さんだわ。ねえ、良かったらうちのどちらかと結婚してくれない?」
「はい?」
「こんな可愛い娘が出来たら嬉しいのだけど、どうかしら?」
どうかしら?と問われてもどうなのでしょう。思わず二人の王子を見てしまう。
リアム殿下はピキッと固まってしまっている。
ルーク殿下は……楽しそうだ。
「もう王妃様ったら。気が早いですわよ。この子は今日が初めてのお茶会デビューなんですから」
「だからこそじゃない。こんな可愛らしい子、すぐに求婚者で溢れるわ」
「母上、そのくらいにしてください。エレノア嬢が困ってしまっていますよ」
ルーク殿下が窘めるように言った。
「だあって、あなた達ったら一向に婚約者を決めようとしないし、こんな可愛い子がいるのに口説かないなんてありえないわ。私が男だったら絶対に口説くわよ」
「まあまあ、その辺は追々ですよ」
そう言って人差し指を口元に当て、ウィンクするルーク殿下。
その反応に、王妃様はガッツポーズをし、お母様はあらあらなんて言っている。
「エリーをこんな腹が真っ黒のやつなんかにやるわけにはいかない」
エルは自分そっちのけで息巻いている。
「エレノア、今度は私の個人的なお茶会にいらっしゃいな。ソフィアと三人で仲良くおしゃべりしましょ」
そう言って優しい笑顔を向ける王妃様。
「ふふふ、じゃあ今度は女だけのお茶会ですわね」
お母様も笑っている。
「そこには飛び入りで参加は受け付けてくれますか?」
ルーク殿下が聞くと
「それはその時次第よ」
王妃様は少し意地悪っぽく言う。
「では、とびきりのお菓子を持って参上しましょう」
「それは楽しみにしているわ」
こうして、私の初めてのお茶会は終わった。