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ルーク殿下

 たくさんの鳥たちの鳴き声で目が覚める。

目を瞑るだけのつもりが寝てしまっていたようだ。


「鳥たちに囲まれながら眠るなんて、童話に出てくるお姫様のようだね」

いつの間にかすぐ傍に、リアム殿下ではない、もう一人の王子様が立っていた。

「申し訳ありません」

慌てて立とうとする私に、やんわりと座っているように促す。


「君はエレノア嬢だね。初めまして、私はルーク・ランカスター。この国の第一王子だよ」

「ラッセリア侯爵家長女、エレノア・ラッセリアでございます」

「こんな所で一人とは……何かあったのかい?」

「いえ、少し人に酔ってしまって、リアム殿下に聞いてこちらの四阿で休ませて頂いておりました」


「そうか、具合は良くなったのかな?もしまだ駄目なようなら城の中で休んでもらった方がいいかもしれないね」

「いえ、そんな滅相もありません。もう大丈夫です」

「本当に?それでも起きたばかりだし、もう少しここで休んでおいで」

そう言いながらルーク殿下が隣に座る。


眩いばかりの金の髪にサファイアのような真っ青な瞳。エルも相当なイケメンだと思っていたけれど、ルーク殿下も負けないくらいイケメンだ。私より三歳ほど年上だっただろうか、背も高く大人っぽい。


「エレノア嬢は今回が初参加だよね」

「はい。ずっと魔力制御の訓練をしておりましたので」

「と、いう事は、制御が出来るようになったんだね」

「はい、やっと出来るようになりました」

「エレノア嬢は凄いね」

頭を優しく撫でられた。


「小さい頃から何年もかけて訓練して体得したんだね。きっと辛い事もあっただろうに。凄いよ」

やらなければ自分も周りも危ないからやっただけなのに褒められてしまった。


家族や家の者たち以外でこんな正面切って褒められたのなんて初めてだったので、思いっきり照れてしまう。

「フフ、真っ赤になって可愛いな」

赤くなっているであろう頬をつつかれてしまった。ますます頬に熱が宿る。きっと真っ赤になっているに違いない。


「実はね、私はずっとエレノア嬢に会いたいと思っていたんだ。エルとはね、彼が5歳の時からの付き合いなんだけど、彼の話題の大半が双子の妹の事だったんだ。

この世のものとは思えない美しさで、庭園で動物たちと戯れる姿は正に天使のようだってね。あとはお菓子を食べている時は妖精のように可憐だとか、魔力の制御を頑張っていてそれを褒めると、はにかんだように笑うその姿はヴィーナスだとか。あとは……」


まだ言おうとしているルーク殿下を慌てて止める。

「あの、もう結構です。ホントに……いたたまれないので、どうかその辺りでお許しください」

顔どころか全身が熱い。これ以上は恥ずかしすぎて死ねそうだ。


「フフ、そう?まあ、とにかく城に来る度に私たちに散々君の話をしていくんだ。君の御父上の宰相殿もね。聞いていくうちに段々と、エルたちばかりずるい、私も会いたいって思うようになってね。だから今は、君を独り占め出来て最高の気分だよ」


そう言いながらルーク殿下が私の手を取ってキスをする。


私の心臓がドクンと、大きな音を立てた。

リアム殿下の時とは明らかに違う感覚。心臓の音がすぐ耳元で聞こえるほど鳴っている。

今度はなに?心臓が壊れちゃいそうなのだけど。

ドギマギしている私を見て嬉しそうにしているルーク殿下。ちょっとエルと同じ匂いがする。もしかするとお腹が黒いかもしれない。


「フフ、これ以上はやめておこうかな。君には嫌われたくないからね」

そう言って立ち上がったルーク殿下は私に手を差し出す。

「そろそろ大丈夫そうだね。私のエスコートで良ければ、一緒に会場に戻ろう」

「はい、よろしくお願いします」

私は素直にその手を取った。


 会場に戻ると、エルたちが座っているはずの席が、色とりどりのドレスで埋め尽くされていて、エルたちがどこにいるのかわからない。

「エル?」


「エリー?」

私の声を聴いたエルが、令嬢たちの輪の中からなんとか逃げ出してきた。


「一体どうしたの?」

「それが俺にもよくわからないんだ。最初に一人の令嬢が目の前ですっ転んでさ。サムが助け起こしたら、図々しくそのまま席に座っちゃって。それを見ていた他の令嬢数人が便乗して寄って来て。あっという間にこうなった」


着崩れた服を直しながらエルはやれやれと溜息をつく。

「それで、その転んでしまった方は大丈夫なの?」

「大丈夫でしょ。もう埋もれて誰かわからないし。ってか、エリーの席に許可も取らず座るとかないよねえ」


「それにしても、外から見てもすごい状況だね、これ。さっきまでこの中に居たなんて……考えただけで怖いよ。エリーが居なくて良かった。ところでエリーはもう大丈夫?本当はすぐ後に四阿へ行こうと思ってたんだけどこれのせいで行けなかった。ごめんね、一人にしちゃって」

頭を何度も撫でながら言うエル。


「ふふ、大丈夫よ。鳥たちが居てくれたし、ルーク殿下も来てくれたもの」

「なんでルーク殿下は四阿に?うちの可愛いエリーに何かしていないでしょうね」

「ははは、何もしていないよ。嫌がるようなことはね」

「嫌がらない事はしたと?」


「もう、何もされてないから」

「本当に?この人は一番油断ならない人なんだからね。気を付けないとダメだよ」

「ふふふ、わかった」

やっぱりこの二人はちょっと似ている。


「それにしても……これどうしようか?」

私たちは未だ散ることのない花々の囲いを遠い目で見ていた。



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