魔王の断罪
王城の地下深く。
湿気臭さと腐敗臭のような臭いが交ざった、まともに息をすることが出来ない程の悪臭漂う地下牢。
「なんでこんな所に入れられなきゃいけないのよ。ちょっと誰かいないの?ここから早く出しなさいよ!」
「どんなに叫んでも誰も助けに来ないよ」
「ルーク!」
「だから名前を呼ばないでって……もういいか、二度と会う事はないし。それにしてもすごい臭いだね。君、よくこんな所にいられるね」
「ルーク、助けに来てくれたんでしょ。ねえ、お願い。ここから出して」
猫なで声で言ってくるのが本当に気持ち悪い。
「どうして?」
「どうしてって、あなたの妃になるアタシを助けてくれるのは当然でしょ」
「君のその思い込みはどうやったらなくせるのかな?」
「無理だと思うよ。この女は前の世界でもこんなだったもん」
私の肩に乗っていたネロが言う。
「そういえば、前の世界でも性格はこんなだったって言ってたね」
「そう。あっちの世界でこの女の傍にいたのも、この悪感情が心地良かったからだもん」
「なるほどね」
「あっちの時はね、真っ黒い髪でブクブクした眼鏡女だった。父親が大臣とかいうのやってて、偉い人だったんだ。親の威光を笠に着てやりたい放題だったよ。父親以外は人とも思ってなかったんじゃないかな、母親さえもね。で、その見下していた母親にめった刺しにされて殺されてた」
「は?そんなわけないじゃない。ママがアタシを殺すなんて」
「君は知らなかったんだ。まあ、ボクも最初の一太刀から見ていたわけじゃないから。ただ、僕が来た時には君に馬乗りになって、何度も刺してるのは君のママだったよ」
「親に恨まれるってすごいね」
「前世の事はもういいわよ。それよりここから出してってば」
「だから無理。君は犯罪者だから」
「あの女の事?死んでないんだからいいじゃない」
「殺しただろ、4回も」
「アタシが殺したんじゃないわよ」
「お前が殺したも同然だろ!しかも俺の弟を使って」
もう王子然としているのはやめた。
「殺す必要のない彼女をなんで殺し続けたんだ?」
「だって、神様が……」
「ボク?ボクがそんな事言うわけないじゃない。エリーのこと探していたのに」
「世界をループさせるには何か切っ掛けが必要って言ったじゃない。だから……」
「はあ?ボクは小さな事でいいから同じ行動をする必要があるよ、例えば想いが叶った時のキスとかねって言ったよね」
「性根から腐ってんだな」
「あれ?ところで魔王様、なんで弟が殺したって知ってるの?」
「魔王言うな。知っていたんだ、この世界がループしてるって。正確に言えば途中で気が付いた。二度目の時に、なんとなくデジャブのように感じる事が多々あって、でもその時はなんとなく違和感を感じるだけだった。
三度目にそれは確証に変わった。そして三度目に初めてエレノアを見つけたんだ。それまでは話にしか聞いていなかった。魔物を呼び寄せた魔女ってね。
だけど、全然魔女なんかじゃなかった。その時はエルが君の相手だった。今まで溺愛していた妹を突然、親の仇でも見るような目で見るようになって冷たい態度をとるようになっていた。
四度目のサムの時もそうだ。突然、エリーへの態度が変わるんだ。今考えれば、そのゲームとかってやつの何らかの力が働いていたんだろう。なんとかエリーを助けたくて行動すると、どういう訳なのかエリーから離される。突然隣国に留学させられるんだ。どんなに父に進言しても全く聞き入れてもらえない。あれもゲームってやつのせいだったんだろう。
エリーを助けられない事が悔しくて、しかも手をかけていたのがリアムだったなんて……どうにもならない感情が渦巻いて気が狂いそうだった。
そしたら五度目に突入だ。しかも今回は今までと違っていた。だってエリーと俺がちゃんと出会えたんだから。だから今回こそはエリーを守って幸せにするんだって固く誓ったんだ」
大きく息を吐く。
「だから、おまえはいらない」
「は?」
「おまえはいらないって言ったんだよ」
「何ですって!?」
「ここはね、老朽化が激しくてもう使われていない牢獄なんだ。近々埋めるという話になっている。それまで生きていられれば助けてもらえるかもね」
「はあ?何言ってんのよ。出しなさいよ」
「ハハハ、そんなに柵をガシャガシャさせたって誰にも聞こえないよ。そもそも周辺に人なんていないし。
「なんなの、あんた。最悪な性格してるんじゃないの」
「君ほどじゃないよ」
「ちょっとそこのカラス!もう一度やり直しさせなさいよ」
「君ってホント、理解する能力が皆無だね。5回で終わりって言ったでしょ。それと、理解できるかわからないけどもう一度ちゃんと言っておくね。君はここで野垂れ死にしようが上手く生き延びようが、この人生が終わればもう終わりだよ。生まれ変わる事も転生することもない。魂が消滅しちゃうからね……これ、君には理解できないかな?」
「理解できようができなかろうが、もうその女には関係ないと思うよ。さ、もうここを出よう、エリーが待ってる。それにしても本当に凄い臭いだ。一度湯につからないとこの臭い、取れそうもないかなあ」
「ボクも洗いたい。魔王様洗ってくれる?」
「だから、魔王じゃないから」
そう話しながら、どんなに怒号やら罵声やらが聞こえても振り返ることなくこの場を後にした。




