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悪魔の呪

「僕はね、いろんなところを旅していた時に、ひょんなことから時空の狭間に入ってしまって、アニー、君の前の世界を覗くことが出来た。君ってば、見た目は今と全然違うけど性格はまんまだよね。そんな君はこの世界によく似た世界のゲームをやっていて、なんだか無性に興味をひかれた僕は、しばらくそのゲームを見ていた。


そして、その中で哀れにも婚約者の裏切りに心が壊れて、国を追われてしまった少女を見たんだ。何故だか僕はとても心惹かれて、不思議な気持ちになった。もしかしたらその少女は本当に居るのかもしれないと、この世界をくまなく探したんだけど見つからなかった。


そんな時だ。ゲームをしていた君が死んだのを感じた。これはもしかしたら面白い事になるかもしれない、あの少女を見つけることができるかもしれないと思って、僕が君をここに転生させた。ただ、どうしてか5回まで転生させろとか変な条件を付ける。お陰で僕の力はすっかりなくなってしまったよ。そのせいで、僕はしばらく地の底で眠らなくてはいけなくなってしまった」


大袈裟に溜息をつきながら語り続ける悪魔。


「だから知らなかったんだ。エレノアが本当にいて、ゲームと同じ状況になってしまったという事を。しかも、ゲームでは国外に追放されてしまうだけだったのに4回も残虐な方法で殺されてしまったという事を……

アニー、君の性格が最悪だったのは前の世界の時から知っていたけど、悪魔のこの僕でもひどいと思う結果をもたらすなんて凄いよ。

まあ、お陰で僕の力は大いに膨れ上がってくれた」


「は?うっさいわね。別にこの女はいらないキャラなんだからいいじゃない。大体アタシが手を下したわけじゃないし」


「そうだね。でもアニー、君が指示したんだよ。笑いながらね。

だからね、5回目に入る前になんとかエレノアを救う方法を考えた。

でも僕は悪魔だから、エレノアを幸せにする方法なんてわからない。一生懸命考えてわかった。エレノアを苦しめるこの世界をなくしてしまえばいいんだって。今なら力はある。なんとか5回目に入る直前、この世界に呪を施した」


優しい笑顔で恐ろしい事を言っている悪魔。

「そして呪が発動するまでエレノアを見守ることにしたんだ。

そしたらね、なんだか僕の知っているゲームと内容が違う。エレノア自身が変わったわけではないけど周りがね。なんだか違う」

そう言って私を見る。


「それに、エレノアがずっと笑ってるんだ。悲しそうな顔も、辛そうな顔もしない。不思議に思ってもう一度行ってみた、狭間の向こうの世界に。

そしたらね、5回目はエレノアの為の世界だったんだ。僕はとても嬉しかった。

だから解呪しようと頑張っていたんだよ。

だけど力が足りなくてどうしても解呪出来ないんだ……ごめんね、エレノア」


すると、今まで日差しで明るかった窓が真っ暗になった。逆に地面が激しく光り出す。足元には模様のようなものが映し出される。どうやら大きな魔方陣が描かれているようだ。魔方陣に反応するかのように地面がグラグラと揺れ出した。


ルークが私を咄嗟に抱きしめる。周りの皆もテーブルやイスにつかまり揺れに耐える。

抱きしめられた状態で私は悪魔に尋ねる。

「ごめんなさい。あなた達のお話に出てくるゲームって何かわからないけれど、どうしてあなたは私の為に自分の力を目一杯使ってしまったの?私はあなたの事を知らないと思うのだけど」


「うーん……自分でもわからない。だけど一目見てなんだかどうしても気になったんだ。この子をなんとかしてあげたいって」

「そうなの……ありがとう。私の事を思ってくれたのは嬉しい。でも私のせいで世界が壊れることは望んでないわ。どうしてもなんとかならない?」


悪魔は目を瞑り、何かを唱える。

「……ダメ、止まらない。力が僕の許容範囲を超えてるみたい。その女の黒い感情が大きすぎた。ごめんね、エレノア。僕の命を捧げてもこの辺り一帯の破滅は止まらない」


「あなたの命を捧げるって?」

「発動してしまった今、解呪するには僕の命が必要なんだ。でも、呪の力の方が強くなってしまっていて、僕の命だけではどうにもならない」

「私は……私はあなたの事を何も知らない。でも、あなたも、他の誰も死んで欲しくない。どうしたらそれは止められるかわかる?」


「わからない。僕の力ではどうすることも出来なくなっちゃった。本当にごめんね、エレノア」

「謝らなくていいわ、私の為だったのでしょ。きっとなんとかできる方法があるはず」

そうは言ってももう呪が発動しているのがわかる。


話している間も地面にはいくつもの亀裂が走り、真っ黒な空には無数の稲妻が走っている。揺れが凄すぎて立っていることも困難になる。このままでは、地面が割れ飲み込まれてしまうか、建物が崩壊し潰されるかだ。


 すると、今までにない眩さで稲妻が光った途端、轟音と共に食堂の窓から見える大木が爆音をたてて裂け燃え出した。

食堂にいる令嬢方が半狂乱で悲鳴をあげる。我先にと入り口に人が動く。しかし、それを阻止するかのように、今度は入り口側の廊下の窓から轟音が鳴り響く。


「私のせいでこんなことになってしまったのに、何もできないの?私は、私はこの世界を壊したくない!」

やり切れない思いで叫んでしまう。


すると

『よく言った!流石、我のエレノアだ』

『うん、流石、私の大好きなエリーね』

私の制服のポケットで、小さくなって寝ていたアステルとテーレが飛び出してきた。


「アステル!テーレ!」

『我らは天地の守護者だぞ。我らに任せろ』

『これが終わったらお菓子一杯食べたいな』

ああ、なんて頼もしい私のモフモフたち。


「うん、帰ったら一杯食べようね。だからお願い、この世界を助けて!」

『当然だ。そのためにはエリー、お前の魔力、我らに全て注げ!』

「うん!」

胸の前で手を組み、祈りを込める。

地面がグラグラと一段と大きく揺れ、よろけてしまうが、ルークに支えられる。


支えられたまま、再び祈る。

次第に私の身体から光が溢れ、その光を受けたアステルとテーレは窓を突き破り、本来の大きさへと戻りながら天へ昇る。


白く美しいドラゴンと白虎は、王都の上空で眩いほどの光を発しながら世界中に轟かんばかりの大きな咆哮を発した。


二匹の咆哮は雷を突き抜け真っ黒な空を突き破り、その向こうにある青い空まで届いた。そこから波紋のように広がった青空は、いつしか黒い空を飲み込んで元通りの美しさを取り戻した。

同時に地面の揺れも収まり、亀裂は何事もなかったかのように消え、発光していた魔方陣もゆっくりと消えて行った。


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