始まったお茶会
何事なのかと騒がしくなっている方を見ていると、艶やかな金髪の美しいご婦人と、同じ金髪の少年が二人登場した。
「王妃様と王子達だよ」
エルが耳元でそっと教えてくれる。なるほど、主役の方々の登場ね。
美しい所作で招待客を見渡すと、王妃様は優しそうな笑顔で
「今日はこの二人の為に来ていただいて本当にありがとう。もう何回か開催されている会ではあるけれど、友情を深めるのもよし、人脈を広げるのもよし、有意義に過ごせることを祈っています。あとは、この二人を貰ってくれるご令嬢方が現れるといいのだけど」
最後は茶目っ気たっぷりにウィンクをして話を締めくくった。とても素敵な人だ。
「さ、これでゆっくりお茶が出来るよ」
エルが次々と私のお皿にお菓子を載せる。どれも見た目からして美味しそう。
お皿の上のお菓子を次々と食べる。はあぁ、美味しい、幸せ。
その様子を見て二人が驚いた顔をしている。
「話には聞いていたけど凄いね。そんなに食べて気持ち悪くならないの?しかも華奢なまま。他の令嬢が見たら羨ましいの一言だろうね」
「昔よりは大分落ち着いたけどね。成人になる頃には収まるらしいけど、魔力維持にはこれが一番なんだって」
そうなのだ。魔力が身体の大きさに見合っていないうちは維持するのが大変なのだ。私の場合は糖分を摂るのが一番いい。自分の大好きな物を躊躇せずに食べられるのは、いいストレス発散にもなるし暴発も防げるし一石二鳥なのだ。
二人の顔が「うへえ」となる頃、やっと私の欲求も満たされてお茶を飲む。濃厚なお菓子にはぴったりのダージリンだ。ゆっくり飲んで人心地つく。
「やっと終わった」
少しぶっきらぼうな声と共に、二人のうちの一人の王子様がやって来て席に着いた。一席ずつ回ってきたようで、この席が最後らしい。
「お疲れ様、リアム殿下」
「リアム殿下、顔の筋肉がひくついてるぞ」
エルとライリーがニヤニヤしながら言う。そういえば第二王子とは同じ歳だった。どうやら仲がいいようだ。
「お前たちもやってみればわかる。人間、ずっと同じ表情をしていると筋肉が固まるんだ」
用意されたお茶をぐびっと飲む。
「ところで君は?」
カップを持ったまま、顔だけこちらに向ける。
「この子はエリーだよ。エルの双子の妹」
「ねえ、ライリーにエリーって呼ばせる許可は出してないけど」
「エルが冷たい!」
立ち上がって挨拶をしようとするが
「いい、堅苦しいのは嫌いだ。俺はリアム・ランカスター、この国の第二王子だ」
「エレノア・ラッセリアです」
「エレノアか、いい名前だ」
そう言って私へ手を伸ばし、私の手を取ると甲に軽くキスを落とす。
途端に私の全身に寒気が走った。えっ、なに?
自分でも分からない不快感。どうにか叫び出したい衝動を抑える。以前にも感じたような気がするが、それがいつなのかどうしてなのか分からない。
いち早く私の異変に気が付いたエルが、心配そうな顔で覗き込んできた。
「エリーどうしたの?具合悪くなった?」
正直に話す訳にもいかず、とりあえず誤魔化す。
「大丈夫、人酔いしたみたい。少しだけここを離れるわ。席を離れる事、お許しください」
皆にそう言って席を立つ。
「その奥に四阿がある。そこならこちらから見えないから休めるはずだ」
リアム殿下が優しく教えてくれた。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」
リアム殿下が言っていた四阿は奥に進んですぐの場所にあった。あちらの会場からは本当に見えないようになっている。ベンチにはクッションもいくつかあり、私はそっと座って目を瞑った。先程のリアム殿下との事を考えるが、全く原因がわからない。わからないけれど思い出すだけで嫌な汗が出てくる。
リアム殿下に会ったのは初めてのはずだ。決して知っている人ではない。それなのに触れられた時に感じたのは恐怖や絶望感。どういう事なのだろう。
懸命に考えてみるが全く分からない。
「考えても仕方ないかな」
私は早々に、考えることを諦めた。正解が出ないものを考え続けるほど無意味なことはない。何かの拍子にわかるかもしれないし、今はその時じゃないという事だ。
「それにしても少し離れただけなのに、ここの空気は気持ちいいな」
気持ちを切り替えるように大きく息を吸い込む。いくらか気分が和らいだ。
すると、何羽かの鳥たちが集まってきた。
私のテイマーとしての能力は、使役することが全てではない。大抵の動物となら意思疎通が出来るのだ。この力のお陰で、屋敷から出られなくても寂しい思いはしなくて済んでいた。
四阿を囲むように色とりどりの鳥たちが、思い思いの場所で休んだり、毛繕いをしたりしていた。
「皆、少しだけ目を瞑っているから誰か近づいてきたら教えてくれる?」
そう鳥たちに聞くとチチチと鳴いて返事をしてくれた。