花祭り
「か、可愛すぎる」
若草色を主体に色とりどりの花が飾られたドレスに身を包んだ彼女のなんと美しい事か。本来なら、髪にも花々を飾り立てるのだが、彼女だけは金のティアラを着けている。
今日は花祭り。これから王族も交えてのパレードが始まる。
俺とエリーは一番前のフロートで婚約発表も兼ねて二人で乗ることになっている。
父上たちは他の花姫たちと次のフロートに乗る。
「エリー、本当にルーク殿下でいいの?こんな真っ黒な王子でいいの?」
「ああ、私の天使が黒き悪魔に」
さっきからエルと宰相がうるさい。
「俺だってエリーの事好きだったのに。でも兄さんなら仕方ないから許す」
「僕だって好きだった」
「はは、エリーモテモテだな」
「エリー、広場で手を振るからね」
リアムとサム、ライリーにウィロウがそれぞれ私たちに声をかける。
「皆、ありがとう。行ってくるね」
「さあ、そろそろ時間だ。乗り込むことにしようか」
いよいよパレードがスタートする。王城を抜けた途端、たくさんの人たちからの歓声が聞こえた。今年は例年以上に盛り上がっているみたい。
『すごい!街中花で溢れてるわ』
『これは壮観だな』
「本当に。ここからだと、花々で溢れているのがよくわかるのね」
「皆、気に入ってくれたようで良かったよ」
アステルとテーレも一緒にフロートに乗っている。
たくさんの人たちが手を振ってくれたり、声援を送ってくれたりしている。アステルなんて、子供たちに呼ばれると近くまで飛んで行ってあげている。
「殿下、皆、楽しそう。皆に祝福してもらえているようで嬉しい。ありがとう、殿下。私、とても幸せだわ」
「エリーの幸せそうな顔をこんな間近で見る事ができて私も嬉しいよ。あと一つだけお願いがあるんだけど、叶えてくれる?」
「私で出来る事なら」
「言ったね。じゃあ、私の事をルークと名前だけで呼んで」
「そ、それは……」
「ダメ?」
「ダメじゃ、ない…………ルーク」
「なあに、エリー」
ボンッ。また私の顔が真っ赤になった。
すると、殿下の顔も赤くなる。
「エリー、ちょっとホントに勘弁して。ここでそんな可愛い顔されたらキスしてしまうよ」
「なっ」
『魔力が気持ちいい』
『ホントね』
ああ、なんだかとても恥ずかしい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
これは一体どういう事?
花姫には私がなるはずでしょ。なんであの女が花姫になってるのよ。
おまけにルークの婚約者になったってどういうわけ?
全然、話が違うじゃない。
なんの為に隠れキャラが出るまで頑張ったと思ってるの。
ああ、なんで私、ルークをプレイするまで生きていられなかったのかな。
いきなりの攻略はちょっと難しすぎんのよ。
流石隠れキャラなだけはあるじゃない。
……それともこれって、あれかしら?
ここからが本番って事なんじゃない?だって今までだって皆、婚約者がいる状態からスタートだったじゃない。
ってことはつまり、あの女がルークの婚約者になったこの時点から、物語が本格的にスタートするってことじゃないの?
ああ、そうよ、きっとそう。
ここから、私とルークの物語が始まるんだわ。
無事にパレードが終わり、王城でいつもの皆で打ち上げをする。
今日は皆揃ってお城にお泊りするのだ。
「それにしても、エリーの花姫は綺麗だったね、流石僕の妹」
「それって自分も綺麗って言ってるのか?」
「おお、ライリーが的確な突っ込みを入れた」
「ふふふふ、ライリーとサムは僕に潰されたいみたいだね」
「兄上、エリーの事、絶対に幸せにしてくださいね。もし泣かせるような事があったら俺がエリーを貰いますからね」
「うん、わかってるよ」
「僕もだよ。いつだって僕の所に来ていいんだからね、エリー」
「うん、ありがとうサム」
「もしルーク殿下に何か嫌な事されたら私がぶっ飛ばしてあげるわ」
「ありがとう、ウィロウ大好き」
「私もよ」
「ええー、ウィロウ俺は?」
「んー、エリーの次かしら?」
「ウソ?!」
「ウソよ」
『エリー眠い』
「テーレ、眠かったらいつでも寝ていいのよ」
『だってとっても楽しいから寝たくない』
「ふふ、じゃあ頑張る?」
『頑張る』
アステルは既に夢の中だ。お腹を見せて寝てる姿は、聖獣としての威厳も何もないけれど。
「それにしても、天地の聖獣がエリーと契約って凄くないか?」
リアム殿下しみじみと言う。
「ま、ね。正直、ルーク殿下と婚約して良かったと思うよ。じゃなかったら今頃、大教会に聖女だなんだと拉致されてたかもしれない。まあ、聖獣が居なくてもエリーは聖女の如く清廉なんだけど……それがなんで真っ黒魔王なんかに」
「あれ?その数秒前には、私と婚約して良かったって言わなかった?」
「うわっ、黒い微笑み」
「ははは、俺からしたらルーク殿下もエルも、同じ位黒いと思うけどな」
「ああ、ライリー死んだな」
「ああ、エルだけじゃなく兄上まで敵にしたな」
その夜は、遅くまでライリーの断末魔が聞こえていた。




