告白と猫
エリーの顔を見る。
俺の座っている方と反対の方に顔を向けてしまっているが、今にも涙がこぼれそうになっているのがわかる。
少し苛めすぎたかな。でも、これで多少なりとも自覚してくれたはず。
剣術大会の時から俺に対するエリーの態度がおかしくなったのは気付いていた。でも本人は、その理由を全く分かっていない様子に少しイラついてもいた。
エリーが初めてお茶会に参加した時、会場の最奥の席でエルに似ている、けれど神々しいオーラを発している彼女を見つけた。
全ての席に挨拶をして回り、あとは彼女のいる奥の席が残るのみだった。がらにもなく少し緊張している自分に驚きつつ、一呼吸置こうと四阿へ向かうとそこに彼女はいた。
庭園の中の四阿があるそこだけが輝いていた。色とりどりの鳥たちが彼女を守るように囲み、美しくさえずっている。その中でクッションに身を預け、横たわって眠っている姿は天使なのではと思ってしまうほど美しかった。俺の中で愛しい存在になった瞬間だった。
しかしエリーの方は、俺の事を特別視している様子も、俺の気持ちに気付く様子もなかった。それに反し、成長していくエリーを見るたびに、俺の想いは愛しい存在から愛する存在へと変わって行った。
そんな俺の6年分の気持ちを少しは思い知って欲しい、などという黒い感情が頭をもたげ彼女を追い詰めたくなってしまった。でも、このままではいけない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「だからエリー、花姫になってくれる?」
「え?」
一瞬、何を言われているのかわからなかった。殿下の方を向いた拍子に、堪えていた涙がこぼれてしまった。
殿下が流れた涙を指で拭ってくれる。
「花姫になって、私の隣に来てくれると嬉しいのだけど?」
「……そ、それは、私に、い、一緒に、婚約者を、見つけて欲しいって、こと?」
嗚咽交じりに言う。いくらなんでもそんなの酷い。
「……え?待って、違うよ。違うから」
「な、なん、で、そんな、酷い、こと、言うの」
とうとう私は、子供のように泣き出してしまった。
『おい、なにエレノアを泣かせているんだ』
殿下のポケットに入っていたアステルが、私が泣いたことに気付いたらしく起きて怒りを露わにしている。
「あー違うってば。エリー、違うから。ね、私の話をちゃんと聞いて」
アステルをポケットに入れたまま、殿下は私を抱きしめた。
「ごめんね、ごめん。私の言い方が悪かったから。お願いだから泣き止んで」
抱きしめたまま、一生懸命背中をさすってくれる。それでも大泣きしてしまった私の涙は、なかなか止まらない。
広場を行きかう人達が、何事かと目で追いながら通り過ぎていく。
中には結末を見ようと、立ち止まって見ている人までいる。
「エリー、ごめん。エリーが思っているような事じゃないんだ。だからお願い、泣き止んで。ちゃんと説明するから、ね」
しばらくして、なんとか泣き止んだ私は少し大きくなってもらったアステルを抱いて殿下と距離を取っている。
「本当にごめんね。まさか、そんな盛大な勘違いをするなんて思ってなかったよ」
殿下がこちらに寄って来るのと同じ位距離をとる。じりじりと動くうちにベンチの端になってしまった。
「はあ、お願いエリー。私の話をちゃんと聞いて」
そう言って殿下はベンチから立ち上がり、私の目の前に立ってから片膝をついた。
「改めて。エリー、いや、エレノア。今度の花祭りで花姫になって、私の婚約者として隣に居て欲しい」
「え?」
「城の四阿でたくさんの鳥たちに囲まれて眠っている君を見た時から、ずっと君の事を想っていたよ。愛してる。どうかお願い、私のお嫁さんになって?」
少しずつ、私の心の中に殿下の言葉が染み渡る。
「私でいいの?」
ああ、また涙がでてしまう。
「エリーがいい。エリーしかいらないよ」
優しく涙を拭いてくれる殿下。
「あの……私もルーク殿下が好き。だからあの、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。また涙が落ちたけど、今度は苦しくないから大丈夫。
「エリー、ありがとう。大好きだよ」
そう言って力一杯、私を抱きしめた殿下。
『グエッ』
何かが潰れるような声がした。
苦しかったのは、アステルだったようだ。
そして、周りの人々から盛大な拍手が沸き起こった。そういえば、王都のど真ん中の広場だった。
私は恥ずかしくて抱きしめられたまま下を向いてしまう。
すると、いつの間にか私の足元に猫?がちょこんと座って私を見て鳴いた。




