剣術大会
剣術大会当日。
会場は異常な興奮に包まれている。
私たちはルーク殿下の好意で、王族専用の場所で見る事が出来ていた。
あまりの参加希望者の多さに、大会が始まる少し前から学園の生徒達で予選を行ったので今日、この場にいる人たちはなかなかに強い人たちだ。勿論、皆この場に立っている。
「どうしよう、ドキドキし過ぎて心臓が壊れそう」
「ふふ、私もよ」
ウィロウと二人で胸に手を当てながら言う。
「なんだか皆強そうよ。いくらエルたちが強いって言っても果たしてどうなのか……考えるだけでドキドキが大きくなってしまうわ」
「ははは、今からそんなこと言ってると最後まで持たないぞ、エリー」
そう後ろから言われて振り向く。
「おじ様!」
私たちが座っている席の後ろにドカッと座る。
「元気だったか?エリー。少し見ない間にまた綺麗になったな。ウィロウもこの間の食事会以来だな。いやあ、やっぱりライリーにはもったいないなあ」
「ふふ、お義父様もお変わりないようで。ライリーには会いましたの?」
「ああ、ここに来る前に会って来たぞ」
「ルーク殿下を参加させたのはどうして?おじ様」
「公務と研究で、城の訓練場になかなか顔を出さなくなったからな。昔は毎日のように来ていたのに。見た目はあんな優男だが殿下は強いぞ。あの強さは本物だ。だからこそ、剣術をやめてしまうのは勿体ないと思って、さぞかし腕が鈍っただろうと発破をかけたんだ」
「知らなかった。ルーク殿下って強いの?」
「ルーク殿下は護衛なんていらないくらい強いよ。最近は見てないから知らないけど、訓練していた頃はライリー達が三人がかりで挑んでも余裕で勝ってた」
サムの言葉に唖然としてしまう。外見からは全く想像できなかった。6年くらいの付き合いなのに、全然知らなかった事に少しだけイラつきを覚えてしまう。
いやいや、私が知っていなくちゃいけないなんて事はないでしょ、婚約者なわけでもないのに。そう自分の中で無理矢理、不可解な感情に蓋をする。
「さあ、そろそろ始まるぞ」
おじ様が楽しそうに言う。
「おじ様はこんな所で見学していていいの?」
「はは、エリーいいかい?ボスは最後に登場って相場が決まってんだ」
「それって悪者のセオリー」
サムが言うと、豪快に笑いながら
「優勝者がライリーだろうと殿下だろうと、若者をぶった切る俺はどう考えてもヒールだろう」
「ヒールのおじ様、カッコイイ」
「おう、ありがとな。エリー」
学園長の合図でいよいよ試合開始。まずは剣術組の方からスタートだ。
ライリーも殿下も順調に勝ち進んでいた。
次は準決勝。ライリーも殿下も対戦相手はそれぞれ騎士団の人。
殿下の方が一部隊の隊長で、ライリーの方は副団長だそうだ。
殿下は涼しい顔のまま瞬殺で終わった。本当に強かったみたい。始終黄色い声援のオンパレードで何も聞こえないうちに終わってしまった。
対してライリーは苦戦している。流石は副団長という強さで、ライリーの猛攻をなんなく躱している。
「あいつは性格がねじ曲がってるから剣筋も読めないんだよ」
と笑いながらおじ様が言っていた通り、トリッキーな動きを見せるので、経験不足のライリーには分が悪かったようだ。
すんでの所で躱しきれず、負けてしまった。
気丈に見ていたウィロウの頬に伝うものが見え、そっとハンカチを渡す。
「ありがとう」
小さく言ったウィロウの横顔はとても綺麗だった。
好きな人の為に流す涙がこんなにも綺麗だったなんて……少し羨ましいと思ってしまった。
いよいよ決勝戦。
ライリーの悔しそうな顔を見て、すれ違いざま肩をたたく。
「俺に任せておけ」
そう言うと、ライリーは顔をくしゃっとさせて笑った。
副団長とは何回か手合わせもしている。仕事も出来て、あの団長を御する事が出来る唯一の人物だ。団長が剛なら副団長は柔。だからこそ剛であるライリーとは相性が良くなかった。腹も黒いからライリーには二重で不利だったわけだ。
ここは柔同士、腹が黒い同士で決着を着けるべきだろう。
そう考えながら会場へ向かう。
「ご褒美、貰わなくちゃいけないからね」
思わず口に出してしまった。
出会った当初から可憐だったけれど、この数年で驚くほど美しく成長しているエリー。リアムもサムもエリーに想いを寄せているのはわかっている。
学園に入ってからは、周りの男たちが密かに声を掛ける権利を奪い合っている。
まあ、本人は鈍感であるがゆえに、その辺りのことは全くわかっていないようだが。それに、その辺の男たちではエルたちに立ち向かう事すら出来ないだろうから気にする必要はないだろう。それでも、暢気に構えている時期は過ぎた。
「そろそろ俺も本気を出さないと」
今回こそは、何が何でもだ。
さあ、まずはここで勝とうじゃないか。




