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馬鹿な領民と隠れ潜んでいた間者(一部別視点あり)

 計画通りとは言い難いが、ここ数日で本国と連絡を取ることができた。

 私は主に忠誠を誓っている。

 だからこそ、主殿が考案していた薬品の完成品が送られて生きたことには歓喜のあまりその日限り興奮が収まらなかった。

 しかし、私も組織に属している身である以上、仕事をしなければならない。

 すぐさま本国に報告し、選りすぐりのエージェントを五人ほど送ってもらった。

 それぞれ名前を、ファウスト、セコン、ライアン、フォルテ、フィニア。

 かつてのアルテリシアの同期の人間でもあった。

 アルテリシアは、幼少期に父から組織に借金返済のためにとある大国に売られ、セバスの所属する組織の実験対象として配属された。 

 その時一度名前を奪われ、モデルAとしての新たな名前が付けられた。

 彼は借金を日々の実験による成果給と国内での任務等で行った実績により、借金を返済して家に戻ることが出来たのだ。

 彼は基本的にライザー帝国の騎士爵を持つリーゼハルト家の嫡男として振る舞い、本国での有事の際は本国を優先する命を受けている。

 そのため、今回はマルデリンに取り入り彼を利用してアルゴノート領というライザー帝国の発展になりかねない領地を潰し、更には爵位を自身にすり替えるために消すまでの計画を立てていた。


「久しいなモデルA・・・いや、今はアルテリシア・フォン・リーゼハルトだったか」


「ファウスト。無駄口を叩くな。どうやらこの薬品はセバスが独断でマルデリンに渡したそうだ」


 セコンはファウストの旧友を懐かしむ言葉を一瞥し、業務報告を淡々と述べる。


「なに?主様からの命令ではなかったのか?」


「いや、この薬品に取扱に関してはセバスの意思は主様の意思と思って構わないと言伝を頼まれている」


 セコンが言ったことに期待して薬品をマルデリンに渡したと思っていたが、そうではなかったので少しだけがっくりさせる。

 しかしすぐに立ち直り顔を上げなくてはならない。

 

「それならこのまま計画を進めて問題ないか」


「あぁ、そうだな」


「Aの計画だと、死人が大量にでる。いずれこの国は主様の物になるというのに良いのか?」


「構わないべ?皇帝に目をかけられている輩で、神話級の精霊の持ち主らしいべ?主様の障害に慣れかねないべ?」


 ライアンの言うとおり、私も彼が障害になると思っていた。

 エルーザは大々的にリアス・フォン・アルゴノートが神話級の精霊の契約者とヒャルハッハ王国との会合で発表した。

 そしてヒャルハッハ王国も、今はライザー帝国と揉めたくないのかその場にいなかったにもかかわらずそのことを認めたらしい。

 

「どうでもいい。俺の仕事は、アルゴノート領の領民を出来るだけ多く殺し、引き際を見て撤退。それで構わない?」


「要件人間のフォルテらしいにゃ!ミーは主様の命令で、進化の楽園祭(エボルフェスティバル)の様子を見てくるように頼まれただけにゃから、好きにするといいにゃ」


 実はフォルテとフィニアは、主様の直属の部下だ。

 同じ様に実験体として入隊したが、二人は実験による成果が主様の目に止まり直属として迎入れられた。

 だけど、それが羨ましいとは思わない。

 私とファウスト、セコン、ライアンも実験体の中では優秀な部類であったため、今こうして生きている。

 何万といた実験体の中で、唯一の成功例である六人。

 それが我々六人の実験体だ。

 

「フォルテに関してはそれで構わない。むしろお前が要だ」


「いくら神話級の精霊と言っても、所詮精霊の枠組に入った輩。俺はいつも通り殺すだけだ。リアス・フォン・アルゴノートと出会った場合は?」


「殺せ。神話級の精霊は主様が実験体にしたいだろうから生け捕りだ」


「言われなくても」


 そう言うと、大きなマントを覆いその場から消え去るフォルテ。

 軍事侵攻は今日の昼間に行う。

 その前にみんなに指示を出した。

 今回、最悪はマルデリン一人に罪を被ってもらう予定だ。

 主様、見ていてください。

 私が受けた恩は必ず返します。



 計画は滞りなく進んでいる。

 そう信じて疑わないマルデリンは、今まさにリンガーウッド領とアルゴノート領の領境に来ていた。

 本来であれば領地に勝手に入ることは、法律では制限されていない。

 同じ国である以上当然の話であり、経済を回す為にもそのような手間は省くのが自然だ。

 但しそれは、軍事侵攻ではない場合の話だった。


「現在我々はアルゴノート領に足を踏み入れた!武装している以上、どこから攻撃が来るかはわからない!しかし我々は暴力には屈しない!我が領地の民が傷つけられたのだ!黙ってみている領民が、我が領には居ないと信じたい!」


 マルデリンが、民間人が半数を占める軍隊を鼓舞する。

 領民達は表向きはその声に大声をあげるが、内心ではむしろ沈んだ空気だ。

 このアルゴノート領への軍事侵攻は、先日無くなったリンガーウッド領内の小さな村が、アルゴノート領の者によって壊滅させられたという理由だ。

 これには無理がある。

 アルゴノート領の人間がそれを実行するメリットがないし、更にはその証拠もないと言う。

 半ばギリギリの生活を強いられている領民達は、そんなとんでもない理由だと聞かされても頷くしかなかったのだ。

 

「あー、情けねぇなぁいいこちゃんは!」


「お頭、こいつらは平和ボケしてるんですよ!ヒョロっちぃ肉体してますし!」


 徴兵の中にはゴロツキ達も混じっている。

 彼等は理由よりも暴れられる事実があればそれで良かったのだ。

 なのでまともな領民との間の空気も悪い。

 その状況でも領主であるマルデリンと側近のアルテリシアは何も注意を促さない。

 ゴロツキがこの闘いの主軸となるからだろう。


「マルデリン様。そろそろ宣戦布告のご準備を」


 アルテリシアは、マルデリンに音を拾って何倍にも増幅させるスピーカーの魔道具を渡す。

 宣戦布告をするために、スピーカーに手をかける。

 しかしマルデリンにはスピーカーによって宣戦布告出来ることはない。


「俺達の領で、しかもそんな軍隊を抱えて何をしようと言うのですか?」


「アルゴノート男爵令息!?ど、ど、どうしてここに!」


 マルデリンはまさかこの場にリアスがいるとは思わず、声を荒げて喚き叫ぶ。

 しかしマルデリンとは打って変わり、ゴロツキの奴らはリアスを値踏みしニヤニヤと近寄っていく。

 隣の領地である以上、リンガーウッドではリアスの噂はすぐに入ってくる。

 その中にはリアスが元平民で、父親であるアルジオを脅してどぶさらいに変えたという噂も入ってきてはいて、この場にいる徴兵を受けた平民は知っている。

 そのことを聞いてリンガーウッドからアルゴノート領に移り住んだ人間も多いが、リ残っていた領民の一部は、そんなリアスを怖がっている者やアルジオ自体に子供に脅されて方針を変えるような領主と不安がっている者が大多数で、動きを伺っていた。

 当然そのことをマルデリンは良くは思わない。

 

「これは失礼。まさか令息殿がいるとはつゆ知らず------」


「そんなことどうでもいいんで、マルデリン()()はさっさと用件をどうぞ?」


 言葉こそ丁寧だが、家格が上の子爵に対して男爵令息に過ぎないリアスが子爵と呼ぶのは不敬に当たる。

 このことをわかっていないマルデリンではなく、これはこちらに対しての侮辱ということに他ならなかった。


「どうやらアルゴノート男爵令息は言葉遣いと言うものがなってないようですなぁ」


「ハハハハ!我が領内にその規模の武装した人間を率いて足を踏み入れて置いて、何を言うかと思えば。面が厚いですなぁ!」


 マルデリンの顔は、リアスの指摘された一言に真っ赤な顔をする。

 一方でアルテリシアは顔色一つ変えず、黙って目を閉じている。

 そんな中、徴兵されたゴロツキ達がニヤニヤとリアスの方へと近づいていく。


「おい、貴族の坊ちゃん!この状況がわかってねぇみてぇだな」


「・・・」


 リアスは黙ってゴロツキを見る。

 すぐ様視線を外し、マルデリンの方へと視線を戻した。


「どうやらリンガーウッドの人間は、兵士教育が成っていないようだ。さて、この無礼な兵士の対応が貴方の私に対する評価とみて間違い無いのでしょうか?」


「くくっ、そうだ!俺たちゃあ領主に徴兵されて、今まさにこの領地に宣戦布告しに来たところだ!まずはテメェから血祭りに上げて、首を領主に差し出してやる!」


 リアスが全く視界に入れていないというのにベラベラと喋り、持っていた戦鎚を振り下ろした。

 しかしそんな戦鎚はリアスには届かない。

 少しだけ身体を逸らして攻撃を避けた。

 そして驚いた様子のごろつきの胸を軽く押して、他の兵士達がいるところへと押し戻した。


「マルデリン子爵、彼の言っていることは本当ですか?」


 リアスが最小限の動きで攻撃を避けたことに、口をパクパクとさせていたマルデリンだったが、すぐに元のニヤケ顔に戻り顎を当てながら口を開く。


「それは貴方達が一番よくわかっているでしょう?我が領地の村を一つ焼いておいて面が厚いのはどちらかわかったもんじゃありませんなぁ!」


 ニヤつきを止めることなく、見下した態度でそう答えるマルデリン。

 彼はこう言えば慌てると思って、リアスにそう言ったのだ。

 しかしリアスは想定内の物言いに、笑いを通り越して呆れてしまう。

 

「それは貴方が、兵士に頼んで実験していたからでしょう?」


「な、なに!?」


「これ、見覚えないでしょうか?」


 リアスがそう言って取り出したのは、割れた瓶だった。

 それはマルデリンが兵士に服用するように命令し、村を襲わせた薬品の容器で、現在徴兵した兵士すべてに渡している。

 

「そ、それは・・・!?」


「それは?」


「し、知らん!そんなものはしらん!おい、そこのごろつき!奴をたたきのめせ!」


「へっ!了解だ!おい、やれ!」


 倒れ込んでいたごろつきとは別の奴が、彼の命令により県を振り下ろそうとする。

 これは明確な敵対行為で、尚且つ立派な領域侵犯に該当する正当性のない暴力だ。

 別にな軸に

 わざわざ正当性をつけるために、大義まで発てた計画だったというのにすべてを自ら台無しにしてしまうマルデリン。

 しかし振り下ろされた剣は止まらない。


 

 こいつはバカかと言いたい。

 宣戦布告をしてからならば、大義名分の事実はともかくこの暴力に対しては正当性ありと取られる行為だったのに。

 避けることも出来たが、敢えてその剣を受けとめた。

 もちろん身体強化を行ってだが。

 

「これが、貴方の答えですか?」


「ば、化け物!」


「人を化け物呼ばわりとは。これは面白いことを言いますね」


「おいアルテリシア!何をしている!早くそいつをどうにかしろ!」


 アルテリシアと呼ばれた側近を見るけど、なんか動く様子がないな。


「領主様、何を言ってらっしゃいますか」


「なんだ!お、恩を仇で返す気か貴様!」


「はて?恩とは?」


 首を傾げてる。

 この状況でマルデリンを庇えば、その罪が自身に来ることも把握してるのだろう。

 なるほど、厄介な人間だ。

 

『彼からは精霊の気配がします。彼の体内からですが』


 クレの言うことが本当ならば、この薬品を使ったか或いは・・・


「申し訳ございませんリアス様。ご覧の通り、ただいま領主様はご乱心の様子ですので------」


「お暇させていただきます?そんなのが許されると思ってるのか?」


「我々は軍事侵攻だとは聞いておりませんでした。護衛の為に領民達を召集したのです。本日はご迷惑おかけしてしまい申し訳ございません」


「聞いていなかったで言い逃れ出来ると?」


「はい」


 こいつ、いけしゃあしゃあとテンプレみたいな言葉の羅列を述べやがって。

 だが、追求する為の手札が足りないのは事実だ。

 こいつ、マルデリンを最初から見捨てる気でいやがったな!

 状況だけでは、アルテリシアが黒か白かわからない。

 だが俺はこいつが黒だと確信がある。


『問題ありません。彼はここをマルデリンを切り捨てるだけで終わらせるつもりでしょうけど、そうは問屋が卸さないですよ』


「わかってるさ。来い!」


 連れてきたのはもちろんこいつだ。

 スノーが後ろに付きながら、ジノアと手を繋いで歩いてくる少年。

 焼かれた村にいたペリュカ。

 マルデリン子爵を俺達が疑っていたのは半信半疑だった。

 侵攻してくれば、彼らは黒。

 その程度で構えていて、偶々侵攻してきたそれだけだった。

 そしてこれまたダメ元でペリュカに見せたところ、一人だけ見覚えのある顔があったという。

 それがこのアルテリシアだったって訳だ。

 ペリュカが出てきたところで、さすがのアルテリシアも顔色を変える。


「この子はペリュカ。リンガーウッド領の焼けたと言う村にいた子だ。なぁペリュカ。この中でお前の村に来た奴らはいるか?」


「あの人!」


 アルテリシアのことを指さすことで、等々彼も表情を隠しきれなくなった。

 その顔は忌々しく俺のことを睨み付けている。


「その少年の言っていることだけが証拠ですか?片腹痛いですね」


「少年じゃなくて少女な。証言も立派な証拠の一つだ。じゃあお前はこの子が虚言を吐いていると?」


「そうです。証言だけで罪を問われてはたまったもんじゃありません」


「だよな。だったら、リンガーウッド領の皆さん。この薬品を持っている方いますか?正直に答えないと全員、リンガーウッド領主同様罰則が生まれるかもしれないのでお気を付け下さい」


 そういうと次々に薬品を出してくるリンガーウッドの領兵士達。

 徴兵があったことは情報把握積みだっての。

 だったらこう言えば、少なからず出してくる人物がいると思ってた。


「なっ!?」


 一方、アルテリシアはまさか兵士達が馬鹿正直に見せるとは思ってなかったのだろう。

 もうこの反応からしても黒は確定だ。

 だが、きちんと認めさせる状況を作りたい。


「その薬品は、誰の指導の下、使用するように言われましたか?」


「「アルテリシア様です!」」


 だろうな。

 マルデリンが、領民相手に薬品の説明なんか行うはずが無いと思ってた。

 この薬品には精霊の血液が含まれていることがわかっている。

 だがそれだけじゃ罪には問えない。


「この薬品には、人体の細胞を分解する作用があることがわかっている」


 それを意図的に使わせようとしていたとなれば、それは許されるはずがない。

 薬というのは本来、動物等で実験をしてから使用するのがこの国の法律にあるからだ。

 つまり、知らなかったで通せば実験をしていないことになり、知っていたと認めればそれで終わりだ。


「まぁ勘で言ったがあってたか?」


「どうでしょうね?」

 

「これでも言い逃れ出来ると?武装した兵を連れた領域侵犯、並びに薬物使用法に抵触した殺人未遂罪。冤罪で自分達の罪をなすりつけようとした虚偽の告発、他にも傷害罪も適用されるか。まぁそれはそこのゴロツキさんにも問われるだろうが?」


 俺はニヤリと斬りつけてきた男に向けて微笑んでみせる。

 こいつらは状況が読めてないのか、ぽかんと口を開けたままだ。


「言い逃れや誤魔化しが通じると思うなよ?ここには第三皇子で、陛下の次に偉い立場にいるジノアもいる。皇族以上の証人なんかいないからな」


「僕の上手い使い方だと思うよ」


 利用出来るものは利用しないとな。

 それにこいつがこの薬品に関わっていると言うことは、精霊を使った薬品のレシピこそしらなくても詳細も知っているはずだ。

 クレにとっても、精霊を無下に扱われるこの薬品を許すことは出来ないらしいしな。


「・・・」


「どうした?黙ってちゃわからないぞ?なぁアルテリシアとか言うの!」


 顔を俯かせる彼は、等々年貢を納めたか?

 いや、口角が三日月のようにつり上がってる。


「ふふふ・・・アハハハハハ!」


 まるで憑きものが落ちたかのように、高らかに笑い始めるアルテリシア。

 さすがに言い逃れが出来ない状況で笑うしかないか。


リアス「作者がペリュカの名前忘れてて、トリスって書いてたらしいぞ」

ミライ「読者の皆さまに迷惑かけたから、ボク達から作者の代わりに謝罪申し上げるね」

イルミナ「本当に申し訳ありませんでした。現在は修正済みですので、今後とも乙女ゲーのガヤポジションに転生したからには、慎ましく平穏に暮らしたいをよろしくお願いします」

クレ『因みに作者がセルフで、小説の表紙をTwitterにあげました。こちらでも載せる予定だそうですので乞うご期待です』

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