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牢屋での出来事

 真っ暗でほとんど何も見えないライザー帝国の監獄の中で、帝国を陥れる為に合作した3人がいた。

 ヒャルハッハ王国の隠密部隊である、浅知恵の蜘蛛の影の部隊だ。

 彼らに名前はない。

 かつてあった名を捨て、影という名で一括りにされることを自ら受け入れた人物達である。


「ワイらどうなるんかねー?」


「さぁね」


「まさか帝国にも化け物がこんなに住んでいたとは夢にも思わなかった。我々はあの子供達に負けた時点で終わりだったのだ」


 魔物大量発生(スタンピード)を起こしたまではよかった。

 しかしこのままでは計画遂行が困難と見るや否や、すぐに切り替えてたった3人で魔物の群勢を吹き飛ばしたリアス達を子供と侮った彼らは返り討ちに遭い、結果として牢獄で囚われている。

 更に助けに来た総長と副総長まで英雄パーパルにより返り討ちに遭ったのだ。

 最早影達が助かるすべはない。


「アハハハハ!ハァァー!ヒャヒャヒャ」


「ルヤ副総長の発作が始まったわね」


「副総長の忠義も、帝国の前ではどうしようもなかったんやろ?」


「まさかルヤ様をここまで壊すとは、帝国とは恐ろしい国だな」


 副総長ルヤはヒャルハッハ王国並びに総長スピカに対して忠誠を誓っており、役に立つ為に日々奮闘していた。

 隠密部隊ということもあり、総長スピカと副総長ルヤの実力も本物で、彼ら二人が同時に潜入した国では目標を達成することが当たり前だった。

 しかしこの国、ライザー帝国ではそれは叶わずにスピカは撤退し、ルヤは収監されてしまった。


「帝国に喧嘩を売るのは間違いやったか?」


「間違いかどうかはともかく、これだけの戦力を有しているとわかっていたら、もっと慎重に行動していただろうな」


「せやな。しかもワイらを倒したのはまだガキどもやで」


「この国は取るに足らない弱小国だと思っていたのだがな。愚帝は先代までだったということか」


 エルーザもまた賢帝とは言い難いほど子育てに失敗しているが、それでも愚帝よりかはかなり高い手腕を持っていた。

 しかし愚帝がした貴族至上主義の影響は他国から見れば愚策でしかなく、いつの間にか帝国は弱小国家と揶揄される様になっていたのだ。


「でもいい加減この地獄から解放されたいわ」


「飯の時間ですら何も見えへんからなぁ」


「仕方あるまい。我々は国家転覆を謀った重罪人だ。許されるはずもない。許してもらおうとも思わんが」


「でも総長からの助けが期待できひん以上、媚を売る方が現実的やないか?」


「アタイはいやだよ!犯罪奴隷がいいとかじゃないかい!」


「なんやお前さん知らんのか?奴隷制度はこの国にはないんやで?」


「それは表の話だろ。貴族というものは奴隷の飼ってる人数が自慢の種になる。特に我々はこの国の者ではない。奴隷に落ちる可能性が高いぞ」


 彼の言う通り、ライザー帝国は表向きは奴隷のいない国家と謳っている。

 しかし現実は平民全てが奴隷に近い待遇をしている貴族がほとんどだった。

 故に犯罪者が労働力として一時的に釈放されたとしても、決していい暮らしができるとは限らない。


「そういうことよ!わかったかしら?」


「せやかて、ワイらは生かされてるんやで?うちの国なら死刑や」


「それは対峙した奴らが甘ちゃんだっただけの話だ。この国に住む貴族は基本的にクズで、騎士は誇りも何もなく主人の足を舐めるだけの人殺し集団だ。そんな国に囚われてるのだから、油断などするな」


 そう、彼らが生かされてるのはリアスが甘い判断をして生かしただけの話。

 それも私的な理由で生かしただけで、リアス自身彼らがどうなろうと知ったことじゃないスタンスだった。

 それでも敵を殺さないと言うだけで希望を見出す人間がいる。

 それは彼がまだ人殺しを経験しない人である為だ。

 他の二人は殺しを経験している為、自身も殺される覚悟をしている。

 例え未遂だとしても。


「命というものは儚い。そんな甘いことを考えていると足元を救われる。気をつけることだ」


「へいへーい。肝に銘じて起きやすよ」


 不貞腐れる様に返事を返す次の瞬間、ドンッという音共に牢屋が揺れた。


「うっさいねぇ、あんたら!」


「プラメニック・・・」


「監長さん。ワイらこっから出してくれへん?金は弾むで?」


 例え鬼の監長と呼ばれるフラメニックの前ですら態度を変えない彼に、他の二人は呆れ顔を向ける。

 それはフラメニックも同じだった。


「はぁ、もう少し静かに出来ないのかい?」


「出してくれたらいいで?」


「それしかないのかい?」


「ないっ!」


 それはもう清々しいほどの返答だった。

 彼はフラメニックと会話するとき、牢獄から出所しろと要求する以外の会話を一切していなかった。

 最早何度目かわからないこの問答に、フラメニックも呆れて頭を抱える始末だ。


「はぁ、浅ましいもんだね。浅知恵の蜘蛛の君は立場がわかってないとお見受ける」


「そんなことないで?姉ちゃんがここから出してくれたら、ワイなんでもするからの」


「ほぉ、なんでもかい。二言はないんだろうねライザー帝国にいた有数の商人のご子息様?」


 フラメニックがそう言うと彼の顔色は見るからに変わる。

 

「何処まで知っとる?」


「さぁね。まぁそこの二人の経歴よりも、貴方の経歴を調べる方が大変だったとだけ言っておきましょう」


 関西弁を話す男は青い顔をしながら地面に手を付ける。

 それとは相対的に残りの二人は大して気にした様子も無かった。


「さすがは番犬と言ったところか」


「あーあ、アタイ達このままじゃ帰るところがないじゃないの」


「そんなに経歴を知られるのはまずかったかい?」


「当たり前や!!わかっとるんやろ!あんさんらが調べたと言うことは------」


「君達の家族は全員死んでいたよ。2年も前にね」


「に・・・2年・・・」


 再び青い顔をして膝を突く彼を一瞥する。

 最もこの暗がりで顔色までは判別なんてできていないのだが。


「あんたらがやった行動のむくいさね。あんたらはこの国の国民すべての命を危険に晒したんだ。仕方ない」


「貴様になにがわかるんや!ワイらが好きでこんなことしたとでも思っとるんか!!」


「好きかどうかはともかく、自身の幸福のために他者を切り捨てる選択をしたことはたしかさ。あんたの商会は、愚帝が行った貴族至上主義を掲げる前から経営難に陥っていたからね」


 関西弁の彼の両親が経営する商会は、かつて帝国が栄えるために国家を支えていた商会だった。

 帝国の至る所に商会が存在するほどだ。

 あらゆる事業において成功を収めることに成功し、資産は莫大なものとなっていた。

 しかしここ近年、魔道具と言う魔力を注入して作成する道具が登場したことにより財政が変わる。

 一平民には魔法をきちんと学ぶ機会が設けられておらず、業績はみるみるうちに悪化していき赤字が続いた。

 そしてそこでトドメを差したのが先々代の皇帝であるエルーザの父の貴族至上主義の宣言により、彼の商会は再起不能なまでに衰退してしまう。

 商会というものは貴族無しには成立しない。

 財政が潤っていた者達は、この宣言により国を離れてしまったが彼の商会はそうはいかなかった。

 移住比が確保出来なかったのだ。

 しかし平民から得る収入だけでは、黒字にすることは出来ない。

 結果一家は残っていた事業もすべてたたみ、食い扶持すらなくなってしまった。

 そして路頭に迷う彼らを救う術を提示したのが、ヒャルハッハ王国で浅知恵の蜘蛛という組織だった。

 

「そんなことあらへん!あんたら貴族の所為でワイらは苦しまされたんや!」


「ふーん。自分達に再帰するだけの力がなかったのを、人の所為にしてるからそうなるんだい」


「最早すがりつくには、ヒャルハッハ王国しかなかったんや!そのためには何だってした!何人もの命だって奪ったし、他の人間も不幸にした。それでもワイは後悔してへん!すべては帝国の、愚帝と貴族の所為やからな!だから仕方なかったんや!ワイの目の前に------」


「おい、止せ」


 関西弁の男が興奮してフラメニックに怒鳴りつけている。

 しかしそれを何を思ったのか、慌てて止めようとするもう一人の男。

 まるで何かを口走るんじゃないかと思ったかのように。

 そしてそれは正しかった。


「デ------うっ・・・うぐっ!」


 何かを言おうとしたところで、急に苦しみだした男にフラメニックは慌てて近寄る。


「おいどうした!大丈夫か?何か詰まったのか?」


「あぁぁぁあががあああ!」


 次の瞬間泡を吹いて意識を飛ばしてしまう。

 フラメニックはそっと彼の口に手をやる。

 息をしていなかった。

 そして首の動脈も確かめ、鼓動がないことを確認した。

 まるで首でも絞まったかのように苦しみだした彼は死んでしまったことを指していた。


「どうなんたってるんだいこれ・・・」


「そいつは、口にしてはいけない単語を言おうとしたから、我々が架けられている呪いが発動したのだ。馬鹿な奴だ」


「アタイ初めてみたけど、そうやって死ぬなんてごめんだね」


「どういうこと?説明しな!」


「ここに死体を増やしていいのなら説明してやる」


 彼はそう言うと腰をかけ、目を閉じ眠ってしまう。

 応えられることなど何も無いと言うかのように。


「そういうことよ。呪いがかけられていて死ぬということまでは言っても問題ないけど、それ以上のことを話せば呪いが発動するのよ。どうしようもないわ」


「呪い。それは総長スピカが付けた呪いかしら?」


 彼女もまた首を横に振る。

 しかしフラメニックはこれ以上の事は聞けなかった。

 彼女の命を危険に晒してまで聞くような情報じゃないからだ。

 牢屋をそっと開けて、関西弁の男を担ぎ上げるフラメニック。


「彼には悪いことしたね」


「何を今更。ルヤ様の心を壊したのは貴様だろうに」


「違いないわね。今更だったわ。大人しくしてなさいね」


 そう言うとフラメニックは彼を霊安室まで担いでいく。

 そしてヒツギに入れて火葬する。

 ライザー帝国では土葬も行われるがアンデッドが発生する可能性があるため、基本的に火葬が主流だ。


「願わくば、次の人生は幸せに暮らして欲しいさね」


 そう言って一度手を合わせ、フラメニックは霊安室を後にした。

一読いただきありがとうございます。

今回出た呪いについては本編にて語られますので、気になった方は引き続き読んでいただければ幸いです!

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