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赤い悪魔

 アルザーノ魔術学園の寮には、生徒や一部の使用人だけが入ることが許されている。

 俺は休日だからってミラの部屋でゴロゴロしているのだが------


「だらしないよリアスくん」


「いいじゃんか〜。あと少ししたら、目の細っこい悪魔がここに来るんだぞ?また俺はどこかの領地で魔道具を作らされるんだ」


『だから私に一言相談してほしかったと言ったんです。なんでその場で決定しちゃうんですかねー』


「んー!あの時はあいつの境遇に同情しちまったんだよ」


 クレの言う通りだ。

 あの場で俺は持ち帰る選択をするべきだった。

 なのに、情に絆されその場で後ろ盾になることを承諾してしまったんだ。


『まぁ過ぎてしまったことはしょうがないです。それに全てが悪いことでもありませんよ。精霊契約の儀を管理している教会の象徴と、間接的にですが敵対しています。正面からの敵対ではないので、ボロが出るかもしれません』


「ボク個人としてはリアスくんには無理して欲しくないなぁ。間接的にとはいえ敵対しているってことはたしかだし」


「精霊契約の儀は、陛下から頂いた権限を使って閲覧できる図書館で、本格的に調べようと思ってるから、そこまで無茶はしねぇよ。あくまで俺の役割はジノアが皇太子になるまでの助けをすることだからな」


 変に目立って側近にでもなったらどうすんだって話だしな。

 皇子の側近なんて平穏とは程遠い。

 そんなの俺は望んではいない。


「ならいいけどね」


 ところで俺はミラの部屋に遊びに来てから気になることがあった。

 何かを手でいじっているのだ。


「ミラ、さっきから何してんだ?」


「あ、これ?」


 見せられのは一冊の本だった。

 タイトルは赤い悪魔?


「赤い悪魔?」


「うん!ボクこの本を初めて読んだ時に、頭に電流が走ったんだよ」


「へぇ、普段俺は本とか読まないからその感覚はわからないが、見た感じだと読んでるみたいじゃなかったんだが」


 紙をめくるんじゃなく、何かを施しているようなそんな感じに見えた。

 気の所為じゃないはずだ。


「気付いてくれましたかワトソンくん」


「ミラがなんでその単語を知ってるかはこの際突っ込まない。なにをしてたんだ?」


「ふっふっふっ!実はさっきちょうど完成したのだ!じゃーん!」


 本をめくると、挿絵が飛び出してきた。

 しかも音声付きだ。

 すごいな。

 これは売れるんじゃないか?


「飛び出す本だよ!」


「すごいぞミラ」


「えへへ。ちょっと早いけど、リアスくんの誕生日プレゼントだよ」


 誕生日?

 あ、そうか。

 俺の今生での誕生日は6月だ。

 すっかり忘れてた。


「ありがとう、うれしいよ」


「まぁ他にもアクセサリーとか色々あるけどね。これは完成したら渡そうと思ってたんだー。どうせこれは売れる!とか考えてたでしょ?」


 俺はあからさまに目を逸らす。

 たしかに考えてはいたけど!


「いや、これだけすごい品だったら売れそうじゃん」


「ほらまたー!まぁ前世から持ってる貧乏根性は早々治らないよね」


「そういうことだ」


 俺は本の方に意識を向ける。

 

「赤い悪魔って名前が物騒なタイトルだな」


「タイトルはそんなのだけど、悲しい物語だよ」


 悲しい恋の物語ねぇ。

 俺は音声付きの本をパラパラと捲り始める。

 帝国にとある一人の男性がいたから始まる。


「へぇ、主人公は村民なのか」


「うん。彼には将来を誓い合った幼馴染みの婚約者がいてね」


 彼と彼女は相思相愛で村人達にも祝福されていたらしい。

 二人の日常の話がしばらく続いて事件が起きた。

 皇帝が平民と貴族は平等じゃないと宣言したのだ。

 そこから物語は最悪の方向に進んでいく。

 貴族が領地の平民の若い女性を次々と謁見するように命じた。

 それは主人公達の村も例外ではなく、幼馴染みは貴族に謁見をする。

 そしてどこの領地でも謁見した女性が戻ることはなかった。


「これ、フィクションか?帝国の歴史の本でこれ見たぞ?」


「多分、歴史に起きたことのフィクションじゃないかな?ボクもこれ読んだとき同じ事思ったけど、最期まで読み終えるとフィクションだってわかるよ」


 ミラが飛び出す本に作り替えてくれたから、更に臨場感があって怖い。

 主人公の悔しそうな顔がちゃんと流れてるから。

 思ったけど、これってアニメに近いな。

 まぁいいや続けよう。

 主人公や村の人々は幼馴染み達を助けるために、村総出で立ち上がる。

 村人全員で貴族の屋形に突撃したのだ。

 

「これ考えた奴って何か訴えかけたかったのかねぇ?」


「演出的には、ヒロインのために奮闘する主人公って感じじゃない?」


「いや無謀過ぎて命を落としそうだ。だって武器が鍬とかだぜ?主人公は特別な力でも宿ってるのか?」


 話の続きを見ても、貴族の騎士達に行く手を阻まれて次々と命を落としてるってあるじゃん。

 主人公はそれでもなんとか貴族の館にたどり着くが、そのときにはもう既に遅かった。

 幼馴染みは見るも無惨な姿の亡骸へと変貌を遂げていたのだから。


「うぇぇぇ、なんでここの描写妙にリアルなんだよ」


「へへへ、そこは凝ってみたんだ」


「え、なにこれミラが描いたのか?」


「そうだよー!上手いでしょ!」


「あぁ、大したもんだと思う」


 前世で秋の葉がある原っぱの街では、そう言ったイラストもよくみた。

 ミラにはこんな隠れた才能があったのか。

 主人公が幼馴染みの亡骸を拾い上げ、涙して貴族とこんなの世の中にした皇帝に復讐を誓う。


「あ、ここでヒロインが登場するんだ。それにしても遅い」


「もう物語も中間だもんね」


「これ一巻で完結するのか?」


「するよー、ここからが完結までは早いからねー」


 ヒロインの少女も主人公と同じく別の村で唯一の家族である母を貴族達に奪われ、復讐を決めた少女だった。

 主人公と違うのは、村の人達が協力して女性陣を取り返そうとしたかしないかの違い。

 まぁそれかなり違うと思うけどな。

 少女は見た目が男に見えるボーイッシュなキャラで、女だと認識されなかったため貴族の謁見の難を逃れたらしい。

 二人は利害の一致で手を組むことになるのだが、ある種人間不信に陥っている。

 主人公は村の住人ほぼ全員を殺されて、ヒロインは村の住人に裏切られて。

 二人は次々と上級貴族の領主を殺していき、気がつけば主人公は赤い悪魔、ヒロインは流血の天使と呼ばれ、畏れられていた。

 

「この国の二つ名のセンスって・・・」


「ボクもこの本読んで思ったよー。痛いネーミングが好みなんだね」


 うん、すごく痛い。

 恥ずかしすぎる。

 もうちょっとこうなんとかならなかったかねー。

 まぁ読み進めて行こう。

 赤い悪魔と流血の天使は貴族への復讐を果たすが、大元である皇帝をどうにか出来ていないため、次は皇帝にターゲットを決める。

 死に物狂いで時に傷つき時に仲間を失いながら皇帝の元へとたどり着く。

 そして二人は皇帝と一騎打ちになり見事に勝利を手に取って物語は完結する。

 

「てっきり主人公とヒロインはくっつくと思ってたんだけどなぁ」


「まぁこれは恋愛小説じゃないからねー」


『まぁお互い復讐が果たせて万々歳なんじゃないですか?でもたしかにこれはフィクションってわかりますね』


「だよな」


 多分これがエルーザ陛下の父親、上皇の話だとしたら歴史通りじゃ無いからな。

 本来であれば陛下の兄上が愚帝を殺してるはずだ。

 平民じゃない。


「でもなんかすっきりしないよな」


「もっとスカッとした顛末を期待してたのに、淡々と闘いの背景を語ってるだけだからね」


「どうしてミラはこれを俺に?」


「んー、なんとなく!なんか気がついたら手に取っててね。ボクが最近読んだ本で印象に強かったこれを選んだんだ」


 もっと明るい話をチョイスしろよ。

 せっかく飛び出す絵本なのに・・・

 いや、ある意味臨場感があって良いのか? 

 ミラの画力のおかげで、結構話が頭に入ってきたし。


「でもまぁありがとうミラ。どんな形であれ婚約者からの手造り誕生日プレゼントは嬉しい」


「ふへへ!ドヤァ!」


『赤い悪魔はこのあとどういった最期を迎えたのか。皇帝を殺したあとはどうしたとか気になるところは多かったですね。実は続編があるかもしれません』


「学園の図書館にないか今度探してみるか」


『それは良い考えかと』


「じゃあ今度図書館デートしようよ!」


「いいなそれ!どうせなら今から行きたいが・・・」


「あ、リアス!やっぱりミラの部屋にいた!ジノア様が正門でお待ちよ!」


 グレシアがその邪魔をしてくるとは。

 ていうかいつの間にジノア来てたんだ?

 外を見ると、額に青筋を立てている目の細い悪魔がこっちをじっと見ている。

 俺に気づいたのか、口をパクパクと動かしている。

 時計を見ると気がつけば10時を回っていた。

 今日は侯爵家の訪問で約束の時間は11時だ。

 そしてその侯爵家の領地へは、帝都から馬車で30分の距離。

 領地を事前に視察したいジノアに取ってはギリギリだ。


「あ、やべ」


 ジノアは口ジェスチャーで、”早く来い”って言ってる。

 あいつ怒るとめんどくせぇんだ。

 口うるさく俺が作った試作品の魔道具を批評して何度も作り直されるんだ。

 最悪だ。


「行きたくねぇ・・・」


「って言ってるけど、どうするグレシア?」


「ミライ、強制連行よ。今回は私達も着いてきてほしいらしいから」


「え、マジで!?ミラも着いてくんの!?やっひぃ!行こうぜ」


 ミラが着いてくるなら話は別だ。

 例え地獄だろうとミラがいるなら俺にとっては天国だ。

 普段は、ミラの動向を許さないジノアなのに、どうして今日だけ?

 まぁいいやそんなこと。


「現金な奴・・・」


「そういうところ可愛いでしょ?」


「ミライ、それ男性に取ってはあんまり嬉しくないと思うわよ?」


「そうかなー?」


 あぁ、可愛いって言われるのは一部の人間だけが喜ぶもんだと思う。

 でもまぁどんな形であれ好意を持たれることは良いことだ。


「早く行こうぜ」


「あ、待ちなさいって!イルミナとグレイも同行するから呼んでこないと」


 え、二人も?

 じゃあジノアを含めて計6人での訪問か。

 取りあえずイルミナは、グレイとアルナとバルドフェルド先輩を指導しているだろう。


「あ、じゃあボク達はイルミナを呼んでくるね」


「アルナとバルドフェルド先輩はどうするか」


「ジノア様に聞いてくるわ。取りあえずバルドフェルド先輩も連れてきてくれる?」


 俺達は4人が修練してるであろう校庭に向かう。

 この世界はサッカーとか野球とか、スポーツ系の部活はないから休日は校庭に人がいない。

 だから俺達はそこを利用して、鍛錬に励んでいる。

 俺はジノアの後ろ盾になってから一度もやってないけど・・・

 俺達が校庭に着くと、校庭ではイルミナを含めた4人が一人の男性を狙って攻撃を放っている。

 無精髭にオラクルをした、いかにも執事って感じのロマンスグレーの男。


「あれ誰だ?」


「んー、ボクは見たことないよ」


 それにしてもすごい。

 イルミナが押されてる。

 武器は杖?

 この世界では魔法を使うのは基本的に精霊であり、そのことに人間も気づいていないことから杖を使う魔法使いは存在しない。

 だとすればあれは鈍器か?


『彼、自分で魔法を唱えていますよ』


「ホントかクレ?」


「叔父さん、加勢した方が良いかな?」


『殺意も悪意も感じられません。恐らく指導しているのでしょう』


 ふーん。

 魔法も使えて、体術がイルミナと互角の人間に指導を受けるなら、それなりの経験値になるはずだ。

 悪いことじゃないから止めるべきでは無いか?

 いや、ジノアの怒りを買いたくないから止めよう。

 そう思ったところで、俺は服を下から引っ張られて後ろに倒れそうになる。


「リーアース!」


「わっ、ってジノア!?」


「遅いんだけど?これじゃあ領地の視察は、領主との謁見の後になっちゃうじゃん」


「悪い悪い」


 後ろからグレシアがゆっくりと歩いてくる。

 少しジノアの話し相手になっておけよと非難の目を向けようとするが、あんたが時間を守らないからでしょと睨み付けられたので、目を反らした。


「セバス!そろそろ行くから、引き揚げて」


 セバス!?

 ジノアが廃嫡前に執事をやっていたって言う。

 廃嫡が決定した後実家に戻ったって聞いたんだが。


「かしこまりました。では失礼して」


 これは・・・

 右手には雷の魔法、左手には水の魔法。

 

「これは複合魔法!?」


「サンバースとウォーターカーテンの組み合わせ。エレクトロショック!」


 俺よりも質の高い複合魔法だ。

 俺の場合は魔法をただ組み合わせただけだが、これは組み合わせて別の魔法へと変化させてる。

 

「だけど、これはヤバイだろ。ミラはイルミナに、ジノアはアルナに、グレシアはグレイにフルシールドを頼む」


 俺はバルドフェルド先輩だ。

 一番危うい人物はバルドフェルド先輩だから、シールドを一番長く維持出来る俺が貼った。

 ジノアはさすがに驚いたみたいだが、一応シールドを貼った。

 俺達がシールドを貼ったから、魔法のターゲットにされてたみんなが自分でシールドを貼る余裕が出来て難を逃れた。


「急でびっくりしたけど、どうしてフルシールドを?」


「いや、移動するのに感電する魔法をぶつけるのは、あまり良くないだろ?シールドを貼る余裕がなかったみたいだからな」


 多分俺以外が複合魔法を使ったからびっくりしたんだろう。

 一応、固有魔法(オリジナル)って言ってるけど、魔力操作ができれば複合魔法は誰でも出来るしな。


「なんだそういうことか」


「ジノア様!」


 セバスは驚いた顔をしてこちらに走ってくる。

 速い!

 俺は身構えるが、何をしてくるでもなくジノアに頭を下げた。

 

「これはジノア様のお手を煩わせる様な事をすいません」


「気を付けてくれよー、彼らはボクの希望だからね。皇太子になるためのさ」


「はい!」


 ジノアが少しばかり小言を言ってる間に、イルミナ達がこっちに合流する。


「助かったよリアス。君だろ、俺にシールド貼ったの」


「バルドフェルド先輩は1人だけシールド貼るだけの余裕が無いよう見えたので」


「ミライ様助かりました」


「すごかったよね。リアスくん張りの複合魔法を放つんだもんあのお爺さん」


「セバスさんはオレも小さいときに見たことがあったが、剣の腕しか見たこと無かったからな。魔法もあんなに仕えるとは思ってなかった」


「グレイはまずグレシアに御礼を言えよ」


「あ、あぁサンキューグレシア」


「もっと早く聞きたかったわよ」


「わ、悪い・・・」


「ふふっ、冗談よ」


 グレシアがグレイをからかってる。

 なんだかんだ幼馴染みだから仲良いな。

 ジノアがセバスの説教を終え、セバスを後ろに付けて彼に手を向ける。


「イルミナ達には先に紹介してるけど、改めて紹介するよみんな。彼はセバス」


「改めましてリアス様とその一行様。初めまして。私はジノア様の元執事のセバスと申します」


 油断ならない雰囲気はあるが、彼がジノアの元執事にして側近騎士のセバスか。

 

「俺はリアスです。ジノア、どうしてセバスさんがここにいるんだ?」


「君達にセバスを紹介しようと思ってたんだ。まぁ時間が押してるから詳しくは馬車でしようか。リアスの所為だからね」


「お、おう・・・」


 もの凄い満面の笑みで青筋を立てられるとかなり怖いぞ。

 しかしそこを指摘すれば俺は更に説教を受けることはたしかなので黙っておいた。

リアス「飛び出す絵本って、日本人が見ても驚くと思うんだよ」

ミライ「そうなの?日本にはテレビとかパソコンとか、そういうのがあるんでしょ?」

クレ『魔法がない世界だから、紙から絵が飛び出すのが珍しいのでしょう』

リアス「それにテレビやパソコンは所詮板の中に映像が流れるだけだからな。ホログラム投影の技術はまだまだ発展だったんだよ」

イルミナ「でもそれはリアス様が亡くなられた時の知識ですよね?その後の日本人がホログラムなんて当たり前の技術にしていたら?」

リアス「・・・」

ミライ「え、えっと。赤い悪魔のストーリーを詳しく知りたい書いて欲しいと言う方は、感想でもTwitterのDMでもメッセージでもいいので、作者に一言声かけしてねー」

クレ『リアスを立ててごまかしましたね』

リアス「う、うるせぇぇぇえええ!」

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