この世界は何周目?
「聖獣か。聖女様は一人だと聞いていたが、二人も居たんだな。いや聖人様を含めて三人もの人間が聖獣と契約しているのか」
「僕は聖女様にあったことはないから初めて見たよぉ聖獣」
「あ、やべっ。先生達も居たんだった」
さっきの申し訳ない気持ちだが、前言撤回させて欲しい。
こいつはタダの馬鹿だ。
しかしグレシアも慌てていないところを見るに、これって本人達は別に構わないってことか?
「メシアは聖獣じゃありませんよ」
目が泳いでる。
やっぱりまずかったんだ。
「まぁここには幸い我々しかいない。この距離ではクラスメイトの奴らも精霊って言っておけば問題ないだろう。声が聞こえたわけでもあるまいし」
クラスメイトの子爵と男爵の奴らは、結構距離がある。
さすがに会話の内容までは聞こえないだろうし、最悪声が聞こえても俺達の誰かが発した声だと言えば誤魔化せるだろう。
「だが、いつまでも隠し通せるモノでもないだろう」
「それはわかってるんだけどな。でもオレ達にも事情がある訳よ」
「事情ねぇ、でも起きてるときずっとその籠の中に入れとくのか?気づく奴が見たら気づくだろう。特に聖女リリィとか」
「あぁ、それについては問題ねぇよ。クロ、精霊共鳴」
「あいよー」
クロがグレイの胸の中へと入っていく。
まるでグレイの身体が液体になったみたいに、波動を帯びてる。
クレを見てみたが、これは知らない事象らしく驚いていた。
『魔力が上がった!?』
「ッ!」
魔力が上がった?
それって、じゃあグレシアも!?
あれ?
グレシアのパートナーのメシアは、首に巻き付いた。
あ、首に付いてたチョーカーがメシアだったのか。
「興味深い現象だねぇ。もう一回見せてよぉ」
「いやいや、もう一回同じ事を繰り返したら、クラスメイト達にバレちまうよ。これ精霊共鳴って言ってさ、オレとクロは一心同体になる術を持ってるんだ」
「一心同体?合体してるってことか?」
「あぁ。文字通り、今オレとクロは二人で一人の個体になってる。詳しい話はまた今度な」
「それはわかった。メシアとグレシアは精霊共鳴出来ないのか?」
「出来るわよ。だけど、メシアは首にまきつくのが好きみたいなの」
じゃあグレシアも魔力が上がるってことだ。
大規模範囲魔法の魔力確保はこういう方法だったってことか。
『リアス、魔力が上がったのには驚きましたが、彼は精々上級精霊程度の魔力しかありませんよ』
「ふむ」
『これだけでは、大規模範囲魔法の魔力確保は出来ているとは言えません』
マジか。
じゃあ振り出しじゃねぇか。
「・・・」
グレイが黙って俺のことを見つめてくる。
なんだ、急に気持ち悪いな。
「どうしたグレイ?」
「いやなんでもねぇよ。それよかそろそろ歓迎パーティーに行こうぜ。あいつらも来たことだし」
グレイは指さした方向指さすと、クラスメイト達がもう近くまで来ていた。
「お前ら場所知ってるなら教えてくれよ。俺らずっと会場探してたんだぜ?」
「まさか体育館でやるとは思ってなかったよな」
「あ、シャルル先生もいる。今日はありがとうございますー」
一気に6人も増えたので賑やかになった。
合計13人だからな。
しかし、新入生が200人以上で貴族の子息はその半分は居るらしいから、90人もの奴らがあの馬鹿皇子に引き抜かれたのか。
「取りあえず中に入ろうか。新入生で貴族の参加者はお前達だけだ。先輩達も存分に迎えてくれることだろう」
「ありがたい話です」
「オレ腹減ったよ。早く入ろうぜ」
体育館内に入ると、先輩達が待機している。
もちろんイルシア先輩とバルドフェルド先輩もいた。
「お、やっときたかリアス。遅いぞ」
「イルシア先輩!」
「なんだ。リアスはイルシアとも知己の関係ないのか」
「えぇ。まぁ出会って一週間しか経ってませんけどね」
実際あったのは先週で、まともに話したのは今日が初めてだったりする。
でもなんか結構前から一緒に居る気分になるんだよな。
「まぁ何はともあれ、君たち入学おめでとう。それにしてもアルバートの奴、新入生の貴族をほぼ全員連れて行きやがって、おかげで公爵や侯爵の連中を宥めるので大変だった」
「苦労しますね」
「ごめんなさいお兄様」
グレシアは真っ先に謝罪をした。
一番苦労するのはグレシアか。
あんな婚約者を持って。
「いやグレシアは悪くない。あのクソ親父とクソ皇子の所為だからな」
「おい、イルシア。参加者が集まったから、一応乾杯の音頭を取れって、他の奴らが言ってるぞ」
「おっと、そうだった。じゃあまた後でな」
イルシア先輩とバルドフェルド先輩は、先輩達が待機している人だかりへと消えていった。
わざわざ俺達のために出迎えてくれたのか。
イルシア先輩が壇上へと上がった。
マイクを手に持ち、グラスを抱えている。
マイクは、音声を反響させる魔道具だろうか?
「あーあー、どうも新入生の皆さん。まずは入学おめでとう。そして在校生が企画する歓迎会に御越し下さりありがとう。今年は不測の事態が起こって、会場も人数も違うが楽しんでいって欲しい。貴族の皆は、ここは社交界ではないから無礼講だ。貴族だ、平民だと関係なく気軽に友好関係を築いていってくれ」
イルシア先輩の言葉に、他の貴族の先輩達が怒りを覚えてる様子がないのは驚いた。
貴族って言うのは、基本的に平民と対等にされると怒る奴が多い。
しかし誰も彼もが笑顔で居るのはすごいな。
『悪意を一つも感じません。本気で無礼講でいる気のようですよ』
辺りが騒がしいし、クレと会話しても誰も気にも留めないだろう。
「すごいな。これもイルシア先輩の人格か。そりゃあ貴族主義の親なら排除したくもなるな」
『ですね。しかしイルシアの精霊アンリエッタは強力な上級精霊です。天候を操ることが出来ると言うことは、限りなく神話級の精霊に近い上級精霊でしょう。それこそ、リアスがあの時闘った刺客達のレベルの暗殺者でも送ってこないと、どうにかなったりしないでしょう。暗殺者が来るとわかっていない状態ならまだしも、一度でも警戒すれば軍隊でも送ってこない限り大丈夫でしょうね』
「マジかよ。すごいなと思ったがそれほどか」
イルシア先輩も護衛の対象として見るべきか迷ったが、それは杞憂だったらしい。
ターニャ家の当主が、イルシア先輩を仕留める機会はあの時のたった一回だったんだな。
「------と言うことで、まぁ堅苦しい話は無しだ。全員コップの飲み物を上へ掲げろ」
おっと、気づけばイルシア先輩の音頭も佳境か。
俺は周りがしてるようにコップを上に掲げた。
そんなところで、グレイはコップを掲げないで俺の方を見ていた。
「おい、乾杯だぞ。コップ上に掲げろよグレイ」
「あ、あぁ。悪いぼーっとしてた」
「精霊共鳴って負担がすごいのか?」
「あぁ、クロと色々と共有するからな。わりぃわりぃ」
なるほど、二人分の人格が同じ身体に入ってたらそりゃキツいよな。
グレイも慌ててコップを掲げた。
「それでは新入生の入学を祝って、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
各々が近くに居る人間とコップをぶつけ合って、パーティーを楽しみ始めた。
この国ではもう俺達は成人しているので、酒を飲んでる奴もちらほらいる。
「リアス、改めてこれから三年間よろしくな」
「あぁこちらこそな」
俺はグレイと小さくコップをカチンと鳴る程度の乾杯をした。
この世界に来て初めての同い年の男友達だ。
大事にして行きたいな。
それから他のクラスメイト達と乾杯したところで、ミラが俺の背中に飛びついてきた。
「リアスくーん、かんぱーい!」
「お、おうミラ、乾杯」
「うへへぇ~」
「大丈夫か?」
因みにミラはかなり酒に弱い。
一口でベロベロになるレベルだ。
そしてだるがらみがすごいんだよな。
「ぐれしあぁ、もう一度かんぱーい!」
「えぇ!?ミライもう出来上がってるの!?」
「出来上がってるって?酔ってないよぉ」
「酔ってない人はみんなそう言うんですよ。あ、ミライちゃん!兄貴、婚約者なんだからちゃんと支えてあげて!」
「わかってるよ、ほらミラ」
「アハハ~リアスくん~好きぃ」
ミラは俺に頬ずりする。
悪い気はしないが、口元から酒の匂いが余りしない。
これでまだ一口か。
「キャー!は、破廉恥ですよアルナのお兄様」
「いや、婚約者同士なんだしこれくらいスキンシップだろ」
「そうだにょプラム!ボクとりあしゅくんは、運命の赤い糸でむずばれた恋人同士なんだから!」
酒は飲んでも呑まれるな。
いやぁ、これほど相応しい言葉はないな。
俺はミラを支えながら、肝臓に良さそうなアサリのボンゴレパスタとかレバーとかを取る。
今回のパーティーの食事はバイキング形式だ。
「ほら、ミラ」
「あーん」
小さな口を大きく開けて、突き出してくる顔はかわいらしい。
俺はフォークにパスタを巻いてミラに食べさせた。
「おいしー!もういっこぉ」
「ほれほれわかった」
「貴族の婚約でここまでイチャイチャした姿を見るのは初めてよ。貴族の結婚ってもっと愛のないモノと思っていたわ」
「貴族に限らずこの国の結婚はそうだと思うぞグレシア。この二人が特別なんだ」
「それなら俺の領に来るか?政略結婚は禁止してないが、基本的に恋愛結婚を地方令で出してるぞ」
俺はミラにご飯を食べさせながら、グレイとグレシアに領地の宣伝をする。
領地が栄えれば、領民達への俺達の信頼度は上がっていく。
いざというときのタメに味方は多い方が良いからな。
「リアスくん!今はボクにあーんする時間だしょ!まーさーか、グレシアに浮気か!」
ミラさん?
その手の魔力は何かな?
こんなところで魔法をぶっ放す気か。
これは二人に構ってる暇はなさそうだ。
「落ち着けって!メルセデス、例のモノを」
「もごっ。りゃーはい」
口の中に食べ物を入れて喋るんじゃない。
でも今回はそんなこと言ってられん。
酔ってるミラは何をするかわからない。
だから予め数日前にメルセデスにあるモノを作ってもらってた。
「はいよ」
「悪いな。おいミラ、プリンだぞ」
ミラはメルセデスの作るプリンが大好物だ。
プリン自体はこの国になかったが、俺が作った。
基本的にこの世界は日本で手に入る食材はなんでもあったし、料理や材料の名前が少し違う程度だった。
よくある異世界転生モノ作品だと、米がないとかそう言ったことで悩むが俺はそう言ったことがなくてよかった。
「わぁぷりん~」
「ほら、口開けろ」
「あーむ。んー!おいしー!」
酒に甘い物ってあんまり合わないと思うんだけどなぁ。
でも女の子ってスイーツでお酒を飲むよな。
生前、会社の飲み会で女子社員はみんなスイーツ片手にビールを飲んでいた。
しかしミラの酒癖はどうにかしないとなと思う。
何度目かわからないけど。
「しあわせぇ」
「まぁこの顔みたら、甘やかしちゃうよなぁ」
「うへへぇ」
結局歓迎会で俺はミラの介抱をメインに過ごして、先輩達とあまり話さなかった。
まぁミラが失礼なだるがらみをするよりは良いけどな。
*
歓迎会も終わり、校庭で二次会の後夜祭を行っている。
まだ日が暮れていないが、キャンプファイヤーの周りでダンスを踊る貴族達は優雅だが、まるで戦闘を行っているようだ。
俺はそれを見ながらボケーッとしてる。
他の奴らはというと、ミラは酔い潰れて、イルミナの膝の上で眠っていた。
グレシアとアルナは何やら楽しそうに話している。
メルセデスとグレイが、なんか取っ組み合いしてるけど、これは無視でいいな。
「入学初日から騒がしいな」
『良いじゃないですか。貴方はこういうの好きでしょう?』
「まぁな。悪くない」
この騒がしい感じは嫌いじゃない。
前世での一度きりの人生は、呆気なく終わってしまったが驚くことに余り未練がない。
仲の良い友人は余り居なかったし、もしかしたら転生した方が友人が多いかもしれない。
今の人生ではミラと言う恋人で婚約者もいる。
「この世界はゲームの中じゃない。間違いなく現実だ。ガヤポジションの俺は慎ましく平穏に暮らすには、かなりの苦労があるだろうよ」
『大丈夫ですよ。私もちゃんと支えます』
「ありがとよクレ」
俺は背伸びしながら空を見上げる。
そしてそこには驚くべき光景があった。
「おい、クレ」
『どうしました?』
「月が・・・9個ある」
『なんですって!?』
クレも慌てて見上げた。
「花咲く季節☆君に愛を注ぐ」ではラスボスであるグレシアと闘いクリアした後二周目がある。
そして二周目に入ったかの判断材料は、背景にある月の数で判断する。
一周目は一個なのだが、二周目は二個になっている。
しかし今、空に浮かぶ月は9つだ。
『驚かせないで下さい。一個しかありませんよ?』
「なにっ!?クレには見えないのか?」
『その反応・・・リアスには本当に月が9個あるように見えるのですか?』
「あぁ。俺を中心に東西南北とその間に一個ずつの計9つ、たしかにある」
一周目の月が一個、二周目が二個だったことを考えると、単純に今、この世界は9周目と考えるのが自然だ。
しかしだとすれば、主人公リリィが攻略キャラが主催するパーティに出るのはおかしい。
二周目は一周目で攻略したキャラは、攻略キャラから外されるからだ。
『ここは主人公リリィにとっての九回目の世界なのでしょうか?』
「いやそうとも言えない。もしそうだとすれば、攻略キャラが全員居る馬鹿皇子の催しに参加するはずがないだろう。それに二周目の序盤は卑屈なんだ。9周も繰り返せば呆れて関わりを持とうとするのはやめるんじゃないか?」
『その可能性もありえますが、もし八周目までの世界でグレシアの婚約者がグレイだとしたらどうですか?』
そうだ。
グレイも花そそでの攻略対象の一人だ。
そして、今は攻略対象から外れているはず。
更に馬鹿皇子に鞍替えさえ、グレシアの新たな婚約者を見つける。
一応クレの言うことの筋は通ってるように見える。
「その可能性もゼロに等しい。グレシアとグレイは婚約関係ですらなかったんだぞ」
『ですね。それにリアス以外は月が9つに見えないことも引っかかります』
そうだ。
クレには9つの月が見えていないし、恐らく他の人間も気づいてはいないだろう。
気づいているなら今頃大騒ぎだろうからな。
「月の数が多い理由が何か特別な理由があるのかね?」
『可能性はありますね。この世界は現実ですし、ゲームとは色々と設定がズレてしまっていますし』
たしかにイルシア先輩の性格や、風神であるクレが主人公ではなくガヤポジションの俺のパートナーになったり、登場しない人物のミラが、バリバリ学園に通っていたりと、本来の花そそとは似ても似つかない状態であるのもたしかだ。
「月の数がそのままこの世界の周回の数を示していれば簡単なんだけどな」
『良い理由ならばいいのですが、わからない以上警戒しておくに越したことはないですね』
明日からは精霊契約の儀について以外にも調べ物が増えたな。
シナリオだって絶対にバッドエンドルートには入れない。
ここは現実でやり直しなんて効かないんだからな。
「おい、リアス」
「なんだグレイ?」
俺が背伸びをしながらそう考えていると、メルセデスと喧嘩をしていたはずのグレイが話しかけてきた。
メルセデスは、イルミナの近くでお茶飲んでんなぁ。
「お前も聖獣と契約してるのか?」
「は?急に何言い出すんだよ」
「だってお前、そのイタチの精霊と話をしてるからさ」
なにっ!?
クレはすぐさま警戒態勢をとり、俺もいつ攻撃が来てもおかしくない様に身構えた。
どうしてわかったんだ?
ボロは出さないように気を付けていたはずだ。
なんだよ、どうして何も無く学園生活初日が終わると思ったのにこうなるんだよ!
『リアス、こいつ殺しましょう。口の軽さから考えてもミラに危険が及ぶ可能性があります』
「お、落ち着けって。精霊共鳴で、精霊の言葉がわかるようになるんだ。話をしよう」
『信じられません!』
グレイから敵意を感じないが、たしかにクレが言うことはもっともだ。
今日聖獣を見せる軽率な行為をしたこいつが、俺が精霊と会話できることを黙っていられるはずがない。
そしていずれミラがハーフだと言うことがバレてしまう。
それだけはなんとしても避けなければならない。
「ま、待てって。オレがクロをお前らに見せたのには深いわけがあったんだ。頼む、話を聞いてくれ」
「なんだ?どうした?」
「今度はリアスとグレイの喧嘩か?やれやれ!」
野次馬がどんどん集まってきた。
さすがにこの場で証拠も残さずやり過ごすのは厳しい。
「わかった。時間を作る。その時に話をしよう」
「さ、サンキューな」
本気で焦るグレイは安堵の息を漏らす。
さすがにこいつはタダの馬鹿じゃないだろう。
何か思惑があって、たまたま俺とクレの会話を聞いてしまった。
クレの声は聞こえないと思って、制限を付けてなかったのが仇になったな。
リアスって話しかけるように言ってれば、声が聞こえれば誰だってわかる。
「なんだ。もう終わりかよ」
「つまんねー!」
野次馬は蜘蛛の子を散らすようにそそくさと退散して、また別の人間に野次を飛ばし始めた。
はた迷惑な奴らだった。
結局この日はグレイと話をすることはなかった。
リアス「グレイの人物像が全くわからなくなった」
イルミナ「それよりもミライ様の酒癖をどうにかしないといけません」
ミライ「失礼だなぁ。ボクそこまで悪くないよ!」
リアス「この世界に撮影器具があれば見せてやりたい!」
クレ 『ないなら貴方が作ればよろしいのでは?』
リアス「そうだな!よしっ!ミラ見ておけよ!」
クレ 『ミライやイルミナのちょっとエッチなシーンの撮影をして欲しい方は、高評価とブックマークよろしくお願いします』
リアス「今日ほど売名行為を行ったと思う日はないと思う」