成長する剣士
「ガーデル、貴様何故ここにいる?アデルは?ゴードンはどうした?」
「あぁ、アデルは俺が殺した。安心しろエルーザ元陛下。あんたは生かす様に言われてるんだ。あぁ、ゴードンだったか、エルニカ」
「彼、肉弾戦は強いのかも知れないけれど、戦闘は点でダメみたいね」
ゴトっと音がすると共に脳天を何度も撃ち抜かれたであろうゴードンさんの頭だけが落ちる。
こいつら、等々一線を超えたか。
「ゴードン、それにアデルも。貴様、何をしたか分かってるのか?」
『ゴードン、俺気に入ってた!こいつら許さん!』
流石土の上級精霊のベヒモスだ。
巨大化した事で、威圧と魔力が増した。
魔力はクレに及ばないとはいえ、とんでもないな。
ガーデルを相手にして負ける自信は正直皆無だ。
横のエルニカは未知数だが、少なくとも俺をどうにか出来る戦力を持ってるならあの場で暴れていたはず。
この場にゴードンさんの首は持ってきてアデルさんはそうでないとすると、アデルさんは生きてる可能性がある。
「拳銃を使っているとしたらアデルさんが危ない!クレ、アデルさんのところに行ってくれ!」
『わかりました。間違ってもあれに貴方は負けませんからね』
「おっと、神話級の精霊は聖魔法を使えるって話だったなぁ!だがさせると思うか?」
そう言うとガーデルは小さな石を取り出した。
そしてその石を人差し指と親指で割る。
その瞬間頭が砕ける様な音が鳴り響き、胸に激しい痛みが発生する。
「あっ、がっ!なんだ、これ!?」
『ぐっ、これはまさか、精霊石!?』
「へぇ、罰当たりもいたもんだ。はぁ、はぁ、これはエグいなぁ」
『にゃぁぁあ!苦しいニャァあ』
『ぐっ!俺、こんな事で負けない!』
しかし俺と精霊達は片膝をつかざる得ない。
息が上手く出来ない。
精霊石と言っていたけどあれは一体。
「どうしたリアス!?それにエイン様達まで・・・」
「ほぉ?リアス・フォン・アルゴノートが倒れ込むとは予想外。しかし今ここで魔法は使えなくなった!」
「うっ、はっ!さっき奴が砕いたのは精霊石。砕く事で強大な魔力を保有する生物の魔力を乱す。上級精霊以上の精霊は漏れなく生命の危機さ」
「精霊石!?精霊が死を迎えた時に落とすと言う穴?」
「あぁ、どうやら砕いたのが下級精霊の精霊石だったようだから助かった。私やクレ、ベヒモスの彼はだけどね。どうやらリアスくんの魔力量は、私の想像を超えてる量みたいだ。人間が精霊石の魔力波を受けてるのは初めて見た」
精霊石の効力はわかった。
魔力を乱すって事は、血流を変えられた様なもんだ。
普通なら死ぬぞ?
いやこの苦しさは死ぬ可能性だってあり得る。
前世で親父に殺された感覚に近い。
最も、今ガーデルが向けてるあの拳銃で殺されなきゃの話だが。
「へっ!ついてるぜ!俺に恥をかかせた一人をこうも簡単に殺せるなんてなぁ!」
「クレ、アデルさんのとこに、早く行け!気合いで動け!」
『精霊使いが荒い!死なないでくださいよ』
「誰が!」
クレは急いでアデルさんの元に向かってくれる。
クレだって結構身体に負担がかかってるだろうに助かる。
「さっきからごちゃごちゃ何言ってやがる!テメェは死ね!」
「死ぬもんか!」
俺は神経を集中させて、発砲と共に身体を横に逸らして交わした。
あとはこのままガーデルの頭を潰す。
しかし次の瞬間に俺は立ちくらみを起こした。
「しまっ------」
「へっ!動きが鈍くなってんなぁ!嬉しい誤算だぁ!」
ヤバい避けれない。
しかし無常にもガーデルの持つ拳銃の銃口は、俺の額へと狙いを定め引き金を引かれる。
「リアス、こういう時の為に僕は訓練してたんじゃないの?」
俺に向けられた銃は引かれる瞬間に、ガーデルの腕ごと切り離された。
それを行ったのは、精霊でも騎士でもない。
一人の皇子、ジノアだった。
「い、いでぇぇえ!」
「ジノア・・・」
「リアスが闘えなくても、僕は闘える。皇族は護られる立場にありながら、護ることだってできる。少なくとも僕にはその力がある」
「へぇ、リアスくん以外でもこれだけ動ける人間がいたんだ。しかも彼は転生者じゃないみたいだし、人間もまだまだ捨てたもんじゃないねぇ」
正直終わったと思ってた。
ジノアには自衛できるくらいの能力をと思ってたのに、俺が護られることになるとは。
それにしても、魔法に頼らずに戦えるように鍛えていたのに、内包魔力そのものに何かを加えて来るとは思わなかった。
しかもこの状況でマトモに闘える俺達陣営の人間は少ないだろう。
「くそったれがぁあ!このヤリチン色ボケ皇子が舐めた真似をぉお!」
「ヤリチン?いつの話をしてるんだい?」
「くそっ、助かった」
俺はジノアの邪魔にならない様に、陛下達のところまで後ろに下がる。
くそっ、気分悪。
「ジノアがあれほどに動けるとは驚いたな。リアス、貴様が何かしたのだろう?」
「陛下、あの実力はジノアの努力の成果です。素直に褒めてあげてください。それよりもガーデルだ」
ジノアとガーデルは剣を弾き合わせて闘っている。
ガーデルが今のジノアと、片手を失って渡り合える事自体おかしいんだ。
ガーデルが脱獄したのはついさっき、少なくとも三日以内だ。
牢屋でトレーニングしていたとしても、身体能力が伸びる程度だろ。
あれは明らかにその域を出てる。
「あれは精霊殺しを使ってるね」
「精霊殺し?」
「文字通り精霊を殺して力をつける方法だよ」
「あぁ、似非精霊共鳴か」
「あんなのと精霊共鳴を一緒にしないでくれるかい?」
精霊共鳴に何か思い入れでもあるのか?
それにしても下法を使うとは落ちたもんだな。
でもこの実力もそれなら頷ける話だ。
教国の間者ぽいアルテリシアもそれで強くなっていた。
「なんだ!ジノア皇子は落ちこぼれと聞いていたのに、何故ここまでの実力が!?」
「僕も驚いたよ。ガーデルの実力はそこまで高くないと思っていたのに、牢屋で鍛錬でもしてたのかな?」
剣と剣が交わり火花が飛び散る。
速度と力がないとここまで発しない。
しかし妙だ。
エルニカの方が全く動く気配がない。
「リアスくん、あっちの女の子何か企んでる」
「何かってなんだよ」
「わからない。だけど彼女を私は知ってる。正確には私の記憶に入り込んだもう一人の私の記憶にあった」
前世の記憶でこの世界の住人って事は、まさか!?
「私の前世で愛読してたライトノベル“貴方がそういう態度を取るなら私にも考えがあります″という作品に出てきたヒロインの挿絵にそっくりね。いや主人公とも取れるかな」
「マジかよ」
「彼女は悪役令嬢と言う汚名を着せられて、あの手この手で婚約者とその取り巻き達にざまぁをしていく。まぁありがちの作品だったけど、彼女は魔力が少ない代わりに頭がキレる」
「ざまぁされた婚約者達はどうなったんだ?」
「酷い最期を迎えた。そしてガーデルはそんな彼女と新たに恋を育ませる主人公の一人よ」
「は?」
ガーデルが主人公?
いやいやいや、つまりあれか?
9人いる転生者の内の3人の世界が作品が違うとはいえ、登場人物がダブってんのかよ。
「ガーデル自体もう私の知ってる世界線とは性格も辿ってる道も違うわ。そして彼女も悪役令嬢としてではなく、ただの非常識で退学させられた」
「なんでそこまで知って------転生特典か」
「正解。私の転生特典は、履歴参照。相手の履歴が脳内に変換される。自動発動でオンオフはできないから、精霊じゃなきゃ廃人になるような特典だわ」
確かにとんでもないが、転生特典は何かしらの不備やデメリットはあるのが今のところだ。
「だから嫌な予感がするの。魔力乱流はキツいだろうけど、警戒して」
「っもちろん、そのつもりだ」
ジノアとガーデルは力は拮抗している。
しかし形勢は、剣を交えるごとにジノアの優勢に傾いていく。
「くっ、なっ、くそっ!」
「剣を交えるたびに押されていってるのがわかる?ガーデル、確かに君は驚くほど力が上がった。でも実力自体は上がってない。だから------」
次に二人が剣を交えた時、ガーデルの剣は宙をまう。
そしてジノアの剣はガーデルの首元に刃を突きつける。
「な、なんだと!?」
「ぷっ、三下みたいな台詞」
「クソッタレガァァァア!」
叫んでも何も変わらない。
勝敗は歴然。
力がいくら拮抗しようと、力押しだけでうまくいくはずもない。
さらに借り物とは言え、身体能力が上がってるのにまるで使いこなせていない練度不足。
「情けないわガーデル」
「エルニカ嬢だったね。君も状況は同じなのに余裕だね」
「ふふっ、殿下に名前を覚えられて光栄ですわ。だから死んでちょうだい」
「生憎僕はまだ死ねない」
「その愛しの婚約者の所為?なら殺してあげるわ!」
そう言うと投げナイフをアルターニアに向かって投擲する。
何かあると言った割に考えが浅はかだ。
「少々浅はか、ですわね」
アルターニアは投擲されたナイフをそのままキャッチした。
そして勢いを殺さずに力を加えて倍の速度で投げ返す。
流石に投げ返されるとは思ってなかったから驚いたようだが、それでも首を傾けるだけで簡単に退ける。
「あら、野蛮」
「アルターニアまで・・・くっ、魔法も使えないし、ここでの足手まといは私か!」
陛下の言う通りではあるが、陛下にはかなり気を配ってる。
それはアルターニアも同じで、いざと言うときには庇えるように警戒もしていた。
その中やり返したのはさすがと言える。
「想定外、お父様はもう少し敵の情報を正確に教えてほしいものだわ」
「なるほど、伯爵家もこの件に加担していると」
「どうかしら?ふふっ、鷲掴みの君主さん?さっき精霊を宰相の元に向かわせてたみたいだけど」
「それがどうした?」
「もう手遅れなのよ?なんて無駄なことをしたのかしらね?」
「無駄か?それはやってみなければわからないだろ?」
「わかるわ!」
そう言った瞬間にノールックでジノアに発砲するエルニカ。
だが見え見えの手だ。
ジノアは簡単に弾いてみせた。
「甘いよ」
「ならこっちよ」
そう言うと今度はガーデルに向かって発砲する。
一体なんのつもりだ?
「ガハッ!エルニカ、テメェ・・・」
「卑しい平民に落ちた貴方は、我々には相応しくないの。そして、この少女もね」
この少女?
まるでその言い方は自分の事なのに他人事の様だった。
「リアスくん、彼女はどうやら私の知る彼女でも君の知る彼女でもない様だ」
「それってどう言う意味だ?」
「彼女から異質なまでに聖属性、彼女は司祭だ」
「司祭?」
教会の司祭って事だよな?
なんかまずいのかそれ?
俺は事の重大さを理解出来ていない。
「わからない?彼女は私の転生特典を掻い潜ってる。司祭は聖なる君主の忠実なる僕」
「しもべ?」
「君にもわかりやすく言おうか。彼女は天使だよ」
「天使?天使ってあの神の使いの事か?」
「そう。人間の状態で聖属性を内包していたらね。同じ様に聖属性を内包する聖女は好転的に司祭になった者の事を言う」
「流石は天神様!司祭をご存知でしたか!」
「調べたよ。君達には友を殺された。ディマリア、それにガラン」
ガランってあのガランか?
いやディマリアって言ってたから、他の神話級か?
「ふふっ、そこまで知っているのは流石と言ったところだわ。ならこれも知ってるわよね?司祭として覚醒した人間は------」
「人格が完全に塗り替えられる」
「転生者って事か?」
「少し違う。新たなる生命体、人間が死んでアンデッドになるのに近い」
「あんなのと一緒にしないでほしいわ。でもいいわ」
エルニカは懐から新しい精霊石を取り出した。
「気をつけて。司祭の魔力は精霊石を砕いたとしても影響がない。厄介だわ」
「安心して、今回は退くわ。こっちは人柱が欲しかったのに、ガーデルが想定外の使えなさでショックなの。お父様の言った通り捨て駒にするべきだったわ」
「何を?」
「精々最期くらいは派手に踊りなさい。それが貴方にできる最期の仕事よ」
そういうと何かをガーデルに投擲する。
ガーデルに突き刺さるのは、見覚えのある注射器だった。
「おい、それは!?」
「人間を聖獣様に変える薬品よ?楽しんでくれると嬉しいわ」
「う、が、ヴァァァァ!」
おいおい、これってあれじゃねぇか。
ガーデルの姿が異形へと変貌してく。
「リアス、これは!?」
「あぁジノア。こいつはセバスの使ってた薬品と同じだ。司祭単語を聞いて警戒するべきだった」
残念ながらまだこの薬の特効薬はない。
つまりガーデルはもう倒すしかなくなった。
「うふふっ、これはオマケよ」
そしてエルニカは精霊石をくだこうとする。
この場から離脱する為には、最高のタイミングだな。
「けどやらせるかよ!」
「ふふっ、そんな余裕あるのかしら?」
身体の不調はもちろんだが、今ここでこいつを装備すれば状況は変わる!
「ウォォォォォ!!」
「それはまさか!?」
俺は精霊石を奪い取り、そのままエルニカを拘束した。
<狂戦士の襟巻き>を装備すれば気分は最悪でも、身体能力が向上するからな。
だが魔力も膨大に増えるから、魔力が乱れる空間を作られていた場合は最悪の事態になる可能性もあった。
しかしどうやら精霊石を砕いて乱す魔力は砕いた瞬間だけだったみたいだ。
まぁよく考えたら再度砕こうとしたってことは、そういう事だよな。
「何故それを装備して正気でいる?」
「なんだ?エルニカごっこは終わりか?だったら終わらせてやる。お前はゴードンさんを殺したからどの道死刑だ」
「ふふっ、面白い事を言うのね。正気を保てているとはいえ、ここまで吐き出せてないと言う事はまだ目覚めてないのね」
馬鹿な!?
<狂戦士の襟巻き>で力の増した拘束を解いた!?
「でも誇っていいわ、私に<淫靡な耳飾り>を使わせたのだもの」
そう言ってエルニカは右耳にかかっている髪をあげる。
すると錆び付いているが何処か惹かれるイヤリングの様な物が付いてた。
「まさか我と同じ生贄魔具があるとは」
「生贄魔具!?じゃあリサナと同じ様な------」
「あぁ、我と同じタイプの装備で間違いない」
「独り言?いやこれは人格が発生して共有してる?アハハ!」
人格が発生して共有してるって思考にすぐに追いつくあたり、こいつは<狂戦士の襟巻き>については把握していると見るべきか。
しかもリサナもこう言ってるんだ、間違いないか。
「リアスくんは一人で何を言ってるの?」
「冷静に分析してるところ悪いけど、この化け物一人で相手をさせる気じゃないよね!?」
「悪いジノア、少なくともアイツをなんとかしないと加勢は出来ない」
エルニカに精霊石を砕かれたらそれこそ終わりだ。
だからまずはこいつから倒す。
「勝てると思ってるわけ?ふふっ、でも今回は面白い物が見れたし、それにもうすぐあっちも着く頃だろうから負けって事で良いわよ?」
「逃げられると思ってるのか?」
「精霊石を砕かずに、見逃してあげるって言ったのよ?」
その次の瞬間、壁からもう一体の化け物が侵入してきた。
「ァァァァアあ!」
『リアス!どうやら、アデルはセバスが使った薬と同じものを服毒させられた様です!ってそちらもですか!』
「こっちもかよ」
くそっ、幾ら何でも二体はしんどいぞ!?
しかもあれがアデルさんかよ。
「アハハ!アデル宰相、面白い姿になったわね!銃弾でちょびっと塗っただけでもこうなるのね!うふふっ、今の貴方は嫌いじゃないわ」
「アデル!?あれは、アデルなのか!?」
「そうらしいです陛下。今、特効薬を使ってますが、あの状態になったらもう、止める方法は殺すしかないです」
「そんな・・・アデルが・・死ぬ?」
陛下は悲痛そうな顔をしてる。
陛下とアデルさんは幼馴染らしいし当然か。
「どうするの?私は貴方が追撃して来るなら是が非でも精霊石を砕いて逃走するわ」
「ちっ、とっとと失せやがれ!」
「正しい選択よ。また会いましょう、生きていれば、ね?」
そういうとゆっくりとカーテシーをして、その場から消えた。
しかしそれよりもこっちだ。
この化け物二体を何とかしなければいけない。
リアス「また更新頻度落ちてんぞ!」
ミライ「なんでも漫画を描きたいらしいよ」
イルミナ「下手くそなのによく言いますね」
リアス「こいつができるなら誰だってできるわバァカ!」
ミライ「涙目になってる。でも事実だよね?」
イルミナ「嬉し過ぎて泣いてるんですよ」
一同「なるほどぉー!」
クレ『本気で泣いてますよこれ』