ヒャルハッハの事件
あれ?
俺って、バグバッドから帰路に入ったはずだよな?
それで少しだけ昼寝をしてから帰ろうとしていた。
同盟国になったとはいえ、元敵国にいたのがいけなかったのか?
そうだよな。
じゃなきゃこうなってない。
「お願いします、リアス様!どうか我々アマゾネスに力添えをお願いします!」
目の前で土下座している女性はドゥーナ達の同僚という女性はキャトル。
短髪でわかりにくいが金髪寄りの緑の髪をした女性だ。
ミラの髪色も緑だが、あんまり似た色じゃない。
因みにキャトルはドゥーナと面識はないらしい。
それにしても-------
「なぁクレ、俺って今年は厄年かな?」
『下手に私に話しかけないでください。あなたは生まれた時から厄災でいっぱいですよ』
酷い言われよう。
しかし否定できないのも事実。
因みに何故キャトルが頭を下げているかというと、エグゾリアガソに攻め入ったレアンドロ一行と連絡が途絶えてからもう三日も経つから様子を見についてきて欲しいと言うことだった。
「我々では、神話級の精霊使いに太刀打ち出来ないのです!どうかご助力を願います!」
「ご助力って言われても、俺この国の人間じゃないしなぁ。それにもうあと四日もしないうちに新学期だし、こっちにも予定がだな」
「もし仮に君達のが主人が帰って来ないのが、何かあったからだとしたらさ、我が国の神話級の精霊使いを危険に晒せって事なのかな?」
ジノアの意見は最もだ。
そう捉えられても仕方のない言い方だろう。
もちろんキャトルにそんな意図はない。
それはドゥーナ達の慌てようを見ればわかる。
「ご、ご主人が!?どうしよう!?アッシが助太刀に!」
「嘘でしょ・・・それじゃあレアンドロ様は-------」
「・・・」
3人とも青い顔をしており、特にドロテアは何も言葉を発しなかった。
それがこの事態がどれだけ深刻かをあらわしている。
「そう言った意図はありませんでした。配慮には欠けてしまったことはお詫び申し上げます。しかし我々はもう、貴方達を頼る他ないのです!」
「別にリアスに直接頼まなくても、王に言って正式に帝国に依頼すれば良いものの」
「恐らくそれはできないんじゃない?」
ミラが珍しく話を割る。
あまりミラは話し合いに参加しないが、戦況を見て状況を把握しながら配置するのもミラだ。
この中での教養はミラが一番高い。
「どうして?」
「それくらい彼女にもわかることじゃん?それにボクの見立てでは、ドゥーナやドロテアと渡り合える兵士がこの国に複数いると思ってる。少なくとも、魔物大量発生時にリアスくんが相手した屈強な男を英雄スカイベルにぶつけないなんておかしいし、魔物大量発生の時にスカイベル達が駆けつけなかったのは、それだけの敵がいたんじゃないの?」
キャトルは黙ったまんまだ。
沈黙は肯定の証。
なるほど、ミラの予想から推測すると見えてくるものがある。
「つまり今は、アマゾネスは王国の何かと内乱状態にあり避ける戦力がない。そこに別任務を与えられていたドゥーナと、レアンドロと同じ神話級の精霊持ちが帰ってきたと聞いてすぐさま駆けつけたってところか」
「こ、これは帝国に無関係な話でもありません!もし万が一レアンドロ様が敗北した場合、王国は翁国の属国となります。現在我々が争っているのはヒャルハッハ王太子グレアル。そしてまだ公になっていませんが、現ヒャルハッハ国王は崩御しました!」
は!?
そういう大事な情報はもっと先に言えよ。
つまり、現在同盟国として条約を結んだ国王はいない訳で、いつ帝国に攻め入られてもおかしくないって事じゃねぇか!
「そうなると話は変わるよリアス」
「王太子は元々レアンドロにあまり良い印象を持っていなく、だからこれを機に翁国と手を結んでレアンドロを消す。そして翁国には神話級の精霊持ちがいて、あわよくば神話級の精霊が二体手に入り、戦争中立組合と同等の力を得られるってところかな?」
「概ねその通りでございます・・・」
「じゃあ話は早いな。俺達はさっさと帰国するわ」
「え?」
驚いているのはキャトル達ではなく、アマゾネスの3人組とジャベリンさんだ。
ドゥーナくらいはなんとなく状況は把握してるんだろうが、他の二人は全くわかってないな状況が。
「神話級の精霊持ちが今この場にいる事自体あまりよくない。それにキャトルさん、あんたはそれなりの実力者なのか?」
「いえ、そこの問題児達ほど頭は悪くありませんが、実力は彼女らに劣ります」
「つまりバグバッドの情報が届いているとすれば格上に格下の物を派遣した事になる。それは頭がよっぽど馬鹿か、そんな配慮すらも鑑みれないほど切迫してるかの二択」
「どっちにしても泥舟だね。それにボクは鼻が良いんだ。アンバーやドゥーナからする血の匂いとは比にならないほどの血の匂いがするんだけど、君は本当にアマゾネスの使いなのかな?」
チッっと舌打ちしたかと思うとキャトルは後ろに下がろうとする。
しかしそれを許すほど雷神は、ミラは甘くない。
「ッ!?身体が、動かない!?」
「誰が動いて良いと言った?」
おそらくこの女性は戦闘経験があまり少ない、もしくは魔力が一切ないと言ったところだろう。
じゃなければこんな微弱の雷属性の魔力で動きを封じられるはずがない。
人間は脳からの電子信号で活動している。
そこを少しだけバグらせる事で動きを止めたんだ。
最も魔力が少ない相手にしか通じない。
身内でもイルミナくらいがこの手に辛うじて不快感を示すくらいで、魔力が少なくても警戒していれば引っかかるなんて事はしない。
バグる前に魔力を掻き乱せば、動きが封じられることはないんだから。
「リアスくん、多分彼女は暗示、もしくは洗脳を施されてる」
「なるほど、それで拘束したのか。正直ミラがこの方法を取ったのも、通じたのも理解できなかった」
「微弱の電波が彼女にまとわりついていたからね。ジノア、どうする?」
「洗脳や暗示があったと言うなら、僕達は目をつけられたことになるね。あとはそれが誰かだけど、それ考えるよりもこの大所帯でここに留まる危険性を考えれば彼女を誘拐した方がいいかな。ミライ、洗脳は解ける?」
「脳に直接かけるタイプだから後遺症を残しても良いなら可能かな」
「ま、待って!彼女がアマゾネスである事は間違いないわ!」
後遺症と言う言葉に待ったをかけたのはドゥーナだった。
アマゾネスだとわかる印でもあるのか?
もし彼女の言動からとかならば、それは証拠にはならない。
それに現在もこいつのバックにいる奴が見ていないとも限らないからな。
「証拠は?」
「これよ」
そう言うと彼女の手の甲をドゥーナは触れる事により、紋章が出てきた。
待て、これは!?
「精霊契約の、印!?」
『少し違いますが、おそらく似たような効力を人間に施すための物なのではありませんか?』
そう考えるのが妥当だろう。
これは俺も見た事がないし、ドゥーナがそう言うのであればこれはアマゾネスの印という事になる。
「これは精霊紋と奴隷紋を解読してレアンドロ様が施した忠誠紋。魔力供給は主人の任意で流す事が出来るだけの効能だけど、この契約をした以上互いに害する行為は出来ないわ」
「へぇ、つまりキャトルさんは操られてはいるがれっきとしたアマゾネスなのは間違いないと。おそらく害することが出来ないは奴隷紋の一部の効能だろうな」
「しかしドゥーナ、それを証明するためとはいえドジ踏んだね。敵は今この情報を手に入れた可能性もあるよ?」
ミラはそう言うけど、対して問題にはならない。
契約紋って言うのは複製しようとしても同じように出来ないもんだ。
結契紋と精霊紋が同時に付与ができないのと同じように、生物において契約は一つのみ。
この事を重要視することは意味がない。
しかしミラには意図がある。
「え!?なにやってんの」
「ドゥーナ、バカ」
この二人ならそう言うと思った。
ドゥーナに俺はニヤリと笑顔を向けると、ドゥーナも黙って頷く。
「ご、ごめん。軽率な発言だったわ」
「まぁ困るのはお前らだ。それよりこいつは俺達が連れて帰るぞ」
「えぇ、彼女をお願いね。貴方にも迷惑をかけるわ」
良い演技だ。
俺達は自動輪を起動し、クリムゾンポロウニア面々に準備を促す。
俺達が留まる意味は、現時点ではマイナスにしか働かないからな。
『むっさん、貴方はここに残って』
『ふむ。精霊の言葉でミラが言いかけると言う事は理由があってのことか』
『うん。おそらく彼女、キャトルの話した事は事実だと思う。彼女を操る裏には、この状況でレアンドロ陣営がどこまで味方を引き込むかって事にあるよ多分』
『なるほど、それで某の同行が知りたかったと言うわけか』
そうだ。
これが偽情報だと仮定して、俺達に伝える意図がわからない。
アマゾネスがそれだけ統率力がレアンドロやリーダー格一辺倒というなら話は変わるが、ドゥーナを見る限りそれもないだろう。
それにそうだとしたら、レアンドロはリーダー格を連れて行くような間抜けで助けるのは泥舟だ。
もし何か意図があるとするなら、彼女を操る人間がレアンドロの陣営で助けを求めていると言う理由だが、彼女が離脱しようとした事からそれもない。
それにミラが動きを停止させても、接続を切らないあたり、敵陣営なのは濃厚だ。
「むっさん、こいつ使えんだろ?」
「これは、いいのか?」
俺はむっさんに懐からある物を投げつけた。
単身でこの場に残るリスクを考えれば、必要な物だろう。
「御守りだ、ほら全員乗れ!」
「良いのかアニキ?」
「大丈夫だ。全く、あとは帰ってくるだけだと思ったのに、どうして平穏を望んでるのに平穏にならないのかね」
エンドマにはたっぷり働いてもらうことになるからな。
俺は頭を無造作に撫でた。
「ドゥーナ、勝てよ?」
「もちろんよ」
そう言って俺達はぎゅうぎゅう詰めに自動輪に入り込み、ヒャルハッハを後にした。
キャトルは自動輪に乗り込んでいる。
故にむっさんがヒャルハッハに残っている事はバックの奴を気づいていないだろう。
*
ここはヒャルハッハの宮殿。
席に着いているのは、現国王ではない。
王太子グレアル。
彼の父である現国王は、この世にはいない。
何年も前にグレアルが影に銘じて消した。
そしてグレアル自身は、闇精霊と契約しており姿を国王へと変化させている。
「という事だそうで、ライザー帝国の鷲掴みはレアンドロに協力はしないようです」
「ご苦労。しかし侮れんな。流石はたった3人で魔物の軍勢を退けただけはある」
目の前の影は暗示を強制する魔法を使う女性コジリ。
戦闘力はそこまで高くないから、王国の影である浅知恵の蜘蛛として活動している。
「おっしゃる通りで。俺が出張って潰すか?」
「ミリオン!殿下に無礼だ!」
「良い。神話級の精霊持ちはそれだけで危険だ。それに加えて、奴はレアンドロ同様単身でも強い。お前の兄もそれで捕まったんだ。自重しておけ」
「兄者は下手を打った、が俺は兄者に勝てると言えるほど自惚れてはいない。それだけ奴が強敵だという事は認めよう」
「やめとけ。浅知恵の蜘蛛は元々戦闘員ではなく、諜報員なんだ」
宮殿へと足を踏み入れてきたスピカ・ドラグシル。
数ヶ月前に捕まった浅知恵の蜘蛛の面々を脱獄させるべく侵入し、失敗した総長だった。
彼の失敗により、エルーザ皇帝の脅威度を再認識した王太子は和平を結ぶ選択をした。
その選択は結果的に正しかった。
もし和平交渉の時に喧嘩をふっかけていたら、浅知恵の蜘蛛を難なく撃退できる国に加えて、神話級の精霊持ちもいる国との争いに発展していたのだから。
「おぉ、これはこれは任務に失敗したスピカさんではあーりませんかー」
「黙れ。貴様の兄、サウザーもそれで下手を打ったのだ!」
「その兄者を奪還作戦に失敗したのはあんただぜ?」
「殿下の御前だぞ!恥を知りなさい!」
二人の口論はコジリにより止められる。
コジリは浅知恵の蜘蛛の新副総長であり、スピカに進言できる唯一の女性でもあった。
「失礼。ところでコジリ。レアンドロ・フォン・ディッセンブルク公は、翁国が捕らえたのか?」
「どうやらその様です。戦争中立組合としても、レアンドロは脅威と認識しております。翁国には停戦と共にイフリートを返却してもらう手筈も現在検討中との事です」
「俺的にはイフリートもレアンドロもかなり厄介だから消えてもらいたいところではあるがな」
「そうは言うな朕としてはイフリートはこの国の至宝だ。鷲掴みの脅威がある以上手放すのは惜しい」
「英雄パーピルの動向も気になるが、まずは内乱を収める。浅知恵の蜘蛛に所属する過激派をアマゾネスにぶつける」
浅知恵の蜘蛛にはそれぞれ派閥があり、隠密を極めたスピカやコジリを技巧派、暴力を極めたミリオンなどを過激派としている。
そしてかつてリアスと対峙した魔剣を持つ男もまた過激派に属していた。
それがミリオンの兄、サウザーだった。
浅知恵の蜘蛛は基本的に他国に行く際、名は捨てる。
文字通り自身の記憶から名前を無くす。
故に自身の名前は、自分でつけているか誰かにつけられたかだ。
「ほぅ、それじゃ俺はアマゾネスを狩ればいいんだな?全員中古らしいが、捕らえたら俺の性奴隷に-----」
「馬鹿を言うな。殺せ。敵は一騎当千だ。コジリですら末端一人に暗示をかけるのに1ヶ月かかった。魔法耐性が強すぎてな。下手を打てば寝首を掻かれるぞ」
「ちょっとしたジョークだろうが・・・真面目に捉えると友達無くすぜ?」
「元よりそんなものは足枷にしかならん」
「つまんねぇやつ。まぁいいや。俺は部下達連れてさっさとアマゾネス共を血祭りにあげてくらぁ」
そういうとミリオンはふらふらと出て行った。
「自由な奴だ」
「殿下、総長。一つ耳に入れて欲しいことが-----」
コジリの報告から二人の表情は一変する。
「それは誠か!?」
「間違いありません。先ほど部下が確認致しました」
「なるほど、スピカ。今すぐに翁国に迎え!もしこのことが本当なら、世界情勢は動く。なんとしてもイフリートは回収せねばならない」
「はっ!ただちに翁国に出向致します。コジリ、技巧派全員にこのことを通達しろ」
そう言うと二人も部屋を後にし、グレアルだけが玉座に残った。
「リアス・フォン・アルゴノート、敵を作りすぎたな」
転生者が9人いるこの世界は今、混迷の世界へと変わろうとしている。
リアス「なに最後の不穏なワード」
ミライ「ボク的には今も十分混迷してると思う」
イルミナ「やめておきましょう。触らぬ神に祟りはないです」
クレ『触っても祟るときは祟りますよ』
リアス「祟んな。次回も楽しみにしてくれよな!」