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番外編:それぞれの現在

 若い芽を摘むわけには行かない。

 そう思って儂は、わたしはここに来た。

 この魔法はリサナの固有魔法だった。

 しかしそれが伝承されていき、族長なら誰もが使えるようになった。

 万が一、暴発した時の為に獣人全員が唯一使える位置を入れ替える魔法を開発した。

 だからそれを使ってわたしとリアスくんの位置を入れ替えた。

 この何もない空間もあと少しで崩壊していく事だろう。


「だが驚いた。まさかあんたが生きて、しかもここにくるなんてね」


「生きては居ないさ。<狂戦士の襟巻き>の中の怨念の一つが具現化されただけ」


「ふーん、誠也が怨念なんて抱えてたんだ」


「その顔でその声でその喋り方は違和感しかないな。あぁ、抱えていたよ。そして俺の怨念はリアスという少年のおかげで解消された」


「へぇ、貴方は一体何を抱えていたのかしら?死に際のわたしの前に現れるってことは、教えてくれる為に現れたんでしょ?」


 もしかしたら自分が作った幻想なのかもしれない。

 けれどそれなら勇者アランが出てきてもおかしくないし、やっぱり本当に怨念なんだと思う。

 怨念がおんねん。


「俺が殺したかったのはアランだ。そして魔王妃の肉体を持ったリッチを退けたあいつなら、もしかしたらと思ってしまった。それだけだよ」


「人が人を嫌い続けるのは難しいって事かしら?」


「俺はレイスの類いと大差ない。恨言ばかり言ってても仕方ないとか、そういう感情はない。ただ、未来を託しても良いと思った。お前もそうじゃないのか?」


「えぇ、そうね。それが正しいかは、彼等が証明してくれる」


 最早死にゆく命。

 その答えを知ることはもうないけど、彼等はポリ・ランドールの企みを止めてくれるはず。


「そうだな。俺ももう消えるようだ。最期に一つだけ教えておいてやる」


「教える?」


「ポリ・ランドールの魂は確かに消滅した。お前が見たと言っていたのは------」


 最後の言葉を聞き取る前に誠也の魂は消えていった。

 しかし彼の口だけは最後まで見ていたわたしは、その言葉を理解した。

 そして少しだけ未練を残してしまう。


「リアスくん、もしレイスとなって貴方に会うことがあればその時は貴方に謝るわ。わたしは、大きな間違いをしていた」


 その瞬間、わたしの意識は完全に閉ざされた。



 玉座に座る一人の初老がいる。

 周りに何人もの美女を侍らせ、腕を腰に絡ませた二人の女性の下着の中に手を突っ込んでいる。

 そして初老の前には太々しく腕を組んだ青年が一人いた。


「そうか。リアス・フォン・アルゴノートは勝ってしまったのか」


「それは確かだと思う。奴に預けていた不死身のアンデッドが消滅したってよ」


「ふっ、全く私が長年かけて練った計画を1ヶ月も満たないうちにパーにしおって。ヒャルハッハの若造はどうだ?翁国の小娘をけしかけたのだろう?」


 目の前の少年は元々ロックバンド商国にある一商人。

 しかしそれは仮初の姿であり、エグゾリアガソ翁国の白銀のガーナにロックバンド商国を滅ぼすように誘導した人物でもある。

 そして大義ができればヒャルハッハ王国のレアンドロは動くとわかったいたからの行動だった。


「どうやらレアンドロの私兵が余りにも強く、エグゾリアガソの兵士はほとんどトドメを刺されずに疲弊していてなぁ」


「兵士が生きてる以上、神話級の精霊は投入できないと言うわけか。忌々しい戦争中立委員会め」


「戦争中立組合な。しかしまぁ、アイツらの目がある以上、神話級の精霊持ちは簡単には動けないな。それにレアンドロの目的は闘うことじゃない。神話級の精霊さえ手に入れば良いだけだ」


「わかっておるわ小童!ヒャルハッハに派遣した密偵はライザー帝国の密偵として向かった奴も含めて全滅。ライザー帝国の取るに足らない国はリアス・フォン・アルゴノートの所為で持ち直しつつあり、貴様の私兵で最も優秀だった赤い悪魔が追い出されてしまった」


「最も危険なジノアを潰したのに、全部リアスの所為でめちゃくちゃだ」


「六人の実験体も全滅だ。レアンドロも邪魔だが、リアスも邪魔だな。どうにかできるか?」


 実際は六人の実験体のライアンだけは生き残っている。

 しかし連絡を入れていない為初老の男は知らない。

 何故なら生きて帰れば違約金を払われるどころか解剖する予定があったからだ。


「どうにかしろってのが依頼なら引き受けてやっよ。聖国の生臭坊主なら金もあるだろ」


「ふん!卑しい小僧め!その代わり完遂しろ」


「毎度あり」


 初老の男性が札束を投げつける。

 そして少年はそれを拾い集めて退室した。

 部屋を出るとそこに少年の姿はなく、一人の女性とセバスの姿があった。


「セバスか。お前が始末し損ねた男が名を上げてきているぞ」


「御冗談を。神話級の精霊持ちだったのは驚きましたが、あの場で闘って私が勝てたとでも?」


「命懸けでやれば出来たのではないか?」


「私の命はそんなに軽くはないですよ」


 セバスは自身の考える計画の為に命を落とすわけにはいかなかった。

 

「赤い悪魔と呼ばれた男が今更。じゃあお前は何に命をかけるんだ?」


「愛、でしょうか?」


「もう何十年も前の話なのに根深いな」


「貴女みたいに快楽の為に帝国に牙を剥いたわけでもないのですよ、流血の天使」


 その女性は流血の天使と呼ばれ、帝国で出版している赤い悪魔の本に登場するヒロインだった。

 赤い悪魔に出てくるヒロインは平民の女性となっていたが、実はこの女性は戦闘狂の中でも常軌を逸している。

 何せ殺した人間の血が自分に浴びることを志向の喜び、絶頂を迎えると言う特殊性癖を持つ。

 更にエルフの血縁関係にもあり寿命も長く、歳の近いセバスと比べて容姿がリアスとさほど変わらない。

 その若き美貌をあいまち、先程の生臭坊主の前では少年に変化させる魔法を使って接していたのだ。


「今は丸くなったさ。それより大将からは何をもらったんだ?」


「何を?あぁ、()()ですか」


 セバスの言ったコレとは、丸い球体だった。

 その丸い球体は輝きを放っていて、色はオレンジに輝いている。


「コレは私の計画に必要な道具ですよ」


「へぇ、それほどのエネルギーの塊が。私も大将から次の獲物のどちらかを流してくださると言われたから楽しみだ」


「やはり黄色は彼女が使うのですね」


「あれは不完全だからな。逆に言えば私かお前がリアスを仕留める事になるってことだ。それにしてもリサナと言えば、あの生臭坊主が何年もかけて研究したらしいな」


「えぇ、おかげでデストリーク以外の方法で死体の生命活動を元に戻す事が出来て何よりです」


「例の薬を死体に使ったのか?」


「効果はテキメンでしたよ。おかげで計画を何年も前倒しにできる」


「おー、怖い。前皇帝や現皇帝の旦那はいいかもしれないが、お前の育てたジノアとか言うのが死ぬ事になるのになんとも思わないのか?」


「何か思うのなら彼の国に向かいましたよ」


 彼の国とはバグバッド共和国の事であり、アンデッド達を見逃すと言うことはジノアを見捨てることと同義だった。

 しかしセバスは半ば確信があった。

 リアスがこの騒動を解決してしまうのではないかと言う事を。

 それを口にすることはない。

 そして自分の計画も恐らくリアスに阻止されてしまうのは最早確信にも似た自信もあった。

 それでもセバスはこの道を選んだのだ。

 止まるわけにはいかない。

 思い返せば引き返せる場面はいつでもあったのだ。


(こんな事を思うのは間違っているのでしょうね)


 どうか自信の計画もリアスが止めてくれると願うばかり。

 セバスは止まる気はない。

 もう自分じゃ止められない。

 最愛の人を生き返らせると言う邪なる道を歩むことになろうとも。



 リアス達がバグバッドに旅立ってからもう二週間が経とうとしている。

 現実はもっと経ってる気がするけどきっと気の所為。

 それにしてもリアス達いないとつまらないなぁ。


「リリィ、ぼーっとしてどうした?」


「グラン。暇だよねー、グラン以外と喋る話題ないしほんとに暇ー」


「そりゃ俺やお前と違って、他の奴らは地固めが出来てないし、魔物のみんなはこの領地の警備に当たってるからな」


「そうじゃなくてもアルバートとはもう会話する必要ないし、俺様系疲れるのよ。未だに治らないじゃない」


 アルバートは確かに考え方は改めたかもしれないけど性格までは治ってない。

 リアスやミライが接しやすい性格をしてるのも相まってなんかこうー、めんどくさいよね。


「もうリリィとリアスのシナリオって奴から大きく外れてるらしいのにな。アルバートも根は悪い奴じゃないんだ。許してやってくれ」


 そんなのわかってる。

 彼は影響を受けやすいだけだもの。

 

「リリィさん、南国フルーツスペシャルです」


「ありがとメルセデス」


「なんだよ南国フルーツスペシャルって・・・」


「みてわからない?パフェよ?」


 全くグランベルもバカになったのかしら?


「この国は北半球だそ!南国フルーツって一体いくらしたんだ!」


「アルゴノート領の一般人の日給くらいって言ってたかしら?」


「なるほど、要するに侯爵が自由に使える金くらいって事か!」


 え、アルゴノート領ってそんなに稼ぎ多いの!?

 聖女も精々伯爵より少し多いくらいなのにおかしくない?

 

「アルゴノート領はご主人とリリィさんのおかげで潤ってるから料理系統では好きなだけ金は使っていいってことでさぁ」


「待て、リアスは自動輪一台で小遣いが足りないって言ってたんだよな?いくらだ?」


「聞きたいですか?」


 遠い目をしてるってことはそういうことなんだ。

 自動輪ってそんなにお金かかってるのね。

 まぁ前世でも車って高い買い物だったらしいし、そんなもんかな。

 流石に恐れをなしてグランベルはやめとくって言ってる。


「因みにリリィの取り分って山分けにするといくらなんだ?」


「山分けしたら------」


 グランベルがメルセデスに耳打ちした瞬間、顔が青ざめている。

 よっぽど大きい額だったのね。

 食料だけに限定してるあたりそこまで多くないと思うんだけど。


「リリィにそんな才能が!?」


「まぁうちの領民にしか量産する技術はありませんからね。精々豪邸が立つくらいになるんじゃないですか?」


「一体どこに売り付けてるんだ・・・」


「商国の亡命者が利益を出してるんでわかりませんが、神話級の精霊に国ごと潰された亡命者が、リアスさんとミライさんとイルミナを敵に回す覚悟なんかないでしょうから平気でしょうよ」


 確かにリアス怖いわよね。

 本来なら恐ろしい力を持ってるはずなのに、畏怖の念すら領民から抱かれないなんて恐ろしいわ。

 

「確かに領地に平気でジャイアントベアが出るのもおかしいが、それを処理できる兵隊を作れるリアスに、マトモな商人なら裏切るような真似はしないか」


「ガキだと思って甘く見て痛い目にあった新居者も居ましたからねぇ」


 なにそれ、すごく聞きたい。

 スカッとする話好きなのよね。


「まぁ面白い話でもないですから割愛します」


「そんな!?」


「リリィ、どうした!?」


 聞きたかった!

 すごく聞きたかったぁ!

 メルセデスゥゥ!


「ちゃーっす!」


「げっ、この声は・・・」


 聞き覚えのある声。

 しかし口調は以前を知るわたしからしたら寒気しかない。


「パルバディ・・・」


「つれない顔しないでくださいよリリィの姉さん」


「あんたと話すのが、この領地にいて一番疲れるのよ!」


 あんな貴族子息を絵に描いたような口調や性格だったのに、ロウに縛られてリアスのグラビティアースの修行も組み合わさって完全に自尊心が壊れちゃったみたい。

 今じゃパシリに近いわね。

 まだアルバートは根性あったみたいで性格は変わってないけど、パルバディに至ってはもう・・・


「それって褒めてくれてます?あざーっす!」


「褒めてないわよ!どうしてそう言う思考になるの!」


「だって俺みたいなダメな奴と会話してくれるじゃないっすかー!俺ってぶっちゃけ貴族の生まれ以外に誇れるものなんて何もないんすよー」


「だから疲れんのよ・・・グラン、どうにかして?」


「パルバディ、そろそろロウが来るけど良いのか?」


「げっ!せっかく師匠の疲れを癒やすために姉さんとかきたのに!そいじゃ俺は失礼致しヤース!」


 ぴゅーんとその場を後にしていくパルバディ。

 流石にやりすぎでしょロウとリアス。

 

「お疲れねリリィ」


「あ、アルナァ!プラムとアルナがこの領地でグランの次に救いだよぉ」


「ふふっ、ワタクシもプラムの送り迎えや護衛があるから、つきっきりにはなれないのだけれどね」

 

 子爵から直々に護衛を頼まれる男爵令嬢も異常なのよね。

 ガリオ子爵がいくらアルゴノートの子供も溺愛してるからって、いやしてるからこその正当な評価なのかしら?


「わたしも手伝ってもいいのだけれど?」


「グレイとグレシア様を止められるのはリリィだけなんだから、離れたらうちがめちゃくちゃになる・・・」


「あの二人は優秀だから平気よ。おかげで暇で暇で」


 グレイとグレシアは単体の実力はもうわたしより強いのよ。

 ただまぁちょこちょこ聖国の密偵のような輩がこの領地に入ってきて、過剰に制裁するから荒れるのよね。

 領民も怯えちゃって、結局その騒動で出た怪我人をわたしが受け持つことに。

 まぁ最近はそう言うのも減ったからいいんだけど、二人に対して後ろめたい気持ちがあるから会話があまり弾まないのよね。

 

「まぁそうかもね。あ、プラムを送った帰りに見たけど、どうやらヒャルハッハ王国とエグゾリアガソの戦争に神話級の精霊の投入許可を戦争中立組合に提出したそうよ」


「へぇー、レアンドロが出るんだ」


 戦争中立組合って一体なんなのかしら?

 神話級の精霊持ちが二人いるって書いてるのは見たけど、そもそもレアンドロとリアスしか契約者に会ったことないからよくわからないのよね。

 

「許可は通らないんじゃないか?」


「さぁ?でもワタクシ達には関係ないことよ。兄貴達もうそろそろ帰ってくるし、兄貴達が帰ってくる頃には終わってるでしょ」


 アルナ、それってフラグっていうんだよ。

 わたしはアルナの最後の一言で一抹の不安を感じた。


「あー、早くリアス帰ってきなさいよぉー!」

一読いただきありがとうございます。

そして更新が滞ってしまい申し訳ありません!

物語が進み設定が増えた為、過去話を見返していたらこれだけ時間が経ってしまいました!

詳しくは活動報告に載せますのでどうぞご覧ください!

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