表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/160

理性を忘れし獣

「ミライ!」


 手を振ってこっちに走ってくるサンドラ。

 エンペラーリッチが言っていたからわかっていたけど、勝ったんだね。


「サンドラ、お疲れ様」


「ミライ達も。あれ?フリマリがいる」


「ごめんね。みんなには本当に迷惑をかけたわ」


 迷惑って。

 たしかに実質フリマリに全部持ってかれた感は否めないよね。

 リアスくんやイルミナが成長する中で、ボクはまだまだ成長しきれてない。

 リアスくんみたいな前世の知識を併用した魔法や、イルミナのような突出した身体能力はない。

 精々雷神として雷の魔法が得意とか、魔力が多いとかその程度しかないんだよね。


「フリマリ様のおかげでわたし達は助かりましたよ」


「そうだね。ボク達だけじゃ結構ジリ貧だったかな」


「お世辞が上手いわね」


「それよりリアスはどこ?流石に負けたとかはないでしょうけど、ミライ達が加勢に行こうとしないあたり何かあった?」


 リアスくん。

 リアスくんから受けていた強化魔法が消えた。

 意図的に解除した可能性もあるけど、細君支柱(フィアンコネクト)まで解除されたってことはこの場にいない可能性が高いかな。

 でも一体どこに行ったんだろ?


「それは儂が話そう」


 その声の方を見ると、ここにいるはずのない人物が空から降り立ってきた。



 動きが速い。

 脳が破壊されたことで動きに迷いがなくなった。

 だが------


「単調すぎる。冷静さを欠いた時より動きはいいけど、フェイントも何もない。この程度じゃ、身体強化を使ってない俺でも倒すことなんかできねぇよ!」


 拳を腹に打ち込む。

 しかしまぁ硬い。

 マトモなダメージを入れることもできないな。


『硬いですね』


「硬いだけならまだ良いさ。動きのキレと無限の体力のが厄介だ」


 一撃貰えば負け、そしてこっちは決め手を打つまで何度も殴らないといけない。

 かなりキツイぞこりゃ。


「ゴォォォォ!!」


「そうです。少しヒヤッとしましたが、ご主人様はリッチだ。攻撃に対してはタフなんだよ!」


『リアスの得意な分野は絶え間ない攻撃!リアス見せつけてあげなさい!』


「無理!」


 そんな無駄なことできるか!

 硬いだけの敵を馬鹿正直に相手にすることなんざ、馬鹿のやることだ。

 俺は後ろに飛び下がる。


「柔らかい部分だけを抉っていく。あいつがいくら強化されようとも、この空間で魔法が使えない以上ただの死体だ」


『柔らかい部分って一体どこを狙う気です?』


「そんなの決まってんだろ?」


 格闘技の中で、基本的にタブーとされている行為をする。

 俺は生きる為に格闘技の様な体術を身につけただけで、格闘家なんかじゃないからな!


「まずはここだ!」


 無造作に懐に入れておいた護身用の小刀を投げつける。

 もちろんこんなんじゃどうにもならない。

 硬い皮膚に当たって、宙を何度も回りながら落ちてしまった。

 だからそんなことは関係ない。

 次にはグチャリと何かが潰れる鈍い音が鳴る。


「グギャァァァア!」


「なんだ、叫ぶって事は脳は完全には死んでないんだな」


 俺がやったのは目潰し。

 相手の視界を奪うことで失明させた。

 この世界では失明は聖女の聖魔法で回復できるから、確実に失ってしまうと言うことはまずない。

 しかし前世では取り返しのつかない行為で、格闘技を習ってる奴らなら禁じ手として疎まれてる------はず!

 俺自身格闘技を会得したわけじゃないから、そこのところは詳しくはわがんね!


「ご主人!?」


『脳が生きてなきゃ活動は止まるから当たり前でしょう』


「まぁそうだな。じゃあ次は関節!」


 どれだけ硬かろうと、肉体構成は人間な以上関節を狙うのは間違いじゃない。

 が、こいつのパワーを考えたら悪手だ。

 だから敢えて何もしない。

 関節技を決められない様にこいつは力を入れている。

 脳が生きてるんだから、本能的に関節技を防ぎに来ると思ったよ。

 

「理性はやっぱ大事だよなぁ」


 一番柔らかい脇腹。

 肋骨でカバーされてるから硬いと思うだろうが、こいつが硬い理由が筋肉だとすればどうだ?

 案の定ボキボキと言う音が鳴り響いた。


「決まった」


『終わりですね』


 左の脇腹から骨が飛び出してる。

 結構右手も力が入らないが大丈夫だろ。


「ご主人様!!」


「さっきからご主人ご主人うるせぇ!終わりだ皇帝ゾンビ!」


 脇腹から体内に手を突っ込む。

 すげぇな。

 死体のくせに体内は暖かい。

 まぁそんなことはどうでもいい。

 俺はエンペラーリッチの心臓を握りつぶした。


「お前が脳のリミッターを外すと言った時点で、人間と同じ肉体構造をしてることはわかった。お前の敗因は俺に弱点を自ら晒したことだ」


 心臓な脳に血液を送るための循環器。

 それが壊れたら、当然脳にも行かなくなる。

 これで終わりだ。


「うぐっ!アガァァァア!」


 考えうる可能性の中で一番最悪の選択をこいつは選びやがった。

 俺が予想していたのは諦めて何かを喋り始めるとか、命乞いを始めるとかだった。

 そして最悪の考えが頭をよぎる道連れ。

 道連れにする為に、身体の限界まで俺を攻め立てる。

 咄嗟に肩に乗るクレを投げ捨て、あいつの攻撃を甘んじて受け入れた。

 くっそぉ、蹴りがいてぇ。

 俺は蹴る殴られるを繰り返され、腕や足が在らぬ方向に曲がった。


『リアス!』


「大丈夫だ!みてろ!」


 致命傷だけは絶対に受けない。

 そうなったら終わりだ。


「くっそいってぇな!」


「ウガァァァア!・・・・アガァァ・・」


 エンペラーリッチも徐々に攻勢も弱まっていく。


「・・・ガガガガ・・あ・・ぃ・・・が・・・とぉ」


 最終的に沈黙した。

 最後にありがとうと言う声が聞こえたが、おそらく気のせいだろう。

 あの女がお礼を言うとは思えない。


「いっだぁ、マジで痛いわ」


『無茶でしたね。しかしリアスのやり方のおかげでなんとか命は保てたのでは?』


「もっと褒めてくれていいぜ?」


『無傷なら考えましたよ』


 仮にもリッチの頂点だぞ!?

 しかしまぁ呆気ないもんだな。

 あれだけ勝てないと思ってたコイツが、最後は肉弾戦で倒れるなんて。

 まぁこの空間に俺を引き込んだ時点で、決着はついたも同然だけどな。

 なにせ自身が一番得意とする魔法を封じたんだからな。


「そんな!?エンペラーリッチが敗れた!?それじゃあ私は------」


「どうした?勝ち船から泥舟に乗り換えた気分はよくないか?」


 フリマリのことをコイツが裏切らなければ、ジーンと死んではいなかった可能性が高い。

 だからコイツには嫌味ったらしく挑発した。

 

「くっ、くそぉ!このゴミが!たかが人間になんてやられてんじゃねぇよ!」


「それが本来のお前か。似合ってるぜ?」


「おしまいだ。おしまいだぁぁあ!」


 聖獣について見直す必要があるなぁ。

 しかしまぁこの空間からどうやって出よう?

 そう思った矢先に異変に気づいた。

 この空間は一面真っ白だったはずなのに、壁が黒くなっている。


「なぁクレ、なんで壁が黒いんだ?」


『さぁ?ですが何か嫌な予感がします』


「意見が合うな相棒。俺の護身用な剣、投げつけてみるか」


 黒い壁がどんどん迫ってくるんだ。

 もしこれが俺やクレが予想している通りなら、この剣が最悪なことになる。

 案の定、黒い壁に剣が当たると粒子となって霧散した。


「はぁ、まじか。悠長に助けを待ってるとかさせてくれないのな」


「ふふ、ふははは!最期ノ厄災(ディザスター)がただの転移魔法だと思ったか!?俺様は知ってるんだよ!最期ノ厄災(ディザスター)の本当の効果を!」


 本当の効果?

 ただの転移魔法にしては、名前が大袈裟だと思ったけど。


「最期ノ厄災はなぁ!術使用者が死んだら、転移先が崩壊する道連れの魔法だ!そしてこの空間は、脱出不可能!俺もテメェらもおしまいだ!えへ、えは、えははは!」


 ニルヴァが壊れた。

 口調も変わってるし、相当切羽詰まってる。

 だがそれがあいつの言うことに嘘がないと言う証拠でもある。


「マジかよ。クレ、良いアイデアあるか?」


『流石に魔法を使えないとなると、どうにかできる要素がないです』


「だよなぁ」


 流石にこれはもう詰んだか?

 勝利の余韻にも浸らせないとか、コイツどんだけタチが悪いんだ。


「空間を崩壊させるってことは、ここは魔法で作られた空間ってことだよな?ってことは空属性が使われてる?」


『その可能性はありますね』


 空属性はどの属性とも混ざり合う特別な属性だ。

 そして何より収納魔法には空属性が一部混ざっていた。

 つまり異空間を作り出す魔法だ。

 まぁだからってなんだって話だ。

 今この空間では魔法が使えない。

 その原理がわからないとどうしよもない。


「せめて魔法が使えれば、空属性に干渉出来るんだが」


『魔法が使えない以上仕方ありません。<狂戦士の襟巻き>は何かアイデアないのですか?』


 しかし反応はない。

 おそらく魔法が使えない空間だからだ。

 意思は流石に残ってるだろうけど。


「ダメだな。ここに来てからうんともすんとも言わない」


『悩ましいですね』


 こうして話してる間にも壁が迫ってくる。

 しかし良い方法が思い浮かばない。

 次第に俺達の余裕はなくなってきた。


「くそ、やべぇよ!クレ、どうしよう!」


『情けない声をあげないでください。なにか、何か方法は!』


 黒い壁はもうほぼ目と鼻の先だ。

 この状況を打破するにも方法も知識もない。

 

「ごめんミラ、約束果たせそうにない」


「大丈夫リアスくん?」


 気づいたら目の前にミラがいた。

 流石のクレも驚いている。

 ついでにエンペラーリッチとニルヴァもこの場に戻ってきた様だ。


「あー、死ぬかと思った。ミラが俺をここに?」


 ミラは首を横に振る。

 じゃあサンドラかフリマリか?


「痛っ!」


「リアスくんいろんな骨が曲がってる!フリマリ、治療を!」


「えぇ!癒しの歌!ヒーリングソング」


 すごい。

 折れた腕がみるみるうちに元の形に戻ってく。

 そして俺の身体はあっという間に戻った。


「サンキューフリマリ」


「こちらこそごめんなさいね。迷惑をかけたわ」


「なんか吹っ切れたみたいだな。フリマリが俺をここに戻したのか?」


「いいえ。貴方をここに戻したのはアンドレアよ」


 アンドレアさん?

 まさかここでその名前が出てくるとは思ってなかった。


「へぇ、助かったわ。アンドレアさんはどうした?」


「リアスくんと場所を入れ替えたらしいよ。魔法が使えない空間にいたんでしょ?」


 それを聞いて俺は心臓の鼓動がバクバクし始めた。

 嘘だろ!?

 

「アンドレアさんは俺の場所がわかってたんだよな!?」


「うん。なんか千里眼でエンペラーリッチが魔法を使うところまでは見てたらしいよ」


「リアス様、慌ててどうしたのですか?」


「そういや、エンペラーリッチはリサナの肉体だったな。じゃあ効力はわかってたはずだ!やべぇ!アンドレアさんがやべぇ!」


『リアス、慌てたところでもう遅いと思います』


「そんなこと言ったってクレ!」


 あの黒い壁はもう目の前まで迫ってたんだ!

 あれに当たったらいくらアンドレアさんでも!

 クレが俺の肩に乗って耳打ちしてくる。


『リアス、アンドレアが彼女達にこの事を話さなかったってことは、負い目を感じさせない為なんじゃないですか?』


「それはそうかもしれないが」


『もしそうなら同じ立場だった時、貴方は何を嫌がりますか?』


 アンドレアさんがこの事を理解してないわけがない。

 そしてそれをミラ達に言わなかった。

 それはつまり、自分が一人で背負う選択を選んだって事だ。

 それを俺が話したら、アンドレアさんのプライドに傷が付く。

 ただでさえジーンを失ってまだ日が浅い。

 これ以上俺達に重い気持ちにはさせたくなかったと見るべきか。

 

『リサナがリッチになった原因が自分で、そのケジメをつけに行ったのかもしれません』


「まぁあくまで推測の域か」


 幸い俺はヤベェしか言ってない。

 俺は一度深呼吸をして、呼吸を整えた。


「悪い取り乱した。あの空間は何もないから焦ったが、ミラ達はアンドレアさんからなんか言われてんだろ?」


「うん。アンドレアさんはその空間の脱出の仕方を知ってるらしいから大丈夫だって。ただ帰るのに時間がかかるらしいけど。それにリアスくんにも言伝があるよ」


 脱出方法なんかないのはわかってる。

 魔法が使えない場所で一体何ができるんだ。

 それでもアンドレアさんが覚悟したのなら俺もそれを受け入れる。

 俺はアンドレアさんの言伝が気になった。

リアス「ついに決着!」

ミライ「長かったねー、うんすごく長かった」

イルミナ「作者が頻度を上げればもっと早く終わりましたのにね」

クレ『作者からは、更新遅れて申し訳ないだそうですよ』

作者「更新頻度遅れて申し訳ございません!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ