死霊の皇帝
アナザーマーズ。
解析してみた感じ、わたしの魔力波長にそっくり。
そのことから示されることは、あの黒い影はわたし自身。
魔力波長か狂うような魔力路が、わたしとアレの間にできてる。
つまり今のわたしに残された選択は、あの化け物のような奴と闘い勝たないといけないこと。
「どのみち貴方の肉体は奪う予定なのよ。後悔しなさい」
「なるほど、あんたが後悔してる未来しか俺には見えないな!」
あの幻想銃ってのは強力だけど、速度も大したことなくて、アレ以外は対処できるレベル。
確かに才能開花とやらで体術が限界突破してる。
それでも精々互角程度。
このリサナとか言う奴には感謝ね。
「ご主人様援護します。どうか神の御加護があらんことを」
「祝福ね。なるほど、これなら身体能力は彼を超えられるわね、ありがとう!」
よし、これで------人差し指をこちらに向けている。
来るわね。
「幻想銃<狙撃>」
咄嗟に顔を逸らした。
何故かはわからないけど、顔を逸らした。
「勘がいいな。だが」
「え?」
今度は腹部から強い痛みが。
痛みのする方を見ると、小さな穴が空いている。
そして口に広がる鉄の味。
撃たれたの!?
「ゴボッ。一体、なにを!?」
「わかる必要はねぇよ?次で終わりだ」
「まずい、シールドでは防げない」
「こちらは二人いると言うことをお忘れか!<イグニッション・レイ>」
ニルヴァ!
イグニッション・レイは聖魔法の高位の魔法。
流石にシールド魔法を使わなければならないでしょう。
「チッ!」
「キュゥゥゥウ!」
「クレ!?いや、助かる」
イグニッション・レイが放たれているのに突っ込んできた!?
彼が飛び出してくると同時にイグニッション・レイが直撃するが、彼は御体満足で無事。
そして人差し指をわたしの眉間に押し付ける。
「じゃーな、死霊の皇帝」
ここでわたしの生が終わる!?
冗談じゃない!
アンデッドからリッチに、更にこれだけ特別な肉体を得て終わりがこれだけ早いなんて。
だったら!
「最期ノ厄災」
「ッ!?」
次には一面真っ白の世界にわたしとニルヴァ、そしてこの男がいた。
よく見れば肩に余計なのがいる。
アイツがイグニッション・レイを防いだのね。
「お前、何をした?」
「ふふっ、さぁ?」
本当にわからない。
リサナの記憶から使ったオリジナルの魔法。
それこそ彼女の旦那であった男にも見せたことも、名前も教えたこともないこの魔法。
「ひとつだけ教えてあげる。この空間では魔力と文字が干渉することはないわ」
それはつまり、この空間内では魔法を使うことができないことを示していた。
*
よくわからない空間に引き摺り込まれた。
辺り一面が白い。
いやそれよりも問題なのは、付与されていた魔法が一切無くなったことだ。
幸いなのが、クレが巻き込まれた事。
エンドマの護衛はアマゾネスとむっさんが合流したから必要なくなったらしい。
『魔法が使えません。彼女の言ってる事は本当でしょうね』
だろうな。
でもそれが俺だけとは考えにくい。
「魔力と文字が干渉しないって事はお前も魔法が使えないんじゃないか?」
「えぇ、そうね。でもいいのよ。わたしの無限の体力とこの肉体があれば、ただの人間の貴方に勝つのは容易なんだから!」
『リアス、来ますよ』
クレに声をかけられなかったら、何も判る事なく頭を吹き飛ばされてた。
腕を十字にクロスさせて防いだが、かなり痛い。
「いってぇ」
「ふんっ!」
飛び蹴りの状態から、空中で回し蹴り。
リサナの肉体は伊達じゃないって事かよ。
だがアイツも魔法が使えない事はわかった。
つまり、それだけ追い込まれたって事だ。
コレを使うと判断するのはそう簡単じゃない。
「痛いけど、体術ならこっちも負けねぇよ」
「アンデッドに体術で勝てると思ってる辺り、傲慢ね!」
俺とリサナは互いに殴り合うが、俺はクレに、奴はニルヴァが第三の目になりサポートすることにより決め手にかけてしまった。
「ハァ、ハァ。無限の体力は厄介だな」
「そっちこそあんた何よ。身体強化は使えないはずなのに、どうして追いつけるのよ」
俺も驚いた。
<狂戦士の襟巻き>はどうやら、魔法付与ではないらしい。
才能開花を使ってた時より動きは劣るが、それでもリサナに追いつけないどころか、決定的な一撃は許してはいない。
「まぁ身体が悲鳴を上げてるが、その痛みで打ちひしがれるのはあんたを倒してからにするさ」
「それだけ疲弊していて、よくそんな大口を叩けるわ!」
「そりゃこっちは慣れない身体で、動きに慣れるのに精一杯だったからな」
身体強化は元肉体の力加減と異なる。
ましてや<狂戦士の襟巻き>は肉体がまるで変わったかの様にパワーアップする。
普通ならじゃじゃ馬の様でまともに歩くこともできなかったはずだ。
だから力をセーブしながら動くしかなかった。
「だけどまぁ、もう慣れたんだ。お前が強いおかげで徐々に力加減を緩くしていった」
「何を言って------」
その言葉は最後まで紡がれない。
顔面を殴りつけて吹き飛ばした。
この空間に壁はないし、地面もあるかわからないが少なくとも足はついてる感覚がある。
つまり地面はあり、地面に何度もバウンドして動きを止める。
驚いてるな。
おそらく目にも止まらない速さだったろうからな。
「速い!?」
「俺の才能は非凡ではあるが、異常にまでいかなかったんだ。それがコイツを装備しただけでこれだけ異常に慣れるんだぜ?」
呪いの様な呪詛で頭を埋め尽くされるデメリットが無ければ、ずっと使っていただろうに。
そういや<狂戦士の襟巻き>の人格が全然喋らなくなった。
クレも俺の肩にずっといるし、魔法が使えない事は確かだから魔法を使って俺に話しかけてたってところか?
「ニルヴァ!」
「ご主人様、この空間では聖魔法もつかえません」
「チッ!まぁいいわ。貴方、本当にわたしを殺して良いのかしら?」
「どう言う意味だ?」
またブラフか、はったりか?
どちらにしても、コイツが生きてる限りアンデッドの処理には苦労する。
殺すしか選択はない。
死んでる奴を殺すって言い方は違和感あるが、殺すしかない。
「殺す事は決定事項だ」
「もしわたしがここで死んだら二度と出ることができないとしても?」
「また妄言か。もうそこまで追い込まれたって事だよな?一思いに楽にしてやろう」
魔法は基本的に術者の意識が消えた時点で、発動は終える。
つまりこの空間も終えるはずだ。
「アハハ!ここがどういう空間かわかってないみたいだね」
「どういう空間?」
『ッ!?まさか、そういうことですか!?』
「どういう事だ?」
さっぱりわからないから聞かせて欲しい。
けど、クレが焦った声を上げるってことはかなりヤバいんじゃね?
『この空間では魔法が干渉しない。だとしたらこの空間は魔法で作り出したものではない』
「ッ!?くそったれ!無駄に頭が回るアンデッドだな!」
つまりコイツは俺をみちづれにこの領域に踏み入れたって事になる。
「気づいた様ね。ここがどこだかはわからないわ。最期ノ厄災と言う魔法は、最悪の地に転移。それが魔力を文字に干渉させることができない地域。まさか壁や地面まで何もない真っ白な場所だとは思わなかったけど」
「まぁとりあえずあんたを殺しても問題はないってことだ」
「いいのかしら?わたしはアンデッドの軍勢達の親だからあの子達はわたしの場所は把握できる。けれど貴方は?」
「だとしても、お前が俺を殺さない保証はない。だったらお前を殺すのは当然だろ」
「ふふっ、じゃあ協定を結びましょう。この身体は女性の肉体、そして貴方は男性。わたしを娶ることで、死霊の皇帝としての地位を生きたまま貴方にあげるわ」
「くだらねぇな。俺は王座に興味はないんだ」
ひっそりと平穏な暮らしが俺の望みだ。
この世界を手に入れたいだの、頂点に達したいだの、俺にそんな出世欲なんかない。
「俺が欲しいのは平凡な日常だ。お前の話には何の魅力もない」
「そうかしら?もし貴方が死霊の皇帝になれば、少なくともわたしが生者を生かす枷になるわよ」
「お前はアンデッドで、俺は人間だ。魔物と人間では契約魔法を結ぶことも出来ない。思想が全く違う者同士で話し合う余地などない」
「頑なね。でもならどうするのかしら?貴方に当てはあるの?」
「当てなんかないさ」
魔法が使えないではなく、魔力と文字が干渉しないって事は、外から探索魔法で俺を探しても見つからない可能性が高い。
頼みの綱は千里眼を持ってるアンドレアさんだが、転生特典が及ぶかどうかもわからない。
けれど俺はどれだけ助かろうともこの手を取らない。
取りたくない。
「お前がジーンを殺した。俺は仲間を奪われた。それだけでお前と敵対するには十分だ」
「仲間ね。悪態を突き合ってたのでしょう?」
「それでも奴は俺達を頼り、それを俺たちは了承した」
「ならわたしも貴方を頼るわ。アンデッドも人間も平和に暮らせる世界を作りましょう?」
「愚問だな。断るさ。俺の妻になる女性はただ一人だ。ミラ以上に魅力的な女性なんていない。さぁ、死ぬ覚悟をしておけ。喜べ、俺は基本的に知的生命の命は取らないが、お前は例外だ」
ジーンを殺されたってのに許してやれるほど、俺は器は大きくない。
不殺なんて、結局俺の心の持ちようでいくらだって変わるんだ。
「頑固ね」
「あぁ、俺はもう四十路の老害なんだ」
「いいわ、貴方の強さもよくわかった。わたしはここで死ぬ可能性が高いことも」
「高いじゃなくて死ぬんだよ!」
俺が顔面を握りつぶす為に、奴の頭にアイアンクローをかます。
しかしそれを読んでいたかの様に、俺の手首を掴んでいた。
なんだこれ!?
さっきまでと力加減が違う!?
「ならわたしも、脳のリミッターを外した様な攻撃をしようじゃないの。わたしゾンビだからね」
「ぐっ、アァア!?」
手首が握りつぶされた。
くそ、ここじゃ治療もできないのに。
骨があらぬ方向に曲がってる。
俺はそれを無理やり元に戻した。
手を開いたり閉じたりして、動くことだけを確かめる。
「いってぇ、でも動く」
『リアス、大丈夫ですか?』
「大丈夫に見えるなら、お前の目は腐ってる」
『悪態吐くくらいの元気はありますね』
すげぇ痛いからな!?
クソ、脳のリミッターを外しても問題ねぇのはわかるが、あいつの手を見ればそれが危険なこともわかる。
アイツの手もボロボロになってんだ。
この状況は別に最悪な状況じゃない。
なりふり構ってられないと言うのは追い込まれた証拠だ。
だが、なりふり構わない状態にする前に殺すことが理想だった。
「ハッ!」
「ぐっ!重ぇ!」
「女性に失礼しちゃうわね」
飛び蹴りは防いだが、その体制のままのかかと落としキツい。
腕がミシミシと立てちゃいけない音を立てやがる!
「しぶといことしぶといこと!」
俺を踏み台にして飛び上がり、更に勢いの増したかかと落とし。
流石にコレを防ぐのは馬鹿らしいから避けさせてもらう。
「避けるのなんて、予測できないとでも?」
宙に浮いたままこちらを蹴り飛ばしてきた。
魔法かよ!
脚力だけで空気の圧力を圧縮して蹴り飛ばしてきた。
『アンデッドに自由意志が付くととんでもないですね』
「呑気に身構えんな!脳みそ吹っ飛ばせば勝ちなんだ!」
想定より強い。
<狂戦士の襟巻き>はそれはもうかなりの恩恵のはずだ。
なのにコイツはそれを凌駕するリミッターを外した。
そもそも自分の意思でリミッターなんて外せるものなのか?
わかんないことだらけだ。
「幻想銃とやらが使えなきゃ、貴方は恐るるには足りないのよ!」
「だったら恐れさせてやるよ!知ってるか?俺の異名を!」
アイツの目の前で超高速でステップし、後ろに回る。
そして奴の頭を掴みこんだ。
「なっ!?」
「消えた様に見えただろ?」
目の前で高速にステップすれば、あっさりと消える。
当たり前だ。
視界から高速で消えれば脳が無意識に追うのをやめてしまうんだから。
「俺は鷲掴みの君主って呼ばれてるんだぜ?」
「ちょっと待ちなさ------」
最後まで言い切る前に奴の頭を潰した。
肉体が痙攣を繰り返しているが、俺の腕を払おうとしないと言うことは潰せたって事だよな。
「ご主人様!?」
「ニルヴァ、次はテメェだ」
俺はコイツも許す気はない。
俺は視線をニルヴァに移した。
移してしまった。
『リアス!油断しないでください!まだ奴は活動を終えてませんよ!』
「え?グッウア!」
次の瞬間、鷲掴みしていた左腕を握り潰される。
手に激痛が走った。
こんな複雑骨折、聖女じゃないと治せねぇぞちくしょぉ!
「痛ぇ!」
『脳が変形したと言うのに、生の執念はすごいですね』
「ァァァアア!ガァァア!」
「正気は保ってないみたいだけどな」
まぁまずい事に変わりはない。
両手を潰されてんだ。
右手は一応殴ったりはできると思うけど。
「ふふっ、いいぞご主人様。潰れた脳は治療すれば元通り。そしてリアスも虫の息。この闘いは勝利が約束された様なもの!」
「イキッてるとこ悪いが、お前の願いは叶わないぞ?」
アイツを殺すのにそんな時間がかかるはずもない。
確かに肉体的な意味合いでは脅威だが、理性や知性がぶっ壊れた。
それならもう、ジャイアントベアと脅威は大して変わらない。
『リアスを、私の主人をみくびるとは、見立てが甘いですね。リアス、貴方は私の願いを叶える為にここでは死ねません。勝ちなさい』
「あぁ」
クレの願いは望まない契約を、意思を封じて行う精霊契約の儀をなくす事。
恐らく俺は教国とも闘うことになるんだ。
こんな奴に遅れをとってる場合じゃねぇよな。
リアス「どうもトイレからこんにちは、リアスです。食事中の皆さんにはご迷惑おかけします。ただいま絶賛腹痛中でありまして、トイレに篭っております故、後書きでの登場がなくなってしまっています。ですが、下痢さえ治ればすぐにでも------」
作者「汚ねぇからトイレでしゃしゃんな!」
リアス「ごめん・・・」