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聖女の鎮魂歌

 わたしは元々騎士爵生まれの平民に近い令嬢だった。

 聖女として、ニルヴァと契約したのはたまたま。

 小さい頃にたまたま砂漠にいた小さな龍を保護したら、それが聖獣だっただけ。

 それも本当に偶然。

 まさかニルヴァが聖獣だなんて思ってもみなかった。

 そして何年も一緒にいた。

 あるとき、わたしの故郷のバグバッド王国に独りの美丈夫が現れた。

 名前はディマリア。

 彼女の美貌は凄まじく、この国の男を次々と魅了していった。

 わたしはたまたまその国で最初に出会ったから彼女と関わりが持てた。

 本当に運だけで生きているわね。

 その美貌に靡かない男性が一人いた。

 それはわたしの幼馴染みジーン。

 彼はバグバッド王国の宰相の息子で、15歳で異例の騎士団を束ねる元帥となっていた。

 何故、そんな優秀な彼がただの騎士爵の生まれのわたしと付き合いがあったのかは単純に親同士が仲が良かった、それだけ。

 彼はディマリアの美貌よりも、その彼女の在り方に惹かれたのだろう。

 二人は交際を開始し、程なくしてディマリアとジーンの間に子供ができた。

 それがサロンガ。

 

「これはわたしの天罰・・・」


 わたしはディマリアに嫉妬していた。

 でもそれを表に出せば嫌われてしまうのもわかっている。 

 だからディマリアが亡くなったと聞いたとき、悲しみよりも嬉しいと思ってしまった。

 だってジーンの事が好きだったから。


「わたしは多分、ここで死ぬべきだったのよ」


 ディマリアがニルヴァが聖獣だと気づき、国で話したことでわたしは聖女になれたのに。

 恩を仇で返してるような、そんな気分。

 それに情けないことに、わたしは聖属性が体内にあって闘えると言うのにこうやって、リアス達の精霊に守られている。

 本当に卑怯者。


「そうだ。ここで死のう。死んでしまえば楽になれる」


 そうやって自分が帯刀している剣を首に突きつけようとしても、いざ恐怖心が勝って何も出来ない。

 情けない。

 ディマリアはどうしてわたしの事を親友だと言ってくれたのだろう?


「ニルヴァに裏切られて、ジーンも失って、わたしに残ってるモノなんて何も無い」


「何も残ってないなんてことはないだろう?」


「え?」


 そこには死んだはずのディマリアが立っていた。

 でもどうして?

 ディマリアの遺体はたしかに確認した。

 ディマリアはあの時誰かに殺された。

 それだけはたしか。


「驚いたか?おっと、そこの精霊達は警戒しないでくれ。わたしは残滓みたいなものさ」


 ナスタリウムとシュバリンが警戒していた。

 けれどそんなことをしなくて良いとディマリアは言う。

 それに残滓って。


「ニルヴァ。聖獣は狡猾な生き物だ。だから裏切られた時、心が折れたときにわたしがこうして出るように魂の残滓を君に仕込んでおいたのだ」


「でも、どうしてそんなことを・・・」


「君は自分が思っているほど、狡猾な人間じゃないからだ。じゃなければこうして悩まなかっただろう?」


 いや、それは事実としてあるからよ。

 わたしは、卑しい人間。


「卑しい人間は自分を卑しいと、心の中で蔑まないさ。周りに言い散らすんだ」


「まるで心の中が見えてるかのようね」


「これでも魂を操る神話級の精霊だからね」


 ははっ・・・じゃあ今までの事とかもすべてお見通しだったのかな。

 

「同じ人を好きになってしまったんだ。ジーンに惹かれる理由はわかる。彼は真面目だったからね。それと同時に君も真面目な人だ」


「わたしが真面目?」


「わたし達の仲を引き裂こうと思えば出来たはずだ。それをしなかった」


「そんなこと------」


「しないよね。だって君はジーンが好きだった。そしてわたしが好きだった」


「うん。でも・・・今はもう二人は、いない」


「他にもいるだろう。君が聖女だと国に話したのは、君が聖女たる器だと思ったんだ」


 わたしが、聖女たる器?

 でも、守りたい者なんてもう。

 サロンガの事だってリアス達といる方が良いに決まってる。

 実の両親が死んだ以上、こんなわたしといるより------


「それを決めるのはサロンガだ。君がどうしたいかだ。君はわかってるんだろう?自分の心に聞いて見ると良い」


 わかっている?

 わたしがどうしたいかを?

 サロンガの事じゃない。

 わたしがしたいこと。


「わからない。わたしは、わたしは!」


「ふふっ、君の顔を見ればわたしじゃなくてもわかるよ」


 うん、わたしはジーンの仇を獲りたい。

 ジーンの遺体をこれ以上辱めるなんて耐えられない。

 

「だけど・・・」


「君が彼らに多大な迷惑をかけた事実はたしかにある。でもそれとここでぐずっているのは違うだろ?」


「・・・そうね」


 死にたいと良いながら死の恐怖で、自死を選べない。

 それに殺されるのもごめん。

 これからの事を解決したら考えよう。

 この国が例えなくなるとしても、それでもわたしの人生は多分続くのだから。


「そうそう、あんたは悩んでるより前向きな方がいいよ」


「ありがとうディマリア」


「あんたを慰める形じゃなくてごめんね」


「ううん、自分で気づくことが大事、なんでしょ?わたしはどこまで言っても図太い人間だから」


 人の事なんて考えない。

 ディマリアの言う聖女とはほど遠いと思うけど、それがわたしなんだから。


「普通の人間ならそれで闘おうとは思わないよ。だからあんたは聖女に向いてる」


「図太い国の守護者、そして国の人間を害したアンデッドは許さない。うん。たしかに聖女としての行動は正しいのかもね」


 ディマリアは何も言わなかった。

 もう、ディマリアの残滓は見えない。

 きっとディマリアとの最後の言葉だったんだろう。

 こんなわたしを親友と思ってくれてたディマリア。

 そんな彼女に恥じない働きをしないと。

 私はナスタリウムとシュバリンを連れて、ジーンのいるところに向かう。

 このことが間違ってるかどうかなんて関係ない。

 ジーンの肉体がアンデッドになってしまったなら、それを浄化するのが聖女の役目よ!



 なんでフリマリが!?

 ナスタリウムとシュバリンを見る限り無理矢理きたって訳じゃなさそう。

 

「ミライ!イルミナ!」


「どうしてきたのですか!?」


「わたしは・・・わたしは!」


 フリマリが来た理由はわからないけど、今はそんなこと考えてる余裕もない。

 敵は強大なんだ。

 ここに来たって言うことは、ある程度心の整理が付いたんだろう。

 

「理由はあとでいいよ。フリマリ、援護頼める?」


「あぁ?あぁ、この身体の番か。残念だったなぁ、テメェの知ってるジーンとやらは死んだ。今は俺、アラジン様がこの身体の主だ」


 フリマリは黙ってる。

 心の整理は付いていない?

 俯いたまま黙って立っている。


「はっ!心が弱い奴だってのは、こいつの記憶からわかってんだ!そしてテメェらの動きのキレもあまりよくなくなってきた。テメェらは俺を殺そうとしたんだ。覚悟出来てんだろうなぁ!」


「ふふっ」


「あ?」


 ボクの聞き間違えじゃなければフリマリは笑っている。

 極度のストレスで壊れたんじゃなければこれは------


「馬鹿ね。わたしはジーンの死を受け入れられなかった。ニルヴァが裏切ると思ってなかった。親友がこの世を去るなんて予想出来てなかった。だから、あと少しで心が壊れるところだった」


 たしかに死んだ親友の土神ディマリアを失い、その傷が癒えているところで旦那を失い、相棒に裏切られたら精神的につらいのも仕方ない。

 

「でもね。わたしが泣いてても、ジーンは帰ってこない。ニルヴァは人類の災厄になりかねない」


「ふんっ!聖獣のいない貴様など、塵芥も同然だ。最初にお前から殺してやろう!」


「しまっ------」


 ボク達の横を通り過ぎて、フリマリの前に移動するジーン。

 そのまま拳がフリマリへと迫る。

 しかしジーンの拳は空を切った。


「ん?なんだぁ?」


『『蜃気楼(ミラーフィクション)』』


 え?

 ナスタリウムとシュバリンが使った魔法は、リアスくんが作った複合魔法。

 蜃気楼は、ウォーターカーテンにファイアーボールを複合させるだけの単純な複合魔法で、残像を作り出すリアスくんが複合魔法を安定して使えるまで練習に使ってた魔法だ。

 簡単ではあるけれど、そもそも複合魔法自体魔力のコントロールが必要でおじさんやボクでも成功率は1%にも満たない。

 それを二人が使った!?


「なんて危険なことを・・・」


「いいのよ。彼らにはわたしが頼んだの。言葉はわからないけれど、通じるみたいだったから」


 簡単に言うけれど、精霊はそもそも契約者の言うことしか聞かない。

 それは契約が理由ではなくプライドが高い生き物だから。

 つまりフリマリのことを二人は認めて力を貸したことになる。

 だとすれば、彼女を信じてもいいよね。

 フリマリは歌を歌い始める。


守護者の聖歌(ガーディアンソング)


 力がみなぎってくる。

 フリマリの聖魔法はこれほど強力だったんだ。

 今のボクでも近接戦闘が出来そうなくらい強化された気分だ。

 だとすれば------


「ちっ・・・何故聖魔法を使えんだ?聖獣との契約は破棄されたはずだろ?」


「貴方が知ることはないわよ」


「あ?」


「ですね」


 イルミナがあいつの懐に潜り込み、顎に向かって足を蹴り上げる。

 驚いた。

 さっきより速い。

 たしかに凡人レベルの動きのジーンを、リアスくんが目で追えないほどまで強化されてるだけある。

 身体強化が上がると身体の動かし方がわからなくなるから、訓練をしないと動かせない。

 だからボクはあんまり動きたくはない。

 でも魔法であれば関係ない。


「ぐっ!速さが戻ったか」


「いいえ、戻ったんじゃありませんよ。さっきよりも速い!」


 宙を舞っていくジーン。

 すごい、さっきまでは互角に近かった闘いだけど、今はイルミナに軍配が上がる。


「うぐっ!だったら、剣よ!」


 土属性の魔法?

 地面から剣が発生し、奴の手元にまで飛んでいく。


「武器ありだったらどうだ!」


「武器があると思ってるおバカさん、天雷!」


 土で出来た剣が砕け散る。

 イルミナに斬りかかったっていたけど、それも当たることなくイルミナは攻撃の姿勢に入っている。


「チッ!」


 こっちをどうにかする気かー。

 たしかに間違ってない。

 でもそれは少し前までの話。

 イルミナの拳二つが、きっちりと引っ付いてる。


「黒縄!」


「ッ!?」


 ヘレイツの黒縄は、激痛を負わせるだけの技。

 肉体へのダメージが一切ないのに激痛を走らせる。

 これを魔力無しでやってるって考えるとすごい恐ろしいよね。


「あぁ!?なんだよこれ。いてぇ・・・いてぇえええ!」


「直撃を受けるなんて考えなしですね」


「テメェ、何しやがった!」


「痛覚を少しだけ乱しただけです」


 痛覚をピンポイントで乱すから厄介だよね。

 聖魔法でもどうしよもなかったから、痛みは続く。

 大体一日はずっと痛いらしい。

 それもリアスくんが立てなくなるほどだった。

 まぁイルミナ自身も一日に二回打つと喰らったやつ並みの痛みを伴うから、一度しか使えない諸刃の技でもあるけど。

 

「ぐっ!貴様ぁああ!だが、いくら痛みがあろうと俺は死なねぇ!なにせもう死んでるんだ!死んでる奴が死にようがない!そして俺は皇帝のおかげで不死身だ!」


 ボクとイルミナが冷たい目で視てる事に気づいてないね。

 だってもうこの闘いは決着が着いたようなモノ。

 


「そっちばかりみていていいの?」


 そう、フリマリがいる以上、これ以上ボク達がこいつと闘う必要はない。

 まぁ闘う可能性もあったけど、イルミナの黒縄が当たったなら問題ない。

 それにこいつの肉体、イルミナに殴られた箇所の再生が始まってない。

 理由はなんとなく予想が付くけど、きっとこいつの再生はもう。


「おい、なにを、している?」


「どうしたの?」


 フリマリはジーンに向けて手をかざしている。

 そして直感なのか、それとも別の何かかはわからないけれど恐怖をしている。


「わたしの手で決着を付けないと」


「あ、あっ・・・・」


 痛みの所為か、恐怖の所為か、しかしひとつだけわかるのは彼が震えていること。

 それは今の状態がどっちにしてもまずいってことだよね。


「デスティミープリーステス」


 その瞬間その場が爆ぜた。

 一応可能性を考慮してフリマリにフルシールドを貼っておいた。

 ナスタリウムとシュバリンも同じ様に考え、三重のフルシールド。

 爆風が止むと、フリマリが立っていた。

 正直驚きが隠せない。


「いくらシールドの魔法が強いとは言っても、残り一枚でシールド自体ヒビだらけって・・・」


 リアスくんの幻想銃は一点集中の魔法だからシールドが砕けるのもわかる。

 でもこれはそうじゃない。

 余波だけでこれって、初会合の時喰らってたらボク達死んでたよ。

 

「まさかこれほどの威力とは」


「それよりジーンは?」


「原型が残っていますね、少しだけ」


 これだけの威力で肉体を残したのか、それとも再生が始まっているのか。


「ち、くしょぉ・・・再生が、始まらねぇ・・・ぞ!」


「リアスの言うことは正しかった。最初からリアスの言うとおり、わたしが闘いに参戦しなければ、ジーンが死なずに済んだのかな?」


「ジーンがいなければ、きっとリアスくんは<狂戦士の襟巻き>を使うって選択肢は出なかった。つまり彼らに対抗出来る戦力が無くなった以上、きっと全員同じ運命だったはずだよ」


 リアスくんがギリギリまで出し渋っていたのがその証拠。

 ジーンが死んだことで、ボク達が追い込まれたことで死を直感したことでその選択肢をとった。

 また違う結果があった可能性もあるけど、そんなの言い出したらキリが無い。


「ジーン、様は立派でしたよ。少なくともこの愚図よりは。それに自分でもわかってるのでしょう?」


「イルミナ」


 再認識したってトコロだよね。

 今のフリマリに迷いは無いように見えるもん。


「ちくしょお!ここまでの進化がどれだけ貴重か、テメェらわかってんのか!クソがぁ!なんで再生しねぇんだ!」


「それは君の主が近くにいないからじゃないかな?」


 細君支柱が切れたのは多分リアスくんが近くにいなくなったから。

 転移の魔法でどこかに移動したのか、それともリアスくんと彼女が闘いのは手に場所を変えたか。

 少なくともこの国にはいないと思う。


「どうでもいいわ。それよりもジーンの肉体を浄化する。そのために手加減したのだから」


「手加減・・・だと!?」


「当然。教国の人間がこの国に来ない本当の理由は、稀代の最強聖女に喧嘩を売りたくないという理由に他ならないのだから」


「稀代の・・・聖女!?」


 驚いた。

 教国がこの国に来なかったのはその環境故だって聞いてたけど、まさかフリマリが強すぎる故だったなんて。


「馬鹿な!貴様はジーンがいなければ何も出来ない雑魚のはずだ!」


「えぇ。弱い方が、守りたくなるでしょ?」


「ふふっ、ハハハハ!フリマリ、最高」


 笑いがこみ上げるよ。

 弱い奴だと思って居たけどとんでもない。

 リアスくんが言ってた乙女ゲーの聖女であるリリィは、悪女に近い。

 まさにフリマリの様な強かな奴を、聖女と言うんだろうね。


「チクショぉ!くそったれぇえええ!」


「さぁ、お別れの時よアラジン。ジーンの身体は返してもらうわ」


「やめろ!俺はまだ、まだしねねぇ!」


聖女の鎮魂歌(ホーリーレクイエム)


 ジーンのボロボロの肉体に聖婚が刻まれ、そこから燃え始める。


「やめろ!やめろぉぉ!俺は死にたくねぇええ!」


「あら、死んでる身では死なないんじゃ無かったのかしら?」


「ちくしょぉぉ!皇帝ぃぃ!さっさと俺を助けろぉぉ!」


「さようならアラジン。短い人生だったわね」


 その言葉と共にジーンの肉体は跡形も無く消えた。

ミライ「今日もリアスくんいないの?」

イルミナ「リアス様は今日は寝坊ぽいですね。今も寝息を立ててベッドで寝てましたよ」

ミライ「リアスくん朝弱いからね」

イルミナ「それにしてもフリマリ様は稀代の聖女とは」

ミライ「まぁ男は弱い女を守りたいんだろうけど、古いよねー」

イルミナ「まぁリアス様もそうならない様に願いましょう」

ミライ「リアスくんもその考えだと思うよ。ただボクより強くなろうと頑張るタイプだから」

クレ『リアスの場合、マゾだからだと思いますけど・・・』

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