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生前の記憶

 トロール、別名人喰い鬼。

 鬼神に近いとも言われるその魔物は、実は目撃例がデザートオルキヌスに次いで2番目に多いSランクの魔物。

 だけどその脅威はあくまで理性を持っていないトロールに限った話だよね。


「イルミナ、相手はリッチの頭を持った不死身のトロール。ジーンの肉体だとしても容赦しないようにね」


「わかっています!」


 下手したらボク達は貧乏くじを引いたかもしれないなぁ。

 リアスくんの強化があるとはいえ、不死身の相手なんてどう倒せばいいんだろ。

 魂を砕く魔法とかボクは知らないけど、多分リサナリッチの発言からしたらアマゾネスとむっさんとサンドラは倒したんだよね。

 ならボク達も倒さないと立つ瀬がないよ。


「ニンゲンンンンン!」


「イルミナ!」


 イルミナはボクの声を聞く前から飛び出した。

 やることは決まってるからね。

 イルミナは右は左へ高速で移動し、そこにシールドを展開してアシストする。

 この速度で空中を自在に移動したら、追いつけるはずもない。

 リアスくんのおかげでボク達は限界を引き出せてるから。

 寿命が縮むけど、それでも今を生きれなきゃ意味がないしね。


「ハッ!」


「ングゥゥ!ニンゲンッ!!?」


「天雷!」


 イルミナが腹部に蹴りを入れて、宙に浮き上がったトロールに天雷を撃ち込んだけど、とんでもない皮膚。

 天雷でかすり傷しかできないなんて。

 再生以前に、こいつを倒すの自体大変かも。


「まぁそれでもツリムより硬いわけないけど!」


「等活!」


 リアスくんとイルミナが二人で考えた八つの技で構成された流儀ヘレイツ。

 なんでもリアスくんの前世のニホンってとこの、地獄には詳細な設定があったらしい。

 その中の地獄を再現した技らしいんだけど、なんでリアスくんってそう言う無駄な事するのかな。

 別に地獄やら惑星やら、無駄に前世の何か引っ張ってくるよね。

 本人はそれがかっこいいと思ってるんだろうけど、ボクからしたら何にもかっこよくないのに。


「遅いですね。これならまだジーンのが速かったですよ?」


 等活ってどうやってるんだろう。

 まるで空気を掴んでるかのように、急旋回を繰り返して削ってる。

 万物にはそれだけの耐久値と言うものがある。

 トロールみたいな硬いタイプはこうやって地道に削る方が速い。

 イルミナはそれをわかって、威力を捨てた手数の攻撃を繰り出していた。

 ヘレイツの中で手数が多いのは十六の等活だけらしいしね。

 

「アガッ!!?」


 硬かったトロールの皮膚からついに出血する。

 そしてその隙を見逃すボクじゃないよ。


「韋駄天!」


 手数の韋駄天。

 再生が始まる前に内部に叩き込む。

 生き物脳は電子で出来てる。

 つまり体内に電流が駆け巡れば、もしかしたら脳がおかしくなるかもしれない。

 まぁ生物にはある程度魔力も内包してるから、ある程度は乱されないかも知らないけどね。

 でも殺せない相手を殺すなら、殺さずに殺す方法を試すしかない。


「ヤ、ヤルな」


「叫ぶのを辞めた!?」


「電撃はいい意味での刺激になってしまったようですね」


 簡単に言わないでよ。

 知性がつけばつくほど手がつけられなくなるんだから。

 

「ありガたい。進化しテから理性ガ呑まレて仕方ナかった」


「そのまんま飛んどけ!」


 くっそー1分経っちゃったよ。

 リアスくんに延長してもらわないと。

 リアスくんに目を配ると、リアスくんも決着がつかなかったのかこっちを見てる。

 ボク達は黙って頷き合う。

 延長だ!

 リアスくんの強化魔法が切れるまでにこいつを倒す!


細君支柱(フィアンコネクト)!」


 うわぁぁ、全身痛くて涙出そう。

 限界まで才能を引き出した状態だとこんな痛くなるの!?

 肉体も強化されてるはずだから、これは限界まで鍛えちゃいけないやつだ。

 痛い痛い痛い!


「イルミナ、早く決着を付けよう・・・すごい痛い・・・」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫!女は気合いだよ!」


 本当は叫びたいほど痛いけど、それでもやらないとダメでしょ!

 ここでボクが根を上げるなんてそんなの恥ずかしいからね!


「ボルテックランス!」


 脳天から放たれるボルテックランス。

 どう考えても死角で、更に加えて最上級魔法。

 でもこれはダメージを負わせるためじゃない。

 単なる囮。

 最上級魔法の破壊力は、地面がえぐれるほどだから。

 再生するタイプの相手でもそれだけ囮になる。


「ミライ様、しっかりお捕まりください」


「うん!」


 イルミナがボクを抱えて、高速移動を始める。

 ちょっと気持ち悪くなるからキツいんだよね。

 でも何も言わずしてボクの意図をわかってくれるあたりさすがだよ。

 ボクとイルミナは、リアスくんからかなりの距離をとった。

 巻き込まないために。

 再生が完了したジーンがリアスくんのところにいこうとしてる。


「させるわけないでしょ」


「うぐっ!?」


 今のボクの魔力は実体のある魔力。

 それを使って鞭のように動かしてこちらへと引き寄せた。


「・・・」


「何か妙だね」


「えぇ、これだけのことをして一度も言葉を発していません。一体何を考えているのでしょうか?」


「攻撃が効いてるってのは、ちょっと調子が良すぎるかな?」


 多分別の要因だとは思う。

 けど、もしこれが進化だったり実力向上だったりしたときかなり厄介なことになると思う。

 だったら結局殴りに行くしかないよね。


「イルミナ、隙を確保して。このまま精神的にあいつを破壊してみる」


「・・・了解しました」


 精神的に破壊できるかどうかはわからない。

 あいつの肉体再生の仕組みがわからない以上当然だけど、試してはいないから試す価値がありそう。

 イルミナがその場から瞬時にいなくなり、ジーンの目の前に現れる。

 目にも止まらぬ速さってこのことだよね。

 ジーンの顔面に拳が直撃する直前、彼は思いもよらぬ言葉を発する。


「済まないイルミナ。俺の所為で・・・」


「ジーン・・・ッ!?」


 イルミナの拳が鈍った。

 そして直後にジーンが脇腹に蹴りを入れこんでこちらに飛ばしてくる。

 危ない。

 壁に叩きつけられる前にイルミナをキャッチした。

 でもこれは------


「ありがとうございます」


「うん。でも彼は一体?」


「済まないイルミナ。俺だ。俺はどうやら死んでない。多分死なずに済んだんだと思う」


「信用できない。たしかに貴方の生命活動は停止した。もし仮に生きていたとしても、貴方は本来なら死んでる人間。この世界に残るのは間違ってるわ」


 たしかにイルミナの言うとおり。

 仮にジーンが生きているとしても、結局エンペラーリッチの力で生きながらえてるだけ。

 リアスくんが彼女を倒すから、彼が助かる見込みはない。

 そもそも彼自身がジーンかどうかわからない。


「ジーン。貴方がジーンと言うならわたしの拳を受けなさい。蹴り返す意味がわからないわ?」


「あぁ、構わない。近づいて来てくれ。さすがに君の拳は痛いから、身体が勝手に反撃するかも知れない」


 決まりだね。

 そもそもわかっていたことだけど、ジーン自体はそこまで身体能力が高くない。

 少なくともイルミナほどの身体能力はない。

 精々リアスくんになんとか追いつける程度。

 そんな彼が咄嗟で判断出来るとは思えない。


「お前、アンデッドか」


「何を言ってるんだ。俺はジーンだ」


「確かめてみましょうか。そこを動かないで。わたしの拳を受けるのでしょう?」


 イルミナは目を閉じた。

 なるほど、この場から動かずに視認出来ない攻撃を放つという訳ね。

 大叫喚。

 これ結構うるさいんだ。

 イルミナが拳を前に出すと、空気がキリキリと鳴り響く。


「うっがぁああ!?」


「たしかに貴方の言うとおり避けませんでしたね」


 避けれなかったの間違いでしょうよ。

 味方のこっちまで引くわ!


「あ、あぁ・・・これでわかってくれたみたいだな。嬉しいよ」


「えぇ」


「俺はなんとかこの肉体でも生きながらえる事が出来ないか探したいんだ」


 そういうとジーンはこちらへと近づいてくる。

 でもイルミナはそれほど甘い人間だと思ってるのかなー?

 まぁイルミナは味方と認識したら、対応はともかく優しいからね。

 優しい人間は付け入りやすい。

 たしかにその通りだけど、イルミナの場合はあくまで()()にだけ優しい。

 次の瞬間、上の方へと吹き飛ばされていく。


「え、がっ!?」


「何を勘違いしている?」


「どうしたんだイルミナ?お前らしくないじゃないか」


「わたしの一体何を知っているのでしょうか?会ってから経った5分にも満たない貴方が」


 トロールに進化して自我が芽生えたと言ってもリッチ。

 リッチである以上、生者としての記憶があることのが多い。

 けれど、自我自体は別のモノ。

 まぁそれでも本当にジーンかもしれないからイルミナは確かめた。

 それはイルミナに殴られてもキレなかった。

 人間の性格はどうしても変わらない。

 あれだけ殴られてキレないはずないんだジーンなら。

 ましてや近づけと言って近づかずに殴ったのに、キレないはずがない。


「チッ!何故わかった?」


「さぁ?しかし貴方は自我が完全に芽生えたようで」


「あぁ、しかしこの肉体の記憶を探ってそれっぽく演じたがダメだったか」


「えぇ。大根役者も良いところ。一度勉強をすることをオススメしましょう」


「あぁ、嬢ちゃん達二人を殺して、テメェの言うところのリアスとやらを殺してからな!」


 速度が上がった。

 あちこち移動してるけど、シールドを使って右往左往。

 等活の真似だね。

 ボクじゃ全然見えない。

 でもイルミナなら------


「ガッ!?」


「考えは悪くないです。しかし自分が使った技の弱点を知らないとでも?」


 イルミナの技は弱点、と言うよりも隙ができる場面がある。

 敢えて作っているらしい。

 真似してくる相手がいたときの為の対策だって、敢えて自分にだけわかるようにやってるとか。

 リアスくんは考えすぎだって言ってたけど、リアスくんはエンペラーリッチに魔法を模倣されたし、進化したてのこいつでも出来たって事は世の中にいてもおかしくない。


「強いがこっちは不死身なんだぜ?喰らいやがれ!」


 まるでわかっていたかの様に、拳が伸びた。

 いや、正確にはちぎれてそのままイルミナの事を殴った。


「むっ!」


「へっ!どうだ!」


「考えましたね。でも同じ手は通じないですよ」


 イルミナ、顔が笑ってない。

 昔からそうだけど、イルミナは結構顔に出る。

 闘いを楽しんでるときは笑顔だし、悲しいときは悲しそうな顔をする。

 まぁ声色変わらないから少し怖いんだけど、そこはご愛敬。

 でも今のイルミナの顔は怒り。

 なんだかんだ言ってもジーンの亡骸を使われてることが気にくわないんだろうね。


「等活はこうやるのですよ!」


「だったら真似すりゃ良いだけだ!」


 レベルは高い。

 腐ってもSランクの魔物と言うことか。

 いや本来のイルミナだったら多分追いつけてないから、ここまでの速度を出せるあいつのがヤバイ。

 ボク達は結構運がいいね。

 この場に居あわせなければ、こんな化け物を発展途上の段階で倒せなかったんだから。


「まぁ頭がそこまでよくないのか、それとも注意力散漫なのか」


「ミライ様!前に出たということは準備は?」


「出来たよ。幻惑魔法は苦手なんだけど、これだけ時間があれば簡単だよ」


 相手を狂気と錯乱に追い込む魔法。

 これをボク達も周りにいるだけで、結構精神的にヤバくなる。

 喰らえば自我が崩壊してもおかしくない。

 さすがに非人道過ぎて使えなかったけど、アンデッドのしかも不死身の相手なら構わないかな。


「幻惑魔法の最上級魔法はデスストリーク。でもさすがにボクにそれは出来ない。それが出来たら崩壊してもおかしくないじゃなく、魂を破壊する魔法だから確実なんだけどね」


「ん?なんだぁ?」


「ふふっ、気づいたときには遅いよ」


「ミライ様、運びます」


「ありがとう」


 瞬時にボクの横から彼に近づく。

 早いから酔いそうになるホント。

 

「幻惑の上級魔法:コラプスクリーク」


 この魔法を繰り出すと同時に、イルミナは全力でその場から離脱する。

 もちろん直撃した余波に当たらないため。

 ジーンの肉体は動きを止めた。


「う、うぁあああああ!く、来るな!なんだこいつ!?あ、あっ・・・ああぁあああああああああ!」


「始まった」


「うっ・・・」


 リアスくんの魔法が解けた。

 ボク達の決着は恐らく着いただろうけど、リアスくんは?


「あれ?リアスくんがいない」


「場所を移動したのでしょうか?」


「どうかな?戦闘音が全くしないから多分そうなんだろうけど」


 何か嫌な予感がする。

 なんでかはわからない。

 しかしその理由がすぐにわかる。

 ボクの細君支柱が解除されたから。


「え?」


「どうしました?」


「細君支柱が解除された。一体なんで?」


 こういうときの勘はあたるもの。

 細君支柱は主の為にって思ったときに使える魔法。

 しかし制限がある。

 それは半径1km以上離れると使えなくなること。

 試したからたしか。

 つまりリアスくんは1km以上離れた地域に飛ばされた。

 しかも才能開花の魔法を解除されたと言うことは、この国にいるかも定かじゃない。


「一体・・・」


「ぐっそ・・・よくもやってくれやがったなテメェ」


 嫌な予感は続くモノだね。

 あれで倒せないなんて。


「耐えたことには驚かされた」


「あ゛!?」


「だったらもう一度試すまで!」


「待って、イルミナ!今のままじゃ!?」


 たしかに強化されて無くてもヘレイツは使える。

 けれど、さっきの状態で互角だったんだから今は当然------

 

「さっきよりおせぇ!」


「うっ・・・」


 イルミナは負けてはいない。

 あくまで対応出来ただけで、使いこなせていたわけじゃなかった。

 だとしても、少しだけ押され気味になってしまっているのもたしか。

 結構形勢はまずいかも。 

 トロールだけどこいつ、デュラハンや死神やヴァンパイアより強い!


「想定外だね。どうする?他のみんなは決着付いてるから加勢に来て貰う?」


「いえ、恐らくと逃走してる間に撃墜されてしまいます。やはりどうにかして倒すしかありません」


 イルミナの言うとおりだ。

 でも勝機が見えない。

 ここ数日と同じ結果になるのが目に見えてる。

 しかも細君支柱も使えない。


「ジーン!!」


「っ!?」


 その声に振り返るとそこには、フリマリとナスタリウムとシュバリンが立っていた。

ミライ「リアスくんは一体どこに行ったんだろうね?」

イルミナ「こちらにもいないですし、お腹でも壊したのでしょうか?」

ミライ「いくらリアスくんだからって、そんなことは・・・」

クレ『先ほどトイレで叫び声が聞こえていましたよ』

ミライ「え、本当に腹痛・・・?」

イルミナ「・・・何も言えません」

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