失って初めて気付く(死神視点)
死神として新たな自我が生まれ、ドラゾンという名も皇帝に頂いた。
そして終わることのない生と言う、どの生物にも負けない力を手に入れた。
だと言うのにこの満たされない気持ちはなんだ?
弱者を殺しても強者を殺してもどれだけ人を殺しても満たされない。
今だって人間の魂を刈り取る行動をしてる。
生きたまま殺すと言うのに愉悦を感じる。
しかしもう一方で受け入れられない自分もいた。
ドラゴンとしての生の記憶を思い出す。
人型になる前、ルナドラという男は色々なところで暴れ回っていた。
そしてそれは人型に慣れるようになってからも続いた。
「しかしあれも満たされていたとは違う」
むしろ満たされてはいなかっただろう。
満たされないから暴れ回った。
満たされないから闘いに身を置いた。
満たされないから------
ルナドラとしての記憶を漁っている時、ふと思ってしまった。
満たされていた時期があった事を。
「見つけた、ルナ兄!」
後ろから声がする。
声がする方を振り返ると先程返り討ちにした娘、サンドラがいた。
「なぜ俺は名前を?」
「ルナ兄!いや死神!ルナ兄の身体は返してもらう」
胸にチクリと何かが刺さる。
しかしその何かはわからない。
「わからない。だとしても俺は、お前を殺す」
「ルナ兄を返せぇぇ!」
大して先の戦闘と実力が変わらない。
近接戦闘を得意とするのだろう。
しかし死神である俺を相手にそんなもの羽虫を払うのと大差ない。
大差ないが、こいつに手を出せないである自分がいる。
何故だかはわからない。
その無駄な思考が一瞬だけ、ほんの一瞬だけとてつもなく大きな隙を作ってしまった。
「隙あり!龍帝空波!」
「その技はもうみたぞ!」
確かに大きな隙はできたが、奴が一度見た技を使った以上関係ない。
そのまま直撃のタイミングに合わせて鎌を振り下ろす。
「もう一度その腕、貰い受ける!」
「させない!」
振り下ろした鎌が後方へと押し戻される。
両手に魔力を分散させたのか!
「ハァァァア!」
「ガハッ!こっちは不死身だと言う事を忘れたかぁ!!」
分散してると言うことは威力は落ちてると言うこと。
この程度なら昼間もしない。
「わかってる!」
頭を後方に向ける。
この体制から来るのはヘッドバッド!?
ピキリと額が割れる音がする。
額から流れ出る血液の味が、頭へのダメージを物語っている。
「本命は頭突き・・」
「不死身なら気絶させれば良いだけの話だもん」
脳震盪を起こそうと言うことか。
しかしそう居たらされるには威力が足りない。
「甘かったな。俺は------」
「もう一発!!」
こんなわかっている頭突きでダメージを与えられるはずもない。
だったら逆にこちらが脳震盪させてやる。
頭突きで迎えうつ。
しかしここで予想外の出来事が起きた。
奴の頭から角が生えた。
「いっつ!」
「電撃を喰らえ!」
「うぉぉおおお!」
電撃が体内を駆け巡る。
しかも死に至らしめるほどの威力じゃない。
筋肉を痙攣させて動きを鈍らせる、もしくは意識を飛ばす程度の威力。
「ルナ兄、どう?わたしの痺れる一撃は?身を持って体験した魔法よ」
「効かないな?」
「どうかしら?」
鼻からも出血しているのがわかる。
脳への負担が大きいんだ。
再生するとは言っても、こうも脳へ刺激を与えられれば負荷に耐え切るのは難しい。
ふらふらだ。
「だが甘い」
俺は自身の首をドラゴンの爪で引き裂いた。
そうすれば肉体の再生が加速するからだ。
「大したことはなかった」
俺は笑っている。
しかしそれと同時に困惑した。
実力差は明白。
だと言うのにコイツは俺の目の前から消えない。
倒れない。
「ルナ兄はやっぱりルナ兄だね」
「なんだ?俺は、るなにいではない!ドラゾンだ」
しかし目の前の小娘は首を横に振る。
それが感に触る。
こんなのは初めてだ。
「ううん。ルナ兄は幼い時にわたしに優しくしてくれたルナ兄だよ。だって本当ならその鎌でわたしの魂を切り取れたのに、それをしなかった。だからルナ兄は優しいルナ兄だよ」
その言葉で溢れてくる記憶の反流。
ドラゴンの、ルナドラとして記憶。
確かにこの世に生を受け、そしてドラゴンとして何十年と生きた。
そして人型に至った。
何をしても満たされない日々は、目の前にいる従兄弟のサンドラの存在で変わった。
色褪せた人生に変わったんだ。
「なんだ!?なんだこれは!?」
「ルナ兄?」
幼いドラゴンはまだ俺の膝くらいの大きさで、軽く蹴飛ばせば吹き飛んでしまいそうな感じだ。
それでもその子は俺の方へと寄ってきた。
それが可愛くてしょうがなかった。
気づけば彼女は膝の上で眠っていた。
「やめろ!俺の頭で話してるお前は誰だ!何者だ!」
それからは時が過ぎるのが早かった。
数年すれば立派なドラゴンとして獲物を狩りできるようになった。
その時家族の愛を知った。
家族の愛を------
「やめろ!俺の頭で語りかけてくるお前は!」
そうだ。
俺はお前だ。
お前が削りきれなかった残りカスだ!
「バカな!?アンデッドになった肉体の主人の魂が残ってるなんて」
「っ!?嘘、ルナ兄の魂が!?」
お前の満たされない気持ちは俺の心からくる物だ。
俺は今満たされてない。
それは俺に満たされるものが何かわかっているからだ。
失ってから気付くものもある。
そしてお前ではそれは満たされることはない!
「俺が満たされないだと!?お前に俺の何がわかる!」
わかるさ。
俺はお前で、お前は俺だ。
その賢い頭でもわからないことはあるのか?
あるよな。
それが満たされない理由だ。
わかるだろ?
お前は何が起こるかわからない愛を知らない。
だから満たされない!
「どんだ腰抜けが!そんな不確かな物で満たされるとでも思っているのか!」
不確かだからいいんだ。
何をするかわからないからいいんだ。
きっとわからないだろう。
そんなお前に残念なお知らせをしてやろう。
「残念なお知らせ?」
お前の身体は不死身だが、お前自体は不死身じゃない。
意味がわかるか?
「何を言っている!!」
不死身ではないお前は死ぬ可能性がある。
俺の自我にお前が飲み込まれた場合どうなると思う?
「馬鹿か?アンデッドの肉体はアンデッドにしか生きれない。そんな事をすればお前も死ぬ。無駄死にだ」
「ルナ兄、まさか!?」
サンドラはわかったようだな。
そうさ、俺はお前から肉体を奪い返して朽ちる!
そうすればお前は死ぬ!
「本気か!?俺が生きていれば、お前死なないんだぞ!?」
これが生きてるって事なら願い下げだね。
俺は生がある中で生きたいんだ。
「俺がそんな事をさせると思うか!」
自分の首に鎌を当てるか。
それでお前の魂が狩られるとは思わないのか?
「俺の鎌は俺の能力!だからお前には関係ない!」
なぁ、じゃあなんでサンドラの腕は切れたんだ?
普通なら腕は切られずに使い物にならなくなったはずだろ?
「っ!?」
驚いて言葉も出ないか?
まぁどっちにしてもお前は死ぬ。
自分の意思で死んだ方がマシかもな。
「俺が死ぬ?ハハハ!お前には何ができる?俺は死神、お前みたいな------」
気づいたみたいだな。
俺はお前と同格のドラゴンだ。
だった後は、どちらの魂の質が高いかだけだろ!
「やめろ!止せ!そうだ、俺はお前達との敵対を止める。だから------」
やなこった!
俺の魂とお前の魂、その二つは混ざり合うことはない。
俺はお前なんかと混ざりたくはないからな。
だから、さようならだ。
ドラゴンゾンビ。
「ふぅ、うっ」
「ルナ兄!大丈夫?」
どうやら全身に電流が駆け巡ったおかげで、なんとか生き残ることが出来たようだ。
しかしまぁ元から死んでいた肉体。
遅かれ少なかれだな。
「あぁ、お前のおかげで即死だけは免れた。まぁ死ぬことに変わりはないが、俺はお前に言葉を伝えることができる」
「そんな!そうだ!リアスやミライならなんとかしてくれるよ」
リアスとミライ?
あぁ、サンドラと共にいたあの人間達か。
恐らくあれはエンペラーリッチと闘っているんだろう。
こんな奇跡があったんだ。
何が起きてもおかしくはない。
だが------
「そんな余裕もないだろ?まぁ聞け」
いつ死ぬかわからない身体だ。
できるだけ多くを伝えないといけないことがある。
「村に戻ったら親父達に伝えてくれ。村を出てからどれくらい経ったかはわからないが、生前に俺を殺した奴は人間だ」
あの服装から察するに聖職者であることは確かだろう。
しかし奴はあまりにも強過ぎた。
それこそエンペラーリッチと同格だろうな。
「ごめんなさい。村はもう、この国と同じように滅ぼされたの」
なるほど、エンペラーリッチはそこまでのことが出来たのか。
いや、ドラゴンゾンビは俺以外には一体しか居なかった。
だったら別の何か。
「そうか。悪かった思い出させて。お前はこれからどうするんだ?」
「わたしはリアス、人間達について行こうと思う」
「・・・そうか。お前が決めたことだ。俺は否定はしない。だが人間の社会で俺達が暮らそうとすれば苦労するぞ?」
「うん。でもなんとなくだけど、大丈夫だと思うの。ルナ兄も一緒に------」
俺の肉体は既に朽ち果てているのだろう。
元から感覚はなかったが、なんとなく死に向かってるのはわかる。
「俺はいけない。一度死んだ身だ。あの森以外で死ねばこうなることはわかっていたさ」
俺が村を出た理由は行方不明になった母さんを探す為。
親父にも止められたが、静止を振り切って飛び出したのは俺だ。
「ただひとつだけ忠告させてくれ。聖職者には気をつけろ。俺を殺した奴の身なりは聖職者だった。俺は人間の世界に詳しくはないが、これを伝えればリアスとやらが何かを------教えて------くれ」
口がおぼつかない。
そうか、俺はもう死ぬのか。
少しだけ怖いな。
だが殺された時より何倍も気分がいい。
俺に愛を教えてくれたサンドラが、目の前にいるからな。
サンドラの記憶が俺の頭の中を駆け巡る。
これが走馬灯とやらか。
「サンドラ、最後に、ひとつ、いいか?」
「最期なんて言わないで」
無茶言うなよ。
全く俺に無茶ばかりさせて。
「俺の空を埋めてくれて、ありが------」
あぁ、最後まで言えなかった。
意識はあるのに、口が全く動かない。
俺の空っぽな人生に色をつけてくれてありがとうと、そう言いたかったんだけどな。
サンドラの泣き声が響いてる。
俺もなんだか眠くなってきた。
少しだけ、ほんの少しだけ眠ってからそっちに逝くよ。
父さん。
一読いただきありがとうございます。
弁明の余地もありません。
世間を騒がす馬なんとかにうつつを抜かしてしまいました!