熊風情が!(デュラハン視点)
手応えがねぇ。
あの熊が最初にして最後の強敵だったか。
そう思うくらいに手応えがない。
「う、うわぁぁぁ!」
逃げ惑う人間の首を斬る。
「雑魚を狩るのも飽きてきた」
人間の首を飛ばすのは楽しい。
が、それは強敵であればだ。
デザートオルキヌスの頃から俺は満ち足りてなかった。
人間と言う人間を殺し、食糧として食べてはいた。
だが足りなかった。
そんな時に一人の女と出会った。
あれは強い。
白い肌をした珍しい人間だったが、俺はあれに襲いかかってからの記憶がない。
おそらく一瞬で首を飛ばされたのだろう。
俺がアンデッドになっても首だけがなかったらしい。
今でこそ脇に抱えているが、こいつは魔力動力源で視界はない。
「この国を滅ぼしたら奴を探しに行くのもアリだな」
「誰を探しに行くのだ?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
それもそのはずだ。
三日三晩闘った仲だ。
「生きていたのか」
「驚いてはいないようだ。某の声を聞いてから口角を上げるとは気味が悪いな」
「いやぁ?驚いたぜ?だがそれ以上にこの退屈を満たしてくれるテメェが現れたことが嬉しいんだ。トドメを刺そうとしたらピールの女に横取りされたんだからな」
闘いはスリルがないと面白くない。
ギリギリの実力差で負けない相手。
こいつはそれにもってこいだ。
「その左脚、元に戻ったんだな」
「貴様の所為で要らぬ痛みを味わう羽目になったがな」
「なんだ?それだけ強気になって、まだ勝つつもりでいんのか!?」
「別に勝つ必要はない。某達のボスが貴様の親玉を倒してくれる。それまで時間を稼ぐ簡単な仕事だ」
「時間稼ぎか。無駄なことを。皇帝は俺よりも強いし、奴を倒せる人材が生きていたとしても、皇帝にたどり着くことすらできないだろうな!」
「なんとでも言え。貴様が何を言っても、某の心には響かない」
チッ、トコトン時間稼ぎに徹する気か。
時間稼ぎの相手をしてもつまらん。
だったら最初から全力で行き、奴の全力を引き出すまで。
俺は頭を下におろして、大剣抜いた。
その瞬間腹部に強烈な痛みが走る。
痛み!?
俺は後方に思い切り吹き飛ばされた。
「ぐっ!時間稼ぎなのにこれだけの力を」
「あぁ時間稼ぎだ。だがお前が生きてる必要はない。あくまでお前が援軍として奴等の前にいかなきゃそれでいい」
奴の腕を見れば、どうして俺が吹き飛ばされたかわかる。
俺と奴の実力は互角少しだけ俺のが上だった。
つまり攻撃が見えないはずがなかった。
なのに今は見えない。
「獣の腕・・・貴様、その域に達していると言うのか!?」
「あぁ、悔しいことに貴様の敗戦によってまた一つ進化を遂げたらしい」
魔物には2段階の進化がある。
一つは自我とスキルの覚醒。
俺のようなデュラハンやヴァンパイア、死神の事だ。
そしてもう一つの進化が獣化。
皇帝、エンペラーリッチの様に進化する前の元になった魔物の力をそのまま使うことができる。
自我を持つ魔物は、魔物だった頃より遥かに強い。
それは力もそうだ。
獣化はそこに獣の力が追加される様な物。
「貴様は某の姿も見れずに終わる。これから全身を獣化して終わらせよう」
「面白い!面白いぞ貴様!」
「敗北続きだ。これではリアスに顔向けが出来ん。貴様は自分の大将よりも先に死ぬ。不死身だろうが関係ない。それが某の矜持と自尊心を傷つけた罰だ」
強者の矜持、プライド、それをへし折るのが何よりの俺の楽しみ!
相手にとって不足はない!
「最後に笑うのはこの俺だ!」
剣を振り下ろすが、我が剣は空を切った。
だが問題ない。
足跡からどっちに移動したかは見える。
右側が少しだけ掘られているから、左側からくる。
戦闘の基本だ。
「あめぇよ!」
「貴様がな」
俺が横に剣を凪いだ。
確かに位置は間違ってはいなかった。
しかし奴は剣の腹に乗っていた。
「ふんっ!」
「チッ!」
剣を手放し、両腕をクロスさせて奴の蹴りを受け止めた。
効くな。
「やはりタフだな」
「デュラハンはそういうものだ!」
全身が鎧で出来ている。
当然防御力も高い。
しかし想定以上に良い動きをする。
熊の爪でラッシュもかなり手痛い。
「防戦していては勝てるものも勝てないぞ?」
「その程度なんてザラにいんだよ!」
そう、問題なのはそこじゃない。
俺の身体を削ってくるほどの威力を持ってる。
堪らないな。
蹴りも強力だ。
脚力はこれまでも強かったが、それが更に際立ち悪魔的なまでの威力を誇る。
受け流す防御を取らなきゃ腕が砕けてた。
「しかし強い。それだけ貴様の進化前の個体は強かったんだな」
「世辞は良い。本気でそう思うならもう少し疲れた顔でも向けたらどうだ?」
「手厳しいな。だが俺はまだテメェにスキルを見せてねぇ。それが何を意味してるか、わかるな?」
これまではスキルを使う必要はなかった。
だが獣化で実力差が埋まるどころか開くとは思ってなかったからな。
「我がスキルが発動すれば貴様は俺に追いつけない!」
「無駄だ。某はまだ本気を出してはいない」
「それだけの力を有しながらハッタリを!時空歪曲」
時空歪曲は俺以外の世界の時間を歪めて遅くするスキル。
別に俺は早くならない。
他が遅くなるだけだ。
だから熊程度の速度では俺には勝てない。
奴の目の前まで行き、大剣を抜く。
これで闘いが終わると寂しい気持ちもあるが、ここまでさせる相手と出会えたのは幸運だ。
首に向かって剣を振り下ろす。
奴の姿をしっかりと認識できないのは、この状態ではほとんどがシルエットでしか見えていないからだ。
「さようならだ」
「あ、ま、い、な」
ゆっくりと声が聞こえた。
しかし次の瞬間に俺の脇腹にクリーンヒットの一撃が入る。
俺は一瞬だけ意識が飛んだが、すぐに痛みで意識が覚醒する。
「馬鹿な!?何故奴が俺に追いつける!?」
スキルは発動してる。
なのに、何故奴は・・・
俺はここで奴が言っていたことを思い出す。
「まさか、本当に本気ではない!?」
血の気が引くとはこのことだった。
ここまでの差がついてるとは思っていなかった。
時が遅くなっているのに追いつくなんて非常識だ!
これじゃあ時を止めるしかないじゃないか!?
「な、に、か、と、お、も、え、ば、た、い、し、た、こ、と、は、な、い」
「くっくそがっ!」
大したことはないだ!?
今のこいつが言うと説得力が違う。
確かにこいつは速い。
別に奴が早く動けても俺の動きが見えるというわけじゃないんだ。
なのに追いついてる。
そして俺はそこでミスに気付く。
突如奴は動きを変えた。
それは先ほど降ろした頭の方に向かっている。
まずい!
もし魔力供給源の頭が壊れることがあれば、時空歪曲は解除される。
そうなれば、俺に勝ち目がなくなる。
させない!
「させるものか!」
「ふ、んっ!」
俺は剣を真上に飛ばされただが、それでもこいつの進撃を塞がなければ!
俺は奴の拳を掴み、自重で吹き飛ばした。
そのまま頭を回収しようとする。
しかし次の瞬間、時空歪曲は解けてしまった。
「言っただろ?貴様は某には追いつけない、と」
「馬鹿な!?な、ぜ!?」
理由はすぐにわかるほど簡単な理由。
俺の頭が壊れたのだ。
何よりも俺の剣によって。
「そんな!?」
「運がなかった様だな」
運がなかっただ!?
狙って上に飛ばしていたのだろうにいけしゃあしゃあと。
だがそれ以上に背後に立つ影が今は何よりも恐ろしい。
「ひっ!?」
気がつけば奴は俺の背後に立っている。
熊の姿を模した獣。
ジャイアントベアを一度だけ見たことがあるが、こんな姿ではなかった。
こんなに恐ろしい姿では!
「言い残すことはあるか?」
「ば、馬鹿め!俺は不死身だぞ!?俺を殺そうとしても、俺は死ぬことはねぇ!アハハハ!」
「某のスキルは戦闘面ではあまり役に立たないからな。特に相手が某に恐怖してなければ。某のスキルは獣王の覇気は相手を威圧するスキルだ」
「相手を威圧するスキル・・・」
「何故、某が力をセーブしてたかわかるか?絶望をするのにちょうど良いと思ってやっていた」
「俺の心、魂を壊すために、か」
「そうだ。そしてお前の今の魂は弱り切っている。そこに獣王の覇気が当てられればどうなるか。わかるな?」
俺はあいつに恐怖してる。
威圧系ということは精神干渉系って事だ。
もし今そんなものを食らえば、俺の魂は壊れる。
しかも中途半端に壊れてしまう。
生きながら死んでしまう様なものだ。
そんなことを奴はやらせようとしているのか!?
まずいまずいまずい!
「待て!?貴様は魔物だろ!?何故人間の味方をする!」
「某の夢は人間との共存。だから味方する」
「だが、貴様のその姿を見て人間どもは貴様と共存したいと思うか?」
この姿を見て恐怖しない人間などいるはずがない。
いや、仮に居たとしても少数派なはずだ。
どう考えても魔物側に着くのが当然だ。
「何をそんな当たり前のことを。この姿を見れば共存したくないと言うものは出るだろう」
「そうだろ!ならば------」
ならばこちら側につけ。
そう言おうとしたが、その声は奴に遮られてしまう。
「だがそれでも共存してくれる者はいる。意思疎通が出来なければ討伐される可能性もあるが、少なくとも某の様な魔物とも仲良くしてくれる者がいる」
「馬鹿な!?そんな少数派の人間についたところで人間の寿命は短い。そして魔物の寿命は長い!長期的に見たらこちらに着く方が合理的だろう!?」
そんな不合理な考えあるか!?
奴も俺達と同じように進化を遂げた魔物だろ!?
なのに何故そんな不合理なことを考える。
我々魔物は半永久的に生きる。
特に自我が発生した魔物の寿命は数千年と皇帝は言っていた。
そして人間の寿命は長くても百年だ。
「魔物の寿命が長いのは知らなかったな。まぁだとしても某の慕う人間の寿命もそれなりに長い。それに例え死んでしまったとしても、奴等の童達を末永く見守っていく。それも楽しいだろう」
「ぐっ、くぅ!」
「さて、貴様の言い残す言葉はそれだけの様だな」
「ま、待て!!他にも------」
「全部聞いていたらキリがない。これで終わりだ」
「ぐっぞぉぉ!」
俺は最後の力を振り絞り、大剣を奴へと振り下ろす。
しかしそれがわかっていたかの様に、奴は目を閉じた。
そして大剣が砕け散る。
「な、なにぃ!?」
「さて、一矢も報いれない貴様の魂はここで終わりの様だな」
恐怖は頂点に達した。
壊れるなら自ら壊れて仕舞えば良い。
「ふ、ふははは!アハハハハぁ!お前の勝ちだ!」
「恐怖で頭がイカれてる風にしたいのだろうが、貴様の表情を見ればわかる。そして某の勝ちと言っていたが間違いだ。これは勝負ではない。殺し合いだ」
勝負ではない、殺し合い。
その言葉で初めて俺がどんな奴を相手していたかわかる。
そこから埋まるのは恐怖のニ文字ただそれだけ。
死にたくない。
死ぬのが怖い。
「ま、待て!俺はまだ生きていたい」
「生きて人を殺したいか。そんなことは許されん」
「本当だ!俺は今後人間に手を出さない!だから見逃して------」
「聞くに耐えんな。貴様がそう言ったところで、消えた命は帰ってこない。獣王の覇気」
その威圧は俺の心、つまり魂を折るには十分だった。
「この、熊風情がっ!!」
「魂が砕けてなお話せるとは大したものだ」
それでも、それでも一言発したのは、最後の俺の矜持だったのだろう。
しかしどんなに肉体が再生しても、肝心の魂がなくちゃ意味がない。
「せめてもの情けだ。死ぬ前にお前の核を壊してやる。少しは楽になるだろう」
デュラハンの核は本来首から手を突っ込んだところにある。
皇帝のおかげで再生していたが、魂が無くなった俺の核は一体どうなるのか。
それを知る由は俺にはない。
薄れゆく意識の中、俺が最後に聞いた音がグシャリという音だった。
「魂の無い肉体は再生しないのか。なるほど、これは使える」
俺は後悔して死んでいく。
戦闘狂なんて、勝てない相手と出会えばこんなに脆いものもない。
「さらばだ、似非戦闘狂よ」
俺は奴の最後の言葉を聞くことはなかった。
一読いただきありがとうございます!
次回までリアス達はお休みです。
視点が敵視点の為、今回はお休みとなりました