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アマゾネスの悪夢(ヴァンパイア視点)

 わたしには生前の記憶がある。

 貧しい村で、労働力として生きていたが飢餓により命を落とした少女の記憶。

 そしてヴァンパイアとして、ピールとしての記憶。

 その三つ全てが掛け合わさって今のわたしがいる。


「アッシがあいつを仕留める」


「ふふっ、アタシ達をコケにしたんだもの。3人で制裁を加えるのがいいわ」


「ん」


 当然生前の記憶がある以上、人間という者はクビナシやドラゾンより理解していた。

 だと言うのに目の前の人間については全く理解出来ていない。

 皇帝の力により不死身となっているわたしにボコボコにされたと言うのに、それでも彼女達はわたしの目の前にいる。

 こっちは餌のストックを貯めるのに忙しいって言うのに煩わしい。


「邪魔!ウォーターヴェール!」


 ウォーターヴェールは本来は防御の魔法。

 しかしそれを向きを変えて地面と平行に生成する。

 首を飛ばしにいった。


「だったらこれでどうかしら?」


 巨大な氷の塊を落下させる。

 これでこのまま全員潰れてしまうが良い。


「そんな魔法が通じるわけないじゃん!アッシ達を馬鹿にするなよ!」


 赤髪の少女が氷を真っ二つにした。

 あの華奢な肉体で氷を砕くか。

 後ろから角付きが前に出てきた。


「ん!アントヘル!」


 中級魔法のアントヘル。

 地面に肉体を埋める魔法ね。

 一気に肉体が首元まで埋まった。

 でもこの程度なら大したことない。


「ガイアノクェイク!」


 地面に手を突いた途端、この場が揺れた。

 内臓が揺れて気持ち悪い。

 そういう魔法か。

 肉体がいくつか抉られたのがわかる。

 地面に閉じ込めた相手には強きに出ることが出来る魔法。


「だったら脱出すればいいだけ!」


 まぁ別に入ったままでもよかった。

 どうせ再生するし。

 まぁ少しだけ痛いから煩わしいけど。


「仕留めきれなかったのね」


「まぁこれで終わるならアッシ達の対策が無駄になるじゃん。楽しみは後にとっておこう?」


「ん。これで仕留めたかった」


「理解できないよ。でも君達は皇帝の邪魔だと言うことだけは理解してる。だからわたしは君達を倒------」


 頬を何か掠めてが通り過ぎるのがわかる。

 しかしそれが何かを理解できない。

 出血したが、すぐに傷は塞がる。

 目の前の女性が3人とも黒い塊をこちらに向けている。

 おそらくそれで何かをしたのだろうけど、なにをしたのか全く理解できない。

 一度負かした時、赤毛は大剣、紫毛は鞭、角付きは短剣を使っていた。

 

「なにをされたか理解できないって顔ね」


「貴女方は一体・・・」


「うっせぇ!」


 赤毛が一歩踏み出したところで、顔面が破損したことを理解した。

 目の前が真っ暗になったからだ。

 

「アッシ達をコケにしたことを後悔しながら死ねや!」


「ん!このガトリングマシンガンは貴女が死ぬまで撃ち続ける!」


 ダダダという音の後で肉体が破裂していく。

 不死身の特性上、壊れてもすぐさま再生する。

 しかし彼女達の攻撃は再生を上回る速度でわたしの身体を貫いていく。

 しばらくすると攻撃が止んだのか、視界が戻る。

 

「------ガッ!」


「ナパーム弾を顔面から受けたらどうなるのかしら?」


 またしても視界が消えてしまった。

 今のわたしはアンデッドのヴァンパイアで痛覚はない。

 おそらくこの状況を作ってるのは魔法だと推察する。

 だとすれば奴らの魔力が切れるまで待っていればわたしの勝ちだ。

 奴らの実力は把握してる。

 この魔法を今まで使わなかった理由はわからないが、限界が来れば勝利の約束された闘い。

 なにも問題はなかった。

 はずだった。


「手応えが全くないわ!さっきまでの猛攻はどこに行ったのかしら!?」


「アッシ的には剣のがいいけど、実力差は明確だしリアーノくんがあのリッチを倒すまでの辛抱」


「ん。アンバー、彼、リアス」


 攻撃は絶えず止まず、更には彼女達から聞き捨てならない言葉を聞く。


「皇帝に向かっていく・・」


 少なくとも皇帝がぶつかって勝てない可能性のある人物がいることはわたしにもわかる。

 だからこそさっきは割って入ったのだから。


「させないわ!貴女達を倒して」


「雑魚がほざかないで欲しいわ」


 雑魚?

 このわたしが?

 出血が酷い。

 たしかにこれだけのことが出来れば増長するのも仕方ないわ。

 でもそれはわたし以外が相手ならよ!


「ヴァンパイアにこれだけ血を流させたことを後悔すると良い・・・」


 わたしにはヴァンパイアに進化して得たスキルがある。

 血液操作(ブラッディール)

 名前の通り血液を操る能力。

 それは地面にこぼれたモノだって乾いてなければ可能。

 そしてこの肉体は皇帝が健在の限り不死身。

 つまり血液を永遠と放出できる。

 他のヴァンパイアよりわたしは強い!

 しかし彼女達はそれを見越したかのように動き出した。


「来たわ!アンバー、ドロデア!」


「任せとけ!」


「ん!」


 今度は赤髪の少女が飛び出してくる。

 さっきの武器ならともかく、大剣を使ってヴァンパイアに勝つつもりとは傲慢なこと。

 餌にするつもりで手加減したけど、別に餌はいっぱいいるのだからどうでもいいわ。

 血液で肉体に侵入すればそれで終わり。


「タァアアア!」


「馬鹿のひとつ覚えだわ」


「それは貴方。ソエルミスト」


「ッ!?」


 何これ!?

 急に血液が操れなくなった。

 魔法で仕留めるつもりが、逆に大剣で肉体を真っ二つにされた。

 不死身じゃなければこれで終わるんだろうけど、わたしはそんなことじゃ終わらない。


「一体何をしたのかしら?」


「知る必要ない。これからボスより先に死ぬ貴方には関係ないの」


「ふふっ、忘れた?わたしは不死身なのよ?」


 しかし彼女の声とは裏腹にいつまで起っても肉体の再生が始まらない。

 どうなってるの!?

 

「どうなって!?」


「知ってるかしら?肉体が再生する仕組みって」


 肉体が再生する仕組み?

 一体何を言ってるの?

 皇帝の力で再生してる。

 それはもう超常現象に他ならないでしょ?


「ふふっ、わからない顔ね?」


「何よ!?一体何をしたのよ!」


 その笑みがわたしはこの上なくムカついた。

 再生の仕組みって、一体なんなのよ!



 ドゥーナはヴァンパイアのトコロに向かう前にあるところに連絡を入れていた。

 その相手は彼女の主レアンドロ。

 今の状況を説明し、プライドを守る為にヴァンパイアに報いると言う報告をしていたところだった。


『ふーん、なるほど。じゃあそのヴァンパイアは水の魔法や氷の魔法を得意としてたんだな』


「はい」


『だったら血液を操る能力か魔法があり、相手を怒らせればそれを使ってくる可能性も高い。奴の見た目は青白くなかったのだろう?だったらバグバッド共和国か周辺地域の人間だ。ならば怒らせるのは簡単だろう」


 しかし本来であればアンデッドは人間の頃の記憶は基本的に保有されていない。

 ただ今回は例外的にリサナリッチに生前の記憶があるだろうことが確認されている。


「リサナリッチとやらの配下のリッチからの進化である以上、人間の頃の性格が反映される可能性のが高いぜ?だったらそこを利用しないに越したことはない。それはドゥーナ、お前が適任だ。そしてドロデア、お前の固有魔法(オリジナル)ソエルミストはかなり役に経つと思うぞ?』


「ん?ガイアノクェイクじゃなく?ソエルミスト、ガイアノクェイクを作るときに生まれた固有魔法(オリジナル)。大した攻撃力ない」


 ガイアノクェイクは地面を震動させることで、地面に潜った相手を仕留めるドロデアの固有魔法だった。

 それはデザートオルキヌスに最も強きに出れる魔法であるため、ドロデアがバグバッド共和国へと同行を差し向けた一番の理由でもあった。

 それに対してソエルミストは砂の粒子を発生させるだけの魔法。

 マグマを生成できる可能性があると熱量を帯びさせることには成功しているが、それでも精々気温が少しだけ上がる程度。


『まぁ聞け。血液ってのは凝固するのが早い液体だ。そして奴が液体を操る能力を持っていたとすれば、操れる液体が固体になれば操ることなんて出来ない。バグバッド共和国は気温が高く日差しが強い国だ。それにソエルミストで砂がまとわり付いて温度も上がればすぐに固体に変わるぞ』


 傷口は血液が凝固してかさぶたになる。

 必然的に凝固しやすくなければそれは出来ないのだ。

 それは血液の魔法を封じるには一番の理由だ。

 しかしそれでは根本の解決にはなっていなかった。


「仮に魔法は防げたとしても、奴は不死身の肉体を持っています。鷲づかみの君主がリサナリッチと呼ばれるリッチを倒さなければ、不死属性は消えないと思うのですが」


『アンバーとドゥーナとドロデアがリサナリッチと闘かうことになったらまずかった。リアス・フォン・アルゴノートには感謝しなければな』


「今の状況はまずくないと?」


『あぁ。この世界は残酷だ。人を生き返らせることなんて上手い話は出来ない。しかし再生は可能だ。土神は一定の条件下で人を生き返らせることが出来るらしいけどな』


「えぇ。ですから彼女は死ぬ前に再生する為、不死属性をどうにかするまでは防戦を------」


『問題ない。一緒くたに考えるから駄目なんだ。肉体が再生するのと魂が霧散しないのは別モノだ。つまり本当に意味で不死の人間はいない。だったらそのどちらかを封じる事が出来ればそいつは殺せる』


「どちらかを封じる事が出来るのですか!?」


『俺は魂は専門外だ。だが、肉体の再生を遅らせる事は可能だ。何故なら治癒魔法や再生と言うのは肉体の治癒速度を上げてるだけに過ぎないからだ』


「それは一体・・・」


『いいか?肉体の再生は------』



「血流と再生速度は比例するのよ。血流の流れに不和が起きれば、当然再生も遅れるわ」


「な・・・に!?」


「つまり貴女達が再生出来ていたのは、血流をあんたの親玉に操作されていたからなのよ。恐ろしいわね。アンデッド全員にそれを施せるなんて化け物よ」


 嘘!?

 こいつらはそれを見抜いたって事!?

 知能が誇るリッチからの進化であるわたし達にだってそれが理解出来なかったのに!?


「皮肉よね。血液を操ることを得意とする魔物が、血液が理由で負けるんだから」


「へっ!アッシの使う身体強化は血液の流れを利用して行ってる。だからこの華奢な肉体でも簡単に体験を震える様に強化できてるんだぜ!」


 血液の流れを操作されたと言うこと!?

 このヴァンパイアたるわたしが!?

 そんなこと許せる訳がない。

 もうわたしは飢餓で苦しむような無能じゃないのよ!!


「それを今、わたしに話したのは馬鹿だったな!!」


「血流を操作し直せば良い?あんまりオススメはしないわ」


「負け惜しみを!馬鹿め!」


 止まっていた肉体は再生を始めた。

 ふふっ、血液操作はわたしのが上なのよ。

 ヴァンパイアにそれが負けるはずがないじゃないの。


「ふふっ、貴女達は簡単に死ねると思わ------ゴボッ」


 わたしの口の中に鉄の味が広がる。

 いや、それよりも胸が痛い!?


「な、に?どうなって・・・」


「血流操作は乱すのは大して労力がいらないらしいわよ。ね?」


「そうさ!アッシだってこれだけの身体強化は魔物や実験動物、それに死刑囚で何度も実験して会得したんだ!血液は心臓をポンプの様にして送ってる。だからいくら才能があっても、いきなり制御なんてしようとすれば・・・」


 ここから先は嫌な予感しかしなかった。

 心臓という単語をここで出した。

 そして今、胸が痛い。


「破裂するに決まってるでしょ?」


「ガハッ!」


 息が苦しい。

 心臓が破裂したから?


「ふふっ、貴女って孤児かしら?それも虐げられてきたタイプの」


「な、なぜそれを・・・」


「虐げられてきた人間ほど、自制心がないのよ。アタシもそうだったからね」


 こいつが孤児・・・

 いやそんなこと。

 こいつと違ってわたしは選ばれたのよ!

 わたしは:・・・


「選ばれた人材と勘違いしていたのね。ありがとう。おかげで貴女、御しやすかったわ」


「っ!死に、たくない!助けて、ください・・・」


 情けなくも命乞いをした。

 再生が血流操作だとしたら、血流操作のできるこの少女に頼むしかない。

 だから情けなくも張っていきすがった。


「残念。アッシは命を救うほどの聖魔法は使えないぜ」


「そんな・・・」


「情けないわね。散々命を奪っといて、最期は命乞いとか」


「そんなこと・・・ない。わたしは、他と比べてそこまで殺してなんか・・・」


「変わらないわよ。例えひとりでも人を不幸にしたのなら、自分も同じ事をされる覚悟をしなきゃ」


 正論だ。

 自分はどこかで大丈夫だと思って居た。

 リッチからすぐにヴァンパイアへと進化を遂げた自分に驕っていたのだ。


「貴女の境遇、生まれ、不幸だった。だからそうなるのわかる」


「同情・・・しているの?」


「ふふっ、ドロデアがそんなこと思うわけ無いじゃない。ここに居る三人、ひとつだけ一致していることがあるのよ?」


 その瞬間、三人の女性の口角がつり上がる。

 まるで悪魔のような笑みを浮かべる。


「「「ざまぁ!!」」」


 その笑みは今迫る死よりも悪魔のよりも恐ろしく見えた。

 そして肉体に限界が来て横たわる。

 わたしの命はそこで最後を迎える。


「さようなら。貴女が短気だった為に、貴女の主は死ぬのよ?貴女は精々その最期を恨んで逝きなさい」


 何もかもがどうでもよくなってしまった。

 こんなことならもっと・・・


「それにしても、人間の頃の記憶が本当にあったようね。配下全員がそうだとして、あのリサナリッチが特別なのか、それとも・・・」


「レアンドロ様、リアスに会いたいって言ってた」


「風神のパートナーで、話し合いにも応じるようなタイプ。多分仲良くなれるんじゃないかしら?」


「アッシはよくわかんないけど、アンデッド達蹴散らそうぜ?所詮再生を遅らせることしかできないんだからよ。ドゥーナは言葉を誘導するのが上手いよ。心臓を再生不可にする事が可能に出来るのは、自らが血液操作をして拒否させないとダメだったのにさ」


 嘘・・・

 そうか、血流操作をしたってことは、魔法が自動で無効化されたんだ。

 つまりわたしが何もしなければ、この情態にはならなかった!?


「ふふっ。ありがと」


 その笑みをわたしは天国に行っても忘れないだろう。

 もっとも天国に行けるかどうかはわからないけれど。

 そしてわたしの意識は常闇へと落ちていった。

一読いただきありがとうございます。

頭脳戦に近い闘いになってしまいましたが、楽しんで頂けたら幸いです

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