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一抹の不安

「ジーン、こいつらはアンデッドじゃない。剣を納めろ」


「黙れリアス!こいつらは------」


「逆の立場を考えろ。敵意を向けられてない相手に剣を向けられたらお前はどう思うんだ?」


 流石にいきなり剣を向けられたら良い気はしないよな。

 

「しかしこいつらはヒャルハッハ王国の者だと名乗った!今、この国はロックダウンをしているのに、何故ここにいるんだ!」


「だから、それと剣を向ける理由がわからん。申し訳ないドゥーナ殿」


 このドゥーナと名乗った女性はそうでもないが。後ろ二人の殺気がピリピリと伝わってくる。

 アマゾネスって言ったらレアンドロの私兵だ。

 レアンドロのことを転生者と知ってるか知らないかもわからないが、もし知っていた場合ならそれなりの実力のある人間と見て良いだろう。

 人間って第一印象が大事だ。

 これが後に変なしこりにならないといいが。


「いえ、礼節を弁えない殿方は相手にしません。しかし貴方は、違うのでしょう?」


「そうありたいとは思っています」


「でしたらよろしいです」


 まぁ概ねは問題ないと言うことにしてくれたのだろう。

 ヒャルハッハの人間が何故この国にいるかは不明だが、少なくとも俺達と争いたいって言うわけではなさそうだ。


「ありがとうございます。申し遅れました。私はライザー帝国のリアス・フォン・アルゴノートと申します。以後お見知り置きを」


「まぁ!じゃあ貴方が帝国の鷲掴みの君主なんですのね」


 鷲掴みの君主・・・。

 もうすっかり忘れてた俺の二つ名だ。

 ヒャルハッハ王国で、陛下の安全の為なら公表することも構わないと言って他国にまで伝わってる。

 当然ヒャルハッハの人間ならそれくらいは把握してるよな。


「鷲掴みの君主かー、どれくらい強いのか気になる〜」


「ダサい二つ名」


 後ろ二人が辛辣なんだが。

 一方子連れの男性は顔面蒼白だった。

 怯える要素あったか?


「あのAランクのジャイアントベアを素手で握りつぶしたあの・・・」


 あー、そりゃそうか。

 ジャイアントベアを素手で殺せばそう言う反応にもなるか。

 俺は怖くないですよーと笑顔で手を振るが、それが返って応えたのか、勢いよく後ずさった。


「怯えさせてしまったようで申し訳ありません」


「いえいえ。遠路遥々ここまでやってきたのだから無理もありません。それで皆様に一つご相談がありまして、こちらに参上した次第なのですがよろしいでしょうか?」


「相談?」


 この国に差し迫る状況を理解してないのか、それとも理解した上での相談か。

 気になるところはあるが、まだ少しだけ猶予がある。

 俺だけの判断でこれを承認していいかどうかは悩ましいところだ。

 ジノアを連れてこなかったことに後悔はないが、それでも相談事の為に通信具は持参すべきだったか。

 いやこの事自体イレギュラーなんだ。

 仕方ない。


「クレ」


『会話は危険です。彼らはずっと私を見ています。下手に相談してる素振りをみせたら、貴方が精霊と会話できることが露呈しかねません』


『それにおかしいですご主人。彼らから一切の精霊の気配が感じられないー』


 クレに続いてナスタまでもが彼らを疑問視する発言。

 精霊の気配がないってことは魔法が使えないって事か?

 或いはイルミナ同様、転生者の指導を受けた為魔法が使えるようになったか。

 くそ、判断材料が少ない!


「悩んでいるのも無理ありません。我々も危機的状況で、藁にもすがる思いでここに来たのです」


「藁にも縋る思い、ですか。それならば私のような若造よりも、この国の大統領や背後に控えているフリマリの方が適任のように思えますが?」


「そうでしょう。しかし我々はともかく、この子達二人の両親はこの国の人間に殺されました。それを指示したのが大統領との事でしたので、信用は初めて出会ったとはいえ、ライザーの鷲掴みの君主よりも劣ります」


 おい、どう言う事だ?

 後ろの人達は親子連れだろ?

 俺はジーンの方を見るが、拳を握りしめたまま横に俯いている。

 こいつは良くも悪くも嘘をつけない。

 つまりこいつらの言うことは本当か?


「まさか!バルベーコン大統領がそんなことするわけないわ!何かの間違いじゃないかしら?」


「これは聖女様には共有はできてはおりませんでしたか!しかしながらそこの礼節を弁えない殿方は何か知ってる模様ですよ?」


「ジーン!貴方からも言ってよ!バルベーコン大統領はそんなことしないって」


「・・・すまない」


 フリマリは信じられないとの目をジーンに向ける。

 これでこいつらの言ってることが正しい事が一つ証明された。

 それで信用できるかどうかはまた別の話だが、まぁ話を聞くのはいいか。


『この空気はまずいですね。不和が生まれかねない。一度頭を冷やすと言う意味でも彼らを車の中に』


「わかりましたドゥーナ殿、それではこの場での話もなんですのでこちらへ」


「ふふっ、ではお言葉に甘えて」


 俺は彼女達一行を自動輪へ入るように促した。

 それが最善のように見えたからだ。

 

「ミラ、イルミナ。フリマリのケアを頼む。むっさんはジーンを」


「それはいいけどリアスくん。彼女達は平気?おじさんの言うことは最もだけど」


「仕方ないだろ。聞くだけはタダだ」


「わたしもそう思います。もしロクでもない相談なら蹴り飛ばせばよろしいのです」


「物騒なこと言うな」


「ハハ!リアスの番は面白いな」


 しかし冗談が言えるくらいには冷静だ。

 さらに横には相棒のクレが付いていてくれる。

 万が一にも丸め込まれることはないだろう。

 

「同じ場所で話すのもなんだよな。一応簡易キャンプセットは置いておくからみんなはそっちを使ってくれ」


「「了解〜」」


 俺は収納魔法で収納しているテントを二つ取り出した。

 このテントにはエアコンくらいしか備え付けられてはいないが、少なくとも外で待つよりは快適だろう。

 女性陣はぞろぞろとテントに入り、むっさんとジーンももう片方の方に入っていく。


「さて、じゃあ俺も自動輪に入るか」


 予め自動輪に入っていたドゥーナ殿達は寛いでいた。

 あの親子連れだけは驚いた様子でキョロキョロしてる。

 当たり前だ。

 この自動輪にはエアコンが常備されてる。

 まだエアコンという機器は試作段階で、世の中には扇風機くらいしか出回ってない。

 にも関わらずこの三人は驚いた様子がない。


「快適な空間を提供いただきありがとうございます」


「快適ですか。あなた方はもう少し驚くかと思ってましたが」


「あら?そこの意味には我々と言う意味かしら?それとも異世界人と言う意味かしら?」


 俺が異世界人だってことはレアンドロには知られてないはずだ。

 何せ俺はレアンドロに会ったことないからな。

 だとしたらこれは------


『リアス、表情に出過ぎです』


「ふふっ、レアンドロ様から聞かされてはいましたが、貴方はどうやら前世の記憶を持つ人間、ですわね」


 しまった。

 その一言で俺は多分警戒してしまった。

 それが無意識に顔に出てしまった。


『警戒をし過ぎなのが貴方の悪いところですよ』


 すまないなクレ。

 こればかりは性分だ。


「お察しの通り私は前世に記憶を持っています。しかしレアンドロ殿はそのことをどうして知ったのでしょう?」


「神話級の精霊との契約者は基本的に前世の記憶がないと契約には漕ぎ着けない。それだけですよ」


 なんだと?

 それは逆に言えば前世の記憶がなければ可能性はないって事だ。

 いや、あり得る話だ。

 確かに俺は精霊と対話できる。

 精霊と対話できるのが転生特典だとすれば、確かに転生者にしかそんな該当は出来ない。


『なるほど。確かにそうですね。この世界の人間なら、我々を魔物と勘違いする事が多いです。前世の記憶を持ってる者が捕獲を命じていたりしたら話は別ですが、それならわざわざ公表はしない』


 そうか。

 確かに魔物だとおもえば、たとえ対話出来たとしても近づこうとする奴はいない。

 つまり契約できる可能性すらないんだ。

 前世の、日本の価値観でもない限り。


「驚きました。しかしそのような重要なことをお教えくださると言うことは俺達を、おっと私達を信用してくださったと言うことでよろしいですか?」


「砕けた口調で構いませんよ。概ねその通りでございます」


「ならそれで。あんたも砕けてくれていい。俺だけじゃ気まずいからな」


「ではお言葉に甘えさせてもらうわ」


「それで?俺達に相談ってのは一体なんだ?」


「まず情報を共有したいのだけど、貴方達はどうしてここに来たのかしら?」


 確かに目的によっては彼女らの相談を受け入れられない場合がある。

 そして相談内容が弱みな部分の場合、彼女達には不利益が生じるわけだ。


「俺達はこの国にくるアンデッドで構成された、魔物大量発生(スタンピード)を聖女フリマリに頼まれて止めに来た」


「なるほど。敵の規模はわかってるのかしら?」


「Sランクの魔物レベルが3体と、Sランクの魔物を凌駕するアンデッドが一体はいる。それ以上がいてもおかしくはないけどな」


「なるほど。状況を把握してなお迎え撃とうとしてるわけですね。蛮勇じゃなくて安心しました」


 安心した。

 と言うことは、彼女達の願いもそれ関連か。


「アタシ達はその軍勢のうちの一体から呪いを受けてこの国から出られなくなったの。相談って言うのはアタシ達と協力して魔物を迎え撃ってほしいって事よ」


「利害は一致してるし、それなら構わないが俺達はこの国で闘うつもりはないぞ?俺達が闘ってる間に国民を避難させてくれるなら願ってもない増援ではあるが」


「それは無理ね。国民達は逃げる気はないもの」


「ん?どういうことだ?」


「どうしても何も、この国はアンデッド達を迎え撃つことを決めたのよ。そして逃げようとした者は弱腰だと殺した」


「それの確固たる証拠は?」


 ドゥーナ殿は子供達の方を向く。

 そして子供達は俺とドゥーナ殿から目を向けられると背筋をピンと張った。


「おい、まさか」


「この子達の両親は、この国の刑務官に殺されたわ。拷問の末にね。ついさっきの話よ」


「ばかな。そんなことが・・」


「聖女フリマリや聖騎士ジーンと知己にあるのだから無理もないわ。でもさっきのジーン殿の反応を見ればわかるでしょ?」


 マジかよ。

 逃げたら弱腰と言われ殺されるって、昔の日本でもされなかった事だぞ?

 いやまぁ見方を変えたら殺されたのかもしれないが。

 もしこれが事実ならこの国はとんでもない国家と言うことになる。


「それに嘘偽りがあればどうする?」


「疑い深いのね。でもその方が信用しやすいわ。そうね。レアンドロ様な首をとってくるくらいするわね」


「ドゥーナ、冗談でもダメ」


「そうだよー、流石にドゥーナとは敵対したくないなー」


 後ろ二人から殺気がぴりぴりと伝わってくる。

 もしこれが演技ならそれはそれで恐ろしいが、おそらく演技ではないってことはわかる。

 そしてそれは主人の首をかけたコイツからも伝わった。


「アタシ達的にはここを安全に脱出できればそれでいいの。そのためならご主人様の首を借りることを辞さないわ」


「殺す」


「あはっ!面白くなってきた!」


 おいこいつら。

 まさかこの車内で暴れる気か!?


「グラビティアース」


 暴れそうな二人の女性を魔法で食い止める。

 何をされたかわからないのか、困惑した表情をする二人。


「悪いが少し面倒ごとになりそうだったんでな」


「アハハ!すごいね。アンバーとドロデアを一瞬で無力化するなんて。やっぱ貴方はレアンドロ様と同じ転生者か」


「そんなことよりも、お前の言葉を信じる。だが、背中を預けるには少しばかり信用が足りない。それに俺達はこの国を守りたい。もちろんあんたらに彼らを守れとは言わないし、俺だって逆の立場ならそんなの願い下げだ」


 出会った順番が違ったら、この子達の両親が死ぬ現場を見ていたら或いは価値観が変わったかもしれない。

 だがそれは言えばキリがないたらればだ。

 だから俺はそんなことで自分の方針は変える気もないし変えたくない。

 だったら最初からこんな命懸けの闘いなんてしようとすらしなかった。


「そうでしょう。それだけで方針転換されたら、我々も貴方を信用できないところよ」


「出会ったばかりの俺達だ。それじゃあ闘いの方針を話し合おう」


「えぇ。有意義な話し合いになるといいわ」


 それから俺とドゥーナ殿で作戦を考えた。

 それから30分もしないうちに、この国は戦場となる。



 アンデッドの軍勢の中で真ん中を牛耳る4人の影がある。

 デュラハン、死神、ヴァンパイア、そしてエンペラーリッチだ。


「どうやら美味しい肉体をあの国に縛りつけることには成功したようね」


「大将、あの国に行ったらその手応えがありそうな奴と殺りあってもいいんだよなぁ!」


 そう質問するデュラハンにほどほどにねと相槌を取るエンペラーリッチ。

 レイスにドゥーナ達を国へと縛りつける呪縛の魔法を命令したのは彼女だった。

 それは強い肉体の死体を手に入れて軍勢を強くする為だ。


「肉体が残ってればなんでもいいのだろ皇帝」


「えぇ、貴方は貴方の特性の魂を狩ることを集中してればいいわ」


「皆殺しにはしないでほしいの。血が足りなくなるの生命線がなくなるー」


 死神は眼鏡をかけた知的な見た目をしておりとても死人には見えず、ヴァンパイアは褐色肌の幼女の見た目をしている。

 ヴァンパイアだけがこの中で唯一生命体として成立していた。


「ヴァンパイアはいいわね。血行がよくて」


「皇帝様も中々だよー」


「あら?ご褒美をあげちゃう」


 そう言うとヴァンパイアの前に肉体が転がる。

 スナヤギを狩りに外に出ていたバグバッドの国民だった。


「これワタシに?」


「えぇ。その代わりあの国では活躍しなさいな」


「はぁい」


 ヴァンパイアはバグバッドの国民の首筋に勢いよく噛みつく。

 しばらく痙攣したのちに身体が何度も跳ねたあと、色々な穴から液体を撒き散らして絶命する。


「ぷはぁー!美味しかった」


「彼もいい死に方でしょう。ヴァンパイアに血を吸われれば、快楽死するし」


「おらぁこんな死に方したかねぇな」


「同感だ」


 デュラハンと死神は少しだけヴァンパイアから距離をとった。

 

「さて、無駄話はここまでよ。もうバグバッドです。さぁ蹂躙劇の始まりよぉ!」


 そしてバグバッドにとっては悪夢の夜が始まった。

リアス「うぉぉ!次回からいよいよバトルパートか!?」

ミライ「いい加減日常に戻りたいよ」

イルミナ「まぁ夏季休暇が終われば文化祭ですから。多分日常を送れますよ」

ミライ「リアスくんって言うトラブルメーカーがいるからどうかなー?」

リアス「失礼なこと言うな!好きでトラブルに巻き込まれてないぞ!」

クレ『トラブルメーカーはトラブルが舞い込んでくる人のことを言うので間違ってないかと』

リアス「味方を呼んでくれぇぇ!」

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