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幕間:バグバッドに派遣されたアマゾネス④

 概ねの事情をアンバー、ドロデア、ジャベリンに話したドゥーナ。

 アンバーは蝶を目で遭いながら、ドロデアは髪を弄りながらも話を聞いた。

 ジャベリンはと言うと、ドゥーナが保護したレムとソムに着ききっりで慰めている。


「でぇー?ドゥーナが子供の保護するとか珍しいけど、どうすんのー?」


「帰って教育を施しましょう。ハフティも生きていたら面白い戦士になったでしょうけど」


「物好きー」


「ん。それよりも国民達。あの状態で声を上げれなかった者は絶対いる」


「いるかもしれないけど、ハフティの様に声を上げなかったってことは、少なくともこうなることを知っていたはずよ。知らなかったで済まされるわけないじゃない」


 ドゥーナは今日のこの出来事が、今日に限った話ではなかったはずだと考えている。

 バグバッドは小さな国。

 その中で逆らった国民が拷問にあって死んでいたとすれば、気づかないはずがない。

 人の口に戸は建てられない。

 故に噂になっていたはず。


「それでも------」


「それでも助けたい気持ちは汲み取りたいけどね。でも残念ながら余裕はないわ」


「・・・ん」


「因果応報よ。残念だけど戦争をした時に自分には逆らえる力がなかったから仕方ないなんて言ってる奴らなんて、いつまでも寄生するだけの害虫よ。諦めなさい」


「ん」


 そんな言い方はないだろうとジャベリンは思った。

 国民の大半は国に頼らないと生きていけない弱者で、強者はそこまで多くはない。

 どうしても才能という壁が、阻んでしまう。

 誰も彼もが戦闘面で優秀な訳じゃない。

 食料を作る者、便利な道具を作る者、闘う武器を作る者。

 戦闘だけが世界の全てではないという事を、この中で弱いジャベリンはよく知っている。


「ジャベリン、貴方の言いたい事はわかるわよ。アタシだって、ドロデアだって、アンバーだってアマゾネスに入る前は、弱者側だったもの」


「あ、あの・・・」


「弱いからって逆らわなかったら免罪符を立てる人が次に行う行動は何か知ってる?」


「いえ」


「責任転嫁よ。被害者ヅラするのよ」


「それはいけないことなのですか?」


「そうね。それが一概に悪いとは言わない。でも今回に関しては弱いのに逆らったこの子達の親を見捨てたのよ国民達は。この意味がわかる?」


 ジャベリンはハッと考えを改める。

 あの親子達が手を挙げた時点で、バグバッドの国民には逆らえる機会があったのだ。

 にも関わらずそれをしなかった。

 例え殺されるとしたとしても、全員で逃げれば誰かは助かる。

 

「機会があったのに彼らは逆らわない道を選んだと言うことですか」


「えぇ。だから少なくとも、あいつらが生き残っても足を引っ張るだけの害虫にしかならないってことよ」


 誰だって死にたくはない。

 当然だ。

 しかしそれとこれとは話が違う。

 いくらなんでも機会があった人間が自らそれを手放したと言うのに助けてほしいとは虫のいい話なのだ。

 ここでドゥーナが助ける道を選んだとしたら、彼らはまた誰かが助けてくれると、そういうふうに学ぶことになる。

 それはお互いの為にもよくのない話になることだろう。


「まぁ貴方はアタシ達の考え方を今はする必要はないわ。これからじっくり染み付かせてあげるから」


「は、はい・・・」


「んぁー、アンバーがそういう選択をするのはいいけどぉアッシ達はこれから本国に戻るわけー?」


「違う、聖女、まだ連れて行けてない」


「えーでも、この場合は仕方ないんじゃないの?」


 レアンドロは命懸けで聖女を連れてくることは望んではいなかった。

 だとしたら、この場から離脱するのが最重要の任務だった。


「えぇそうね。この場に留まって良いことはなにもないわ。それに別に聖女フリマリじゃなくてもいいのよ。ご主人様は聖女ではなく聖魔法をご所望だから」


「ワタシ達、アンデッドに目を付けられてる。逃げるの容易じゃない」


「だからこの国の人間が襲われてる間にどさくさ紛れに離脱しましょう」


「へぇ、そんなこと考えてるんだぁ」


 アンバー、ドゥーナとドロテアが即座に声の方から距離を取る。

 まるで気配が感じられないのに目の前に現れたからだ。


「誰だ?」


「誰だか知らないけど先手必勝よ」


 ドゥーナは即座に目の前に現れた奴の首を鞭で締め上げる。

 そして即座にウィンドカッターで首を斬り落とした。

 はずだった。


「酷いなぁ。いきなり攻撃してくるなんて」


「首が落ちない!?」


「こいつ死霊(レイス)。だったら魂ごとぶった切る」


 死霊とはアンデッドの中でもAランクに相当する魔物である。

 戦闘能力はあまりないが、狡猾な性格と物理攻撃がほとんど効かない体質、そして呪詛と言う魔法とは違う魔術を使うため脅威として畏れられている。


「おっと、こっちの大将の任務があるんだ。そう簡単に死んであげないよーん」


「大将?まさか!?アンバー、ドロデア!こいつを全力で叩き潰すわ!」


「了解」


「肯定」


 アンバーが大剣を抜き取り死霊の左腕をぶった切り、ドロデアがショートソードを逆手に持ち右腕を切り落とした。

 アマゾネスには幽霊(ゴースト)や死霊と行った物理攻撃に効果のない敵に対応するため、魂に攻撃が出来るソウルイーターという簡易付与魔法を習得している。

 故に、攻撃が通る。

 この世界でソウルイーターが使える人間はアマゾネスや転生者を覗けば聖国の人間のみだった。


「げっ、ソウルイーターかよ。腕が使いモンになんなくなったじゃねぇか。はっ!一番ヤバそうな奴らに近づいてよかったぜ」


 死霊の呪詛魔術のひとつに呪縛という魔法がある。

 呪縛は一定時間指定した人物を指定した地域に取り留める効果がある。

 他にも強力な呪詛があるが、それは一日以上かけた時間をかけなければ行えないモノが多い。

 その中で唯一数秒で呪詛を完了出来る魔術が呪縛の魔法だった。


「死ね、死霊風情が!」


「名前の通りもう死んでるんだぜー」


 ドゥーナが両手にライトマシンガンを持ち構えている。

 身体強化の魔法と組み合わせることで、華奢な女性でも両手持ちが出来るようになっている。

 ライトマシンガンにはもちろんソウルイーターが付与されている為、これを死霊が喰らえば死は免れない。

 ライトマシンガンが発砲される。

 辺りは爆音と銃声共に薬莢が地面へと落ちていく。

 ここは砂の地域であるため、カランカランとアスファルトに落ちる音が発せられることはない。


「アガガガガガガガガ!」


「チッ!間に合わなかったわ」


「はっ!なんだよこりゃ、はは・・・せっかく生き返ったのに。まぁいいや、元々この世に未練なんてないしなー」


 死霊はライトマシンガンにより穴だらけになっている。

 死霊は未練があって魔物になることが多いが、未練がない個体はかなり珍しかった。

 しばらくすると死霊の姿は消えていき消失した。


「呪縛をかけられた。アンバー、ドロテア、貴女達は?」


「アッシも喰らっちまったよ」


「ワタシも・・・」


「ちっ、ジャベリンとレムとソムは・・・やられたわね」


 呪縛の証は手の甲に発生する。

 この場にいる六人の手の甲には呪縛の効力が発生した証が浮き上がっていた。


「呪縛の効力、1時間」


「厄介ね。一時間じゃアンデッドは到達するでしょうね」


「どうするドゥーナ?」


「チッ、どう考えても死が確定してる場所に飛び込むのは自殺行為よ。呪縛の効力がどこまであるか確かめます。アンバー、呪縛の範囲がどこまで指定されてるか確認してきてくれる?」


「はいはいー、よっと」


「あ、あのー呪縛って」


「ジャベリン。魔法、3種類ある。普通の色々な属性のある魔法、付与魔法、その他は生活魔法」


 この世界には三つの魔法、ライトニングスピアといった属性を纏わせる魔法。

 武器などに効果を付与する付与魔法。

 そして収納魔法や身体強化と言った前者以外の魔法は生活魔法と分類される。


「ドロデアの言うとおりよ。そしてその三つ以外に分類されない呪術と呼ばれる魔力を使わない魔法を、レアンドロ様は法術と分類した。相手を呪う呪術、魔力とは別のエネルギーを使う陰陽術、そして肉体に内包する聖なる力を媒介にする聖魔法の三つね」


「聖魔法までもが!?」


 聖魔法は聖獣と契約することにより、内包する魔力が聖魔法を使えるように変化することで使える様になる。

 治癒魔法ヒールやハイヒールも聖魔法に分類されてはいるが、聖属性のイグニッション・レイといった聖魔法やフリマリの使う聖歌、グレイやグレシアの聖魔法は別系等とされている。


「つまりその中で特殊な位置づけにある呪術は、他の魔法とは違って解除ができない、もしくは難しいと言うことですか?」


「あら、理解が早くて助かるわね」


「むっ」


「待ってください!それって結構まずいって事なんじゃないですか!?」


 現在アンデッドの軍勢がバグバッドに向かってきている。

 そしてドゥーナの話を聞いた限り、この国とは揉めてしまっている状況。

 もしかしたら足を引っ張られる可能性すらもあった。


「アタシ達が取れる選択は三つ。一時間耐久した後この国を離脱すること」


「それ、厳しい」


「えぇ、こうなると偵察に行ったことが悔やまれるわね。目を付けられている可能性は、さっきの死霊を殺した事も考えて間違いはないわ。だとすれば取れる二つの選択。レアンドロ様に連絡を入れた後、希望的観測である増援を期待するか、潔く諦めてここで死ぬか」


「レアンドロ様がここに来る可能性は?」


「これてもアタシ達がここに来るのと同じくらいの期間はいるでしょうね」


「そ、そんな・・・」


 それはつまり、この場で死ねと言われているようなモノだった。

 ジャベリンはこの絶望的状況に、膝を突くしかない。

 膝を突くジャベリンを、レムとソムが背中を撫でながら励ました。


「ありがとう二人とも・・・」


「見た感じあんた普通の人間なのに大変だな」


「頑張ってくださいジャベリンさん?」


 自分の娘と同じくらいの子供達に励まされて情けないと、涙を拭うジャベリン。

 そして呪縛の魔法範囲を見に行ったアンバーが走って戻って来た。


「ドゥーナぁ!良い知らせと悪いお知らせどっちが良い?」


「悪いお知らせは想像つくから言ってみて頂戴」


「呪縛の範囲はこの国全体だと思う。出ようとしたら透明な壁がアッシを阻んだ」


「脱出は難しいってことね」


 つまりこれでドゥーナ達は三つの選択をとるしかなくなった。

 そこで良い知らせとは一体どんなモノだろうとドゥーナは考えた。

 アンバーは馬鹿なことを良い知らせにするほど馬鹿じゃない。

 だとすればこの場で起死回生の一つになり得るのではと考えたのだ。


「良い知らせって何かしら?」


「この国に向かって来る黒い魔物がいる。多分来るときにみたあれ」


「ドロデアが言っていた中に人が乗ってる箱のことかしら?」


「正解。あれすごいよ。デザートオルキヌスをなにもせずにひき殺してた」


 アマゾネス一行は、野営中にリアスが乗っていた自動輪を視ている。

 そしてその時にそれがどれだけの速度を出していたかも。


「難しいことはよくわからない。レアンドロ様みたいな奇抜な発想がないとあんなモノ作れない。平凡顔が運転手。多分あれ」


「そうね。レアンドロ様と同じ・・・ニホンからの転生者って事かしら?」


 日本からの転生者という言葉をジャベリンは理解出来ない。

 事細かな事情は誰も説明しなかったから理解していなかった。

 対してアマゾネスであるアンバー達は、レアンドロから自身が転生者であることを明言されている。

 

「もしこの推察が正しければ、希望になりえるわね」


「ドゥーナ、交渉行く?」


「えぇ。転生者であるから必ずしも強いとは限らない。でも少なくとも可能性だけはあるでしょう」


 可能性があるどころの話じゃない。

 もしこの国の人間だとしたら、ドゥーナ達にとってはかなり厳しい物になる。

 しかしその可能性は低かった。

 何故ならバルベーコンが聖女以外を頼る素振りを一切していなかったためだ。

 聖女より実力が無いだけだったら脅威にはならないし、聖女の実力より上なら聖女よりも頼るはず。

 バルベーコンがそれだけ策士であったならそれまでだが、そうじゃなければこの国の人間ではない。

 そしてこのタイミングでこの国に来ると言うことは、ある程度の力量がある人間である可能性が高い。

 何故ならこのバグバッドは今ロックダウン中で、他国からの入国を拒否している。

 だと言うのにこのタイミングでここに来ると言うことは、無理を押し通す人間である可能性が高いからだった。


「じゃあこっちだ。アッシが視た場所に案内するよ」


 ドロデアがジャベリンを、ドゥーナがレムとソムを連れて走り出す。

 交渉は早い方が良いと言うことだった。


「交渉の余地があると良いわね」


 無理を押し通す人間であると言うことは、逆に言えば交渉が難しいと言うことを示している。

 実際は単純にロックダウンだという事を知らなかっただけなのだが、それをドゥーナが知るよしもなかった。


「バルベーコンみたいな奴じゃないことを祈るばかりね」


「それは、きつい」


「あははっ!そんときはアッシが切り捨ててやるよー」


「貴女より実力が上だったらどうするのよ・・・」


 今現在の状況に頭を抱えたくなった。

 しかしドゥーナ達のこの行動が、後に縁を繋ぐ事になる。

一読いただきありがとうございます。

次回から本編に戻ります。

リアス達もお盆休みから戻りますのでお楽しみください

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