大戦前のひととき
「戦況を教えてくれアンドレアさん」
「やっと来たかリアス。君なら引き受けてくれと思っとったよ」
「どうでもいいだろ、そんなこと」
まぁアンドレアさんもフリマリと共に状況を相談していたんだろう。
少しくらい気を緩めるのを許してあげたいが、事が事だ。
悪いが戦況の把握を優先させてもらう。
「そうじゃの。アンデッド軍勢については聞いているな?」
「あぁジーンからな」
「ならば良い。軍勢はまだバグバッド共和国には辿り着いてはいない。だが、状況は劣悪を極めておる」
「ボク達的にはアンデッドの軍勢で強力な魔物は、ジノアとアルターニア以外とジーンとフリマリで対処しようと思ってるんだけど、それはまずい?」
「ほぅ。それは悪くないが、ちとキツイかもしれん」
キツい?
そもそもリサナが倒せないから俺達に助けを求めたんじゃないのか?
まさかこんな短時間で戦局が動いたのか?
アンドレアさんに変わり、フリマリが説明をしてくれた。
「先程、アンデッドの軍勢の一部がデザートオルキヌスに襲われたのです」
「デザートオルキヌスか。確かにあいつらなにかれかまわず噛み付いてきそうだもんな」
「しかしここで問題が起こります」
「問題?」
「アンデッドの被害数はゼロでした」
それっておかしいことか?
一応リサナとか言う規格外もいるんだから、そいつらが率先して動けば被害ゼロもおかしくないだろう。
しかし次のフリマリの言葉で俺は、何故この状況がキツイのか理解する。
「その時のデザートオルキヌスを倒したのは普通のアンデッドのみです。リサナのアンデッドやSランクのアンデッドは、一切戦闘に参加していませんでした」
「は?はぁぁ!?」
今この情報を聞くだけでも頭を抱えたくなる。
デザートオルキヌスを被害ゼロで倒したと言うことは、アンデッドはデザートオルキヌスよりも強力な個体って事になる。
デザートオルキヌスは俺達に取っては取るに足らない魔物ではあるが、何も戦闘訓練を積んでない人間からしたら脅威の何者でもない。
それを被害ゼロで倒すアンデッドもまた同じ。
いやDランクの魔物がSランクの魔物を倒す事自体異常だ。
魔物のランクをつけたのが誰かは知らないが、アンデッドがこれだけ脅威が生まれやすいのにDランクはないだろう。
「リアス。アンデッドがデザートオルキヌスをどうやって倒したかが今は重要だ。取り乱すな」
「あぁ悪いむっさん。デザートオルキヌスはどうやってアンデッドに倒されたんだ?」
もしかしたら何か異例の事態が起きたのかもしれない。
そうであればまだ策はあるはずだ。
しかしフリマリは黙ったまま、アンドレアさんの顔を伺っている。
「儂から話そう。もしこれを聞いてリアスが動かないって選択をとればそれも仕方あるまい」
「なんだ?アンデッド一体一体がリサナレベルとか、そんな理由だったら確かに動けないが」
「それならもう世界の終わりじゃ。まだ君達ならこの状況を打開できるかもしれん。逆に今を逃せば世界は混迷の一途を辿るだけじゃ」
「今を逃せば?」
「正確には世界に生者はいなくなるじゃろうよ」
「ポリやレアンドロ等の猛者がいるのにか?」
「そうじゃ。なにせアンデッド達はデザートオルキヌスに無理矢理噛み付いて食べ尽くしただけだった。デザートオルキヌスに攻撃されようとお構い無しにじゃ。もちろん被弾した奴等もいた」
なんだろう。
これから先を聞いちゃいけないような、そんな気がしてならない。
背中から垂れてくる汗が、冷や汗かそれともこの土地の気候のせいなのかはわからない。
けれど嫌な汗だった。
「アンデッド達がデザートオルキヌスから受けた傷が全て再生したんだ」
「つまりリサナと言うアンデッド、いやリッチを倒さないとアンデッド達は止まらないって事!?」
「ミラ、落ち着けって」
でもそういう事だよな。
だってそのアンデッド達は、そのリッチが死霊魔法で作り出したっていうんだから、再生する以上それしかないよな?
「いや聖女と言うくらいだ。フリマリならアンデッドに有利に立てる聖魔法があるだろ」
「わからないわ。できる限りのことはするつもりだけど、死霊魔法は自然発生したアンデッドじゃないから、もしかしたら効かないかもしれない」
試してみないとわからないって事か。
けど試してダメだった場合、奇襲という選択肢が消える。
ダメだった時のリスクが大きすぎるからそれは無しだ。
それはフリマリもわかってるはず。
「つまりSランクの魔物対峙する奴は持久戦をする必要があるって事だ。屍である以上体力が尽きることはない。つまり肉弾戦がメインのイルミナとジーン、フリマリはリッチを相手にするのは確定だ」
「それならボクは死神を引き受けようかな。リアスくんとむっさんはリッチを相手した方がいいね」
「あぁ。状況にもよるがな。ヴァンパイアは未知数の力を持ってるからむっさんが頼む」
「あぁ、わかった」
残るデュラハンはエンドマに頼みたいが、一人だとまずいかもな。
ミラとイルミナとの闘いでは、ゲイカーが時間を稼いでいたみたいだし。
そのゲイカーと言えば、クリムゾンポロウニアの牢屋で未だ無言を貫いてる。
「デュラハン相手にエンドマ一人だと不安だ」
「えー!オレっちだって闘えんぞぉ!」
『ならば私がエンドマに付きましょう』
俺の肩からヒョイっとエンドマの肩に乗り移る。
あー、俺って普段こんな感じに見られてるのかねー。
髪色以外そっくりだから困ったもんだ。
「クレがエンドマについてくれるなら戦力的には一番過剰になりそうだ」
「え、風神がついてくれんの!?よろしくなクレセント!」
『えぇ、よろしくお願いします』
デュラハンには同情する。
実際、クレとエンドマを目の前にして相手するのは避けたいし。
「驚くほどスムーズに決まるのぉ」
「そうか?クレが申し出てくれなければまだ悩んでたと思うが」
「そうじゃない。今回は命懸けじゃ。もっと揉めると思ってたんじゃが」
あぁ、そういうことな。
普通なら、おそらくリッチに割り振られれば、できるだけ当たりたくないだろうし、他のSランクの魔物も同じこと。
まぁ普通ならだけどな。
「アンドレアさん。事は一刻を争うんだろ?」
「あ、あぁ。それはそうだが・・・」
「ならいいじゃんか。人は、私利私欲で動くもんだ。それは俺達だって変わらない」
アンデッド達は俺達の平穏な暮らしの邪魔になる事は間違いないんだ。
そして時間が経てば経つほど戦力は増えて、手がつけられなくなる。
手遅れになっていたかもしれないんだ。
「私利私欲か。そうじゃの。すまない。けじめをつけぬ立場を許してくれ」
「許してやんねー!」
舌を出して下瞼を引っ張る。
正直アンドレアさんも戦ってくれたら楽なのに。
でもまぁ仕方ないな。
万が一があればグレイやグレシアを呼ぶ必要があるわけだし。
「そうじゃの。ではまた戻ったらもう一度頭を下げに来るとしようかの」
「はっ!俺がそう簡単に許してやると思うなよ!」
「ふぁっふぁっ!」
そう、これは約束。
必ず勝って帰るって言う約束だ。
早速俺達は準備を始める。
荷物は収納魔法に入れるから問題ない。
今の俺とミラとイルミナは一応学生服を着てる。
しかしこれをボロボロにすれば、賠償金がバカ高い。
無駄に良いところで使ってる所為だ。
だからそれぞれ私服に着替えた。
俺は制服とデザインは同じだが校章はついていなく、動き易いように伸縮自在にした服。
ミラは俺の前世の世界の雷神に因んで、翠色の和服寄りのミニ丈の着物ドレス。
そしてイルミナはもちろんメイド服だ。
ミラは魔法しか使わないがいいが、イルミナは近接肉弾戦が多いのにそれで良いのかと聞いたら、グレゴリータさん達が見えそうで見えない付与魔法をこの服に付けたらしい。
あのエロ親父どもめ。
「リアスくん制服なんだね」
「学生時代にしか学生制服なんて着ないからな!」
前世ではそう言うのを着る大人も居たらしい。
毎年夏にニュースになってたなぁ。
「ミライ様もとても似合ってます」
「ふふっ!リアスくんがデザインしてくれたんだよ」
「羨ましいです」
いや、言ってくれたらイルミナのメイド服もデザインしたよ?
まぁ俺にデザインセンスがあるとは思えないから却下だが。
「むっさんはいつも通りタンクトップなんだな」
「某はこれに限る」
初会合の時は鎧みたいな民族衣装つけてたろう。
まぁそんな事今となっては笑い話だな。
そんなことよりもあいつの服装が気になる。
「なぁエンドマ」
「なんすか兄貴!」
「その格好、どうにかならないか?」
「えー、かっこいいのにぃ」
かっこいい!?
その格好がかっこいい!?
ありえねぇ!
「ブーメランパンツにスポーツブラのどこがかっこいいんだ!俺と同じ顔の所為でこっちまで恥ずかしいわ!」
百歩譲ってブーメランパンツだけならわかる。
だがなんでスポブラなんだ!
しかも明らかに女性用。
まさかこいつ、実は女ってパターンじゃないよな!?
「えー、男は一度くらい女になってみたいもんでしょう?」
「それとこれとは話が違うだろ!」
「え、リアスくん女の子になってみたかったの?」
「リアス様、本国に戻った際には男性用女装一式を用意いたしますね」
「ふむ。人間の雄は雌になりたがるのか。よくわからんな」
くそっ!
一度は女性になってみたいって思ったことがある分否定できない!
けど否定しなかったばかりに風評被害だ。
「とりあえず、お前はこれでも着とけ」
俺は収納魔法で閉まっておいた俺と同じ戦闘用の服を渡す。
一応衝撃軽減の付与が付いてるから今の服よりはいいやつなはず。
いや良いはずであれ!
「えー、仕方ないっすね」
渋々と言った様子でエンドマは服に袖を通した。
うん!
体型も同じだし髪型以外は俺だから変な気分だ!
「すごー、リアスくんにそっくり」
「なんで俺と同じ顔なんだろうな。俺の母さんってエルフだったのかね?」
「アンドレアもそこはわからないって言ってたね。そもそもリアスくんを発見したのは、あの魔物大量発生の時らしいし」
帰国したら親父に聞いてみるか。
何か知ってるかもしれないし。
いやあの親父のことだから知らない可能性もあるなぁ。
『良い傾向ですね』
「ん?」
『負けることなんて微塵も考えてないことです』
考えてないってより考えないようにしてるが正しいけどな。
でもむっさんやエンドマとは命懸けの闘いで背中を預けるのは初めてだ。
なのに二人とも良い感じに緊張が緩んでる。
「たしかに。良いなこう言うの」
しばらくしてからジーンとフリマリも戦闘着に着替えてきたようだ。
フリマリはなんか聖女ってより踊り子みたいだな。
ジーンも聖騎士と言うよりは、砂漠の盗賊って言った方が似合いそうな格好だ。
俺達は一通り準備を終えて、出発する為に森の外に来た。
見送りはジノア、アルターニア、アンドレアさん、サロンガ、そして兎人族の双子のマリナとヒマワリだった。
「マリナとヒマワリだっけか」
「はい」
「そうです」
「どうして見送りに?」
俺達そんなにこいつらと話してないぞ。
けどなんか出会った頃より生き生きしてるような気がする。
「悪いのぉリアス。実はこの子達、自動輪と言うものに憧れを抱いておってな」
あー、車オタクって事ね。
わかる、わかるよ。
しかもこの世界には馬車しかない。
いきなり自動車が出てくればそうなるのも無理はないだろう。
「そうだな。帰ったら乗せてやるよ」
「ほんとに!?」
「ありがとう!やったねお姉ちゃん!」
なんか第一印象と打って変わって普通に子供だな。
もっとこう年不相応な喋り方してたのに。
「よかったのぉ」
「お爺ちゃんに言われた通り働いたら約束してくれた!」
「ぼくたちあんな喋り方した事ないのに大変だった!」
「な、なんのことかのぉー?」
怪しい。
アンドレアさんは一体この子達に何を吹き込んだんだ?
「ジーンさんの睨み方、怖かったのにあんなことやらせるんだもん!」
「そうそう!これくらい必要経費だよねお姉ちゃん!」
なるほど、こいつの仕業か。
物申してやりたいがまぁ俺は大人だ。
今だけは我慢してやる。
「怖い・・・」
「戻ったら挽回しろよ」
「元気出しておとーさん」
「ジーンも反省してるから、許してあげてね」
「うん!」
「なんか初めて会った時よりやつれてるからかわいそー!」
子供ってストレートだよな。
純粋と言うかなんというか。
「リアス、気をつけて」
「ジノアもな。アルターニアをちゃんと守れ」
「ミライ、イルミナ。誰も欠けずに戻ってきてくださいね」
「もちろんだよアルターニア。リアスくんがみんなを守ってくれるからね」
「リアス様はお強いですからね」
「荷が重いな。まぁ最善は尽くすさ」
全員で生き残る。
慎ましくも平穏な暮らし、それが座右の銘だ。
遠のいてる気がしてならないけど。
『それじゃあ行きましょう。いつまでも別れを惜しんでいてはキリがないです』
「だな。じゃあ行ってくる」
俺達はジーンとフリマリを含めて自動輪に入っていく。
自動輪で蹴散らせれば楽だけど、そうもいかないだろう。
「全員シートベルトを締めろー、デザートオルキヌスとかに万が一ぶつかったら吹っ飛ぶからなー」
全員シートベルトを閉めたところで、エンジンをかけて発進しようとした時だった。
「待ちな!」
「ん?」
後ろから一人声をかけてくる奴がいた。
リアス「さて、最後に声をかけてきたやつは一体!」
ミライ「一人しかいないでしょ」
イルミナ「ですね。勿体ぶる意味がわからないです」
クレ『そこは演しゅ------』
リアス「あーーーーー!さて次回の乙女ゲーのガヤポジションに生まれたからには慎ましく平穏に暮らしたいはー!」
ミライ「誤魔化し方が雑だよ・・・」
イルミナ「リアス様はアホの子ですから」