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砂漠での脅威の発生

「リアス・フォン・アルゴノート!リアス・フォン・アルゴノートはいるか!」


「なんだようっせぇな」


 俺を呼ぶ声はわかったけど、聖女の護衛のジーンだとわかり半ば適当に頭をかきながら扉を開ける。

 ここは一応カッディの家なんだぞ?


「リアス・フォン・アルゴノート!」


「なんだ?俺は忙しいんだ------が?」


 突然ジーンが頭を下げた。

 それはもう綺麗に90度腰を曲げて。

 俺は直感的に察した。

 面倒事を押し付けられると。


「あー、おかえりはあちらです」


「頼む!力を貸してくれ!」


「かーっ!やっぱ面倒事持ってきやがったなくそ!入れ!内容によっちゃ聞いてやる!」


「助かる」


 カッディに許可を入れずに入れてしまったが、カッディはいいよいいよと手を振って、ジーンにお茶を振る舞っていた。


「それで?なんだよ頼みって?」


「実は今、バグバッド共和国に向けてアンデッドの集団が侵攻を始めているらしいんだ」


「へぇ、アンデッドの魔物大量発生(スタンピード)ってところか?」


「あぁ。アンドレア殿が言うにはそこにはデュラハン、死神、ヴァンパイアが確認されたらしい」


「へぇ、Sランクの魔物二体にAランクが一体か」


『ヴァンパイアはデザートオルキヌスとは逆のパターンです。Aランクに指定されてますが、Sランクレベルの実力を持っています』


 マジかよ。

 クレがそう言うならヴァンパイアはSランクの魔物で間違いないか。

 だとしたらSランクの魔物3体ってことか?

 俺とミラとイルミナとむっさんで3体のSランクくらいなら倒せるか?

 他の魔物の大群はおそらくAにも満たない魔物もいるだろうから平気だろう。

 こいつの頼みがアンデッドの大群の処理だったらの話だけど。


「そんだけなら別にボク達無しでも倒せるんじゃないの?」


「え?」


「だって前までのボク達ならジーンに勝てなかったよ?フリマリによって強化されたジーンの動き、見えた?」


「確かに見えてなかった」


 言われてみればそうだ。

 ジーンは動きは速かったが単調だった。

 そもそも俺だって同じ速さで色々な動きをしてくるグレイを見てなければ反応できなかった可能性すらある。

 結局動きについて来れない相手では単調な動きでも勝てるだろう。

 そしてSランクの魔物の中でむっさん自体、グレイの動きは見えていない。

 風圧が来る風の動きや気配などの感覚で反応はできるみたいだけど。


「その通りだミラ嬢」


「君に敬称を許した覚えはないよ?ボクはミライだ」


「これは失礼したミライ嬢。正直Sランクの魔物だけであれば、我々でも対処できた可能性が高い。しかしアンドレア様によれば、向こうにはもう一体恐ろしい魔物がいるらしいのだ」


「恐ろしい魔物?あ、もしかしてあいつか?」


 例のドラゴン族を滅ぼしたと言われる魔王妃のアンデッドのリサナか?

 アンドレアさんが命懸けで止めるとか言ってたから、そっちもアンドレアさんに頼めばいいのに。

 いや、多分頼んだんだろうな。

 そしておそらく、アンドレアさんに頼んだ上でここに来たって事は------


「リアス。これって多分、アンドレアさんじゃ手に負えないって事じゃない?」


「そうだとしてもなジノア。俺達だって手に負えないだろ」


「それはね。だから断る事を提案するよ?」


 当然だ。

 ドラゴンが手をつけられなかった奴なんて、どうがんばっても対処できる未来が見えない。

 でもそれはアンドレアさんもわかってるはすだ。

 本人に伝えたしな。


「にゅーん、多分だけお義父さんならそれくらい予想できると思うにゅー」


「だよな。何か理由があるのか?お前も断ると言われた時は動揺した素振りを見せなかったし、あるんだろ?」


「あ、あぁ。実は、そのリサナと言うアンデッドだが、知性が身に付いてしまったらしい」


「知性?・・・知性!?」


 待て待て。

 アンデッドに知性が身に付いたって事はリッチになったって事だ。

 そこまでならわかる。

 けどリサナというアンデッドは普通のアンデッドじゃない。

 生前の実力を兼ね備えているアンデッドだ。

 

「まさか、アンデッドの軍勢の中で一番強いのはデュラハンや死神ではなく------」


「そうだ。最も強い魔物はリッチだ」


「おいおい・・・」


 マジで俺達には手が付けられないぞ。

 いや知性があるんじゃもしかしたら、アンドレアさんでも対処出来ない?


「アンドレア殿はそのアンデッドに一矢報いても、傷ひとつ負わすことも難しいと言っていた」


「っ!でもそんなの俺達でもどうにもなんないぞ!?」


「兄貴、オレっち達ならなんとかならないか?」


「バカ言うな。知性無しならまだ可能性はあったが、知性があるってことはスタートから速攻でミラとお前の二人を狙われるに決まってる。俺がグラビティアースを使おうとすればそれを警戒して離脱する可能性もある。そして離脱されたら、俺達は生きている間永遠と奇襲を警戒しないといけなくなる」


 当然だよな。

 護衛を配置しようにもリサナってアンデッドより強い奴が常備していてくれなきゃどうしようもない。

 顔を出した時点でアンデッドを討伐出来なければ俺達は、いや人類はあいつの魔の手を永遠と怯え続けなければならない。

 

「いや、それは今も同じか。知性が身についた以上、侵略って判断を下す・・・おい、まさかジーン!アンドレアさんから他にも言伝をもらってないか!?」


「あぁ。リサナってアンデッドが先導してバグバッド共和国を侵略する理由は、死者の国を作ろうとしているってことだ。そしてリサナというアンデッドは、死者を蘇らせてアンデッドに変える死霊魔法を使えるようなんだ」


 想像していた中で最悪、いや想像していた以上に最悪だ。

 死霊魔法ってのは効いたことがある。

 死体からアンデッドを創造する魔法だって。

 しかし聖国がその魔法を禁忌の魔法として、使えば聖騎士達が処罰すると触れ回ったことで今じゃ使える人間が居ないという。


「見て見ぬ振りは出来ないなリアス。どうする。某達がここで手をこまねいたりすれば彼奴の戦力は増えていく。手を付けられなくなる前に仕留めるのが一番ではないか?」


『そうですね。正直グレイやグレシア達がこの場にいなかったのは痛いですね』


「あぁ。このメンツでアンデッドの軍勢を倒すのは多分容易だが、今現在クリムゾンボロウニアにいる人間すべてでリサナってアンデッドを討伐してもどうにか出来るかどうかもわからねぇ」


「しかもSランクの魔物も三体いるんでしょ。ジノアとアルターニアはクリムゾンボロウニアに置いて行くとして、ボクとリアスくんとイルミナとむっさんとエンドマ。五人で闘うとすれば最高でもリサナってアンデッドに避ける人数は二人になるよね」


「何言ってるんだミライ!僕だって闘えるよ!」


「ジノアこそ何を言ってるの?知性が身についてるって言ったよね?一番崩しやすいところを狙われるに決まってるじゃん。少なくともボクなら弱い奴からかたづけていく。ジノアは立派な戦力になるんだから尚更邪魔だから真っ先に狙われるよ」


「う・・・」


 ミライの言うとおりだ。

 知性がある以上、戦力は弱い奴から狙われる。

 ジノアは強くなったからアンデッド相手でも遅れは取らないだろう。

 でもSランクの魔物を相手するにはまだ足りない。

 だから雑魚を蹴散らす係になるだろう。

 そうなれば誰が一番邪魔か。

 当然ジノアだ。

 取りやすい駒で邪魔くさい駒。

 狙わない理由はない。

 それに俺達だって単体のSランクの魔物に必ず勝てるなんて自信がない。

 護りながら闘うなんて真似は不可能だ。


「そうだな。ジノアはアルターニアと共にクリムゾンボロウニアに残ってくれ」


「う・・・僕は邪魔かいリアス?」


「ははっ」


 俺は珍しく塩らしいジノアの頭を無造作に撫でまくる。

 年相応の顔をちゃんと出来るんだこいつは。


「お前は強くなった。だから敵にとってお前はかなり邪魔だ」


「え?」


「そして一番倒しやすい敵。確実にお前が狙われる。そして俺達はそのときジノアを守り切れる自信がないんだ」


「それは・・・そうかもしれないけど」


「ジノアを信じてない訳じゃない。ただ、戦場に出れば一番死が近いのがお前になるってだけだ」


「それは皇族として当然だ!それに帝国にだって、アンデッド達の牙が向くかもしれない」


「じゃあその時はお前が俺達に変わって、グレイ達を率いてくれ」


「あ・・・」


 もしここにジノアを置いて行ったとして、そのような状態になったとすれば俺達はもうこの世にはいないだろう。

 だとすればその状態をどう対処すればいいか。

 自分で言うのもなんだが、俺達の戦力は世界的にもかなり強い方に分類されるはずだ。

 もちろんヒャルハッハ王国のレアンドロや、戦争中立組合と猛者はいる。

 だが、それでも上から数える方が早いことはたしかだ。

 だったら次に対処できる帝国の戦力は、国内に残ったグレイ達で奇襲を受ければまず間違いなく殺される。

 だからアンドレアさんはむやみに国の外れに来たりしなかったんだ。

 アンドレアさんはこの闘いを見届ける気でいる。

 千里眼で確認し、俺達が負けた場合には伝達係になってくれるんだろう。


「ごめんリアス。たしかにこの状況で僕が無理する理由はない」


「わかってくれたか。それでジーン。もちろんお前とフリマリも付いてくるんだろ?だとすれば少なくともSランクの魔物一体は二人には受け持ってもらうことになるがいいか?」


「あぁ!手を貸してくれるなら俺達としてはありがたい。感謝する」


「だったらこれ」


 俺は首に付いてたチョーカーを外してジーンに渡す。

 こtrhsジーンの亡き妻ディマリアが付与したものだ。

 戦利品とは言え、背中を預ける以上渡しておく必要があるだろう。


「信頼の証だ」


「だがこれは・・・」


「あぁ、私刑のと気は酷い目にあったぜ。しかも今までのジーンの態度も腹が立つ」


「・・・すまん」


「そのチョーカーを渡した意味はわかるだろ?お前だって奥さんを殺されて神経質になってたんだろうからな」


 フリマリ、それにサロンガの性格からこんな強行に移して何も言わないのはおかしいしな。

 多分、ジーンの心情を考えていたんだろう。

 それでも許せるのは俺達がこうして生きているからだけどな。


「重ね重ねすまない」


「謝罪は無しだ。カッディ、俺達は村に戻るけどお前はどうする?」


「にゅー、お前達が帰ってくることにはワクチン」


「お、そりゃ期待してるわ」


 俺とカッディはサムズアップで互いの意思を了承する。

 

「よしっ、じゃあミラ、イルミナ、むっさん、そしてエンドマ。作戦会議に行くか!」


『私も忘れてもらっては困ります』


「あぁ、わかってるぜ相棒!」


「はぁー、ボクはこの闘いが終わったらゆっくり休みたいよ」


「じゃあメルセデスに頼んでお茶会を開きましょう!貴族らしく」


「いいねイルミナ!アルターニア、その時はちゃんと来てよね」


「え、あ、はい!」


 結構強敵を相手にしようとしてるのに気が抜けるな。

 まぁそれも俺達の良さか。

 負けるつもりもサラサラないしな。


「すまない」


「いい加減謝んなよ?さっさと行こうぜ!会議の時間は長ければ長いほど、対策が取れるってもんだ」


「あ、あぁ」


 困惑した態度をとってる。

 まぁ無理もないよな。

 でもこればかりは時間で埋めてくしかない。



 俺は一体何を見ていたんだろうか。

 この少年が妻の仇だと、今の今まで本気で疑っていた。

 別に確信があったわけじゃない。

 ただそうすることで、妻を守れなかった自分に免罪符がほしかったのかもしれない。


「信頼の証だ」


 この少年が妻の形見であったとされる魔剣を改造したチョーカーを渡してきた時、俺はとんでもないことをしていたと実感してしまった。

 よくよく考えてみれば彼が妻の仇であるはずがない。

 聞けば俺の動き自体は見えていなかったと言う。

 つまりいくら経験を積んでいても、少しでも動きを変えていれば死んでいた可能性すらあったとそう言ったんだ。

 なのにこいつは俺やフリマリを殺さなかった。

 国家間の均衡もあるんだろうけど、それでも俺を殺さない理由には少し弱い。

 バグバッド共和国はそこまで強い国家ではないしな。

 それに打算的な意味合いがあったとはいえ、俺達に協力すると言うことも承諾した。


「すまん」


 これは無意識に出た俺の本心だった。

 こいつらから見たら俺はタチの悪い言いがかり野郎だ。

 自分のしていたことが恥ずかしくなってきた。

 いや、恥と言うよりも後ろめたさか。

 カッディ殿ともあっという間に受け入れられている。

 カッディ殿は研究に没頭する反面、人付き合いは最低限しかしていない。

 タコの見た目も相まって近づこうともしない人がほとんどだ。

 本人もそれを知っているからか、率先してこの小屋に住むようになった。

 本来、村長の義理とは言え娘なら、村長の家にいるはずなのにな。


「すまない」


「いい加減謝んなよ?さっさと行こうぜ!会議の時間は長ければ長いほど、対策が取れるってもんだ」


「あ、あぁ」


 人は見た目によらないとはよく言ったものだが、今回は違うな。

 この闘いが終わったら、こいつは俺のことも友と呼んでくれるだろうか?

 まだ友と言えるほど深まってる仲ではないが。


「さっきからジーンがリアスくんに熱烈な視線送ってるんだけど」


「へ!?俺にはミラって婚約者がいるから、お前は受け入れられないぞ!?」


「ち、ちがう!少しだけ考え事をしていただけだ!」


「なんだよ。フリマリって奥さんがいるのに、男も女も関係なしに貪るのかと思ったわ」


「ははは!兄貴!オレッちならいつでも受け入れますぜ!」


「いや、いらん」


 エルフの村の村長の息子エンドマは、それなりに気性が荒い上に、最上級魔法の使い手と言う男だったと言うのにこの懐き様。

 一部始終は見ていたが、あいつは最上級魔法を使わずに、最上級魔法の使い手のエンドマを倒していた。

 それも命を奪うことなく。

 それがどれだけ難しいことか。

 恐らく、そんな人柄にエンドマ惚れたのだろう。

 そして多分俺も------


「どうしたジーン?」


「ふっ、なんでもない」


 思わず笑ってしまった。

 ディマリアが死んでから心の底から笑ったのは久しぶりだ。


「へぇ、そんな顔もできんじゃん」


「う、うるさい」


 きっと俺はこいつの近くにいたら、他の奴らのように絆されていくのだろう。

 しかしそれが悪くないと、そう思えてしまった。

ミライ「リアスくんはいつから人垂らしの才能が?」

イルミナ「昔からでしょう?なんだかんだ言いつつもお人好しですから」

ミライ「確かに!でもお人好しでいつか身を滅ぼさないか心配だよー」

イルミナ「そこはわたし達でフォローしましょう!」

ミライ「うん!ボクは容赦しないヨォ!」

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