エピローグ
クリムゾンポロウニアの外れに位置するところに一つの小屋がある。
俺達はその小屋でとある人物とお茶をしていた。
「にゅふふ!君が義父さんの言ってたリアスってんだにゅー!」
「驚いたよカッディ。最初タコの足が出てきた時には、魔物が出てきたと思った」
「実際ボクがショックボルトを使ったから、しばらくカッディは立ち上がれなかったみたいだけどね」
「にゅふふぅ!それくらい平気にゅー!動物の力を抑制して人間に近づける実験をしてたら、逆に動物の要素の方が強くなって焦ってたにゅー」
目の前にいるのはアンドレアさんの義理の娘のカッディ。
ヒョウモンダコの獣人で、森で干からびかけてたところをアンドレアさんが保護して養子にしたんだとか。
「悪かったな。俺達も一応はこの二人の護衛も兼ねてここにいるんだ。一応アンドレアさんに言われてたから殺傷性の強い魔法は避けてたけど、それでも被害に遭わせたのは申し訳ないな」
「僕からもごめん。アルアの事で頭がいっぱいだった。僕はそんなに強くないからね」
「あら、そんなこと言ったら何もできなかったわたくしが一番悪いわね」
「にゅふふ!君達面白いにゅー」
ジノアもアルターニアも帝国貴族とは思えないほど良いやつだ。
あいつらも見習って欲しい。
特に親父。
「それにしても義父さんから聞いてたけど、本当にこんな不安定な薬品を使ってるんだにゅー」
「あぁ、実際にこいつを打たれて肥大化して化け物になった奴らがいる」
「確かにこいつを打たれたらそうなるだろうね。魔力の暴走作用のある薬品に、マダラキノコとバニヨウコダケってキノコが使われてる」
「兄貴!マダラキノコは知ってるぜ!脳を一時的に攻撃的な性格にする作用があるらしいんだ」
「へぇ、そうか。エルフは薬草に詳しそうだもんな」
「普通にエンドマに兄貴って呼ばれてる君は何者にゅー」
エンドマは何故か舎弟になった。
アンドレアさんが言うには、こいつの叔父は正体不明の奴らに殺されたらしい。
それがポリ・ランドールの仕業って見解みたいだけど、俺にはそれがわからない。
なにせ、アンドレアさんは見逃されたんだ。
おそらく違うだろう。
叔父さんが死んだからって、エルフの村にいる必要も感じないらしく、エンドマはついてくると言っている。
正直頭を抱えている。
もし帝国に来るなら入国手続きが面倒だし、何よりこいつ爆弾だろ。
「まぁこいつの事は後回しでいいや。この薬品の血清、もしくは治療薬は作れるか?」
「期待させて悪いけど、今のところ無理にゅー」
薄々はそうだろうなと思った。
事前情報や材料はアンドレアさんによって解析されてる。
にも関わらず、この人はそういった類のものを出してこない。
考えられるのは三つ。
一つはそもそも解毒方法がないこと。
しかしそれなら多分ってつけるのはおかしい。
すぐに無理って言うはずだ。
二つ目は技術不足。
しかしそれならそもそも可能性も見つけられないはずだ。
だったら三つ目の理由。
「治療薬は作れると思うにゅー。けど材料が足りないにゅー」
「やっぱりか。だったら必要な材料は俺達が確保してくる。足りない物は言ってくれ。こんな事もあろうかと植物図鑑を持ってきてるんだ」
植物図鑑に載ってない物だったらどうしよもないけどな。
「にゅー・・・足りない物は3つにゅー」
ガッディが提示した三つとも図鑑に載ってない植物ではなかった。
一つはビッグマグナムと言う緑色のゴツゴツした実が特徴の植物。
多分日本で言うところのゴーヤだろうな。
なんとこの植物はヒャルハッハ王国にしか生えてないらしい。
隣国の帝国には生えないのに、王国には生えてくるんだな。
なんか理由でもあるのか?
二つ目はロービスクズって赤い花の蜜。
ロービスクズはどうやらバグバッドにあるらしい。
フリマリとジーンはここまでついてきてないからいないけどな。
でもバグバッドは今ロックダウン中だろ。
入国するの大変じゃん。
まぁそれ言ったら休戦国で、この前王国方面に色々やらかしてるし、入国難しそうだけど。
そして三つ目だが、これは比較的簡単だ。
デザートオルキヌスの肝臓。
ディザードに結構居たから問題ないだろう。
「ロービスクズはバグバッドはロックダウンしてるから結構厳しいな」
「フリマリ様が言うには、ロックダウン理由は食糧難らしいですよ」
「いつの間に仲良くなったんだイルミナ?」
「昨日パジャマパーティしたからね!色々教えてくれたよ」
こっちはジーンが終始不機嫌で大変だったのに。
このチョーカーは土神の形見って言ってたし返してもいい。
けどなんかジーンの態度が、帝国貴族みたいな傲慢な感じで嫌なんだよな。
だから未だにチョーカーは俺が付けてる。
「スナヤギしかあの国のタンパク源はないんだってー」
「あぁ、あの強力な魔王妃のアンデッドが生態系乱したせいで取りにくくなってるのか」
「多分ねー!でもボク達じゃ多分あのアンデッド倒せないし、アンドレアがどうにかするまでは動けないかな?」
確かに、アンドレアさんの話が本当ならあのアンデッドは赤桐と互角の力を持ってたって言う魔王妃リサナ。
赤桐自体かなりの制限ありきでギリギリ勝てた俺達に、勝てるとは思えないんだよな。
いくら成長したと言っても、魔法を生み出したりできた時代の赤桐と互角って、それなりの実力を兼ね備えてるのは確かだ。
「アンドレアさんがアンデッド殺すの命懸けらしいからな。正直アンドレアさんほど貴重な情報源もいないし、何より知り合っちまったからなぁ」
「ボク好きだよ。リアスくんのそういうとこ」
この笑顔には救われる。
俺はどうしても甘さを捨てきれない。
日本にいた頃とは違うし、あのアンデッドが倒されない場合、最悪は帝国をターゲットにする可能性だってある。
現状、知り合いの中ではアンドレアさんの命懸けの攻撃くらいでしか撃退する方法は思いつかない。
「兄貴、オレっちが最上級魔法ぶっ放してぶっ倒すってのはどうです?」
「あのアンデッドはドラゴンの一族を全滅させたんだ。サンドラが言うには最上級魔法の使い手も中にはいたことだろう。それに某の様に強力なスキルを持っていたと言っていた」
「強力なスキルってなんだむっさん」
「魔法無効化だ」
「魔法無効化!?それは文字通り?」
「あぁ。サンドラの従兄弟に魔法無効化なスキルを持つ奴がいて、その効果は一定時間ターゲットの魔法の一切を封じると言う物らしい。外したと言う事もないそうだ」
って事はいよいよ厄介だぞ。
ドラゴンを全滅させたのは純粋な格闘術、もしくは体術である可能性が高い。
あのアンデッドの知能がどれほどかは把握できてないが、少なくとも武器を使ってたらサンドラが伝えるだろう。
「別に魔法を防がれたわけじゃないならいけるんじゃっすか?」
「無理だ。最上級魔法は破壊の権化だが、それしかない」
「それしかない?」
「最上級魔法は正確さや魔法構築速度が皆無なんだ。そしてドラゴン軍団を相手にして体術だけで勝ったとしたら、たとえお前が最上級魔法最高速度のボルテックランスを撃ったとしても、確実に当たる距離に近づけば魔法を放つ前に殺られる可能性が高い」
体術は馬鹿にできない。
俺がグラビティアースを使ってこいつの魔法を逸らすことの出来る隙があるくらいに、魔法構築速度が遅いんだ。
それこそ一瞬の隙ではあるが、それでも一息入れる隙があれば優秀な人間は確実に殺れる。
「つまりオレッちが魔法を撃つ前に殺されなきゃ良いって事だろ?」
「できるのか?」
「リアス様、恐れながら彼は体術もかなりの使い手だと思います。わたしの蹴りを身体で自ら飛び退き、威力を殺しました」
「むっ、イルミナの蹴りにそれが出来るのか」
今のイルミナの蹴りに反応できる奴は早々いないと思う。
それこそ俺が今まで見てきた中で一番速い剣聖スカイベルくらいじゃないか?
グラビティアースで鍛え上げたあの身体能力は、正直俺も驚いた。
身体強化を使えば、魔法より速く動けるって言うんだからとんでもないよな。
魔力が少なくても余りある才能だ。
そんな攻撃を見切れるとなると、こいつ実はとんでも無く強いんじゃないか?
グラビティアースなんて初見殺しの魔法を使ったから負けた訳で、実はかなり紙一重な闘いだったのか。
「つまり攻撃は見えてたって事か?」
「もちろんさ!兄貴の攻撃は見えなかったけどな!」
「キャラ変わりすぎだろ・・・うーん、クレはどう思う?」
クレは生きてる年月も長い。
こういう困った時、彼我の実力差を正確に定めてくれる。
最高の相棒だ。
『個人的にはアンデッドとリアス達がぶつかって勝利を勝ち取るのはまず可能でしょうね』
「おぉ!クレのお墨付きなら安心してアンデッドに------」
『ただ二人以上の犠牲は覚悟してください。ここにグレイやグレシア、リリィ達がいればまた話は変わりますがね』
少なくともこのメンツでは、アンデッド相手に犠牲が出る可能性が高いって事か。
いや違うな。
最低限二人の犠牲は出るんだ。
アンドレアさんには悪いが、アンドレアさんと連れの命を天秤にかけたら、連れの命のが余裕で傾く。
「犠牲の出る作戦なら某も反対だ。カッディ殿がアンデッドを殺さないと薬品を作らないと言われたら話は変わるがな」
そうだ。
カッディにとってはアンドレアさんは義父。
それも恩人に当たる。
もし薬を作ってもらえなければ、俺達は別経由で薬品を作らないといけなくなる。
正直作ってもらえないって言われても、アンドレアさんを犠牲を出してまで救うって選択にはならないししょうがない。
「にゅー、義父さんが自ら命を賭してそのアンデッドを殺すなら何も言うことはないにゅー」
「悪いなカッディ」
「うーん、まだ答えを出すには早いんじゃない?」
「っというと?」
「ボク達のくくりには、サンドラやジーン、フリマリは入らないんでしょおじさん?」
『そうですね。あくまでこの小屋の中のカッディ以外のリアス、ミライ、イルミナ、ジノア、むっさん、私、ナスタチウム、シュバリン、そしてエンドマの9名で対抗した場合での予想です。アルターニアは戦力として数えてませんが、囮として使うことを考えての勝率です』
「アルターニアを囮に使う気はないし、アンデッドと闘うならジノアはアルターニアを見ててもらうことになるな」
「戦力的にはそれが妥当だろうね。クレセントの言葉はわからないけど、大体どういうこと話してるかはわかったよ」
「頭のキレが早いねジノア。ボク的にはサンドラやフリマリが居れば状況は変わると思う。ジーンには期待してないけどね」
「あいつは------」
正直あいつの実力って、グラビティアースで鍛える前のアルバート並みなんだよな。
フリマリのバフのおかげであのくらいの速度で動けてるが、正直俺達と共に戦えるかと聞かれたら無理としか言えない。
それこそジノアより弱い可能性もあった。
フリマリのバフが強いだけであいつは迷惑でしかない。
「あいつがついてくると和が乱れかねない。フリマリの力は借りれないものと考えるか」
フリマリのバフはかなり強力だ。
それこそ同じ聖女のリリィは自身の強化や攻撃寄りの聖魔法を使ってたが、フリマリはその逆。
他人の強化や補助魔法に長けてる。
共通してる点なんか回復魔法くらいしかない。
契約してる聖獣によって違うのか?
「だとしたら、とりあえずサンドラに力を借り------」
借りに行こう。
そう言おうとした瞬間、ガーッと勢いよく扉を開けて入ってくる者が現れた。
「リアス・フォン・アルゴノート!リアス・フォン・アルゴノートはいるか!」
それはいつものイライラしていた表情とは打って変わって、焦り、焦燥が目に見えてわかるジーンだった。
*
アンデッドリサナは、ゆらりゆらりと歩いてる。
バグバッドに向けて歩いている。
彼女は、彼女を攻撃してくるサウザンドドルフィンやデザートオルキヌスを蹴散らし、自分のペースで歩いている。
その彼女には、他のアンデッドと違い生前の記憶情報がある。
しかし情報があるだけで、本能での戦闘能力でしか役に立っていない。
魔法などと言ったそういう知識は全く役に立っていない。
「わ・・・た・・る・・・って、誰かしら?」
しかしそれは先ほどまでの話。
アンデッドリサナは、リッチへと進化を遂げる。
リッチはAランクに指定される魔物ではあるが、自然発生である為、赤子に等しく経験値が乏しい。
しかしこのリッチは違った。
リサナと言う生前の記憶情報を持つ為、強力なリッチとなっていた。
「あはっ!すごいわこの身体!身体能力が高い上に、魔法まで使えるのね!」
リッチは頭のいい魔物であり、このリッチは自身の置かれている状況を理解していた。
そしてその頭の良さが、人々に向けられる牙となる。
「今、自我が生まれるまで私はアンデッドだったのね。まぁ今もアンデッドなのだけれど。いや、死者に自我が生まれたからリッチ。いいえ、不死の帝王エンペラーリッチってとこかしら?」
王には一人ではなれない。
だと言うのに帝王と自分を豪語したのにはもちろん理由があった。
「ふふっ、目覚めなさい。我が臣下達よ!」
すると次々と砂漠から浮き上がってくる黒い影。
それは腕を無くした人間のアンデッドだったり、普通の老人のアンデッドだったり、或いは白骨体になりスケルトンとなった者。
そして一部龍人、ドラゴンの人型のアンデッドもいた。
そう、彼女はリッチにしてネクロマンサーにもなったのだ。
リサナは本来は死霊魔法は覚えていない。
しかしリッチは頭が良く、リサナの覚えてる魔法から新たに死霊魔法を作り出したのだ。
最早その規模はサウザンドドルフィンとデザートオルキヌスのアンデッドもいることから、凄まじいものとわかる。
それこそエンペラーリッチの名に相応しい国家規模の軍勢とも言えた。
「アハハ!これで帝王に相応しい臣下は揃った。あとは国かしらね」
そしてバグバッドの方に視線を向ける。
彼女はアンデッドの本能のとして、人の気配を感じとる事が出来る。
「あそこに人がいっぱいいるじゃない。臣下も増やせるし一石二鳥ね。ふふっ」
エンペラーリッチの標的はバグバッドとなってしまった。
バグバッドまでそこそこな距離があるとは言え、バグバッドが死者の軍勢に押し潰されるのは時間の問題となった。
リアス「え、生前の記憶情報があるのに自我ってヤバくね!?」
ミライ「ヤバくね!?じゃ無くて本当にまずいでしょ!リッチ自体Aランクの魔物に認定されるレベルなのに」
リアス「なんでこんなトンデモ回から復帰なんだよ!休暇楽しんだ後は酷使するってか!このブラック企業め!」
イルミナ「今に始まったことじゃありませんよ。あの作者を見ればわかるでしょ?」
一同「たしかにー!」
クレ『酷い言われようですね・・・』