幕間:バグバッドに派遣されたアマゾネス①
リアス達がエルフからの襲撃に対処してる頃、ヒャルハッハから派遣されたアマゾネス一行はバグバッドに着いていた。
バグバッドで歌姫と呼ばれるフリマリに会い確保する為。
アンバーとドロデアはあまり物事を考えないから気にしていないが、ドゥーナとジャベリンは国の様子がおかしいことに気づく。
「騒がしいわね」
「本当ですね。街の人達が慌ててる。我々は同盟国では無いし、見た目は違うと言うのにまるで気にも留めない。一体何事でしょう?」
「あら、シャフトくんは常識人なのね。よかったわ」
「いえそんな・・・」
ドゥーナはジャベリンに初めて笑みを向けるが、その笑みはロクなものじゃ無いとすぐにわかり後ずさる。
そこに先輩風吹かせたドロデアが二人の間に入り仲裁する。
「ドゥーナ、め!ジャベリンはまだよわっちぃから無茶できない。ジャベリン、ドゥーナのサンドバックまだ早い」
つまりそれなりに強くなればサンドバックにされるのだろうかと、背筋に悪寒が走るジャベリンだった。
「しないわよ馬鹿ね。常識人なシャンデリアくんに待望の初任務を与えようと思ってね」
「初任務?」
「そうよ。シャンデリアくん。貴方にはこれからこの国で何が起きているかを確かめてもらいます」
「え、そんな大役を自分に任せていいんですか?」
キョトンとしてるジャベリンとは裏腹に、アンバーとドロデアは青い顔をしてドゥーナから目を逸らした。
そしてドロデアはジャベリンにそっと耳打ちする。
「ジャベリン。悪い事は言わない。断る」
「え、なんでですか?自分の戦闘能力は低いからそれくらい任せてくださいよ!」
「うっ、そんな目を輝かせたら止められない」
「ドロデア〜、下手なことしてあんたが情報収集行くハメになったらどうすんの?」
「ジャベリン、頑張る!」
余程ドロデアは情報収集に行きたくないのか、すぐに手のひらを返してジャベリンの背中を押した。
不思議に思ったジャベリンだったが、自分にも仕事が回ってきたと張り切って情報収集に向かった。
ジャベリンはこのときドロデアが何故止めたのか、収集を終えてから知ることになる。
*
気づけばバグバッドは夜になっていた。
バグバッド国の外れで野営テントを構えるアマゾネス一行。
バグバッドの夜は昼間と違ってかなり冷える。
故に薄着で外を出歩くのは自殺行為に等しいのだが、ジャベリンは薄着で正座をさせられていた。
「ねぇ、シャンディガフくん?これは何かしら?」
「バグバッドでの現在の状況にございます」
「見ればわかるわ。でもなにこの字の汚さ、それにバグバッドで問題が起こってるのはわかってることなのに、今更蒸し返すこの問答はなに?」
「それは資料作成においての課題と疑問点を先にまとめるための------」
「情報が欲しい人間に無駄な情報を入れない。基本でしょう?」
「はい!申し訳ございません!」
「謝罪を聞きたいんじゃありません。具体例をレポートにまとめて提出してもらいます」
ドゥーナはジャベリンに対して説教をしている。
アンバーとドロデアは過去に別の国に派遣された時にこの説教を味わっているので、二人とも青い顔をしていた。
「やっぱりシャイニングくんでも無理だったかー」
「ジャベリン、だから止めた」
「ど、ドロデアさん〜」
「誰が私語をして良いと言いましたか?お仕置きが必要ね」
お仕置きとは、ドゥーナが手に持ってる鞭を見ればどういうことかわかるだろう。
ドゥーナはアサルトライフルの他に鞭を備えている。
拷問好きなドゥーナは、アサルトライフルでは即死してしまう事が多いためこうして攻撃力の低い鞭をいつも備え付けていた。
「あのードゥーナさん?その鞭は一体?」
「身体で覚えさせようと思って。ドロデア、これは嗜虐じゃないから止めないでくださいまし?」
ジャベリンは無意識のうちにドロデアに助け舟を出してもらうべく視線を寄せていたが、その期待は淡く崩れ落ち沈む。
「・・・肯定」
「ドロデアさん!?」
「ジャベリン、諦める。ドゥーナの説教は終わるまで止まらない」
「ひぇぇぇえー!どうかご慈悲をー」
首根っこを掴まれ、テントへと引きずられていくジャベリン。
これから何をされるのかは想像にかたくない。
「アンバー、は期待出来ないわね。ドロデア、資料を頭に入れておいて」
「え、ワタシ暗記にが・・・」
「入・れ・て・お・い・て」
「はい」
圧に耐えきれず大人しく頷くドロデア。
とてもこの中で歳上とは思えない萎縮ぶりに、アンバーは腹を抱えて笑っていた。
「アンバー、怒る」
「アハハハハ!ごめんよー!でも面白くって」
「アンバーも見る」
「資料なんて見てもアッシ覚えきれんよ?」
「ワタシもそう」
それでも見ろと資料を開けて見る。
二人は綺麗にまとめられてる資料に驚きを隠せない。
ワンポイントでイラストまで添えられている。
「これだけ綺麗にまとめていても怒られる。ワタシもう資料まとめしたくない」
「これで怒られるならアッシも嫌だなぁ」
「これからはジャベリンにも同行してもらう」
「賛成!」
ジャベリンはドゥーナに毎度怒られる運命を辿る事が約束された。
二人はふたたび資料に目をやる。
バグバッド共和国が現在これほど慌ただしい状況の主な原因はフリマリの不在だった。
フリマリ不在は毎月に起こることではある。
毎月クリムゾンポロウニア付近にあるディマリアの墓に出向いているからだ。
バグバッドの民達はそれを祈りと認識していて、そこに疑問は一切抱かない。
しかし今回は状況が違った。
「へぇ、サウザンドドルフィンやデザートオルキヌスを蹴散らすアンデッド!面白いね」
「ん。ジャベリンがそのアンデッドを倒したら箔がつく」
「それ多分シャルネくん死んじゃうよー」
「そんな事ない。でも確かに荷が重い」
「だからそいつはアッシが狩るよ!」
大剣を抱えて堂々と宣言するアンバー。
彼女の服装はどう見ても魔女を連想させる服装だというのに、戦闘スタイルはゴリゴリの近接ファイター。
砂漠でサウザンドドルフィンを狩る姿は、おおよそ魔女に似つかないスタイルでジャベリンを驚かせていた。
「一人で平気?」
「ふっふっふー!むしろ一人じゃないとやだ!」
「勝てる?」
「デザートオルキヌスみたいな雑魚を倒してるだけじゃ実力はわかんないけど、それもスリルがあって楽しいよ」
「ん。このアンデッドを倒す、聖女連れてくの楽になる」
「聖女いないくらいで慌てるんだもんね。実力的にも勝てないと判断して、更に恩も売れば一石二鳥!ご主人の役にも立てる!」
「多分ドゥーナが交渉する。実行はそれからだと思う」
資料を見ておけと言ったという事は少なくとも今日明日では動かないって事だ。
しかしそれでも昂る興奮を抑えられないのか、大剣を素振りするアンバーを嗜めるドロデア。
「アンバー、我慢」
「ありゃりゃ?いつも思うけどドロデアのその無刀取りってどうやってんの?」
「普通に」
大剣を無刀取りするのは普通じゃないと思うとアンバーは心の中でつぶやくが、やはりどうでも良いと判断して座り込む。
「闘いはお預けかー!」
「ガッカリしない。ご主人様に定例報告、する?」
「お、もうそんな時間かー!する!」
取り出したのはこの世界には存在しなかった受話器なるもの。
情報こそ戦場での最も重要な武器であり、それを迅速に共有するのはそれだけで戦力増加を促進する。
そのためにレアンドロが前世の知識を活用して作ったのが、このコンパクトデンワだった。
コンパクトデンワは魔力を流すことにより、この世界に流れてる魔力を介して、別のデンワに通信を繋げる便利アイテム。
リアスやレアンドロの前世にある携帯電話の様にメール機能などはないが、それでも伝達係等でやりとりをしているこの世界からしたら核心のある通信器具だった。
「えーっと、ご主人の番号いくつ?」
「R01」
因みにこの世界にアルファベットは存在しない為、アルファベットを含めた番号が入るのはレアンドロのみで、他のアマゾネス面々は番号のみだった。
アンバーは電話を繋げている。
『ん?今日はアンバーが報告係か』
「ご主人やっほー!そうだよ今日はアッシが伝えるね」
不安そうな声で返事を返すが、レアンドロの不安は案の定的中した。
「砂漠にヤバいのがいて、シャイニーズくんがドゥーナに鞭の説教!聖女いない!」
『・・・なんて?』
「アンバー、それじゃわからない。砂漠に強力なアンデッド。聖女不在。ジャベリンが資料収集。ドゥーナに怒られる」
『いやなんとなく状況はわかったけど、お前ら説明下手か!』
ここまで状況をわかりにくく説明する人間もアンバーとドロデアを置いて他にいないだろう。
アンバーは砂漠にヤバいアンデッドが現れたことを街の人間が騒いでいて、対処する為の戦力の聖女がいないことを、情報収集を行なったジャベリンの資料に書いていて、しかし資料がドゥーナの気に入らない物だった為、ジャベリンがドゥーナに説教を受けていると伝えたかったのだ。
『そのアンデッド、二人はどうする気でいるんだ?』
「もちろん倒す!」
『正直未知の敵だ。俺がその場に居たとしても闘いは避けるな』
「ご主人が!?どうしてだ!?」
『アンデッドってのは、たとえ生前が強力でもアンデッドになれば別物になんだ』
「別物?」
『そうだ。人には魂というものが存在するらしい。その魂が本人の記憶や身体の使い方を覚えてる』
ディマリアがそうしたように、ゴーシュがそうした様に、魂と肉体はそれぞれ別物と考える。
仮に人間が動物の身体に魂が移ったとしても、それを十全に扱える人間はいないだろう。
何故なら肉体構造が違うから。
もしそれをするならそれ相応の訓練がいる。
「ご主人は、あのアンデッドに魂入ってると思ってる?」
『さすがドロデアだ。その通り。だからこそ、そのアンデッドの正体がわからないと手を出すのは危険だと考えてんだ』
「えー、じゃあアッシが確認してくるよー」
『どのみちそのアンデッドはバグバッドに向かってんだろ?』
「そう。だから多分ドゥーナはバグバッドに恩を売る。交渉考える」
『ドゥーナ的には勝てると判断しているのか。うーむ・・・』
レアンドロは問題児と言われてる三人は逆に言えば他のアマゾネスと違い実力が戦闘に特化してると考えている。
中でもドゥーナの戦況把握能力は長けている。
故にドゥーナがそう判断したとしたら、それは間違いないだろう。
『それはドゥーナが言ってたのか?』
「違う。ワタシの憶測」
『じゃあ今のところはダメだな。ドゥーナの許可を出せばその限りではねぇけどな』
「そんな殺生なー!アッシ闘いたい、闘いたい!」
『ダメだ。万が一お前達を失うなんてことがあったら、俺は自分を許せない』
このバグバッドへの派遣任務は、レアンドロが指示したモノだった。
この三人なら聖女に遅れも取らないと判断してのことだった。
それは決してアンデッドとの戦力差を計算してのことじゃなかった。
「ごめんご主人」
『まぁ俺は現場にいねぇ。だからドゥーナに指示を仰いでくれとしかいねぇな』
「わかった。ドゥーナに頼る。ご主人またね」
『あ、ちょっとま------』
レアンドロの静止も虚しくドロデアは通話を切ってしまった。
まだ話したい事があったのだが、二人に対してそれが通じるはずもなく、何かあればドゥーナがかけ直してくるだろうと思って、レアンドロがかけ直すことはなかった。
電話を切ると同時に肌がツヤツヤになってるドゥーナがテントから出てきた。
「ふぅ。すっきりしたわ」
「ドゥーナ、ほどほどに」
「わかってるわよ」
「ご主人に定時報告しといたよー!」
「なんですって!?アタシもご主人様とお話ししたかったのに!」
「だったらかけ直す」
「いいえ、ご主人様は忙しい身。アタシ達でそれを煩わせる訳にはいかないわ」
「ところでドゥーナ。アンデッド狩るの?ねぇ、狩るの?」
アンバーの頭には、正体不明のアンデッドを狩ると言う選択肢で頭を埋め尽くしている。
しかし主人であるレアンドロに言われた手前、ドゥーナの言うことを聞こうとはしていた。
「あぁ、そうね。彼のまとめた情報によればそのアンデッドはかなりの化け物と見て良いわ。でもこの時間になっても攻め込んでこない辺り、歩いて移動してきているのね。だったら猶予があるわ。そのアンデッドの戦力を把握したいわ。それで倒せると判断すればバグバッドに恩を売る。無理と判断すれば即離脱ね」
「えー、でもどうやって確かめるのー?」
「それはドロデアに任せるわ」
「ワタシ?」
「そうよ。ドロデアの幻影魔法と土魔法を使って上手くそのアンデッドの実力を把握して欲しいの」
「え、めんどくさい」
「やっぱアッシが行くよ!そのまま勝てると判断したら倒しちゃってもいいんでしょー?」
「その台詞を言う奴は大抵死ぬわよ?もしアンバーが離脱も困難な相手だったら困るのよ。だからドロデアに安全に実力を確かめてほしいの」
「そういうことならわかった。面倒だけど」
「先輩が後輩に良いところ見せるチャンスよ。頑張りなさい!」
「先輩・・・わかった!」
表情は変わらないドロデアだったが、何処となしかやる気が出たように見えた。
アンバーはドゥーナはドロデアをやる気にさせるのが上手いなと思った。
「ところでシャブシャブくんは?」
「あぁ、テントの中で折檻中に寝ちゃったのよ。情けないわ」
「ジャベリン、ワタシが魔法を教えるって約束した。起こして教えてくる」
「あ、ドロデア、今そんなことするのは可哀想だ------って聞いてない」
「まぁ良いじゃないの。さっさと即戦力になってほしいわね」
「それもそうか。よし、アッシも指導してくる!」
ドロデアに続いてアンバーもテントに入ってジャベリンを起こしに行く。
この後ジャベリンが酷い目に遭うことは想像に難くなかった。
一読いただきありがとうございます。
幕間の間はリアス達はおやすみです。
今章で主人公の活躍があまり少ないと思っていらっしゃる方。
安心してください、間違っていません!