村長と村長、闘いの総決算
ゴーシュは今か今かと待っている。
そこにはむっさんによって失禁までした情けない姿のエルフはどこにもいない。
何故ならそれが影武者であり、ゴーシュはずっと横でその光景を見ていたのだ。
アンドレアをその地に留まらせたいが為に、横暴に振る舞うエルフを影武者にした。
そしてその作戦は成功し、アンドレアが村にいながら蹂躙作戦は実行された。
クリムゾンポロウニアは間も無く自身の誇る甥っ子に成す術もなく蹂躙されることだろうと。
何故なら甥っ子であるエンドマは、エルフ族でも中々お目にかかれない最上級魔法の使い手なのだ。
今までゴーシュはエンドマを含めなければ、最上級魔法を使える者とは二人しか出会っていない。
一人はカゼトラという男。
エルフでありながらエルフを裏切った忌むべき存在。
カゼトラは森へと迷い込んだヒト族、ヒューマンを助けた男だった。
ゴーシュの住むエルフの村、モンチュウ村にはヒューマンを村に入れることを固く禁ずる掟が存在した。
もし破った場合村から追放され、裏切り者として二度とその地に踏み入れてはいけないとある。
それはカゼトラにも例外ではなく、カゼトラはすぐに追放されてしまった。
中には最上級魔法を持つカゼトラを処刑すべきだと言う声もあったが、それが受理される事はなかった。
それから数百年の時が経ち、カゼトラも寿命を迎えてると判断しゴーシュは放置している。
「カゼトラもそうだが、ウォーテン。奴が一番許せん」
そしてもう一人はウォーテン。
エルフの村モンチュウの消し去りたい過去だった。
ウォーテンはエルフの為に尽力を尽くしていた一人だった。
しかし彼もまたゴーシュ達を別の意味で裏切ったのだ。
それはウォーテンはエルフにしてはかなりの速度で成長し、そして歳に応じて見た目も老けていった。
「我々を50年もの欺いていた。我々の信頼を脅かしたのだ。決して許されることではない!」
「何が許されないんじゃゴーシュ?」
「クックック。こちらの話だ。どうしたアンドレア。私の甥に村をボロボロにされる気分は?」
ゴーシュは思考を切り替え、目の前にのこのこと現れた同志であり敵でもあるアンドレアを笑いながら見ている。
アンドレアも冷めた目でゴーシュを見ていた。
アンドレアはリアスによって守られた村の状況をみて、任していても構わないと判断し村はずれで事が済む用に待機していたゴーシュの元にやってきた。
「気づくべきだったよゴーシュ。いくら貴様が弱くても、威圧系で失禁するなんてありえない」
「あぁたしかにあのカムイ族の威圧は驚いた。直接当てられていれば間違いなく醜態をさらしていただろうな」
「影武者を用意してまで、我が村を滅ぼしてまでヒト族に戦争を仕掛けたいか。貴様はやり過ぎた。責任はどう取るつもりじゃ?」
「責任?貴様ではエンドマには適うまい。そしてこの村はエンドマによって滅びる。貴様がここに居る時点で少なからず犠牲者は出ているはずだ」
「気づかぬか?爆音は消え去っているじゃろ?」
「ぬ?たしかにそうだな。珍しいこともあるものだ」
「わからないか?主の頼りにしていた甥っ子は、数刻前にとある人物が無力化しているよ。今は復興の手伝いまでしている」
「何を世迷い言を。奴は私でも制御が難しい。強い相手と闘いたいと言う願いを聞き入れなければ動きもしない。だからアンドレア。貴様と闘う権利を与えたのだ。貴様はたしかに強いが、それでもエンドマの足下に及ばない」
「そうじゃの。だからどうしたのじゃ?エンドマが求めていたのは強者。そして強者と激突し、無力化された。それだけじゃよ?」
「馬鹿な?お前以外にエンドマに勝てる人材がこの村に居たとでも?」
「たまたまな。そして無力化された。正直肝が冷えた。貴様の甥、エンドマが最上級魔法の使い手だと言うこともそうじゃが、エンドマを倒した奴の顔がエンドマにそっくりだったと言うこともな」
「どういうことだ?」
「なんだ。気づいておらんかったか。貴様の甥を倒したのは、貴様がヒューマンと蔑んだ男のことだよ」
「馬鹿な!?アンドレア、貴様も等々頭がイカれたか!」
ヒューマンが最上級魔法を使えるはずがない。
そう言おうとしたが言えなかった。
ゴーシュにもヒューマンに最上級魔法が使える可能性があると言うことを理解しているからだ。
だからこそ最上級魔法が使えるエンドマを配置したのだから。
「ひとつ言っておこう。倒したそいつは最上級魔法は使えん」
「ハハハ!ならあり得ぬな!奴には神の残滓を持たせている」
「神の残滓・・・やはりあれは禁忌の塊か」
「禁忌?あれは禁忌ではない!」
「貴様、ディマリアから受けた恩を蔑ろに!」
「違う!ディマリア様もわかってくださるはずだ!」
「ポリ・ランドールに毒されたか。貴様も志を共にする同志だと思っていたのだがな?」
そう言うとアンドレアは身構えた。
魔法を唱える耐性だ。
「お前が私と殺し合う気か?私は確かに甥より弱いが、それでも他の魔導士に比べたら優秀だぞ?」
「それはワシとて同じじゃよ?のぅ、柔炎のゴーシュ」
エルフの中でも炎の魔法に長けたゴーシュは、いくつもの魔法を生み出した。
それは自身が使う為ではなく、エルフや亜人の繁栄の為に汎用的な魔法として生み出した。
その頭の柔軟性と、自由自在に炎を操ることから柔炎のエルフゴーシュと、この森では誰もが知っている男だった。
「流石にここ最近の横暴さは目に余る」
「だからどうした!ヒューマンのクソどもから世界を取り返すチャンス、ミスミス逃すのは適当ではない!」
「そこに恩人の犠牲があってもか!」
「犠牲はもう出てしまったのだ!だったらそれを活用するのが、ディマリア様の為だろう!何故わからん!」
ゴーシュの周りには炎が湧き立ち、アンドレアの周りには水が飛沫を上げる。
二人がそれぞれ得意とする魔法の属性が、周囲に影響している。
「どうやら我々はもう相容れないようじゃの」
「残念だ。せめて貴様が少しでも我々の為にと思っていれば、道も違ったかもしれない」
「最後に一つ聞こう。貴様が手を借りたのは誰だ?」
「答えると思うか?」
「期待はしておらん」
二人は目を閉じた。
そして二人の魔力が交錯し始める。
目を見開くと同時に闘いが始まる。
「殺し合う事が正しいのか、ワシにはわからんが貴様はこの手で殺そう」
「死ねぇアンドレアぁぁ!ファイアスクリュー!」
炎を纏った蹴りと言えばそれが相応しい。
回転をかけることで、風属性との服法魔法のような状態で威力をあげる。
それがどれほどの力かは、アンドレアも理解している。
かつてアンドレアとゴーシュは共にディマリアから学んだ兄弟弟子でもある。
アンドレアは前世の知識が、ゴーシュは頭の堅さから魔法が上手く使えなかった。
「随分と派手な魔法を使うようになったものじゃ」
「これも全部エーカのおかげだ」
『そうよ!お兄ちゃんが私を上手く使うから出来る芸当よ!』
エーカはゴーシュの妹で、とある事が原因で精霊となってしまった。
ゴーシュが何故人間に対して戦争を起こそうとしているかも、そこに起因する。
エーカは一度命を落とした。
人間によって拉致され、人としての尊厳も女性としての尊厳もめちゃくちゃにされ、遺体だけがゴーシュの元に返ってきた。
ゴーシュはどうしてもエーカの死を認められず、ディマリアにエーカの救命を頼んだ。
しかし森で死んでいないエーカの蘇生は不可能だった。
そこでゴーシュは手を出してしまった。
禁忌の一部に。
禁忌とは神話級の精霊を殺すことで魔力を得ることまでは禁忌とされてはいなかった。
真に禁忌とされるのは、神話級の精霊の魔力は質が違うこと。
そのうちのひとつの事例、土神が人の魂を生命体へと憑依させることができるものだった。
ディマリアは自身の肉体蘇生と、魔力の質を使うことで蘇生を行っていた。
「エーカ?・・・その精霊はまさか!?」
「そうだ!お察しの通り彼女はエーカだ!」
炎を纏った蹴りがアンドレアの羽根を焼く。
アンドレアも受ける覚悟は出来ていた。
水の魔力がゴーシュの炎を消している。
「やるではないか!魔力を外に排出する技術は、ディマリアでも苦労したと言うのに」
「そんなことはどうだっていい!貴様の妹エーカはたしかに死んでいた。魂はこの森以外では留まることは出来ず霧散する。それはこの世の摂理だ。ディマリアだからこそそれができた」
水のカーテンが、ゴーシュの周りを囲うように包み込む。
そしてアンドレアは空高く浮かび上がった。
「レインストームか。お前は昔からなにも変わらんな」
レインストームはアンドレアの固有魔法。
雨のカーテンは魔力が複雑に組まれていて、そこに別の魔法を撃ち込むことで乱反射させることができる。
まるで暴風雨の様な魔法だった。
「応えろゴーシュ!貴様は一体何に手を出した!」
「さぁ、私も知らないからな。エーカが生き返ればそれでよかった。それ以外に何かあるのか?」
事実ゴーシュは知らなかった。
彼とエーカにその魔法を施した人物について何も言及しなかった。
ただ人間を滅ぼす行動を起こせば救ってやるとそう言われたのだ。
追い込まれていた彼はその悪魔の言葉に耳を貸してしまった。
エルフの護衛も血の気の多い人物を連れて来たのも計画のうちだった。
人間とエルフの見た目はほとんど変わらない。
それを逆手に取った。
まさかエルフがそんなことはしないだろうと、その先入観を利用して獣人で構成されているクリムゾンボロウニアで不況を買えば、ヒト族に敵意をむき出す可能性が高いと判断したからだった。
「生き返れば何をしても良いと言うのか!」
「お前にはわかるまい。家族を失うと言うことのつらさを!」
「エンドマが居るだろう!」
「そうだ!そしてエーカはエンドマの母でもある!何が悪い!私は何も悪いことはしていない!例え恩人を殺してでも、成したかったのだ!」
正気とは思えなかった。
ゴーシュはたしかに一昔前まではアンドレアと志を共にしていた。
それは決してヒト族を大陸から滅ぼすと言うことじゃなかった。
亜人に人権を、この森を一国家としてヒト族に認識してもらう。
それだけを考えていたのだ。
「もうダメなのか・・・」
「何がダメなのだ!」
「それすらもわからないとは」
ゴーシュが行った行動がアンドレアには心当たりがあったのだ。
それは少し前にドラゴンの里を破滅させたとある獣人のアンデッド。
彼女は生前の力を保ったままアンデッドになっていた。
もし生前の記憶を保ったままアンデッドとして復活させる方法があるとしたら、残ったモノはそれにすがりたくもなる。
そして実際にゴーシュは成した。
エーカの復活に。
しかしそれにどれだけの犠牲を出したのか。
少なくとも、セーカの今の身体の精霊の命は犠牲になったのだ。
「やはり、ワシが引導を渡すしかない・・・か」
「お前じゃ私には勝てん!ワシは自身の魔法も使えると言うことを忘れてはいるまいな!スチームファイター」
ゴーシュとアンドレアの実力は互角より少しだけアンドレアのが勝る。
しかしそれはエーカの補助なしでだ。
アンドレアもそうだが、多くのクリムゾンボロウニアの人間は精霊と契約していない。
それは精霊契約というモノは本来そんなに簡単な事じゃないからだった。
人間のほとんどが精霊と契約してるのは、精霊契約の儀のおかげに他ならない。
故に、精霊契約自体貴重な上に、手順は違うが正しい精霊契約をしている人間の実力は強力だった。
「レインストームを蒸発させるか・・・」
「スクリュームリゾート!これで終わりだ!」
巨大な炎が周りを巻き込み、ゴーシュの頭上に集まっていく。
空気や土、木々を飲み込み巨大化した炎。
ここが村はずれとは言え、被害は甚大だった。
もしこの炎をアンドレアがよけたとしても、村にいるリアスやミライは自身達の身を守るために村を守るだろう。
しかし村人としての矜恃と、かつての同志に自身の故郷を焼こうとしたと言う業を背負わせたくないと思ったアンドレアはこの魔法を受けとめる選択をした。
「強力な魔法じゃな。じゃが貴様の魔法には志が、魂が足りておらん!」
「魂?下らんな!この魔法は兄妹で生み出した魔法だ。魔力調整が厳しいがその威力は最上級魔法にも匹敵する」
「だったらどうしたというのじゃ!匹敵しようとも最上級魔法ではない!最上級魔法じゃなければ打ち消すことができる!」
最上級魔法と上級魔法の差はそこにあった。
上級魔法に部類されるミライの天雷や韋駄天も、魔力を全力で注げば威力は匹敵する。
にも関わらず、シールドで打ち消すのに2枚罹ったり、上級魔法以下の魔法で打ち消せないのは、最上級魔法のコンセプトが破壊にあったからだった。
破壊尽くす魔法であるため、他の魔法をどれだけ撃ち込んでも消すことが出来ない。
最上級魔法どうしてやっと打ち消せ合えるのだ。
「シールドで防ごうとしてるならやめたほうがいい。当たり前だが、邪魔をさせてもらう」
取り出したのは魔道具だった。
そこから放たれるのはライトニングスピアが二つ。
もし仮にシールドを展開して、スクリュームリゾートを防いだとしても、アンドレアにライトニングスピアの直撃は避けられない。
避ける選択をすればすべて解決するのだが、それはアンドレアの矜恃が許さないため選択肢から消えていた。
だとすれば、アンドレアが取る行動は一つ。
「その魔法を超える魔法で打ち消せば良いだけのことじゃ!グレートバリアリーフ!!」
グレートバリアリーフは水の上級魔法。
それはかつて千鶴だった頃に生み出した魔法だった。
水のカーテンであることに変わりは無い。
違うのは防御特化の魔法であり、炎属性の魔法なら上級魔法までならほとんど相殺することができる。
しかしスクリュームリゾートもまた強力な魔法で相殺できるかどうかは賭けだった。
「グレートバリアリーフ。古代ウーウィー王国の魔法か。こんなものでどうにかなるとでも?」
「なるさ。ワシの魔法は貴様の魔法より優秀だ」
スクリュームリゾートとグレートバリアリーフがぶつかり合う。
ぶつかり合うことで大量の水蒸気が発生している。
アンドレアは全魔力を注ぎ込みグレートバリアリーフの強度をあげた。
両魔法は拮抗し合い、そして互いに霧散する。
二人の魔法の実力が同じだったことを示した。
しかし一つだけ違う事があった。
「ふむ。確かにお前を少しだけ舐めていた」
「何を負け惜しみを。これだけの魔法を放っては魔力も尽きたであろう?さぁ投降しろ」
「舐めていただけで、負けたわけじゃないぞ?スクリュームリゾート」
絶望とはこのことだろう。
まさか全魔力を注いで防いだのに、それが向こうは全力ではなかったと言うことを示していたからだ。
「さぁこれで終わりにしようか」
「くぅ!」
「さらばだ、我が友------ぐぼっ!?」
突如ゴーシュの口から血が噴き出す。
その胸からは一本の剣が突き出ていた。
後ろから刺されたのだろう。
「な!?」
「何故あなた・・・私を?」
『貴様は命令違反が多過ぎる。あの方もそれは望んではおられない。故に私独自の判断で貴様を刺した』
アンドレアには、後ろから刺した人間の姿も何かを話していることも理解できていなかった。
後ろの人間は、人間でありながら聖霊の言葉を発していたからだ。
故に理解できないのは当然だった。
「くそ、私は、あの方に、見捨てられ、たの、か」
『見捨てられるも何も最初から期待もされていなかった。エーカと共に新たな魔法を作り出したのは嬉しい誤算だそうだ』
「くくっ、私はエンドマと違って精霊の言葉がわからない。何を言ってるかわからないが碌なことじゃないのだろう」
「そうだったな。では彼の方の言葉を君に伝えよう。ご苦労であった」
「そう、です・・・か」
薄れゆく意識の中で何を思ったのか、アンドレアは知る由もない。
しかし一つわかる事があった。
それは、たった今ゴーシュを殺して何処かへと行こうとするフードを被る人物を止めなければいけない事だった。
「待て!」
「魔王の威光」
途端に身体が硬直してしまうアンドレアに対し、首を振り再び歩き出す。
『行くぞエーカ』
『了解。お兄ちゃん、シスコンぷりがキモかったよ。今までありがとう。エンドマ、ごめんね』
エーカはフードの男の肩に飛び乗り、フードの男はアンドレアを背に踵を返した。
「リアス・フォン・アルゴノートか。最上級魔法を使わずに、最上級魔法の使い手を無力化した男。彼の方に報告しなければ」
ぶつぶつと何かを言いながら森へと消えていくフードの人物の姿を、アンドレアはただ情けなく動けずに見ているしかなかった。
リアス「村長と村長の闘い、消化試合みてえ」
ミライ「実際ヤバいのが出てきたしね。あれって一体誰なんだろ」
イルミナ「ロクなやつじゃないことはわかります」
ミライ「ロクじゃないのはリアスくんも同じ」
リアス「それは酷くね!?」
クレ『事実なんだから仕方ありませんよ』
リアス「俺の相棒たちが辛辣な件」