同じ物を追い求め、強い思いが勝つ
ボルテックランスは強力な魔法だ。
だが、それも当たればの話。
昨今、闘いとはより攻撃をいかに当てるかは問題ではない。
攻撃を如何にして当たらないか。
どんなに格上が相手でも、被弾数がなければどうってことはない。
「ボルテックランスを絶え間なく撃ってるのになんで当たんねぇんだ!」
「最上級魔法をそんな連発するなよ。最上級魔法はそんな簡単にできる代物じゃねぇんだぞ!」
相手を解析する事で軌道を全て読み、その中で最善のルートを導き出す。
未来視なんてちゃちなもんじゃない。
れっきとした俺の魔法だ。
「グググ・・・ちょこまかと鬱陶しい!」
「鬱陶しいか。集中力のない相手は扱いやすい」
攻撃は単調だが、シンプルに動きは強い。
そんな奴が戦闘狂。
笑えない話だ。
才能の塊。
そんな事関係ない。
いや、だからこそ俺はこいつに負ける訳には行かない。
「あんた強いよ」
「あ?」
「だからこそ残念だろう。お前は俺に負ける。才能を持っていたが故に」
「さっきからテメェ何をごちゃごちゃと!避けんのは得意みたいだが、なら避けれない攻撃ならどうだ!」
ボルカニックマグマか。
確かにこいつの規模はデカく避けるのは難しい。
「馬鹿の一つ覚えみたいに魔法ばっかだな。よく覚えとけ。魔法に頼り切った人間は、魔法が効かない人間には勝てないんだ。忘れらし王、シーズプルート」
俺の目の前まで迫ったボルカニックマグマは活動を停止する。
もっとも魔法の発動を防いだわけでも受け止めたわけでもない。
単純に魔法を止めた。
「・・・は?」
「最上級魔法はその破壊こそがもっとも脅威。逆に言えば、破壊するしか能がないコスパの悪い魔法だ」
「は?は?はぁぁぁ!?」
ボルカニックマグマが止まったことに驚いたんだろう。
無理もない。
俺だってこの魔法を完成させたときは驚いた。
魔法には属性が基本的にある。
けれど、いくつかの魔法の中には人間が定めた属性がない。
驚いたぜ。
前世から転生してる人間もいるってのに、こんなことに気づかないとは。
いや、簡単過ぎて忘れていたとも言える。
「なんだ!?なんで止まった!?てめぇ!一体何をしたァァァ!」
『慌てぶりが見苦しい。いや私やミライも初めてこれを見た時は驚きましたがね』
「あぁ。忘れられし惑星の名を持つ魔法シーズプルート」
シーズプルートは複合魔法を応用した俺の固有魔法。
どんな魔法でも活動を止めることができる魔法。
その属性の一つは止めたい魔法と同じ属性の魔力を込めればいい。
そしてこの魔法の根幹になってる魔法は空属性。
勝手に俺が付けただけだけどな。
要は空間魔法だ。
収納魔法って一体どういう仕組みになのかを疑問に思って色々と研究していた。
そしてあることに気づいた。
収納魔法にも属性があった事を。
その属性を実験を重ねながら調べて行き着いた。
空間属性の魔力を認識出来たんだ。
まぁツリムの助けや、あいつの持つスキルが空間属性を帯びてたからわかったんだけどな。
要するにシーズプルートはツリムのスキルである境界斥力と同じ効能を持ってる。
「くそっ!俺っちの話を聞きやがれ!」
「ちっ、ボルテックランスは速過ぎて追いつけない!」
まぁあいつの動きが単調だから先を読むのは容易いけどな。
「へへっ、ボルテックランスは防げないみたいだな!」
「あぁ、敵がお前みたいな単純なのでよかった。お前の攻撃は読みやすい」
けどボルテックランスが連発できるのは驚異だ。
最上級魔法の弱みは連発できないほどの魔力消費量だってのに。
ノーリスクハイリターンとか冗談じゃねぇ。
「防ぐ手立てがない。つまりお前が避けれるのは体力の限界まで!だったら俺の勝ちなんだよ!!」
「それはお前が俺の体力の限界まで立ってるってことが前提だよな?」
『ありえませんね。リアスと私を相手にしながらその自信はすごいですが』
「まったくその通りだ。太陽に憧れを抱く心、イカロスマーキュリー」
「独り言ばっか言って気持ち悪いんだよ!オラァ!?」
ボルテックランスを放ったんだろう。
あいつは後方に勢いよく飛んでいった。
空属性には本当に驚かせられる。
他の属性と違い、魔力を同じ量にしなくてもちゃんと魔法が混ざってくれる。
シーズプルートは同じ魔力で魔法を止める効能になったが、イカロスマーキュリーは空属性4に対して1の魔力を注ぐ事で発動する。
その効力は無重力。
おそらく地上でも水の中にいるようになる感覚だろうが、俺からしたら無重力の他のなんでもない。
そして無重力で最上級魔法なんてもん撃てば、余波で吹っ飛ぶ。
魔法を行使するとか作用反作用の法則は適用されてないが、余波まではそうは行かない。
イカロスマーキュリーは風魔法と相性が良い!
『吹っ飛びなさい!トルネード』
トルネードによって宙へと舞う俺と同じ顔。
そしてそのまま宙へと上がっていけばどうなるか。
「くっそ!だがこいつで浮かび上がったんだ!利用させてもらうぜ」
「甘いよあんた」
「って、うぉ!?落ちる!?うぉぉお!?」
大体地上から30m離れたところに打ち上げた。
それでも身体強化のあるこの世界では大怪我で済み、死ぬことはおそらくない。
だが、それでも無力化はできるだろう。
「終わりだ」
「させるかよ!」
この強風!
そして地面を風が抉ってクレーターになってる。
これは風の最上級魔法ジェットストリームか!
魔法を使って威力を殺そうってわけか。
「俺っちは全属性の最上級魔法が使えんだ!甘くみたな!」
「だったらこいつで終わらせよう。母なる大地よ!グラビティアース!」
グラビティアース。
太陽系第三惑星地球を模した魔法だ。
その名の通り、この魔法は重力を操る。
さっきこいつが最上級魔法を下に向けて打ったのは、俺が腕の重力を調節して下に下げたからだ。
「なんだ・・・身体が・・・重い・・?」
「今のお前の体重は三倍だ。下手したら内臓が潰れるかもな」
地面に倒れ伏してないだけまだ頑張ってる方だとは思うけどな。
さっきまで魔力酔いがすごくて、全身にこの魔法をかけることができなかった。
最初からこの魔法を使えば、魔法を交わすことやシールドでしか無効化が出来ない相手に対して俺はアドバンテージを持ってるどころじゃない。
俺と、闘いにすらならない。
どれだけ強い魔法を持っていようと、どれだけすごい身体能力を持っていようと、なにもできなければ勝つことはできないのだから。
「ひとつ言っておくぞ。これでも俺はまだ手加減してるからな?」
「なにっ!?」
「当然だろ?俺は別にお前を殺そうとは思ってない」
三倍以上になれば、下手したら潰れかねない。
ジノアの身体能力を上げるとき、肺が潰れて出血したのが4倍の重力だ。
リリィが治療したから問題はなかったが、フリマリがそこまで出来るか、そしてこいつを救うかどうかわからない以上得策じゃない。
もし俺と同じ顔のこいつが治癒魔法を使えたら、三倍以上にすることも視野にいれないといけないけどな。
ジノアの身体能力向上の正体は、重力の倍加の状態で筋トレただそれだけだ。
健は切れまくったし、骨も折れまくったが、治癒魔法で治すという荒療治で、短期間でAランクの魔物を殺せるまでに至った。
イルミナの速度が上がった影響もこれにある。
まぁミラも含めた俺達全員は、このグラビティアースのおかげで、ひとまわりもふたまわりも成長した。
そして俺が限界までグラビティアースで倍加できる重力量は、30倍まである。
つまり今は1/10程度に調整してある。
魔力酔いの状態だと、そういう微調整難しいんだよ。
一瞬だけ腕を下げるくらいなら、全力でやっても脱臼くらいで済むしな。
「てめぇ、闘いを舐めてんのか!」
「俺はあんたと闘ってるつもりはなかったんだが?暴れる獣を止めただけだ」
「舐めるな!この程度でオレっちを抑えつけられると思うなよ!」
立ち上がった。
イルミナでも最初は膝をつけるだけで精一杯だったのに。
それだけあいつの強化が強力と言うことか。
けど------
「言っただろ?俺はあんたと闘ってるつもりはない」
「うっぐっ!」
3倍から10倍にしてみた。
ミシミシ言ってるから結構ヤバそうだ。
でもだからって、それがどうしたって話なんだけどな。
「なんだ・・・これは!」
「エンドマ様!はぁああああ!」
あぁ、そっちも居たんだったな。
ゲイカーと言う男の忠義も大したもんだ。
こいつが忠誠を誓ってるかは知らないけど。
剣の振り速度は、あいつと比べるまでもなく遅い。
鋭さも、精々アルバートレベル。
たしかに目を見張るモノはあるけどな。
俺より十分鋭いし。
「エンドマ様を解放しろ!」
「え、やだよ。この状況でなんでそんなことをしないといけないの?」
「貴様ぁあ!ゴーシュ様が黙っていないぞ!貴様もエルフだろう!」
「あー、あいつね。今度言っといてよ。会議中に乱入するのは礼儀知らずだってさ」
「会議中・・・?貴様まさかヒューマンか!!」
おっと、これ以上は周りの目もある。
いくら続けてもこいつの剣に当たる可能性もないし、終わらせた方が早い。
「余計な事を口走る前に口封じっと!」
「なっ!?」
剣を素手で掴んでる事に驚愕してる。
いや、さすがに嘘だよな?
多分エルーザ陛下の側近のゴードンでも出来るぞ?
こんな実力で人間に喧嘩を売ろうとしてたのか?
いや、俺と同じ顔のエルフはあれ一人でも国を落とすことは可能かも知れない。
じゃああいつを守る為の最低限の実力があれば問題ないのか。
「予定変更。クレ、あいつは捕獲する」
『ですね。このゲイカーという男は、護衛の中の責任者の可能性が高いです。もし彼が実力者として選ばれているとしたら、この森のエルフの実力は大したことありません。そこの貴方と同じ顔の彼を拘束すれば、事態は終息するでしょう』
「決まり!じゃあとりあえず、こいつの意識は切り取っておこう」
俺は思いきり拳に力を入れる。
顔面殴って下手に脳に障害を受けてもいやだし、腹?
内蔵破裂したらいやだな。
うーん。
「甘い男ですよ!」
「どっちがだよ」
たしかに俺は意識を反らしていた。
でもそれは油断だからじゃない。
こいつが奇襲してこようと対応が可能だと判断したからだ。
窮地に陥るさっきの状況で全力で来ない意味がわからない。
だとしたら全力はさっさので把握出来る。
奇襲は少なくとも全力より鋭くはない。
仕込みナイフで短剣だ。
ゼロ距離の攻防は俺の得意とするところ。
結局の所こいつの勝ちの目は最初っからないんだよ。
俺は脇にあいつの肘より上を挟み込む。
そして手をきっちり、両手で押さえながら肘に膝を当てる。
「悪く思うなよ」
「一体なに------アガッ!」
ボキッと鳴ってはいけない音がなる。
腕を放すと、肘の部分を抑えながら嗚咽を漏らしてる。
正直ここまでしなくても、グラビティアースを使って拘束すれば良いんだけどな。
グラビティアースはコスパがあまりよろしくない。
もしこれから俺と同じ顔のあいつクラスのエルフがうじゃうじゃ来た場合を考えたら、こいつ程度に使うのはあまりよろしくない。
「ゲイカー!てめぇ!」
「お前、自分は闘いを楽しみたいって言った癖に、味方が傷つけられたら怒るのか?」
「それとこれとは話がちげぇだろ!」
「お前、もしかして温室育ちか?なぁ、何が違うんだ?」
「仲間が傷付けば、怒るに決まってるだろ!」
「跳んだ似非戦闘狂もいたもんだ」
俺の予想が正しければ、こいつはこのゲイカーと言う男を慕っている。
だったら、こいつの腕を踏みつけたらどうなるだろう?
「テメェ、何考えてやがる!?」
「ちょっとそいつの腕を踏もうと思って」
「そんなことしたら------」
「骨折って言うのは固定が大事らしいな。下手をしたら後遺症が残るかも知れない。でもだからどうした?この現状を作り出したお前は、俺を非難出来るのか?」
俺は辺りに燃え広がって至るところが焼けているクリムゾンボロウニアの現状を指した。
こいつも周りを見てから何をしたのかを思って俯いている。
「だが・・・それでもゲイカーは・・・悪いのはオレっちだ。だからゲイカーをこれ以上痛めつけないでくれ。報復なら代わりにオレっちが引き受けるから・・・」
なんだよこいつ。
闘いを楽しみたいとか言いながら、負けたらしおらしい態度を取るのかよ。
戦闘狂に酔いしれる自分がかっこいいとか・・・?
まて、俺と同じ顔って事は、こいつ俺と近い歳かも知れないって事だよな?
「お前、歳はいくつ?」
「・・・14歳だ」
あぁ、マジか。
前世で言えば中学二年生の年齢じゃんか。
こいつの戦闘狂ってもしかして所謂中二病なんじゃないか?
言動も思考も幼いみたいだし、大人に利用されている可能性もあるな。
「あー、お前がその魔法を解いても暴れないって誓うなら、これ以上俺からはなにもしないよ」
「本当か!?誓う誓う!」
「ただし、もし破ればお前も含めて全員命はないぞ?」
「うっ・・・わかった・・・」
なんだよ。
話せば素直な子じゃないか。
「エンドマ様、騙されてはなりません・・・奴は、ヒュ------ンゴ!?」
俺は咄嗟にゲイカーの口を抑えつける。
下手な事を言って話が拗れても面倒だ。
そう思ったが、どうやら俺の思い過ごしらしい。
「ゲイカー、オレっち達は負けたんだ。しかもヒューマンに。だから作戦は失敗。そうじゃねぇのか?」
「驚いた。こいつの方が状況を理解してるぞ。なぁ、おっさん」
「負けていません!卑劣なヒト族め!エンドマ様を丸め込もうとしたってそうはいかな・・・」
「獣王の覇気」
「お、むっさん追いついたか」
獣王の覇気を発動させたことで、ゲイカーは汗やら涙やらで顔はぐちょぐちょだ。
けど、あの長よりは恐怖耐性はあったのか?
失禁はしてない。
「急に駆けだしていくから驚いたぞ」
『すいません。嫌な予感がしたもので。実際、危ないところの様でしたよ』
「いやミラとイルミナでどうにかなったとは思うぜ。まぁ、俺がグロッキーになったことはたしかだから危なかったが」
『それも含めて言ったのですよ』
「へぇへぇ、そうですか!むっさん、フリマリとジーンは?」
「うむ。今治療に当たっているぞ?」
「おい、あんた。見たところ精霊と話してるみたいだけど、言葉がわかるのか?」
おっとヤバイ。
ここには、こいつも居たんだった。
ゲイカーって野郎は獣王の覇気を受けて色々と大変な事になって余裕はないだろうが、俺と同じ顔のこいつ、エンドマには余裕はあるよな。
「いや、なんとなくニュアンス------」
「あんた!オレっちと同じで精霊の言葉がわかるのか!?」
オレっちと同じ?
俺と同じ顔をしてて、俺と同じく精霊のことばがわかるってのか?
「へぇ。リアスくんと同じ顔をして、リアスくんと同じ能力を持ってるんだ」
「無関係とは言い難いですね」
「ミラ、イルミナ」
後ろからアルターニア、サンドラ、サロンガの三人も追随してくる。
闘いは終わったって感じだな。
でもそれ以上に問題が残った。
「とりあえずこの惨状は直そう。おい、エンドマ。お前が率先して直せよ?」
「わかったぜ兄貴!」
「あ、兄貴?」
兄貴ってあれだよな。
不良とかでよく言うあれの。
おいおい、実力差で言ったらこいつのが何倍も上なんだぞ。
それこそ戦闘力だけで言えば一番高いミラと互角のこいつが俺の舎弟?
俺はとんでもないじゃじゃ馬を舎弟にしてしまったみたいだ。
リアス「なんで俺があんなのを舎弟にしないといけないんだ!」
ミライ「よかったじゃん。慕われてるみたいで、あ、に、き!」
リアス「やめてくれミラ」
イルミナ「リアス様の舎弟第二号ですね!」
ミライ「・・・第一号は?」
ミライ・イルミナ「メルセデス」
リアス「な、あいつは俺の友人だ!舎弟とは違う!」
クレ『なにばかなことを言い合っているのですか・・・』