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最上vs最上

 爆発音がした方へと俺達は走っている。

 今走ってるメンツは俺とむっさんとジーンとフリマリの4人だ。

 フクロウのおっさんはジノアと共に避難誘導に出てもらった。

 俺達が闘う事になるだろう。

 エルフが投入してきたエンドマはフクロウのおっさんより数段強いらしい。

 しかも転生者じゃないときたから驚いた。


「むっさん、クレ。敵は想像してるより強いかもしれない。フクロウ------アンドレアさんより強いらしいからな」


「わかっている。最悪の場合は逃げる事を考えよう」


『あのフクロウの言うことがどこまで本当かもわかりませんし、彼自身自分を過大評価してる可能性もあります。一先ずは敵の実力を把握することが先決です』


「あぁ。フリマリはおそらく怪我人が出てるからそっちに集中しろ」


「貴様が何故指揮をする!」


 うっせぇなこいつ。

 まぁ初対面って大事だからな。

 こいつは自分のちっぽけなプライドの為に俺に突っかかるしかないんだろう。


「あんたらは俺らより弱い。少なくともジーン。あんたはフリマリの聖魔法がなければ、ジノアにすら勝てねぇよ。あんたらを連れてきたのは怪我人の治癒以外にない」


「くっ、言わせておけば!」


「この緊急事態で俺達と歪み合おうとしてる時点で、判断能力が足りない。反論があるなら言ってくれ。着いたら話してる暇もなくなる」


 ジーンは黙ったままだ。

 この状況で言い争いになる時点でたかが知れてる。

 いざと言うときに冷静な対応ができるとは思えない。

 そう思っていた矢先、俺の身体からごそっと魔力が抜け落ちた。

 それと同時に走ってる方向で、空気を劈く激しい雷撃音が鳴り渡る。


「うっ!!」


「どうしたリアス」


「ミラが魔法を使ったんだろう。数回に分けて魔力を半分失った」


『半分!?まさかミライは!?』


「あぁ、多分。って事は敵は相当ヤバい相手だ。急ぐぞ!」


 ミラが俺の魔力をごっそり消費する魔法を使うって事は相当まずい敵だ。

 ミラ、踏ん張ってくれ!



 ミライがエンドマと対峙した時には驚きが隠さなかった。

 さっきまでリアス達を待つ為に4人で観光地巡りをしていた矢先、リアスにそっくりな顔をした男が剣を持って獣人達を薙ぎ倒していたのだから。

 全員息があるが、早く治療をしなければ事欠くことを確かだった。


「サンドラ、アルターニア、サロンガ!怪我した人達を連れて逃げて」


「え、でも。それにあの顔って・・・」


「良いから早く!」


「ハッハァ!どうしてエルフがドラゴンを連れて獣人の味方をするかしらねぇがとりあえず死ねや!」


 エンドマが剣を振り下ろしてくるが、全く微動だにしないミライ。

 それはもちろん横入りする誰かが絶対にいると信じていたから。

 イルミナが横からエンドマの脇腹を蹴り飛ばした。


「ナイスイルミナ」


「いえ、咄嗟に奴は横に飛びのいたようです。あまり手応えがありませんでした」


「だったら問題ないよ!韋駄天!」


 ミライは韋駄天を唱え、エンドマが吹っ飛んでいった方向へと落雷の雨が降り注ぐ。

 ミライが作った固有魔法で、雷属性の最強魔法。

 天来より出力こそ低いが、無数の落雷が降り注ぐその魔法は紛れもなく最強と言える魔法だった。

 しかし当のエンドマはピンピンしている。


「韋駄天を防いだみたいだね」


「攻撃を仕掛けます!援護を!」


「了解!」


 イルミナの膝蹴りが、エンドマの顔へと向かっていく。

 その瞬間背筋がゾォっとするような感覚がイルミナに襲いかかった。


「いいねぇ!エルフにも面白い輩が居たとは知らなかった!ファイアマグナム!」


 イルミナの勘は正しかった。

 空中にシールド魔法を展開し、防御体制を取る。

 

「シールド魔法か!良い選択だ!上級魔法までの魔法はシールドで防げる。シールド魔法を考えた奴はすごいなぁ!だがそれはあくまでシールドにぶつかる事で防げるだけだ」


 ファイアマグナムはイルミナのシールドに当たる直前に起動が真横に変わり、シールドを避けるようにイルミナに迫り来る。

 シールド魔法を掻い潜ったことで、両方向からの魔法に対処するには手が足りなくなっていた。

 しかしイルミナは一人じゃない。


「イルミナ、右を防いで!左はボクが!シールド」


「助かります!」


 ファイアマグナムはイルミナとミライのシールドに当たり霧散する。

 しかしエンドマはここまで読んでいた。


「だろうな!だからファイアマグナムをチョイスした!」


 今度はミライの方に手を向けるエンドマ。

 しかしミライも片手が空いている。

 魔法は手一本につき一つまで発動できる。

 それはこの世界の魔法を使える生命体全てに言える。

 もしこのままファイアマグナムをエンドマが打っても、一度では見てるからギリギリまでシールドを貼るつもりはなかった。


「シールド魔法をギリギリまで使わないとしても、使ったとしても関係ねぇぜ!食らいやがれ!ボルテックランス!」


 エンドマが唱えた魔法は最上級魔法。

 その難易度の高さと消費魔力の多さからこの世界で使える者は多くはない.

 そして最上級魔法は他の魔法と違い、防ぐのにシールド2枚を要した。

 つまり一枚では威力を殺せなかった。

 そして最上級魔法は上級魔法以下ではどう頑張っても打ち消す事はできない。

 例えミライの全魔力を注いだ天雷でも迎え撃つか事は難しかった。

 ボルテックランスは光速で、射出されたと分かったときには身体を穿っている。

 エルフ族の人間は誰もがその事を知っているので勝利を確信している。

 しかしミライの身体は五体満足に立っていた。


「どう言う事だ?外したか?」


「少し驚いたよ。まさか最上級魔法を使ってくるとは思わなかった」


「最上級魔法だとわかってたか。じゃあシールドが間に合ったんだな。だったらこいつだ!おいてめぇら、巻き込むかもしれないが、ボルテックランスが効かなかった以上仕方ねぇよな!」


「問題ありませんエンドマ様。全員下がれ!」


 エンドマの後ろに率いていたエルフ達が一斉に後ろに下がった。

 エンドマが次に使う魔法は拡散性のある魔法であり、巻き添えを喰らわない為だった。


「喰らえ!ボルカニックマグマ!」


「ボルテックランスを防いだと思ってるなら、そんな魔法はチョイスしなかっただろうね。ごめんねリアスくん。魔力を借りるよ!ボルテックランス!」


 両手からミライのボルテックランスが炸裂する。

 ミライは先ほどのエンドマのボルテックランスを、同じ魔法のボルテックランスで打ち消した。

 ボルカニックマグマも最上級魔法ではあるが、魔法属性の中で最も高い火力を持つのは雷。

 しかしボルカニックマグマも威力は炎属性で随一の威力を持つ。

 二者の魔法のぶつかり合いは、空気が震えるほどの威力があり、クリムゾンポロウニアを震撼させる威力となった。

 爆風でミライとイルミナはアルターニアのある場所まで押し戻された。

 サンドラは最上級魔法を見たことがあったから、目を輝かせてミライを見ている。

 

「最上級魔法をミライも使えたのね。わたしは魔力が足りなくて------」


「ボクも魔力が足りなくて使えないよ」


「え、でも今」


「リアスくんの魔力を借りたんだ。結契を交わしてるからね。ボク自身も魔力を生み出せるけど、リアスくんからも魔力を借りれるんだ」


 しかし最上級魔法はミライも使うのが初めてだった。

 ミライの腕は少しだけ痙攣してる。

 使い慣れていない最上級魔法の反動に肉体が追いついていないのだ。


「なるほど、それで」


「すごいですわね。あれほどの魔法があれば帝国も心強いで------」


「馬鹿なこと言わないでアルターニア。最上級魔法は見ての通り破壊の魔法。そして連発すればリアスくんに負担が掛かる。できるだけ使いたくなかったんだ」


「ですね。それに、この魔法はあまりにも周囲を巻き込みすぎる。サンドラ達が倒れていた人達を救出したから良いものの、あそこで倒れていたら巻き添えになってましたよ」


 実際魔法がぶつかり合った付近のツリーハウスはコゲ跡もついて、見るも無惨に転がっている。

 それだけ威力が凄まじかったのだ。

 

「みんな気をつけて。ボク達が無事って事は向こうも無事である可能性が高い」


「やるじゃねぇか、ちっこい嬢ちゃん」


 ミライの予想通り、エンドマはピンピンしている。

 しかしその他の後ろのエルフ達のほとんどは、魔法の余波に当てられ倒れ込んでいる。

 エンドマの他に立っているのは一人だけだった。


「ゲイカー以外は腑抜けてんな。常にオレっち並みかオレっち以上の敵と相対する事を想定しろってーの」


「まったくでございます。形勢は一変して我々に不利な状況です」


「おいおいまさか退くんじゃねぇだろうな?」


「まさか。貴方しか頭数に入れてませんよ」


「流石ゲイカー!」


「あれほどの魔法使いが獣人にいるとは思えません。貴方なら問題なく倒せるでしょう」


「もちろんだ!いくぜっ!」


 エンドマが踏み込むとミライの前に立ちはだかった。

 そして剣を振り下ろすかと思いきや、剣で防御の姿勢を取る。

 その直後イルミナがエンドマを蹴り飛ばす。

 

「ライトニングスピア!」


「最上級魔法を連発したのに魔法が使えんのな。どんな魔力量してんだ」


「さぁね。喰らえ」


 エンドマが魔法を使わず接近戦をしてきたのは、最上級魔法を使った事で魔力を消費したためだった。

 最上級魔法を使った後でシールドを貼れないほど消耗している。


「ゲイカー!」


「シールド!ブレイズファイア!」


「速い!」


「シールド!」


「ナイスイルミナ!韋駄天!」


 激しい攻防が始まる。

 エンドマへと放つミライの魔法は、ゲイカーのシールドによって弾かれる。

 更にゲイカーはシールドを張ったとほぼ同時にブレイズファイアを繰り出した。

 しかしそのブレイズファイアはイルミナがミライの前に立ちシールドを展開することで防ぎ、更に切り返しでミライが韋駄天を繰り出す。


「その魔法はシールドじゃ防げねぇ、が!おらぁ!」


「なるほど。それでボクの韋駄天を防いだのか。めちゃくちゃだよ」


 エンドマはゲイカーに剣を投げ飛ばし、ゲイカーも剣を真上に投げた。

 そして巨大化し二人を韋駄天から守る剣。

 その剣は魔剣だったのだ。

 再びゲイカーは剣を引き抜き元の形に戻る。

 その剣をイルミナに向かって投げつけ、その剣に走って追いつくエンドマはそのまま剣を掴んで振り下ろした。

 しかしイルミナの脚力は夏季休業中に更に磨きがかかっていた。

 剣と脚が鍔迫り合うその様をらアルターニア、サンドラ、サロンガは息を呑んで見ている。


「何も見えません」


「何よあいつら。本当に人間?ドラゴンの戦闘より凄まじいし速いわ」


「ドラゴンはああいう戦闘はしないの?」


「当たり前でしょ!ドラゴンは誇り高き一族で、それで・・・」


「その誇りが揺らいでるってとこですよね?」


 サンドラは知っている。

 ドラゴンで唯一生き残ったから知っている。

 誇りだけで生き残れるほど世の中は甘く無い。

 実際ドラゴンのほとんどは人間を見下す傾向にあるが、サンドラはあの4人にに勝利する道筋がまるで見えなかった。

 そもそも最上級魔法なんてサンドラは使えないし、イルミナほど速くも動けない。

 力無さを痛感している。

 聞けばイルミナは数ヶ月前まではSランクの魔物には手も足も出なかったと聞いていた。

 しかしたったのひと月そこらでここまで成長するのは、それだけ努力を惜しまなかった証拠。


「えぇ。わたしは、わたし達ドラゴンは現状に甘んじて弱い者に対して見下すことしかしてなかった。元の能力が高いからって驕っていたのよ」


 サンドラは言っていて恥ずかしくなった。

 蓋を開ければドラゴンと言うのは、自身の権威に追い縋るただの傲慢な種族だったのだ。

 

「ゲイカーって奴、あのリアスくん擬きに隠れて印象薄いけど厄介さはこいつのが上ね」


「そうですね。ミライ様の天雷を最小限で交わしてます」


 ミライとイルミナは大怪我こそしてないが、至る所に生傷が増えてきていた。

 ゲイカーが後衛に回って、前衛のエンドマのラッシュの横行。

 近接戦ではイルミナが速度は勝るが、パワーはエンドマのが上だった。

 そしてそれは後衛のミライとゲイカーも同じ。

 自身の魔力がほとんど切れてるミライは、ゲイカーほど上手い後衛をすることができていなかった。


「だったら細君支柱(フィアンコネクト)妨害電波(ジャミング)


「聖女の闘いで見せた謎の距離感の妨害電波(ジャミング)は把握してますよ?しかし何故あなたがそれを今まで使わなかったのかを考えればわかるはずだ」


 細君支柱(フィアンコネクト)はミライの魔力がある時にしか使えない。

 最上級魔法を使用したことにより、ミライ自身の魔力はほぼ空になっていた為、今の今まで使えなかったのだ。

 しかし今は使える。

 魔力を多少回復したからだ。

 そしてそれは、エンドマも同じ話だった。

 ゲイカーの発言を聞いた瞬間、ミライとイルミナの顔から血の気が引いた。


「まさか------」


「そのまさかだ!俺っちは魔力回復の速度が生まれつき早くてな!」


 ミライは虚をつかれてしまった。

 このタイミングでまさかリアスと同等の魔力回復速度を待つとは予想してなかったのだ。

 リアスの魔力を使えばミライも最上級魔法を使える。

 しかし虚をつかれてしまった為、頭からそのことが抜け落ちてしまっていた。


「食らいやがれ!ボルテックランス!」


 しかし何も起こらない。

 

(魔力が回復したと勘違いしていた?けど今なら!)


 ミライはこれを好機に、ライトニングスピアを放つ。

 確実に当たる距離だった。

 しかしその一撃をエンドマは身体を無理やり逸らして交わした。

 それでも完全には避けきれず、額から出血していた。


「どうなってやがる?」


『ミライ様〜僕やりましたよー!』


 ナスタチウムがエンドマの背中に張り付いていた。

 リアスの契約精霊、上級精霊のナスタチウムは炎を得意とする妖精で、ミライが精霊だと言うことをカモフラージュする為にミライの懐にいた。

 しかしそんな炎の妖精は別に炎だけが使えるわけじゃない。

 得意なだけだった。

 故にナスタチウムはエンドマの背中に張り付き、妨害電波(ジャミング)を発動したのだ。


「エンドマ様。背中に精霊が」


「チッ!こいつの仕業か」


『ミライ様ぁ〜』


 こんなのは一度切りの幸運だった。

 しかしそれでもミライはナスタチウムにこう言う。


「ありがとう。君の勇気でボクは生きながらえた。だからボク()の勝ちだ」


「勝ちだぁ?てめぇはまだ魔力が回復してないだろ」


「違うよ。君がどれだけ強かろうと、君は彼に勝てない」


 ミライは笑っている。

 そしてミライの言葉からイルミナも笑みを浮かべた。


「ヒーローは遅れてやってくると言いますし、大目に見ましょう」


「そうだね。婚約者や従者の危機にすぐに駆けつけないなんて本来なら婚約者失格だよ」


「何を言ってやがる」


 エンドマは二人を睨みつけている。

 しかし減らず口の時間稼ぎと判断し、再び笑みを浮かべた。


「まぁどっちにしろてめぇらじゃ俺っちには勝てない。ボルテックランスで終わらせてやるよ!」


「最上級魔法か。怖いな。それに俺と同じ顔っていうのも怖い」


 エンドマの後方から、ミライ達の聴き慣れた声がする。

 彼が振り返るとそこには、彼とそっくりな顔をしたリアスの姿があった。


「俺っちと同じ顔、だと?」


「俺も驚いたさ。だがそんなことどうでもいい。てめぇがミラとイルミナを傷つけた。それがわかればそれだけでな!」


 肩には同じく奮起しているクレセントもおり、話し合いなどしようもなかった。

 リアスとエンドマの闘いの第二ラウンドが幕を開けた。

リアス「あいつ、俺の顔でミラとイルミナを傷つけるとは許せねぇ!」

ミライ「でもリアスくんがやっつけてくれるんでしょ?」

リアス「それは保証できない!」

イルミナ「格好つけて登場しておいてそれはないです」

クレ『閉まらないのがリアスらしいとも言えますけどね』

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