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魔王誕生(過去編)

 渉とリサナが拠点を移してしばらく経つ。

 しかし二人は平穏とは程遠い生活を送っていた。


「おい、リサナ今日は何人倒した!?」


「これで10人目よ!」


「こっちは15人だ!どんだけ湧くんだよこいつら!」


 目の前に転がる死体の山。

 二人はできるだけ殺さない様に配慮していたが、ここ1ヶ月休まず闘っている為疲労困憊だ。

 流石に余裕もなく、疲労を魔法で緩和する事でなんとか繋いでいた。

 

「あれから月の数が増えた事には驚いた。だがこれは明らかに異常だろ!」


「彼等から圧倒的な理不尽さは感じないわ。こいつら闘ってる時に勇者を自称していたけれど、彼等は本当に勇者なのかしら?」


 倒れ伏してる者達は自身を勇者と名乗っていた。

 実際勇者と名乗る割に、実力は転生してきた勇者誠也他四名より実力は極端に劣っている。

 更に加えて根本的に違っているものがあった。


「勇者なのは確かだな。月の数が減ってる。けど闘ってる最中に聞いたが日本どころか地球の存在を知らなかった。この世界の住人な事は確かだ」


 そう、渉や誠也とは違い地球からの転成者ではなかった。

 更に加えて彼等の発言から、この世界の住人である事もわかっていた。


「狙いはわたしだったものね。穢れた魔族は殺すとか、魔族に与する人間も魔族とか言いながら近寄ってきたしね」


「もちろんこれが洗脳ってならまた話は変わってくるぜ。だがその様子は今のところ見られない。ただ憎悪は今まで見てきた人間よりも強かったけどな」


「全く嫌になるわね。って言うか監視でもされてるのかしら?攻勢が止まないのはおかしいわよ」


「気配が多すぎてわからないが、浜山だった俺達の座標認識してたって事は、ウーウィー王国の誰かが協力してるんだろ」


「そう考えるのが妥当ね。でもこれからどうする?わたし達ここ数ヶ月寝れてないわよ。肉体は確かに疲労を無理やり労ってるから動けるけど、精神的にはもう限界よ」


「どっかに隠れることができれば話は変わってくるんだろうが------くそっ、またきたぞ!」


 二人は休まる場所を探していたがそれは叶わなかった。

 もしそれが叶っているなら、ひと月も起きてるはずがない。

 しかしそれが実現してないのは、絶え間ない勇者の軍勢に押されていたからだった。


「くそっ、月の数が増え続けてやがる。なんなんだよこれ」


「因みに今浮かぶ月の数は?」


「50個以上。つまり勇者は50人はいる事になる」


「あはは。しかも毎日数十個増えてるんでしょ?半月前からきっちりトドメを指す様になったってのにとんでもないわね」


「あぁ、もう限界だ。けど監視の目があることが正しい場合どこに逃げても無駄だろうな。あぁ、休まるところが欲しい」


 敵を殺し伏せながら二人は会話をしている。

 それは殺す分には余裕はあるからだ。

 しかしその様子を見ても、勇者の軍勢のひるむ事はなかった。


「くそっ、圧倒的な実力差を見せても退く様子がねぇ」


「そりゃこんなのあと数週間も続けられたら精神が先に逝くわ。寧ろ1ヶ月よく保ったと自分を褒めたいわね」


「それは同感だ!っあぁもう!イライラすんなぁ!」


「やめてよ。わたしだってイライラしてるの我慢してるんだから」


 睡眠不足になれば当然イライラもする。

 そんな中の戦闘に影響が出ないはずもなく------


「やべっ剣がすっぽぬけた」


「もうっ!素手で闘いなさいよ!自慢の軍曹直伝の戦闘術があるでしょ!」


「鬼軍曹と言え!」


 剣が飛んでいってもなお、素手で闘える為大きな影響にはならなかった。

 渉は空手、サバット、ジークンドゥ、ボクシング、剣道、柔道、合気道、色々と手を出して、運動神経の悪さで結果全てに挫折した。

 しかし基礎だけはしっかり積んでいた為、勇者の力と身体強化魔法のあるこの世界に置いて、その全てを嗜んでいる彼の接近戦の能力は並みではなかった。

 鬼軍曹直伝と言うのは、彼が好きだった映画のキャラクターの軍曹で、彼の指導方法に憧れていたから習ったと適当なことを抜かしていた。


「ふぅ、月が増えたり消えたりチカチカするマジで」


「なら上を見なければ?」


「いい加減寝たいだろ!もう疲れてんだよ!」


「どうせ増えていくだけよ。もうすぐ魔族が野営してるってテントに着くんだから、そこで保護してもらいましょ?」


 二人はただ目的もなく闘っていたわけじゃなかった。

 元々勇者が大量発生する前から、魔族の軍隊が停留していると言う情報を得ていた二人はそこを目指し魔族に偏見のない国で腰を落ち着かせる為に案内してもらおうと計画していたからだ。

 結果的に、案内から保護に変わってしまったが。

 計画も無しに一睡もせずに闘うなら最初から捕まって、油断したところで逃げ出す方が確実性がある。

 それをしないのは、相手の意図がわからないからだ。

 二人が殺してる勇者達を、捕縛の為に戦力を割く理由がわからない。

 ここまで戦力を投入してくるのには訳があるのだろう。

 その理由がわからない以上、下手に捕まったら何をされるかわかったものじゃないのだ。

 しかしその闘いももう終わる。

 二人が戦闘を続けて1ヶ月と一週間と4時間。

 遂に魔族の野営地と思われるところへと辿り着いたのだ。


「ワタルくん見えてきたわ!」

 

「やっとか!よしっ、こいつら吹っ飛ばして合流すんぞ!」


「了か------」


 その瞬間、野営地に激しい爆発音と爆炎が包み込んだ。

 それは二人にとって悪魔に等しい現実だった。

 その爆炎からシルクハットを被る少年が出てきたのだ


「汚い花火やの〜」


「くそっ、やっと辿り着いたと思ったのに誰だてめぇ!」


 そのふざけた関西弁口調は、どこか地球を彷彿とさせる発音だったのだ。

 この世界にも関西弁に似た方言はあるし、勇者の力に翻訳がある為事実はわからない。

 しかし何故か直感で、彼が勇者だと言うことがわかった。

 それも、今までとは違う実力者であることも。


「これはこれは失敬。わいはアナベルちゅーねん。よろしゅうな」


「アナベル?」


「せや、っておっと。まだ魔族が生きとる!」


 そう言うと彼は手に持っているステッキをリサナに向ける。

 渉はリサナを身体に引き寄せ飛び上がることで回避した。

 リサナがいた場所に大きな爆炎が発生する。


「ん?なんで自分魔族を庇うんや?」


「リサナは俺の恋人だからな!」


「魔族が恋人?ハハハ!自分面白い冗談ゆーんやな」


「冗談じゃねぇが?」


「ほぅ、あんさんイレギュラーNPCか?」


 イレギュラーNPC。

 渉は聞き慣れない単語の組み合わせだったが、NPCの意味はわかった。

 ノンプレイヤーキャラクター。

 プレイヤーではないゲームのキャラクターの名称のことを言う。

 この事から、アナベルは少なくとも転成者だと言う事はわかった。

 しかし渉と違い、顔立ちは日本人ではなく髪の色も赤だ。

 外国人が転生してきたならわかるが、彼の口調は関西弁。

 どこか違和感を感じていた。


「ちげぇよすっとこどっこい!俺は赤桐渉だ」


「赤桐渉?ほなあんさん、日本人か?」


「そうだ」


「まさかこんなファンタジーゲームに日本人のNPCがあるとは思わなかったわ。ほいじゃー、自分転生者とか言わんやろな?」


「転生者だが!」


 かーっと、額に手を当てて首を振るアナベル。

 しかし彼は渉が転生者と信じていた訳じゃなかった。


「ずいぶん作り込まれとるな!最近シナリオ通り進まんで苦労しとるんや!バグはさっさと消えろや!」


 そう言うとアナベルは渉とリサナにステッキを向け、二人の周りに魔法陣が展開される。


「チッ!なんなんだよもう!」


「彼、転生者とか言ってたわよね?なのに同じ転生者のワタルくんを攻撃するってどう言う事!?」


「転生者にも色々あるんだろ!あいつの場合俺をバグ、ゲームに生じた不具合と認識してるから、おそらく自分だけがゲームのプレイヤーだと思ってるんだろ!」


 文句を言いながらも、二人を爆炎が包み込んだ。

 二人とも攻撃を喰らう覚悟はできていた為、軽い火傷は負ったが、ダメージはほぼなかった。

 

「さっきまでの勇者とは格が違うぞ。あいつの転生特典はわからないが、少なくとも強敵だ」


「そんなのわかるわよ!問題はわたし達が彼に対して何処まで余力があるかよね」


「あぁ、全快の俺達なら魔法陣が囲まれる前に脱出くらいはできただろうからな」


 二人は睡眠を取ることさえ出来ていない状態で、1ヶ月以上闘っていた。

 その上で、爆炎を操るアナベルを相手に何処までやれるかはわからない。

 しかしアナベルは魔族の野営地全てを包み込むほどの爆炎を繰り出せる。

 その技を出してないのは、舐めているからか単純に何度も出せる技じゃないのかすらもわからない二人にとぅて、この状況はあまりよろしくなかった。


「礼を言うで!無駄話していたおかげで、ヘルフレアマグナムのリキャストタイムが貯められたわ!AIが賢くなってほんますごいなぁ!それじゃあい------」


「残念だ爆炎の勇者。君は魔族の偏見がないから、良い先導者になってくれると思っていたのに」


「へ?」


 アナベルが魔法を放とうとした瞬間、空から何かが飛来した。

 そして次には腕でアナベルを背中から貫いた。

 

「へ?どうなってるんや?痛い、痛いで?」


「当然だ。心臓も潰してある。治癒魔法は期待するな」


 その光景に渉とリサナは驚きを隠さず、その光景から目を離さずにいた。

 今の状態で飛来した何かに、今の二人が勝てるはずがないのに逃げ出せなかったのだ。


「なんや!どうなってるんや運営!こんなん聞いてへん!バグやバグ!はよ修正せいや!」


「哀れな。自身の風前の灯も気付かぬとは」


「このクソバ------」


 その後の言葉が紡がれることはなく、頭から先が弾け飛び崩れ落ちた。

 頭が弾け飛んで彼を殺した人物の顔が見えてくる。

 それはまるで虫のような姿をしていた。


「なんだ。他にも勇者がいたのか。全く、誰だか知らんが禁術を使ったバカの所為で、勇者が量産されてたまらん。始末が大変だ」


「くっ、リサナ逃げろ!勇者って言ってる。あいつの狙いは俺だ!」


「何言ってるのよ!それを言ったら今まで勇者が狙ってきたのはわたしよ!絶対貴方を置いて逃げないわ!」


 しかし二人の体力が限界なのも事実で、その希望はアナベルによって打ち砕かれてしまった。

 例え虫を倒しても、もう大量にくる勇者に立ち向かう気力はない。

 リサナは一人で逃げるよりも最愛の人と死ぬことを選んだのだ。


「ほぅ、魔族が人間を庇うか」


「リサナ、バカな真似はやめてくれ」


「いやよ。どうせ希望はないの。だったら死ぬまでワタルくんといるわよ」


「リサナ・・・」


 渉自身、アナベル程度に苦戦していた二人で瞬殺した虫に勝てるとは思ってない。

 それこそ自分達も同じ末路を辿る事は目に見えてる。

 それでもリサナの事は最後まで守ろうと剣を構えた。


「人間も魔族を庇いながら闘おうとするか!ハハハ!愉快だよあんたらみたいなのは」


「そうかい!だったらそんな愉快なやつの、この命尽きる最期までお前と殺し合ってやってるよ!」


「それは困る」


 一瞬で二人の背後に回り込み、リサナの首に手刀を入れ意識を刈り取る虫。


「リサナ!」


「今、私と殺し合っていれば魔族の彼女は死んでいた。彼我の実力差くらい肌で感じ取りたまえ」


「実力差くらいわかってる!だけど------」


 次の瞬間、ハエが沸いた様に勇者達がなだれ込んでくる。


「ははっ!魔族が弱ってる!殺せぇ!」


「穢れた魔族は死ぬべきだぁ!」


「ふむ、なるほど。退路がない訳だ。見たところ疲労もピーク。ひと月くらい奴らに追われていたと言うところか」


「あぁそうだよ!希望だった魔族の軍勢もアナベルとか言う勇者に潰された!もうどうしよもねぇ!」


「睡眠不足でまともな思考もできないか。だが、あの数を文字通り寝る間も惜しんで」


 渉はもう虫が何を言ってるのかも思考放棄していた。

 それだけ限界が来ていたのだろう。


「貴様は魔王に相応しい。ここで死ぬには惜しい人材だ」


「なに?魔王?」


「もし貴様が、魔族の王として人間から魔族の偏見を無くす為に立ち上がると言うのなら、この場を切り抜け衣食住を用意してやる」


 ふらふらになりながらも、なけなしの思考力でその選択について考える。

 もしここで断ればリサナと共に死ぬ事になるだろう。

 しかし魔王になればここから脱出できるだけなく、生活も保証してくれると言う。

 そして実力者の虫の庇護下に入ると言う事は、少なくとも渉とリサナは催眠にありつける。

 良いことばかりだ。

 しかし仮にも魔族の王になればしがらみがつく。

 ヒト族が魔王になる事をよく思わない魔族が、暗殺にけしかけてくるかもしれない。

 戦況によっては、何かを切り捨てなきゃいけなくなることもあるだろう。

 その切り捨てる対象がリサナになる可能性もあるのだ。

 それに渉は別に魔族をどうにかしたい訳じゃなく、リサナを守りたいだけなのだ。

 この話に乗るメリットも大きいが、デメリットもまた大きい。

 しかし何かを得る為には何かを捨てる覚悟がある。

 二人はどのみち魔族に付く以外に選択肢はないのだ。

 だったらデメリットは受け入れるしかない。


「やってやる!俺が魔族を従える王に、魔王になってやる!だからこの場をどうにかしろ!お前の名前は!」


「いいぞ。アナベルを失ってがっかりしていたがお前の様な男がいてよかった。ディマリア。それが私の名前だ」


「ディマリア!俺の、いや我の為にアイツらを倒せ!」


「私は魔族ではないのだがな。しかしそれは無粋と言うもの。心得た!」


 そういうと勇者を次々と殺していくディマリア。

 その速度は今の渉では到底追いつけるものじゃなかった。

 あっという間に血飛沫が充満する。

 ディマリアは森まで薙ぎ倒し、地平線が見えるほどの草原へと形を変えてしまった。


「一体どれだけ暴れるんだ?」


 渉はふと上を見上げる。

 月の数が7個にまで減っていた。

 5個にまで減っていた。


「マジかよ。五個ってことは、俺と田内と力山と真村だよな。増えてかないし全滅させただけじゃなく、勇者を増やしていた原因もどうにかしたのか?」


「ふぅ、どうやら勇者の中に輪廻転生をできるものがいた様だ。だからお前達はこの無限の渦に巻き込まれていた様だぞ」


「ははっ、マジかよ。確かに勇者を召喚しても、全員が絶え間なく襲ってくるなら、死者を蘇生させられる人間がいるよな」


 そういうと渉はその場にへたり込んだ。

 少なくとも、追撃の部隊はもう来ないことで緊張の糸が切れたのだ。

 その場で意識を失うリサナの髪をそっと撫でる渉。


「しかしヒト族も腐ったものだ。ポリが勇者として召喚された頃は禁術にまで手を出さなかったのだがな」


「・・・ポリ?」


 ここで何かを見落としている気がした。

 勇者はこの世界に居なかったから召喚されたと何故思い込んでいたのか。

 

「嘘だろ?」


「嘘ではない。まぁ今はお前も混乱しているのだろう。しっかり休め」


 そういうとディマリアは渉に薬を飲ませた。

 ポーションと呼ばれる聖魔法の付与された液体だった。

 たちまち渉の身体は癒えていく。

 それと同時に強烈な睡魔に襲われた。


「うぅ・・・なんだか心地良い」


「安心して眠れ。起きたら私の契約者に会わせてやる。魔王としての責務もあるからな。休める時に休んでおけ」


 そう言われたところで完全に意識を手放した渉。

 そして渉とリサナを抱えて、ディマリアは空高く飛び上がった。


「魔王誕生に祝うが良い、禁術使いよ!どうせこの光景も観ているのだろう?次相見えるのはしばらく先だろうが、待っているが良い!」


 そういうとディマリアは高速でその場から離脱した。

 その光景を見ていたディマリアに禁術使いと呼ばれた男は、思い切り歯が軋むほど歯を噛み怒りに打ち引かれていた。

リアス「ほわぁぁ!複合魔法は昔から存在する技法だったのかよ!」

ミライ「そりゃそうだよ。ボク達がいる世界と縦軸に繋がる世界なんだし」

イルミナ「当たり前の話ですね。それよりもディマリア様と言えば」

リアス「あぁ等々土神の登場だな」

クレ『精霊は寿命が長いですが、まさか数百年も前の時代から生きているとは思いませんでしたね』

リアス「あぁ。これから先ディマリアがどう物語に絡んでくるかも注目したいところだな」

ミライ「そうだね。ボク的には元魔王様の武勇伝も気になるけど」

イルミナ「それも含めて次回をお楽しみにと言っておきましょうか!」

リアス「そうだな!次回も絶対みてね!」

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