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敗北と出会い(過去編)

 魔族の軍勢が侵攻してきている。

 それはもう目と鼻の先にいた。

 一足先にたどり着いた千鶴、浜山、真村の三人は、魔族に対して攻勢に出始めた。


「いくぜぇ!」


 浜山の瞳の色を変える能力は、戦闘には不向きだと思われていたがそうでもない。

 瞳の色を白に変えることで相手を失明させている。

 そして千鶴の転生特典は浜山の転生特典とかなり相性がいいものだった。


「良いわよ!」


 気配を増強させる物だ。

 失明して視界を奪われてる魔族は互いを攻撃し合っている。


「あぁ!やめろぉお!俺は味方だぁ!」


「す、すまねぇ!だが、俺は目が見えないんだ!一体どうなって!?」


 戦場はこの二人の転生特典でほとんどかき乱されている。

 合流した赤桐と田内は困惑していた。


「瞳の色を変える能力と気配を増強させる能力。これほど強力なんて」


「組み合わせが良かったんだろ?それよかこいつ連れて逃走する手段考えたとけ。王国軍がこちらに到達するまでかなりの距離はあるが、油断なんないぞ」


 この場で洗脳の支配下にある三人を連れ出すのは至難の技だ。

 しかし田内はやると言っている。

 赤桐も日本育ちだ。

 本心で彼らを見捨てたいと思えるほど人情は()()失ってはいなかった。


「くっ、なんだこいつらは!()()()特殊な力を持つものが居たのか!」


「他にも?」


 赤桐は魔族の言葉に首を傾げる。

 まるで自分達以外にも転生特典を使う人間を見たことがある様な言い草だった。

 しかし月は6個で、勇者は五人しかいない。

 きっと魔法か何かを、特殊な力と言ったのだろう。

 何故なら、魔族達は魔法を使ってこないのに対して、王国側には杖を持った兵士もちらほら居たからだ。


「この世は神により創作された。神よ、力を今一度君臨させてくれ!イクスティブレード」


 赤桐のプレイしたオリンポスの羅針盤には聖女がいた。

 それは主人公に対して補助魔法をかけたり、時には前に出て闘う回復の使えないキャラと、回復のみしか使えないキャラがいた。

 しかし童話再現は、長所のみの聖女の力だけを再現することができる。

 その中でイクスティブレードはとても強力な聖魔法だった。

 まるで剣の雨が降りそそぐのだ。


「いけっ!」


 魔族に剣の雨が降り注ぐ。

 魔族達は上からの気配を感じて警戒していた為、受け身を取ることができ、死者は出なかったがそれでも被害は甚大だ。


「すげぇな赤桐!でもちゃんと殺さないとダメだぜ!」


 降り注ぐ剣を持ち魔族にとどめを刺そうとする浜山だったが、すぐに赤桐が魔法を解除した為に空を切った。


「おい!なんで消えるんだ!」


「赤桐、あんた手を動かすとか見えたわ!まさか魔族を生かそうって言うの?残忍な性格の彼らを放っておいたら、苦しむ人達がいるのよ!?」


「赤桐くん。二人の言う通りだよ。どうして消したの?」


 赤桐が敵を殺さなかったのは甘さからじゃなく、怪我人が出ればそれだけ治療に割く人員が増える。

 死体を増やしても大して戦力は減らないのだ。

 ここから逃げ出すことだけを考えている赤桐は、魔族を殺す必要性よりも生かす有用性を考えての行動だった。

 しかしそんなことを知らない彼らは赤桐を責め立てる。

 

「止せ。敵はこれだけいるんだ。足止めした方が戦力を避けるだろう?」


「いいえ!魔族は人間を虐げる神様の失敗よ!」


「そうだ!俺達は人間なんだ!劣等種の魔族は殺すべきだ」


 赤桐は頭を抱える。

 日本で育った以上、そうした考えに至るのはおかしい。

 何故なら道徳的に劣等種を虐げる習慣はない。

 ましてや殺すなんてもっての他だ。

 殺人に対していきなり忌避感も感じないこと自体異常であり、更にその魔族に対する考えがたった数時間で植えつくはずがない。


「魔族は敵なんだし。ねぇ、もしかして赤桐くんは、わたし達と違って魔族に召喚された勇者の敵。魔王だったりするのかな?」


 真村の一言で、全員の視線が赤桐へと行く。

 洗脳もここまでくると怖いのだ。

 しかし赤桐はこいつらを助けたいとは思わなくなっていた。


「やめてよみんな!まだこの世界にきてちょっとしか経ってないから混乱するのもわかるけど、同じ仲間を虐げるのは違うよね!?」


 田内はそれだけ言われていても、これは洗脳されているから仕方ないのだと説得を試みる。

 赤桐は話したことないから説得力がないのか、それとも単純に田内の人望が洗脳を上回ったのか三人は田内の言い分に口を閉じて黙り込んだ。


「王国軍が後ろから来てるし、あとは彼らに任せるのも一つの手じゃない?俺達はがこれ以上闘わなくても赤桐のおかげで敵は壊滅状態だ。一旦引こう?ね?」


 田内にそう言われると渋々と踵を返そうとしたが、そうは問屋が卸さない。

 まだ動ける魔族達が一斉に赤桐に向かって攻撃を仕掛けて来たのだ。


「このぉぉ!」


「ヒューマァァァン!」


「チッ!大人しく倒れておけばいいのによ」


 攻撃を仕掛けてくる魔族に対して、イクスティブレードで牽制をしながら後ろに下がる赤桐。

 

「みんな赤桐を援護して」


「あぁ!」


「任せて!」


 浜山と千鶴の2人の能力で襲い来る敵は失明して仲間割れを始めた。

 難を逃れた赤桐は剣を魔族の足に突き刺し!動きを封じて離脱する。


「危ねぇ助かった」


「赤桐ならどうにかできたでしょ?」


「殺さずに行きたいからな。恨みでも勝ったら逃げるのも大変だろ?」


 赤桐は命が狙われた以上、命を取られる覚悟があるべきだと考えている。

 しかし事、この場合に至っては違った。

 逃走を考えてる赤桐にとって、双方を敵に回すのはあまり得策ではなかった。

 

「逃げる?どうして?貴方なら彼等を殺せるでしょ?」


「そうだぜ?魔族なんてぶっ殺してやれよ!アイツらは悪だ」


「わたしも誠也くんの言う通りだと思う」


 三人は赤桐に敵を殲滅することを願う。

 それは当然この中で一番戦闘能力が高いのが赤桐だということをわかっていたからだ。


「おいおい、どうにかしろよ田内」


「ははっ、俺もそう思うな。でもみんな俺達はまだ初陣なんだ。生き急ぐことないでしょ?」


 赤桐は田内のその物言いに上手いと思った。

 この洗脳はそこまで強力なものではない。

 自由意志が残されているからだ。

 だとすれば、当たり障りのない言動で思考を誘導できる。

 

「そ、そうだな。アランの言う通りだな。チュートリアルで命を落としてたら元も子もない」


「アランが言うならあたしは是非もないよ」


「え、でも。二人が矛を収めるならわたしも」


 赤桐は予想外に真村が粘ったことに驚きながらも、全員戦意を一旦は胸の内に収めたことで安堵した。

 そしてこの場から離脱することを考える。

 前には魔族、後ろには王国軍。

 板挟みの三つ巴だ。


「くそ、王国軍が近い。横にも逃げ場はない、か」


「赤桐、俺が囮になるよ。俺の能力ならここから一人でも脱出できる。君には三人を頼みたい」


 何を言ってるんだとつっこみたい赤桐。

 この場で田内はどこの三人をまとめる適任はいないのだ。

 正義感で言っているとしたらここまでくると病気だ。


「待って何言ってるのアラン!?」


「そうだぜアラン?俺達がなんでここから逃げようとしてんだ?王国の奴等のところに戻ればいいだろ?一時離脱なんだしよ」


「アランくんまさか------いやでも、二人の言う通りだよ」


 やはり三人は田内を止める。

 赤桐は確かに戦闘面では頼りになるが、人となりを彼等は知らない。

 そしてそれは赤桐も同様だった。

 学園で学園カーストでは無いものの、田内を含めた4人と関わり合ったことがなかったのだから。

 所詮赤桐の評価はクラスメイトの、第三者として見ていた性格しか知らない。


「面倒だからお前がこいつら連れて逃げろ。俺が殿を務めてやる」


「え、でも」


「こいつらの事はお前がよく知ってんだろ」


 赤桐としても後からワーワー言われるよりここに残った方が後々になる為と思って、自ら最後尾で逃走時間を作ることを選んだ。


「いいのかい赤桐?」


「無論だ。さっさと行けよ」


「すまない。みんな、こっちに来てくれる?」


「なんだなんだ?アラン、後でちゃんと説明してくれるんだろうな?」


「もちろんだ」


 田内の口は不安なんて思っても無いように笑っていた。

 そして三人を連れて横に逸れて行った。

 赤桐は自分が信用されてると思って張り切る。

 彼は根は単純なのだ。


「行くぜ王国の犬ども!」


「な!?ゆ、勇者様?」


 王国軍の一般兵が赤桐によって気絶させられた。

 それが合図かのように他のメンバーもそれぞれ叫びだす。


「勇者様の一人が御乱心だ!」


「勇者様?これはどう言うことですかな?」


 騎士団長にして、王国軍の官房総長を務めるポリ・ランドールは赤桐に剣を向けて訪ねた。

 赤桐を空中に浮かべる剣を収める気はない。


「見ての通りだ。あんたらは信用ならねぇ。俺達はここから降りさせてもらう」


「力を手に入れただけの小僧が。異世界から来てまだ数時間。気が動転しているのも頷ける。ならば、直々に我が引導を渡してやろう!」


 二人は剣を交わす。

 赤桐は自分の能力を過大評価していた。

 客観的に見れば気づけた致命的なミスだ。


「やはり元々は一般人!剣に重みがない」


「くっ!」


 いくらゲーム内で使っていた魔法を再現できるとしても、彼自身の戦闘能力は皆無。

 更に加えて赤桐がプレイしたゲームはアクションゲームではなく、ストラテジーゲームだった。

 戦闘シーンはアニメーションでしかないのだ。

 故にペーペー騎士ならばともかく、歴戦の騎士であるポリ・ランドール相手には、1分と時間稼ぎができなかった。


「こいつは、つよっ------」


「太刀筋も覚悟も軽い!」


「しまった!」


 イクスティブレードを自身の手で持つ物以外、全て叩き折られてしまった。

 そして残りはひとつだけ。


「この世は神により創作された。神よ、力を今一度君臨させてくれ!イクスティブレード!くそっ!なんで発動しない!」


 補充しようとしたが、何故かイクスティブレードは発動しなかった。

 理由は簡単だ。

 魔力を使って発動していたイクスティブレードは、魔力が無ければ発動しない。

 要するに魔力切れだった。


「だがまだ剣一本が!」


「たかが貴様が剣ひとつ持ったところで何も怖くはない」


 そしてそこでポリ・ランドールは足を踏み込み、赤桐の懐に潜り込んだ。

 あまりの速さに驚愕を隠せない。

 

「速すぎんだろ!」


「年季が違うものでな!」


 ポリ・ランドールの持つ剣は片刃の刀のような形状をしている。

 そしてその峰で、赤桐を思い切り吹き飛ばした。


「がっ!」


「この青二歳が、眠っておけ」


 そのまま剣を鞘に収めながら、空中で回転蹴りをして赤桐の意識をランドールは刈り取った。

 赤桐は去りゆく意識の中でこう思った。

 まるで侍みたいだなと。


「全く、この程度の実力で勇者か。まったく磨きがいのある原石だ」

 

 ランドールは倒れ伏した赤桐の首根っこを掴み引きずっていく。

 

「だから言ったのだ。実戦投入はまだ早いと」


 赤桐達の初日からの実戦投入は彼らに不信感を与えかねないと、アレクにランドールは何度も抗議した。

 しかしその言葉が届くことはなかった。

 ピラミッド型制度な以上、一番上のヒエラルキーは王だ。

 つまり王が決定権を持つのだ。


「お前達!」


「「はい!総長!」」


「こいつはワシ自ら牢屋へぶち込んでやる!」


「はっ!勇者様も見に余る光栄に存じます!我々如何様に!」


「此奴は御乱心のようじゃ!即刻捕縛し、牢にぶち込め!嘆かわしいがな!魔族は赤桐により、深田を追っている!勇者の確保を優先しつつ、魔族を牽制し撃退しろ!」


「「はっ!」」


 その号令と共にランドールは赤桐を引きずって戦線離脱した。

 


「ん、ん?ここは?痛っ、身体は痛いしなんも見えねぇ」


 真っ暗で牢屋とは名ばかりの明かりひとつない地下室で、腕を手錠か何かで縛られているところ、目を覚ました赤桐。

 しかし辺りが夜目が効いても全く見えない。


「くっそ、そうだ俺はあのおっさんに吹っ飛ばされて・・・待て?なんで俺は生きてるんだ?」


 シナリオ通りなら王国軍が背後から攻撃してきて命を奪う。

 しかし実際考えてみたらどうだったか。

 攻撃を仕掛けたのは赤桐で、返り討ちにされた。


「動けねぇ。手錠か」


 それはそうだ。

 彼がやった行為は明確な裏切りなのだから。

 

「俺は何をやっているんだ」


 こんな状況、赤桐は処刑されても違和感がない。

 要するに王国側からしたら願ったり叶ったりの状況ということだ。

 何故、相手の攻撃を待たなかったのか。

 冷静に対処はできたのではないかと。


「今更後悔しても遅いな」


「そこにいるのは、だれ?」


「誰だ!」


 その声は暗闇で響き渡る。

 顔は見えないが、千鶴や真村とは違う女性の声だ。

 赤桐は自身の状態がわからず、暗闇で不安になったのかいつもなら無視をするのに受け応えてしまった。


「ごめんなさい。わたしも長いこと、ここに閉じ込められていて」


 長いこととはどれほどなのだろうか。

 少なくとも赤桐よりは長いことは確かだった。


「俺は赤桐渉だ」


 どこの誰かもわからない。

 姿も見えない。

 わかることと言えば、このような場所に囚われるような人間で女性。 

 たったそれだけの情報だ。

 それなのにも関わらず、赤桐は自分の名前を明かした。


「あかぎり・・わたる?」


「そうだ。この世界の人間的に言えば、ワタル・アカギリだ」


「ワタル・アカギリ・・・貴方は、異世界から召喚された、勇者?」


「そうとも言えるし、違うとも言えるな」


 それはアレクの言葉や自分の記憶を信じるなら、自分が死んでいる可能性があること。

 だったらこれは召喚というより蘇生と言えるのだ。


「なんでここにいるの?ここにヒト族入れられてる姿は見たことがないわ」


「ヒト族?」


 妙な言い方だと思った。

 しかしこの世界の人間が亜人を魔族と呼ぶように、人間もまたヒト族と呼ばれるのは普通なのかもしれないと、追及はしなかった。

 そうなれば、声なしの正体は自ずと予測はできる。


「君は魔族なのか?」


「魔族?そうね。わたしは魔族と呼ばれている種族ではある」


「種族ではあると言うと?厳密には違うのか?」


「わたしは、わたし。他のなんでもない。命は一つなの。わたしはリサナ」


「リサナ?」


「えぇ、ワタル。わたしの名前はリサナ。貴方が魔族と蔑もうがリサナなのよ」


 リサナと言う少女と赤桐とのこの出会いは、後世にまで影響する出会いとなる。

 この巡りは併せはなんの因果か、世界の常識を変えてしまう物だった。

リアス「リサナって赤桐の恋人だった奴だよな」

ミライ「赤桐は割と転生してすぐに恋人に会ったんだね。どこかの誰かと似てる〜」

イルミナ「リアス様ですね」

リアス「この話は俺にとって重要だよな。本人が言ってたし」

ミライ「次回も楽しみだねー!でもいつも思うんだけど、過去回想は番外編とかでやれよって」

リアス「作者にも考えがあるんだ。気にするな」

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