脅威の発生
ドラゴンは歳を重ねれば重ねるほど強くなる生き物、らしい。
そしてドラゴンは100歳を超えると人型になれると言う伝説もある、らしい。
何故らしいって言ってるかって?
それは人間の歴史には知られていないドラゴンの生態だからだ。
これは昼間に拾ったドラゴンから直接聞いた話だ。
まぁ俺が聞いたわけじゃないんだが。
「ドラゴンの生態は不思議だな」
「リアスくん?」
「ドラゴンって不思議だなーミラ。だって人間と大差ないだろうあの姿〜」
「リアスくん!」
その怒気の孕んだ声に俺はすぐに口を閉じる。
口は災いの元だから。
俺は今、猛烈に痛い。
車を止めて一時間、ドラゴンが人型で裸で転がっていたから運び出そうとして、つまづいたらドラゴンに覆い被さる状態になり、そこでミラが起きてしまったのだ。
その状況を見れば、誰だって俺がドラゴンを襲おうとしたと捉えられても不思議ではない。
俺はミラとイルミナを前にして正座をされている。
それも一時間も前から。
「本当に誤解なんだミラ。俺は決してやましいことをしようとしたわけじゃない」
『言い方が浮気男性みたいな言い方ですね』
「クレ!」
燃料投下はやめてくれ。
ただでさえミラとイルミナが鬼の形相なんだ。
「そうじゃないよ。誤解かどうかは問題じゃない。それならボクを起こせばよかったよね?」
「それはミラがすやすや眠ってたから起こすのは忍びなくて・・・」
「はぁ〜。まぁリアスくんは嘘が下手だから、すぐに誤解だとは気づいていたけどね」
だったらなんで一時間も正座させたんだ!
しかもご丁寧に細君支柱を使って俺の身動きまで封じて。
「リアス様は脇が甘すぎます!ジノア様の例を忘れたのですか!」
「いや本当にごめんなさい」
ミラは今まで黙っていた。
この一時間俺の説教をしてたのはイルミナだ。
確かにイルミナの言う通り俺は脇が甘かった。
実際、ここが帝都の一室で見られたのがミラやイルミナではなく貴族関係者だった場合は下手したら社会的に抹殺されていただろう。
それは俺だけじゃ無く、相手も同じ話だ。
イルミナは実父に襲われかけてるから尚のこと俺に注意をしてほしいのだろう。
「まぁ小言はこれくらいにしましょう。アルターニア様もサンドラ様のお話も終わったみたいですし」
サンドラとはあのドラゴンのことだ。
彼女が目を覚ましてからはかなり怯えていた。
まぁ側から見たら、女性二人が男性を正座させてるのだから怯えるのも無理はないだろう。
アルターニアが一緒に来ていてよかった。
彼女は公爵令嬢の中でも温厚な性格だ。
サンドラのことを心身に宥めて話を聞いたのだろう。
「お疲れ様リアスくん。手を貸すよ」
指を弾いて俺の拘束を解いた後、手を差し出すミラ。
「あ、あぁ。助かるよ」
一時間も正座をしていて足が痺れないはずがない。
俺は生まれたての子鹿のように足が震えていた。
ミラが手を貸してくれたからなんとか立てている。
イルミナもそのことに気づいて反対側で手を貸してくれた。
大の男が女性二人に支えられて情けない。
「リアス、情けねぇなぁ!ガハハ!」
ピグミーベアの姿でそんなこと言われてもギャップがすごい。
と言うかこいつ酒に手を出しやがったな!
夜に移動になってもむっさん役に立たないじゃん。
「悪かったな。ところでサンドラ、さん?はどうしてこんな所にいたんだ?」
ドラゴンってよく考えてみたら一度も見たことないんだよ。
人型になれるって情報を知ったから、多分人社会に紛れ込んでるんだと思う。
あんな巨体が空を飛んでれば目撃されててもおかしくないしな。
「ヒッ!」
「すごい嫌われようだねリアスくん」
「そりゃあ目を覚まして拷問された光景を見せられればビビるだろ」
「そんなことないよ?サンドラ、ボクはミライ。よろしくね」
「わたしはイルミナです」
ミラとイルミナが手を差し出すと恐る恐るとその手を掴んだ。
おかしいな。
俺よりもミラとイルミナが怖がられるはずなのに。
「俺はリアスだ。よろしく」
「ヒィィィィ!」
サンドラがすごい勢いで後ずさった。
なんで俺だけこんな目に。
「リアスくんやっぱりこの子に・・・」
ジト目を俺に向けてくるが俺は冤罪だ。
しかもサンドラと出会ってから今までの記憶もしっかりある。
つまりこいつを襲った記憶は------
「いや、襲ったわ。出会い頭にワイヤー飛ばして電気走らせたわ」
「ヒィィィィ!痺れるのいやぁぁぁ!」
あ、ワイヤー兵器トラウマになってるんだ。
でもそれなら怖がるのは俺じゃないだろう。
「なんで自動輪じゃ無く俺を怖がるんだ?」
「自動輪も怖いそうですよ。ただそれ以上にリアス、貴方のことが怖いようです」
サンドラの代わりにアルターニアが説明してくれた。
俺が怖いのと、あの時のことは別件か。
でもそれ以外に怖がられるようなことはしてないんだけどな。
「サンドラが言うには、リアスはチグハグしていて生物に見えないらしいよ」
「チグハグってなんだよ。あ、もしかして転生してるからリアスの魂と俺の魂があってそれがチグハグしてるとか?」
リアスの記憶はあるが、前世の記憶も持つ俺は別の魂と見て良いだろう。
だとすれば辻褄も合うが、それならサンドラには魂が見えてることになる。
「ち、違う!貴方はウチの村を襲った怪物に雰囲気が似てるの!」
「村?」
「彼女はドラゴンだけが住む村に住んでたんだって。けれど人型の謎の生命体に村の住民は根絶やしにされて、命からがら逃げてきたそうだよ」
「・・・は?」
俺は開いた口が塞がらない。
ドラゴンだけの村があるのも驚きだが、それよりももっと重要なことがある。
『Sランクのドラゴンが根絶やしに、ですか?』
「ドラゴンはどれくらいいたんだ?」
「村の人口は100人くらいらしいよ」
100体のドラゴンが殺られたことになる。
つまりそれだけの脅威が村を襲ったと言うこと。
「サンドラ、村はどこら辺にあったんだ?」
「あっち」
西方向か。
俺は陛下にもらった地図を開く。
案の定危険地帯である死の砂漠、ディザードがある方向だ。
そこにドラゴンの村があって、その怪物が現れたからデザートオルキヌスがここら辺でも見られるようになったんだな。
掘れば掘るほど理由が掘り下げられていく。
「デザートオルキヌスがどうして生息地を出てこっちに居たのかは説明がついたな」
「正体不明の怪物はともかく、そいつの所為でデザートオルキヌスの生息地がズレてしまったのは問題だよ。リアスやミライやイルミナにはわからないだろうけど、本来であればBランクの魔物ですら一般人には脅威なんだから」
「そのくらいの常識は俺にもわかるさ」
デザートオルキヌスがここに生息地を移すという事は生態系に変化が生まれる。
バグバッドの主なタンパク源はスナヤギで、スナヤギの天敵はサウザンドドルフィンだ。
そしてサウザンドドルフィンの天敵がデザートオルキヌスだから、当然生息地はズレて行く。
バグバッドのタンパク源であるスナヤギは国境近くで採られてるって聞くが、それはおそらく比較的に安全なのだろう。
もしそんな所にサウザンドドルフィンが生息地を移したとしたらどうなるか。
いくらサウザンドドルフィンがBランクの実力の魔物が何も訓練してない人間に殺せるほど甘くない。
ましてやあいつら砂漠に潜ることからAランクに指定されるような魔物だ。
サウザンドドルフィンによる死者が増えるか餓死者が増えるかの二択になるのは想像に容易い。
「でもボク達が解決する必要はないでしょ?」
「だよな」
「え、そこは怪物を倒しに行くんじゃないの?」
ジノアならそう言いそうだなと思った。
一応は同盟国であるバグバッドに恩も売れるし、何より罪のない民達をたとえ他国だとしても見捨てられないんだろう。
けれど今はできない。
「馬鹿言うなよ。アルターニアは普通の令嬢で戦闘能力が皆無だ。もし倒せないような怪物だった場合、逃走するのも難しくなる」
「だけどリアスなら!」
「忘れてないよな?ドラゴン100体を根絶やしにしたと言うことは、Sランクの魔物100体を根絶やしにしたんだ。少なくとも俺達にそんな芸当できる奴はいない」
ドラゴンはデザートオルキヌスと違って正真正銘のSランクの魔物だ。
むっさんに複数で挑んで大敗し、今でも単身で勝てるのはミラくらいだ。
それもむっさんとロウの二人が相手になれば白星よりも黒星のが多い。
「そうだね。ボクもむっさんやロウ、ウルといったSランクの魔物を複数と対峙したけど、少なくとも100体を根絶やしにできるほどの実力はないよ」
「ジノア様、リアスに救われたのはわかりますが、本人達がこう言うなら事実なのでしょう。それよりも早く土神様にお会いしてバグバッドから離れるべきだと提案します」
そう、バグバッドにいれば確実に被害に巻き込まれる。
あの国には悪いが、俺達の実力でどうこうできない以上どうしようもない。
おそらく地図から国が一つ消える。
「あ、あの〜」
今まで黙っていたサンドラが口を開く。
さっきまでの怯えはとりあえずは治ったか?
けど俺が話すのはやめておこう。
サンドラに話をしたいなら話す様にジノアに目で促す。
「どうしたのかな?」
「土神様と言ってたよね?貴方達何者なの?」
「何者と言われても、さっきも言ったけど僕はライザー帝国の第三皇子ジノアだよ」
そう言うことじゃないと思うジノア。
多分彼女が聞きたいのは名前じゃない。
お前も一応はアルバートと同じ血が流れてるんだなぁ。
「リアス、僕を可哀想な目で見るのはやめて」
「よくわかったな。それでサンドラ。土神について何か知ってるのか?」
「ヒィ!」
「話になんないから怯えんなよ。ミラ、頼んだ」
「了解」
ウィンクしながら敬礼をするミラは可愛らしい。
「土神について何か知ってるなら教えてほしい。わたし達は風神と雷神の知人なの。訳あって土神に会いに来たのよ」
「土神様に?風神様と雷神様とお知り合いというのも疑わしいわ。そんな化け物と一緒にいるんだもの」
「化け物ってひでぇな」
俺が何したってんだよ。
やめてサンドラ、リアスの心のライフはもうゼロよ。
「んー、めんどくさ。おじさん」
『はぁ、まぁ彼女がドラゴンという弱みを握っていますし、人社会に溶け込んでるわけでもないですし良いですよ』
クレとミラはセーブしていた魔力を外に放出する。
その魔力は、本来感じとるのが難しい魔力をしっかりと認識できるほどだ。
俺はクレとミラの魔力ソースなんだから、これだけ放出量があればなぁと思わない事もない。
「へ?何この魔力!?」
「ジノアは咄嗟にアルターニアを守って偉いぞ」
「リアスも気づいてたよね!?それにクレセントもミライもやめて!ここにはアルターニアがいるんだよ!?」
流石に魔法の訓練を行わない一般人がこの魔力を受けたら、魔力酔いで吐き気を催す。
俺はジノアとアルターニアの前にシールドを展開したが、同時にジノアも展開した事で魔力はアルターニアにはほとんど届かなかった。
「いやー、多分リアスくんがなんとかしてくれると思って」
『元々魔力源はリアスですからね』
まぁ魔力程度なら問題ないからいいけどさ。
でもシールドはそんな万能じゃないんだぞ。
魔力は一定しか込められないから、どうしても強力な魔法になると同等の威力の魔法で相殺させるしかなくなる。
実際、シールドは瞬間的に魔法を止めたり晒したりに使うことのが多い。
力量差があったりしたらその限りではないけどな。
「もしかして、あなた方は、風神様と雷神様?」
「そういうこと。訳あって土神に会いに来たんだけど------」
「お願いします!どうか、我が村を救ってください!」
その時の綺麗な土下座を俺は忘れないだろう。
何せ宙返りした勢いのまま、思い切り頭を打ちつけて土下座をしたのだから。
ここは砂漠だから大した外傷はないけど。
*
ドラゴンが住む村はディザードの真ん中の方にある小さな森に存在した。
砂漠のど真ん中で緑木々が生い茂るのは、地球ではオアシスと呼ぶ。
しかしそれとは程遠く、ディザードでデザートオルキヌスがうようよいる砂漠での方が可愛く思えるくらいの環境の森だった。
それもそのはず。
土神の力によって守られている神域なのだ。
その森には村が三つある。
その中の一つはSランクの魔物として人々に知れ渡っているドラゴンのみで構成された龍山村だ。
しかしこの村は今は壊滅状態にあった。
生命の息吹は完全に摘まれてしまった。
「あぁ、あのドラゴン達がこうもあっさり・・・族長に知らせなければ!」
ドラゴンの村に定期的に交流のために来ていた別の村人。
彼の住む村の種族はエルフ族は人間と全く同じ見た目をしているが魔法に長けた種族だった。
何百年も前に、歴史の向こうに追いやられた種族でミライの母親と同じ種族でもあった。
その魔法に関する能力が人間とは別系統の力を有していて、どの国でも蔑まれていたのだがそれを不憫に思った土神が保護できる限りの当時のエルフを保護してこの森に連れてきたのだ。
「土神様がいない今、どうしてこんなことが!」
その保護をした土神は2年ほどエルフの前に姿を見せていなかった。
それは突然の出来事だったが、寿命の長い神話級の精霊だから数年ほどならばと気にしないてはいなかった。
土神は大地の力を操る精霊であり、神域とした場所のこの地で死んだ者ならば生き返らせる事も可能だった。
しかしそれにも制限がある。
それは死後半月以内までしか復活することができなかったのだ。
それも当然の話で、この世界において死を超越する魔法は存在しない。
肉体に生命が再び宿っても、死んでしまった魂は霧散してしまっているからだ。
土神がこの土地に何百年かけて付与された魔法により、精神を一時的に大地に留めることを可能にした無理矢理の芸当だった。
そして死後半月と言うのは、死んでしまった肉体が再び生命活動を行える肉体に再生可能な時間によるリミットだった。
もちろん魔法によって消し炭になって仕舞えば、再生すら出来ない為すぐに死に至る。
「彼等にも知らせておかねば!」
彼等とはこの森にあるもう一つの村で、その村の種族は色々な種族が存在する。
その村の名前はクリムゾンポロウニアと呼ばれる村だった。
「た・・・る・・く・・・ん」
そう譫言にゆぶやく少女はドラゴンの村のど真ん中でドラゴンの首を持ったまま呟く。
ドラゴンの村に現れたのは、ウサギの獣耳をした一人の少女だった。
しかしその少女に覇気はない。
何故なら彼女の心臓はとうの昔に止まっていたのだ。
「ワ・・・・タ・・・る・・・・く」
少女はただそれだけを口にしている。
それは彼女の心臓が止まる前に最も愛していた人間だった。
その少女は生ける屍のアンデッド。
アンデッドはDランクの魔物でゴブリンと同じ脅威度だ。
アンデッドは基本的に死んだ人間を器にしただけの別の魔物と見て良い。
なので人間の脅威になる様なアンデッドは存在しない。
いやしなかった。
このアンデッドは違ったのだ。
肉体が生前の力に引っ張られ、生前と同様の動きができるアンデッドだった。
生前の力量がドラゴンを軽く上回る為、Dランクの魔物でありながらSランクの魔物を蹂躙したのだ。
ドラゴン達はアンデッドだと軽視せず、一週間ほど奮闘したが、サンドラ以外の全てのドラゴンは死亡した。
そして彼女の次の狙いはこの森の種族、ではなく------
「わ・・・タ・・・・・ル・・く・・・ん」
バグバッド共和国へと向けてゆっくりと歩みを始めていた。
その彼女の首から下げられているペンダントには、黒髪の少年と仲睦まじそうに写っている生前の少女がいた。
そしてペンダントの裏にはアルファベット書いてあった。
Rishana・Akagiriと。
リアス「ドラゴンを蹂躙って末恐ろしいな」
ミライ「実際ボク達じゃどうしようもないしねー。関わらないで帰るのがベストだと思う」
クレ『命あっての物種です。背に腹はかえられません』
イルミナ「リアス様なことですからどうせ首を突っ込むそうですけどね」
リアス「流石に今回は避けると思うぜ?シナリオって予備知識がないからな」
クレ『それは、話を進めてけばわかりますね』