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エピローグ

 俺達はエルーザ帝国南の国境へと足を運んでいた。

 これから南の国バグバッド共和国へと、土神に会いに行くからだ。

 バグバッドに行くのは俺とミラ、イルミナとジノアにアルターニア、そしてむっさんの六人だ。

 何故このメンツかというと------


「済まないな。聖人聖女のリリィとグレイとグレシアを連れていけば、いつ教国に狙われるかもわからない。出来れば聖女達には国を発たないでほしくて渡航の許可は出せなかった」


「申し訳ありません。我々の落ち度でございます」


 陛下とアデルさんが頭を下げている。

 今回のマルデリン及び教国の件があった事で、グレイとグレシアを守るためにも報告と共に二人が聖獣と契約していることを陛下達に報告した。

 そして国が三人の聖獣契約者を抱えている事は国益にも繋がるし、教国が圧力を裏からかけないためにも大々的に世界へ向けて発表する。

 その結果二人は諸外国の目もあるため、国から容易に出るのが難しくなってしまったのだ。

 慎ましくも平穏ともほど遠い二人の境遇だが、元々貴族で公爵令嬢のグレシアはラスボスの風格を見せ国のためになるならと了承し、グレイも覚悟を決めたらしくそれに追随して了承していた。


「悪いなリアス」


「お前の所為じゃない。教国の所為だ。少なくとも今、教国に弱みを見せる訳にはいかねぇよ。その代わりちゃんとグレシアを守れよ?」


「あぁ、任せとけ!」


 俺はグレイとグレシアは連れて行きたかったけどな。

 より良い安全の為に!

 あの二人俺より強いんだよ単騎で。


「ふんっ!貴様が留守にしてる間に俺はまたひとつランクアップしておいてやる」


「何言ってるんですか。昨日も殿下はヒーヒー泣いていたじゃありませんか」


「あはは!兄上もロウには敵わないんだね」


「ジノア様、いくら事実でもそんなこと言ったら失礼ですよ?」


「アルアも十分失礼だと思うわよ?」


「いやー、今のアルバートにはこれくらいが丁度良いんじゃねーの?」


「グランベル!貴様」


 アルバートとその取り巻きであるリリィ達の関係はこの半月である程度戻ってる。

 なんか割とラフで前よりいい関係なんじゃないの?

 兄弟仲もある程度修復出来てるみたいだし。


「本当に拙者達は着いていかなくていいでござるか?」


「馬鹿。そうしたらアルゴノート領は誰が守るんだ。先日の件と良い、アルゴノートが目を付けられてるのはたしかだ。某はまだまだ未熟だからお前に任せようってのに」


「そうね。むっさんが抜ける以上、この前の敵レベルが複数で攻め込んで来たら厳しくなるかも知れないしな」


「ウルが心配するほど敵は強くないと思うっす」


「どうかな?ボクがみた奴の記憶だと、自分達が強いって自負してたよ。そして特に強いのがグランベルが殺したフォルテって奴と、グレイとグレシアが倒したフィニアって少女」


 ミラが見た記憶はあくまで本人の記憶のみ。

 彼らの実力からして、まだまだ三下を送り込んできたと見た方が良いだろう。

 だからこそ、国を開けるのは余り良くないが今回は仕方ない。

 なにせ奴らの薬品の解毒薬を手に入れる為に国を出るんだからな。

 バイオ攻撃ばかりは、腕っ節だけじゃどうにもならん。


「俺が捕らえたアルテリシアは以前黙秘を続けてるらしいけど、フィニアの方は色々ゲロったんだろ?」


「言い方・・・まぁここは寧ろアルテリシアを褒めるべきでしょうね。帝国屈指の拷問官の折檻に耐えてるのよ?」


 拷問官じゃなくて看守長のことだろ?

 たしか名前はフラメニックとか言う人だったはず。


「あいつアタシのことババァババァいいやがるんだよ!二つしか年齢変わらないのにさ!」


「フラメニックの照れ隠しです。我慢してください」


 陛下のことをババァって言うなんて何者だ?

 この世界には不敬罪ってものがあるだろうに。


「リアスくんは、フラメニックは不敬罪にならないのかと思って居ますね?」


「あ、顔に出てましたか?」


「ふふっ、まだ子供らしいところを見せて貰えて安心しました。フラメニックと私、そして陛下とパーピルは幼馴染みでして、これだけ砕けた仲になっているのですよ。私は元からこういった話し方ですので、陛下に対して口調は変わりませんがね」


 へぇ、この国の皇帝と宰相と英雄と看守長って幼馴染みなのか。

 花そその設定でそんなこと出てこなかったな。

 と言うか、看守長自体出てきた記憶が無い。


「アデルさんと陛下は幼馴染みだったんですね」


「陛下は昔はそれはもう丁寧な淑女でしたよ」


「おまっ!それを言うならアデルはガキ大将で、今とは全く違う雰囲気だったぞ!?」


 え、二人とも今とは真逆じゃん。

 というか、二人の性格入れ替えたらそうなるのか?

 もしかして二人とも互いが互いに憧れたとか?


「オホンッ!それでリアス。ジノアを動向させるだけで良いのか?なんなら馬車を運転する従者も用意はできるが」


「ありがとうございます陛下。でも俺達には専用の馬車がありますので」


「この前の馬車か。聞けばそれはお主が引っ張る以外に動かせないと聞いたぞ?バグバッドまではかなりの距離がある。それにバグバッドの国境にある砂漠ではSランクの魔物の生息地として知られる死の砂場もある」


 死の砂場とは砂漠の中でもかなり強力なSランク認定された魔物のデザートオルキヌスがうじゃうじゃいる生息地とされている。

 別にそこを通らなくてもバグバッドには着くのだが、万が一そこ以外にデザートオルキヌスがいた場合俺が魔力切れを起こしてたら


「たしかにあの馬車はロマンが詰まってますが、俺しかあの馬車を引けない謂わば人力車のような物です。ですがこれからバグバッドに向かう際に使うのは違います」


「違うのか?では一体どのような馬車を------」


 俺は収納魔法で黒くて四角い箱を出した。

 横に合計四カ所のタイヤも設置してある。


「これは?」


「とあるスイッチのオンオフにより自動で走る車両です」


 前世の世界ではこれを自動車と呼んでいる。

 リリィは現代っ子でスマホを使って色んなことを調べていたらしい。

 そこには自動車の設計の知識もあった。

 その知識にこの世界の技術を加えて出来たのが、この魔導自輪。

 ガソリンの代わりに魔力を溜め込む魔石をセットして、ハンドルを握ることで自動的に供給される付与を加えた。

 あとは蒸気機関の応用で後輪を回し動かしている。

 燃料が魔石のおかげで、魔力を供給してる間はずっと車を走り続けることができる。

 どれもこれもこの世界だからできたことだ。

 でもよく覚えてたよなあいつ。


「スイッチを押すと自動で走る・・・車両ですか?」


 アデルさんが疑問に浮かべるのも当然だ。

 なにせこの世界の移動手段は馬車しかない。

 電車すらないんだ。

 

「物は試しですよ。陛下、アデルさん。どうぞ、お入りを」


 俺は二人を車内へと案内する。

 何度も試運転してるから問題はないはずだ。

 そして荒野へと車を発進させる。

 ライザー帝国は基本的に荒野に囲まれてる。

 北は雪が積もって運転できた物じゃないけど、南は何もなく暑いだけだから問題はなかった。

 車内はもちろんエアコンが効いてるから快適だ。


「これは座席が柔らかい」


「外は少し暑かったのに、嘘みたいに涼しいな」


「驚くのはこれからですよ!」


 俺はアクセルを全開に踏み込んでスピードを上げる。

 座席の背中に吸い寄せられる感覚は、慣れてない人が感じると来るものがある。


「速い速い!リアスくん止めてください!」


「すごいなぁ!リアス、このベルトは外してはダメなのか?」


 シートベルトは着用してもらってる。

 けれどこの速度で外したら、車内でピンボール待ったなしだ。

 

「ダメです。それは安全器具です。外を見たいなら窓を開けますのでどうぞ」


「むっ!仕方あるまい」


 俺は窓をあける。

 陛下の髪の毛が風に靡いて揺れている。

 

「これは気持ちがいいな」


「本当は窓から顔を乗り出すのも危険ですからね?」


「わかってるよ。この勢いなら頭が跳びそうだ」


「へ、へ、陛下!もうよろしいでしょう?降りましょう?」


 アデルさんは自動輪にはタジタジの様だ。

 陛下はむしろ喜んでいた。

 これを量産できたらいいんだけどなぁ。


「なぁリアス。これは量産はできないのか?」


「言うと思ってました。設計図があるので量産は可能です」


「おぉ!」


「しかし三つほど問題があります」


「問題?」


 一つは車自体を使っても走らせる場所がない。

 馬車に合わせて外道が敷かれてるから、当然馬車が来なければ歩行者が通る。

 そんなところに車が移動すれば轢き殺してしまいかねない。

 二つ目はコスパの問題。

 使ってる部品一つ一つがかなり希少で、簡単には手に入らない。

 無理に手に入れようとすればかなりのお金がかかるので、大量生産するのは難しいだろう。


「ふむ。しかしそのどちらも改善の余地がある」


「三つ目が重要ですよ。この車を動かすのに膨大な魔力を必要とします。陛下の魔力量がどれ程あるかは分かりませんが、成人女性の平均魔力で計算するとライザー帝国の端から端までこいつを動かすのに毎日魔力が空になるまで、期間にして一週間ほど魔力を注がないとまともに動きません」


 それでも現代と比べれば、ガソリン代が掛からないからかなりコスパは良い。

 そして俺の魔力量なら直接注ぐだけで動かせるし、やっぱコスパ的には最強だ。

 

「流石にそれは骨がいるな」


「まぁこれも改善余地はあります。魔石に魔力を先に込めておけば、入れ替えるだけで動かすことはまぁ可能ですね」


 魔石に予め魔力を込めておいて、別の魔石をセットすれば不可能じゃない。

 ただそんな機能付けてないから新たに設計に入れないといけないけどな。

 そしてミラ達の元に車を停車させる。

 二人ともシートベルトを外して自動輪から降りた。


「ふぅ。しかしこれは、この世界の移動手段に革命をもたらす物になるかもしれませんよ」


「課題が多すぎるが、もし実現出来ればかなり革新的だ。是非とも設計図を提供してほしい。アタシはこれが気に入ったよ」


「構いませんよ。個人的には民間馬車のような自動輪が

作られることを期待してます。俺の小遣いじゃ一台が限界でしたから」


 俺はアデルさんに設計図を渡した。

 アデルさんよりも陛下のが食い入るように見てる。

 今まで倹約してきたおかげで貯金はかなり溜まってたからな。

 アルゴノートの特産品にしようと思ってたけどコスパが悪いから赤字だ。

 日本では車産業で成り立っていたけど、それはあくまでガソリンがある世界だからだ。

 この世界に原油はない。

 燃料に使われるのは全て魔石だと、花そそでも語られてたし学園の図書室くらいでもそのことはわかった。

 この惑星の核が魔石だって判明してるんだから、事実そうなんだろうな。


「リアスくん。話ばっかりだと日が暮れるよ」


「そろそろ出ましょう。夏季休暇は残り半分しかないことを忘れないでください」


「そうだな。むっさん、ジノア、アルターニア!行こう」


 俺は少し離れたところで話してる三人を呼んだ。

 そろそろ出国しないと夏季休暇終わるまでに戻って来れなくなる。

 別に学園に思い入れがあるわけじゃないけど、ミラと学園で青春とやらを謳歌したいからな。

 

「もう行くのかリアス」


「あぁ、陛下にも挨拶は済んだしな」


「本人の前でそれをいうか?」


「不敬罪、ですか?」


 ニヤリと俺は陛下に笑みを向ける。

 流石にこの人がこの程度で不敬なんて言うとは思ってない。

 それにジノアの母親だしな。

 流石に口調は崩せないが、それでもそれなりにラフな関係にはなろうと思ってる。


「お前性格悪いな?」


「陛下ほどでは」


「リアスくんは優しいですよっ!」


 ミラが俺の腕を掴みながらニコニコと俺の腕にくっつく。

 俺とミラを交互に見て陛下は微笑んだ。


「国の救世主達に下手なことはできないな。ゴードン、アタシ達もやることは山積みだ。アデルは自動輪を国内に普及できるように急げ。隣国が戦時中な以上、災禍が降りかかるとも限らん。逃走手段は多いに越したことはない」


「御意」


「わかりましたよ。それではリアスくん、また」


「えぇ、また」


 陛下とアデルさんと護衛の人達は帝都に向かって馬車を走らせていった。

 

「母上はこれから大変そうだね」


「お前とアルターニアも大変だろ?バグバッドで土神と懇意にしてる歌姫と交渉役は任せたぜ」


『私も彼女とは一度しか会ったことがないですからね。任せましたよジノア』


「任せたってさ」


 クレは土神とは一度しか会ったことがないらしい。

 よくそれで行こうって言えたよなとは思うが、まぁそれ以外に手がないのも事実だし何も言わない。

 交渉手段があったしまだいいよな。


「リアス、ジノアをよろしくね」


「あぁ、お前もグレイとグレシアを頼む。シナリオ通りお互い進行してるわけじゃないが、頼んだぜ?」


「おじさんに言われなくても」


「んだと?」


「なによ!」


 どうして出国前にいがみ合わないといけないんだくそっ!


「ぼっちゃん・・」


「そんな顔すんなよメルセデス。ジノアの護衛という名目上お前は連れてけないんだ。弁当ありがとな」


「いやそんなこと。あー、もう!とりあえずぼっちゃん気をつけてくだせぇ」


 メルセデスと言うよりも、戦闘力のない人間は連れていけないらしい。

 皇族が最優先の護衛対象になるのだから当然だ。

 ジノアとアルターニア、護衛対象が二人もいるのに三人目をとは俺も言えなかった。

 そして専属コックを付けるのは相手国に訪問するにあたって失礼にあたるそうだ。

 毒殺の危険もないとは言えないが、同盟国な以上信用しろとしか言えないらしい。


「ミライ、帰ったら模擬戦付き合ってね!」


「またボクが勝つよ?」


「わたしだって負けないわ」


 ミラとグレシアはサシで模擬戦を行ってる。

 神話級の精霊のミラと互角ってグレシアは化け物だろと思う。

 赤桐も魔王と呼ばれてるが聖人の魔法を使ってたわけだし、聖獣契約者はそれだけの潜在能力があるのかね?


「次は負けません」


「イルミナがオレのこと見てくれて嬉しいねぇ!じゃあ次オレが勝ったら------」


「お断りします」


「まだ何も言ってないのに・・・」


 イルミナとグレイの関係も良好だ。

 グレイはグレシアのことが好きだと思ってるから、どうなるのかが実は密かな楽しみでもある。


「それじゃあ行くか。お前らアルゴノート領をよろしくな」


 俺達は見送り達に手を振って車を起動させる。

 そしてアクセルをめい一杯踏み込んだ、


「それじゃあ全速力で行くぜ!」


「待ってリアスくん!」


「お待ちくださいリアス様!」


 ミラとイルミナが慌ててたけど知ったこっちゃねぇ!

 俺は時速120kmほどの速度で国を飛び出した。


「あのバカ」


「車に乗せたら人が変わるのは相変わらずみてぇだな」


 なんかリリィとかグランベルとかが、スピード出し過ぎとか言いそうだが気にしないぜ!

 行くぜ行くぜ行くぜ!

リアス「ひゃっふーい!この世界は速度制限なんてないから飛ばしまくるぜ!」

ミライ「リアスくんは絶対運転しちゃいけないと思う」

イルミナ「そのうち事故を起こします。絶対に!」

リアス「なんか言ってるけど、俺は気にしないぜ!」

クレ『ううっ・・・気持ち悪いです・・・』

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