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3人の男と私

 ふかふかすぎるベッドで目が覚めた。

 体中が痛い。ベッドが柔らかすぎたからだろうか? 普段はカチカチの寝台だから仕方ないな。

 大きく伸びる。

 先ほどのきつい服は脱がされていて、肌触りのいい布のものに変わっていた。服が大きすぎて首周りがすーすーするが借りものなので仕方ない。いつもの服に替えたいが見当たらないところを見ると捨てられたのかもしれないな。

 見渡せばどこもかしこも豪華な部屋だ。先ほど通されたきらきらした部屋に似ているところを見ると、続きの部屋なんだろう。客間というやつらしいが、なんというか、せめてもう少し暗くしてほしいところだ。

 色とりどりの花と絵画で囲まれた明るく綺麗で豪華な部屋。

 ……、落ち着かない。


「ああ、塔に帰りたい……」


 つい呟くと、ものすごい速さで扉が開いた。


「目覚めましたか!?」


 口パク男が飛び込んでくる。本人の趣向に文句を言うつもりはないが、この男は部屋を見ると飛び込む癖でもあるのだろうか?


「ストーカーですか、貴方は!」


 そして、またもや先ほどの男に怒られている。この二人はそういうコンビなのか? まったくもってわからない。


 その後ろには先ほどの侍女たちが並んでいて、部屋をのぞき込んでいる。知らない男の顔もあった。執事とか侍従とかそういうたぐいか? こんな状態を見られるのはさすがの私でもいい気はしないのだが。


 それにしても、こんなにたくさん人と会ったのは久しぶりだ。

 というか、物心ついてから初めてかもしれない。人の気配というものがこんなに落ち着かないとは思わなかった。今までは食事を運びながら魔石を回収する者が1日に一度、来ないときは7日に一度くらい塔に来るだけだった。

 あの静かな日にはもう戻れないのだろうか?


 ため息を吐いていると、男たちがやってきてベッドの隣に膝をついた。


「先ほどから名乗りもせずにご無礼いたしました。私はセシル=ヴォーン=ヘインズと申します」


 灰色のほうが先に名乗った。セシルというのか。ヴォーンが中に入るいうことはこの国の王族なのだな。それで先ほどは王の隣に立っていたのか。


「貴方を抱えていたこの男は」

「ロイド=ヴィルム=コンラッドと申します。この時をずっと待ってました!」


 言うが早いか、ものすごい速さで近寄ってきて右手を取られ、唇をつけられる。

 手の甲に吸い付いた感触が気持ち悪く、思わずヒッと声が漏れた。

 うわあ、なんだこいつ!

 と思った瞬間。


「妹に何するんですか!」


 セシルがフルスイングでロイドの後頭部を殴った。

 スパーン!と、とてもいい音がした。




 それからしばらく、二人と話をした。

 話を聞けば、彼らは私に本をくれた騎士の知り合いと分かった。なんでも彼の方は隣国では有名な騎士で、最近引退して剣術指南の教官となっているという。息災と知り、嬉しくなった。いつかお礼を言えるかな。

 最初のうちは当たり障りのない話をしていたのだが、二人が自分のことを話すにつれ、早く帰ってくれないかなと思うようになった。

 気さくに話しかけてくれるのはありがたいが、実はこの二人、とても身分が高かったのだ。そのせいで奥で控える者たちがびくびくしている気配がし、非常に居心地が悪い。


 セシルはこの国の第四王子で現在17歳。魔法の才に優れており、今は国の魔法大学で勉強しているという。書物に囲まれつつ研究三昧とは羨ましい。そう言うと、貴方は変わっていると笑われた。解せぬ。


 ロイドは隣国の第五王子で同じく17歳。私の父が治めている侯爵領と隣接するコンラッド王国から留学していて、セシルとは子供のころからの付き合いだとか。第五王子なので王位の継承はほぼないとはいうが、王族は王族。口をパクパクしてた残念な男だと認識していたのが申し訳なくなる。まあ、今もそれは変わらない上に気を抜くと手に吸い付いてくる変な男というのが加わっているのだが。


 その二人がなぜここにいるかと聞くと、二人は困った顔を向けてきた。


「それは、なあ」

「兄上が、ねえ」


 ちっともわからない。


 会話が進まず、三人で顔を見合わせていた時、扉がノックされた。

 侍女に連れられて入ってきたのは、きっちりと仕立てのいい服を着こんだ紳士だ。


「シミオン=プロッサーと申します」


 頭を下げた紳士は、品のいい小ぢんまりした老人で、なんとこの国の元宰相だという。まだまだ働けそうなのに元なんだと思っていると、察したようにクックと笑った。


「今は隠居して、と言いたいところですが、今の宰相が全く使えないのでこき使われておりますよ」


 あ、この人、敵に回したら怖い人だ、と微笑みを見て思う。

 思わずベッドから降りて礼を取ろうとしたが、やんわり断られた。戸惑っていると、ハンカチを取り出し、先ほどロイドが口をつけた右手の甲を拭いてくれる。その目が非難するように男二人に向けられた。


「あなた方の礼儀はもう一度見直す必要がありそうです。明日みっちり見てあげましょう」

「「ひぃぃっ!」」

「でも、今は貴方様のことです。私の話を聞いてくださいますか?」


 柔らかく笑っているがとても真剣なのがわかる。

 私は姿勢を正して頷いた。






読んでいただいてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 怒濤の展開ですねww
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