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夜の遺跡にて

作者: Chitto=Chatto

以前やっていたゲーム内で書いたお話です。

設定はいじってますが中身は変えていません。

楽しんでいただければ嬉しいです。

古都の遺跡・ライキュームの夜はとても静かです。

まあ昼間でもよほどの物好きでもない限り遺跡に人は集まらないので、基本的に静かなのですけどね。

ライキュームで発掘に励む学者さん達は無口なので、コツコツと何かを掘る音や衣擦れ以外には自然の音くらいしか聞くことがありません。静寂を愛する者にとっては格好のスポットです。

さらに今夜は新都のホールで研究会という名の懇親会があり、全員が出払っていました(留守番をおかないのかとつっこむのはやめましょう)ので、しーんと擬音がつきそうなほど静まりかえっていました。


誰もいないライキュームの夜。


そんな静けさをうち破るように、外から声が聞こえてきました。

何かが続々とライキュームに集まって来ています。

なんと、普段町中に現れたらびっくりしてしまうような魔物の一群です。

彼らは街の北、普段は食堂がある建物に入っていきます。


「やあ、1年ぶり」

「無事で何より」


骸骨がゾンビに手を振り、レイスがくるりと回っていました。

魔法のゲートが開き、サキュバスやリッチ、果ては骨ドラゴンまでがやってきました。

ライキュームがダンジョンのように魔物で埋められていきます。

あっという間に食堂はいっぱいになってしまいました。


それぞれが席に着くと、最前列にある教壇に1体のリッチが立ち、ぺこりとお辞儀をしました。


「みなしゃん、今日お集まりいただきありがとうじゃります」


歯が数本ないリッチは舌足らずな声で挨拶をします。


「息災で何よりですじゃ。今夜は今年のハローウィンをどうしゅるかの会議を行いまじゅ。今年はわしらムーンロウ勢が主催を勤めさせていただくことになっとりましゅ。よろしくお願いしまっす」


ぱちぱち、と拍手が上がりました。


「まじゅ、今年のイベント案をリぃダぁのレイスから説明しまじゅ」


入り口近くに漂っていたレイスが教壇横までやってきてぺこりんと前に傾きました。


「ども、レイスでぃす。早速でぃすがこちらの提案をお話しぃます。まずはお配りしぃた資料を見てくださぃす」


こうして今年のハローウィン会議は始まりました。


今回も会議の争点は『いかに冒険者を楽しませるか』です。

普段冒険者達に殺されまくっている魔物達でしたが、ここに集まっているモノは基本不死者なので倒されても死ぬことはありません。ただ体がなくなるだけでしばらくしたらまた復活しますので、冒険者達との絡みは長い魔生の暇つぶしだったりするのです。


そんなわけですので彼らはハローウィンを感謝祭、つまり『いつも楽しませてくれている冒険者に恩返し』と考えているのでした。

当の冒険者達がどう思うかは別として、魔物達にとってもハローウィンはお祭り騒ぎができる楽しいひとときなのです。




イベント案が一通り決まったあと、続けて限定アイテムが議案となりました。


「去年は生首の準備が大変だったなあ」

「でも好評だったって聞いたよ」

「リアルすぎて不評とも聞いたおー」

「適度に怖くてレアなモノかあ……」


冒険者達はブツヨーク神に取り憑かれて限定アイテムをこぞって取りに来るので毎年工夫が大変、と例年悩みどころであります。

昨年と同じアイテムばかりでは喜びも少ないだろうと毎回知恵を絞るので、考えるだけでかなりの時間が費やされるのです。

それだけにアイテムを喜ばれると嬉しくて、ついいつもの4倍くらい足を速くして追いかけてしまうのでした。


さてどうしよう、と皆が頭を抱えたとき。


「こんばんは!」


と、いきなり入り口から元気な声が飛び込んできました。


びっくりした魔物達が振り返ると、そこには大きな荷物を背負った『おばさん』と呼ばれる種類の人間がいて、興味津々の顔でこちらを見ています。


場が凍り付きました。


「コスプレなんかして。何のイベントだい?」


骨ドラゴンが汁気たっぷりでウマソウと呟いたほどまるまる肥えたおばさんはきょろきょろと会議室を見回し、首を傾げています。


司会のリッチが慌てて女の人のところに行きました。

「な、夏のお化け屋敷の反省会なのじゃ。スタッフ限定にゃので申し訳にゃいが……」


さすが年長者、ナイス言い訳です。


「ああ、そりゃすまんかったねえ。パワーに行こうとして間違えたんだけど、たくさんの声が聞こえたから来ちゃったのよ」


言いながら立ち去ろうとした女の人は、いきなり立ち止まって振り向くと、しかめ面で骸骨の前に進みました。


「アンタ!」


うわあ、と骸骨が体をのけぞらせます。


「そんなに痩せちゃって!高カロリーなものをたくさん食べなくちゃダメでしょ!」


こう言いながら、おばさんは荷物から大きなベーコンの固まりを取り出し、骸骨に押しつけ、手のひらを差し出ました。

不思議そうに首を傾げる骸骨に、しれっと言います。


「あたしゃ行商人だからね。品代はきっちりといただくよ」


骸骨が震えながら持っていた34ゴールドを渡すと、おばさんは少ないと言いながらも金袋に入れました。


続けてサキュバスの前に立ちます。


「女がそんな薄着で体冷やしたらどーするの!これ着なさい!」


裸のサキュバスに渡されたのはどう見てもサイズの合わないローブでした。

渋々着ると目の前におばさんのぷにぷにした手が出てきます。

仕方なく有り金を全部渡すとおばさんはにんまりしました。


「さすが女同士わかってるね。あと、そこのアンタ!」


肩を叩かれてギクリと振り返ったのは司会のリッチでした。


「加齢臭半端ないよ!年寄り臭いって言われたくないだろ?」


ひどく傷ついた顔のリッチにはハーブの香り漂うかごが渡されました。

大変高額、と言いながら手を出すおばさんの顔は輝いています。


そうして、気がつけば会議室にいた全ての魔物達は品物を買わされていたのでした。





「まいどありー」


ホクホク顔のおばさんがテレポタイルに乗って消えるのを確認した後、魔物達は揃ってため息をつきました。


「ああ、怖かった」


ゴーストが涙目で呟きます。

この世界で怖いのは魔物じゃなくておばさんだよね、と誰かが言い、全員が深ーく頷きました。

そしてそんな輩を喜ばすためにこんなことしている自分たちっていい奴らじゃね、と笑いながら会議を再開したのでした。


We wish you a merry Halloween !

おばちゃんこわいよ、というか、人間のが怖いのか?みたいな結末でしたが、私の頭の中では「トル〇コに呼ばれた商人軍団」みたいなイメージでした。一人だけど^^;

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